天竜人? いいえ天翼種です。   作:ぽぽりんご

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第5話 船乗りは、よく笑う(前編)

「あったなー。本当に大陸が」

 

 上陸し、一息つきながらあたりを見回す。

 海岸の先には険しい崖がそびえ、その更に向こうには大きな森が見える。

 樹齢が高いのだろう。いままでの島々にあった森と違い、逞しい木々が生い茂っていた。

 空を見ると若干雲が出ており、空の色を半分ほどを覆い隠す。

 海上で見る雲と違い、小さい雲やうっすらとした雲も混じった空は、前世で見ていた空に近い。

 俺は若干懐かしさを覚えつつ、体を伸ばした。

 

「当たり前でしょ。地図の通りに進んだんだから」

 

 先ほどのルフィの言葉に、若干呆れた表情でナミが返す。

 

 ナミよ。

 俺達の場合、地図を用意する所から既に躓いているのだ。

 地図の通りに進む事などできるわけがない。がはは。

 

「笑い事じゃないわよ!」

「笑い事ではないんですが、しかし最早笑うしかないと言いますか……」

 

 ほとんどの町でトラブルを起こすから、出航の準備をする暇すらないのだ。

 いや、トラブルを起こす前。町についてすぐに出航の準備をすればいいのか?

 おお、目から鱗の解決方法だ。こいつはいける。

 

「なに馬鹿な事いってんのよ」

 

 え、結構真面目に言ってるんだけど。

 

「ナミさんも、私達と共に行動したらすぐ染まってしまうと思います」

「怖い事言わないでくれるかしら……」

 

 逃れられぬよ、運命からは。

 

 

 

「……お、ついたか」

 

 あ、ゾロが起きてきた。

 ゾロは凄いぞ。一日16時間ぐらい寝ている。

 お前は猫か。

 

 欠伸をしながら地面に降り立ったゾロは、つま先で地面を叩き、感触を確かめるようにして歩く。

 と、崖上のある一点を見つめ、苦虫を磨り潰したような顔をした。

 

「なんだ、あいつら」

 

 ゾロは、海岸の先にある崖を指差し、こちらを覗き見している連中がいることを指摘する。

 すると、崖の上にいる人たちは、悲鳴を上げながら逃げていった。

 子供の声だな。

 可哀想に。般若のように恐ろしいゾロに睨まれたら、そりゃあ脱兎のごとく逃げ出してしまうだろうよ。

 変な表情してたのは、こうなる事を予測してたからか。

 

 あ、一人残ってた。

 うん。あの鼻はウソップだな。

 ここにあるのはウソップの村で間違いないようだ。

 

 嘘八百を並び立てて俺たちを追い返そうとするウソップだが、その足はガクガク震えていた。

 

 おいゾロ、お前は下がれ。

 お前の顔は怖すぎる。

 

「最近思うんだが、お前、俺をおちょくってないか?」

「え、最近まで気づいてなかったんですか」

 

 ゾロに頭を叩かれた。

 

 

 ゾロとじゃれあっている間に(俺がこの般若を食い止めている間に早く! 早く!)ナミが前にでて、ウソップの相手を務めた。

 どうやら、俺たちがバギー一味だと誤解しているようだ。

 こちらがバギー一味でない事を説明したらあっさり態度を軟化させるウソップ。

 旅の話を聞かせてくれと、村の飯屋に案内までしてくれた。

 

 ……おい、もしバギー一味でないというのが嘘だったらどうするつもりだ。

 それに、俺たちも一応海賊だぞ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 さて、飯を食いながら、ウソップにこの村の状況について話を聞こう。

 俺達がこの村に来たのは、補給だけが目的ではない。

 あわよくば船を手に入れようとしているのだ。

 使っていない船があると、クロスに聞いてきたのだ。

 

 カヤの身の上を話すウソップ。

 あの家なら確かに船も持っていそうだが、主は病弱で寝たきりの生活を強いられている。

 その話を聞いたナミは、この村で船を手に入れる事を諦めたようだった。

 あれ、こんな展開だったっけ。

 すでに原作の知識はうろ覚えである。

 戦闘シーンはなんとなく覚えているんだが。

 

 

 続いて、ウソップにせがまれた旅の話をする。

 あること無い事を織りまぜ(なぜか事実の方が嘘っぽい話になった)、俺たちはバギー一味と戦った時の話をした。

 ナミがたぬ耳おじさんに追いかけられていた話について俺が言及すると、ナミは耳を塞いで悲鳴を上げる。

 めちゃくちゃトラウマになってるじゃん。

 そこまでとは思わなかった。すまん。

 

「しかし、バラバラ人間か……こいつは使えるな」

 

 あ、ウソップのホラ話リストにページが書き加えられた。

 喜べバギー。

 お前の話は、99%の捏造を付け加えられて世界中に広められる事が決まったぞ。

 あれ、もしかして俺たちの話も同じか?

 

 

 話の区切りがつくと、ウソップから「俺を抱えて空を飛んでくれないか?」と頼まれた。

 

 ゆっくりならまぁ何とか。

 早く飛ぶと死ねる。ナミは失神した。

 

 

 ウソップを抱えてゆっくり上昇し、村の上空を旋回。

 寒いのか怖いのか、時折ウソップの体がぶるりと震える。

 吐く息が白い。

 これ以上高度を上げないほうがよさそうだ。

 

 周囲を見渡すと、低気圧があるのだろうか。周りから吸い上げられるように集まった雲により一部水平線を見通すことのできなくなった空は、そこだけ少しおどろおどろしい空気を放っていた。

 地上からだと、こんな形の海を見ることはできない。

 

 前世の話を思い出す。

 バミューダ・トライアングルだったか、フライング・ダッチマンだったか?

 なんでも海には異空間に繋がっている場所があり、入ったら最後、時空の狭間を彷徨い続ける事になってしまうんだとか。

 

 地上を見下ろし息を吐いたウソップは、思わずといった感じで、ぽつりと漏らした。

 

「俺の住んでいる村は、こんなに小さかったんだな……」

 

 しばらく周囲を見わたした後、やがて海の向こうに目を向け、息を吸う。

 なにか叫ぶのかと思ったが、そういうわけでもないらしい。

 いや、叫ぶ言葉が出てこないのかな。

 

「……やめとこう」

 

 ありがとう、もう満足した。

 ウソップがそう言った。

 

 いや、めちゃくちゃ気になるだろそれは。

 

「海の向こうに行きたいのですか?」

 

 ウソップは、渋々といった面持ちで答えた。

 

「いつかは、な……」

 

 このままなら、そのいつかは、もうすぐ訪れる。

 俺はそれを知っていたが、俺が無責任に突っ込んでいい話題ではないだろう。

 ウソップが、自分で決意する事だ。

 

 

 飯屋に戻った俺たちは、話を再開した。

 先ほどのしんみりした表情が嘘のように、ウソップは笑顔で自慢のホラ話を披露する。

 あれ、しんみり空間に俺だけ取り残されたんだけど。

 

 

 

「と、そろそろ時間だ」

 

 30分程して。

 太陽の位置を確認したウソップは、慌てた様子で立ち上がり、去り際にこちらを一瞥して言う。

 

「お前ら、いい奴だな。あとでまた、旅の話聞かせてくれよ。それじゃあな!」

 

 さわやかに去ったなウソップ。

 飯代払っていってないけどな。

 ナミがそれに気づいたら、ウソップを血祭りにあげそうな気がする。

 黙っておこう。

 

 

「ウソップ海賊団参上!!」

 

 ウソップと入れ違いに、手書きの海賊旗を服に描いた三人の子供が現れた。

 母ちゃんに怒られるぞ。もう怒られた後か。

 子供達は、それぞれがおもちゃの剣を手に取り、鬼気迫る表情で周囲を恐る恐る見回している。

 声を聞く限り、先ほどの海岸で遭遇(というか逃げ出した)した子供達だろう。

 ウソップを救出に来たんだな。もういないけど。

 ウソップがいないことにうろたえた子供達は、キャプテンをどこにやったと騒ぎ立てる。

 

「お前らのキャプテンなら、さっき……」

 

 ゾロがニヤついた表情で子供達に語りかける。

 なんだその表情。はじめてみたぞ。

 微妙に口元がピクピクしているのを見るに、こいつは今にも噴出しそうなのを、必死に堪えている。

 

「喰っちまった」

 

 おお、言い切った。

 ゾロにおちょくられた子供達は、飛び出さんばかりに眼を見開きながら、なぜか俺とナミを鬼ババ呼ばわりした挙句に泡を吹いて倒れ伏した。

 ……なんで鬼ババ呼ばわりされたんだろう。

 外見だけは、鬼とは程遠い姿をしていると思うんだが。

 

 

 食後のデザートを楽しみながら、子供達が目を覚ますまで待つ。

 目を覚ました子供達は、最初はこちらを恐怖の目で見ていたが、ジュースを奢り、俺の羽を触らせてやると、あっさり懐柔されていろいろ話してくれた。

 なんというチョロさ。

 俺の羽はもふもふだからな。

 もふもふは世界を平和にする。

 

 子供達からカヤが元気になっている事実を聞くと、じゃあ船を貰いにいこうとルフィが言い出す。

 ルフィの変わり身は早い。

 過去を振り返らない男なのだ。

 もしかしたら、記憶力がないだけかもしれない。

 

 ナミが止めるが、無駄な労力である。

 俺は既に諦めの境地だ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺達は、子供達に案内されてカヤの屋敷にたどり着いた。

 屋敷の殆どの窓は分厚いカーテンに覆われており、中を伺い知る事ができない。

 更に、屋敷の周囲は全て高い塀に覆われ、塀の上に更に鉄の柵まで設けている。

 下手をすれば、海軍基地並みの設備だ。

 冷たい印象を与える外見とは裏腹に、門扉から覗く屋敷の庭はよく手入れされており、色とりどりの花が咲いている。

 庭師が、カヤのために手入れをしているのだろう。

 カヤは、使用人たちから大切にされているようだ。

 俺は何故だか、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 船くださーいと言いつつ屋敷の中に入っていくルフィ。

 相変わらず常識を投げ捨てた奴だ。

 

「ああ、止めても無駄なのね」

 

 ナミは、早くも悟りつつあるようである。

 完全に染まってしまうのも時間の問題だろう。

 

 

 ルフィに続いて屋敷に入る俺達。

 子供達も当然のようについて来る。

 ウソップに会うためだろうか。

 

 庭をうろつくと、談笑しているウソップとカヤを見つけた。

 カヤは窓から身を乗り出し、声を上げて笑いながらウソップの話を聞いている。

 

 元気そうだな。

 もしかしたら無理をしているのかもしれないが、こうしてみる分には、普通の女の子のように振舞おうとしている。

 いや、普通の女の子というには無理があるか。

 ふとした拍子に出てくる物腰が、普通の人とは明らかに違う。

 これがセレブというやつか……

 

 

「君達、そこで何をしている!!」

 

 クラハドールことキャプテン・クロの登場である。

 屋敷に何の用だと尋ねるクロに、船をくれと頼むルフィ。

 ダメだの一言でばっさり切り捨てられた。

 当たり前だ。

 

 と、クロはウソップと口論を始めた。

 ウス汚い海賊の息子がお嬢様に近づくんじゃないと罵る、ウス汚い海賊のクロさん。

 ウソップはクロの挑発を買い、クラハドールに掴みかかる。

 彼にとって、海賊である父は誇りなのだ。

 父を貶されて、ウソップは怒りを抑える事ができない。

 

 殴りかかろうとしたウソップだが、カヤの静止により踏みとどまる。

 そして、誰に向けた謝罪なのか。一言謝った後、屋敷から走り去って言った。

 

 

 俺にも、ウソップの怒りが伝播してきているようだ。

 こいつが海賊じゃなかったら、そう考える人がいても仕方ないと思えるんだが。

 

 怒りを覚えていたのは俺だけではないようで、ルフィと子供達がクロに突っかかるが、ゾロとナミが襟首をひっつかんで引き止める。

 遅れて、俺もナミが捕らえ切れなかった子供の襟首を引っつかんだ。

 

 

 この状況でここに留まるのはよくなさそうだ。

 残ったとしても、どう考えても船を貰えるような話に持っていける雰囲気ではない。

 というか、金も無いのにどうやって船を貰うのだ。

 外洋を航海できるような船は、今の手持ちで買えるほど安くない。

 安い中古の船でも、数千万ベリーからだ。

 常識を投げ捨てつつある俺でも、ただで船を貰う図々しさはまだ持てない。

 

 俺達は、子供達(含むルフィ)を引きずりつつ、カヤの屋敷から退散した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 屋敷から退散した俺達は、村はずれで一息つくことにした。

 のどかな村にも一応は柵が設けられているようで、俺達は柵にもたれかかりながら今後の事について相談する。

 

 あ、ルフィがいない。何故。いつの間に。

 子供も一人いないし。

 ルフィはどうでもいいが、子供が消えたのは気になるぞ。

 ルフィに変な事を吹き込まれて無ければ良いが。

 

 子供がいない事について言及するが、残った子供達によると、心配はいらないそうだ。

 あいつはすぐいなくなり、何かを見つけては大騒ぎしながらまた現れるらしい。

 なんだそれ。斥候か何かなのか。

 

 

「変なうしろ向き男だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 おお、確かに何か見つけて大騒ぎしながら現れた。

 ドタバタと足を乱して必死に走り、涙まで流している。

 後ろ向き男って、もしかしてジャンゴか?

 なにも泣く事はないだろうに。

 

 直後、高速ムーンウォークでジャンゴが現れた。

 

 はやっ! こわっ!

 常人の全力疾走ぐらいの速度は出ているぞ。

 不気味すぎる。

 コレは子供が見たら泣くわ。

 

「おい誰だこの俺を変な後ろ向き男と呼ぶのは。俺は変でもねぇし、後ろ向きでもねぇ」

 

 進行方向にいる俺達を振り返り(いや、後ろ向きだからね……)、変なポーズで変な事をいうジャンゴ。

 高級そうな黒の燕尾服を身に着けているが、その下に来ているのはなぜか白のランニングシャツだ。

 顔はハートマークの形をしたサングラスで半分が覆い隠されており、表情を伺う事はできない。

 

 変ってか怖いよ。ふざけた格好でふざけた挙動をしやがって。

 何なんだお前は。

 

「俺はただの通りすがりの催眠術師だ」

 

 あ、なんか俺も前に同じような事を言った気がする。

 もう言わないようにしよう。

 

「はっ!?」

 

 何かに気づいたような声を上げ、ジャンゴが俺に近づいてくる。

 え、何? 近いんだけど。

 

「美しい……まるで天使のようだ」

 

 そう呟き、俺の手をとるジャンゴ。

 そのまんまやん。

 そんな口説き文句でこの俺がなびくと思うな。

 いや、どんな口説き文句でも馬の耳に念仏だろうけどさ。

 

「お名前は?」

 

 ジャンゴの問いに、思わず普通に名前を返してしまう。

 なんだ。居心地がすこぶる悪いぞ。俺にそっちのケは無い。

 

 視線を泳がすと、ゾロもナミも笑いを堪えながらこっちを眺めている。

 笑っている場合ではない、緊急事態だ。助けてくれ。

 SOS信号をビビビと飛ばすが、両名とも見事なスルー。

 この野郎。仲間のピンチを見捨てるとは、薄情な奴らだ。

 飯にワサビを混入させてやろう。

 船上でのお前達の食卓は、俺が支配しているのだ。

 

 

 しかし、生まれて初めてナンパというものをされたな。

 でもその相手がジャンゴとか。ワンピースでも屈指の変人だぞ。

 もう少し普通の人で慣らし運転をさせてくれよ。

 

 上の空でしばらく会話をしていると、子供達がジャンゴに催眠術をねだった。

 おお、救いの手がこんな所に。こんな小さな手でも、誰かを救う事ができるんだ!

 

 ジャンゴは子供達に睡眠の催眠術を披露して子供達と一緒にぐっすり眠った後、時計を見て慌てて海岸のほうに走っていった。

 ほんとに何だったんだお前は。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ルフィと合流。

 ルフィは海岸で寝ていた。

 

 なんでこんな事になってるんだっけ。

 まぁルフィだし理由は何でもいいしどうでもいいが、ルフィは首尾よくキャプテン・クロの襲撃計画を盗み聞きしたらしい。

 

 明日の朝、海賊がこの村を襲うと聞いた子供達は、はやく逃げないとと言いつつ村に走っていった。

 

 

「あ、やばい!! 食料はやく買いこまねぇと、肉屋も逃げちまう!!」

 

 ルフィが真剣な表情で言う。

 ルフィにも、食料を買い込むという発想ができるようになったんだな。

 俺は嬉しいよ。

 

 

 村へ急ぐ俺達だが、その途中でウソップと子供達が話している場面に遭遇した。

 ウソップは、海賊が来るのは嘘だったと子供達に教えている。

 苦しい嘘だったが、子供達は信じたようだ。

 

 その後、人のいない海岸付近まで戻り、俺達はウソップの話を聞く。

 

「俺はこの村が大好きだ。みんなを守りたい……!!!」

 

 素直にそう言えるってのはいいことだ。

 いい思い出ばかりというわけではないだろうに。

 いや、だからだろうか。

 

 ウソップの言葉は、徐々に感情的な拙い言葉に変わっていくが、だからこそウソップの想いは強く俺達に響いた。

 こんな事を言われたら、加勢しないわけにはいかないな。

 

 ルフィもゾロも、ナミまで戦いに乗り気のようだ。

 助勢を断るウソップを逆に俺達が説得し、俺達は戦いに挑む事にした。

 

 相手は、かつて百計のクロと呼ばれた男が率いた黒猫海賊団。

 緻密な作戦で、相手の反撃すら許さずに略奪を繰り返した事で有名な海賊団だ。

 有名である以上は、戦力が低いという事は無いだろう。

 有名な海賊団には有力な者達が数多く集まる。

 

 

 

 俺達は、海岸の地形を確認しながら作戦を練る。

 この海岸から村へ入るルートは、崖を削るように作られた坂道が一本だけ。

 つまり、この坂道さえ守りきれば、村が襲われる事は無いというのが、ウソップの談。

 作戦を立てる上で、坂道を守りきる事を基本と定める方針らしい。

 

「お前ら、何ができる?」

 

 坂道を守りきるための作戦の話に移り、ウソップが俺達に目を向ける。

 

「のびる」

「斬る」

「盗む」

「飛ぶ」

 

 いや、わかんねぇよ。

 俺も釣られて同じような回答をしてしまったが……

 これでは、作戦の立てようが無い。

 だが、こんな状況でもウソップは乗っかってくる。

 こいつは芸人魂の塊だ。

 

「隠れる」

「「「いや、お前は戦えよ」」」

 

 ウソップは凄いな。

 全員に同じツッコミをさせるとは。

 

「しかし、この海岸から敵がくるという根拠は何なので?」

 

 俺は、ここで待ち構える理由を一応聞いておく。

 原作では、敵はこの海岸から来なかったのだ。

 

「そりゃ……あいつらがここで打ち合わせをしていたからだ。襲撃計画を立てるなら、下見ぐらいはするだろう?」

 

 たしかにそうだよな。ごもっとも。

 あいつらなんでこの海岸で打ち合わせしてたんだろ。

 どう説得したものか。

 

「しかし、あの催眠術師はこの海岸以外も見回っていた様です。最適な襲撃ポイントを探していたのだとしたら、ここ以外を選択した可能性もあるのでは? それに、ここであの執事と話していたのをあなたに見られていたのもありますし。他に良い上陸ポイントがあったなら、そちらを選択する可能性も高いかと」

「確かに……ここ以外から来ることも考えておいたほうがいいな。ジン、お前は上空から偵察して敵がどこから来るか確認してくれ」

 

 了解。

 これくらいまで認識を変えられたのならいいかな。

 原作より俺の分の戦力が増えてるし、問題なく勝利できるだろう。

 

 

 打ち合わせが進み、坂道に油を敷き詰めて登れなくする作戦で決まった後、俺は空に飛び立つ。

 夜明け前のため、低空でも空気が冷たい。

 大陸のほうから吹く風が体を撫でる。

 気持ちいい風だ。

 海沿いとはいえ大陸なので、今まで飛んだ空より風が乾いている。

 海風だと微妙に羽がべとべとになるんだよな……

 昨日と違いウソップを抱えていないので、俺は思う存分羽根を広げてクルクル旋回し、風をその身に受ける。

 

 あ、ウソップが坂道に油をぶちまけた。

 俺の羽の元気レベルが少し下がった。

 俺の羽は敏感なのだ。

 もう少し高い所を飛ぶか。

 

 

 しかし、百計のクロか。

 百計といったら、毛利元就を思い出すなぁ。俺が好きだった戦国大名だ。

 戦国時代、用意周到な策略で中国地方を支配するまでに勢力を拡大し、謀神とまで呼ばれた男だ。

 一方で、教訓めいた逸話も残している。

 毛利元就のエピソードで一番有名なのは、三本の矢の話だろう。

 一本の矢ならすぐ折れるが、三本まとまれば容易には折れないと言って、自分の子供達に結束を促した話だ。

 創作の可能性が高いとされているが、それでもこの話は良い教訓として現代でも広く広まっている。

 

 しかし、三本の矢こと毛利元就の子供達のその後が語られる事は少ない。

 その後の三本の矢は、あっさり一本ずつになったあげく、速攻でポキポキ折れていった。

 実話にしたら毛利元就の忠告完スルーだし、創作にしたら皮肉としか思えない。

 どちらにしても、毛利元就ブギャーと言われるエピソードである。

 

 ちなみに、その後の三本の矢の話は真っ赤な嘘だ。がはは。

 信じた人はいないよな?

 あっ、痛い! 石を投げないで!

 

 

 三本の矢といえば、Jリーグチームであるサンフレッチェ広島の名前は三本の矢にちなんで付けられている。

 三 + イタリア語の矢(フレッチェ)で、サンフレッチェというわけだ。

 これは本当。本当に嘘。っぽいけど本当。

 

 

 

 ……お、黒猫海賊団の船発見。

 俺達が待ち構えているのとは違う海岸の方に向かっている。

 キャプテン・ウソップに報告しなければ。

 

 ルフィ?

 迂闊なことを報告したら暴走するから、とりあえず放置しておこう。

 

 


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