天竜人? いいえ天翼種です。   作:ぽぽりんご

6 / 13
第6話 船乗りは、よく笑う(中編)

 ルフィが暴走しないわけがなかった。

 なんてことだ。少し考えればわかったことじゃないか。

 案の上、ルフィは黒猫海賊団の上陸ポイントに姿を現さない。

 先に行け、なんて指示に従うべきではなかった。

 

 

 そんなわけで、俺はウソップ・ナミと共に、黒猫海賊団が迫る海岸に陣取っている。

 夜が明け、朝日が水平線から顔を覗かせはじめた。

 地形は、先ほどの海岸とほとんど同じだ。

 ここでも、崖を抉るように作られた坂道が、唯一海岸と崖上を繋ぐ通路となっている。

 坂道の上から海を見下ろすと、本船に先立って小船で上陸した連中が接岸の準備をしている様子が見えた。

 接岸の邪魔したら、それだけで目的達成できたりしないかな。

 

 そういえばゾロの姿も見えない。

 ゾロの姿が見えないのは日常茶飯事なので(寝ているか迷子になっているかだ)、いないことに気づかなかった。

 原作通りナミにツルツル地獄に落とされたか、ルフィと同じように迷子になってるかだろう。

 お前ら、道わかんないんだったら他の人についていけよ……

 時間に余裕あったんだから、焦る必要なんてないのに。

 

「ルフィとゾロは迷子ですか?」

「ルフィはそうでしょうね。ゾロは……そんな事より、どう戦うの? 今からでも罠を仕掛ける?」

 

 あ、話を逸らした。

 ゾロはツルツル地獄行きか。

 

「今からじゃ、まきびしぐらいしか仕掛けられないな」

 

 ウソップのカバンは魔法のカバンだな。何でも入っている。

 そういえば、さっきの坂道に仕掛けていた大量の油はどこから取り出したんだろうか。

 

「まきびしは、最初から仕掛けていても効果が薄いでしょう。敵に接近された時の自衛用に取っておいてください。ここは私が前に出ます」

 

 いけるのか? という目を向けられるが、下っ端程度なら問題ないだろう。

 それこそ、キャプテン・クロ本人でも来ない限り。

 ルフィとゾロも、さすがに下っ端を倒し終わる頃には来るさ。

 

 

 上陸を終え、黒猫海賊団は村への進行を開始した。

 その前に、俺達が立ちふさがる。

 俺達の姿を認め、立ち止まる海賊達。

 ジャンゴが一人前に出て、こちらに近づいてきた。

 

「こりゃ昨日の。あの長っ鼻と一緒にここにいるって事は、俺達の邪魔をしにきたって事でいいのかな?」

「そのつもりです」

「そうか、そりゃ残念……こんな時じゃなかったら良かったんだが、残念な事にあんたに構っている余裕はねぇ」

 

 いえいえお構いなく。

 構われても、その、何だ。困る。

 

 

 振り返り、ジャンゴが海賊達を扇動する。

 

「野郎ども! 雄たけびを上げろ!! 邪魔な野郎どもは蹴散らして、村に進めぇっ」

 

「「「うおおおおおおおおおーーーー!!!」」」

 

 敵が、大挙してこちらに押し寄せてくる

 広い海岸から狭い坂道に押し寄せてくるため、敵が近づくにつれて津波が押し寄せてくるような圧迫感を感じた。

 俺は津波の前に一人陣取り(あれ、ナミさんウソップさん、ちょっと距離遠くありませんか?)、腰を落として身構える。

 

 

 さて、練習中の戦い方を試してみよう。

 俺は翼で飛んでいるわけではない。

 翼は、あくまで補助。

 空を飛ぶのに使っているのは、不思議パワーこと精霊回廊だ。

 よって、こんな事も可能である。

 

 敵が斧を振り下ろしてくるが、俺はそれを無視して攻撃を繰り出す。

 そのままならリーチに勝る斧が先に命中するが、命中の直前に俺は飛ぶ。

 空中にではなく、斜め前方に体をスライドさせるように。

 最後に体の方向を調整してやれば、あら不思議。

 敵の攻撃を回避しつつ、敵をぶっ飛ばせるという訳だ。

 攻撃を回避するために体捌きをしなくていい上に、敵に動きを予測されずらいので、接近戦だと非常に効果的である。

 

 続いて接近する敵も、体をスライドさせる動きで翻弄する。

 いやぁ、面白いぐらいに引っかかってくれるね。

 ルフィやゾロはもう俺の動きに慣れた上に、なぜか動きを予測されるから(理由を聞いても、勘という答えしか返ってこない)、こんなにうまく決まらないんだよな。

 

 一度ぶっ飛ばした敵が立ち上がって来ることもあるが、後方から飛んでくる鉛球が確実に敵をノックダウンさせていく。

 ダメージを受けた敵は、ウソップに任せてしまって問題ないだろう。

 

 

 調子に乗って敵を倒していると、ジャンゴが出張ってきた。

 あいつの催眠術は危険だな。

 一発で状況をひっくり返す力がある。

 さっさと倒してしまおう。

 

 そう思ってジャンゴの背後に回り、手刀を一閃……させたはずだった。

 

 

 

 あれ。

 なんか五本の刀に攻撃防がれたんだけど。

 

「あ、あいつは……!?」

 

 ウソップが攻撃の手を止め、乱入者に眼を向ける。

 なんかオールバックの眼鏡執事さんがいるんだけど。

 

「キ、キャプテン……」

 

 ジャンゴがキャプテンとか呼んでる人がいるんだけど。

 

「やはり……悪魔の実の能力者か。俺の計画実行の日に村に現れるとはな。なんとも、間の悪いことだ」

 

 違います。

 いやほんとに。

 能力者じゃないよ。ほんとだよ。

 

「ジャンゴ。こいつの始末は俺がする。お前は村へ向かえ」

「わ、わかった……」

 

 いえいえお構いなく。

 ジャンゴの時と違って全力でお断りしてみたのだが、スルーされた。

 悲しい。

 

 キャプテン・クロは、手のひらでクイっと眼鏡の位置を直しつつ、こちらに体を向ける。

 

「ゾオン系……という奴かな? 身体能力がご自慢というわけだ」

 

 冷たい目で、こちらを見定めるクロ。

 体がぞわぞわする。

 俺の体のどこから切り刻もうか、考えているんだろう。

 

 キャプテン・クロと対峙している間にも、ジャンゴと共に海賊達は進んでいく。

 ウソップが迎撃しているが、焼け石に水だ。

 早く援護しないと。

 

 そうだ、キャプテン・クロなんかスルーしてしまえばいいんだ。

 さっきの俺の言葉もスルーされたしな。

 こっちもスルーしてやる。

 

 思い立ったが即吉日。

 俺は空に飛び立ち、ウソップ達の方に向か……って、羽に乗るんじゃねぇぇ

 

「あくびが出るぜ」

 

 ゴガッッ!!

 

 スカしたセリフと共に踵落としを繰り出すクロ。

 羽の上に乗られた状態じゃ、さすがに避けようがない。

 俺は地面に叩き落された。

 

 相変わらずダメージ自体はあまり無いが、衝撃を受けると体がしばらく動かしにくくなる。

 鎧越しにハンマーでぶっ叩かれたようなイメージだろうか。

 頭や体がぐわんぐわんとして、動きが止まってしまうのだ。

 神様、スーパーアーマー(格ゲー用語)も付けといてくれよ。

 

 その間を見逃す敵ではない。

 クロの追撃を受け、俺はそれを防ぐのに手一杯。

 

 やばい、ウソップが滅多打ちにされてる。

 てかナミはどこ行った。

 

 変に加減している場合じゃない。

 威力の調整に失敗するかもしれないが、最悪辺り一帯を吹き飛ばしてでも……

 

 

 

 と、次の瞬間には海賊達が全員空を飛んでいた。

 

「すまん! 遅れた!!」

「ったく、無駄な労力つかわせやがって」

 

 遅れて、海賊達の悲鳴と地面に激突する音が辺りに響く。

 遅いのか、グッドタイミングなのか……

 ヒーローは遅れてやってくるっていうけどさ。

 

 ルフィ・ゾロの横では、ナミが息を切らせて座り込んでいる。

 ああ、ナミが連れてきたのか。

 グッジョブ、ナミ。

 あれ、でもゾロが遅れた理由って……?

 

 

 ルフィ達が現れたことで気を取られたのか、クロの追撃が甘くなった。

 その隙に空に舞い、俺はルフィたちと合流。

 さすがのクロも、空に飛べば追ってはこれまい。

 ……追ってこれないよね?

 そういえば、政府の秘密工作員か何かが空中を走っていたような。

 

「大丈夫ですか、ウソップ?」

「ああ、大丈夫だ……まだ戦える」

 

 若干ふらつきながらも、カバンから鉛球を取り出してポケットに押し込める。

 頭からすげぇ出血してるけど。本当に大丈夫なのかそれ。

 

 

 俺達が体勢を立て直している間に、敵も一旦下がる事にしたようだ。

 海岸に続く一本道を下り、船のほうへ。

 あ、黒猫海賊団の船から誰か出てきた。

 ニャーバンブラザーズか。

 しかも最初から催眠で強化して挑んでくるようだ。

 

「暗示で強くなろうなんて、ばっかじゃないの?」

 

 木の陰に隠れたナミが言う。

 

「馬鹿にしたもんじゃねぇぜ。人間ってのは、いろんな枷をはずしてやりゃ、なんだってできるのさ。人間らしくなくなっちまうのが玉に傷だがな」

 

 まともに考える頭ものこらねぇ。

 ジャンゴはチャクラムを指でクルクルさせながら、皮肉めいた答えを返す。

 

 

 

 これで、残る敵は4名。

 

 キャプテン・クロ。

 催眠術師、ジャンゴ。

 ニャーバンブラザーズ、シャム。

 ニャーバンブラザーズ、ブチ。

 

 

 それに対し、こちらはルフィ、ゾロ、俺、ナミ、ウソップの5名だ。

 人数ではこちらの方が多いが、ウソップとナミは大怪我と疲労困憊だ。

 おまけに、地力では敵のほうが上になるだろう。

 ウソップとナミには下がってもらって、誰かが二人引き受けたほうがいいか?

 

 ニャーバンブラザーズをまとめてゾロが引き受け、一番強いクロをルフィが担当。

 そして、強さでは劣るが催眠という厄介な攻撃を持つジャンゴを俺が倒す。

 ルフィがジャンゴ相手にするとかカオスな展開しか思い浮かばないからな。

 うん、これがベストだ。これで行こう。

 

 

 

「ブゥーーーチ!!」

 

 俺が皆に声を掛けるのに先立って、ジャンゴが叫ぶ。

 ブチが空高くに舞い、脚を空に掲げた。

 

 空は俺のフィールドだ。

 打ち落とす事も考えたが、皆の目が空に向いた隙を縫って、シャムも接近している。

 また、クロの移動速度に付いて行けるのは俺だけだろう。

 そう考えると、敵の狙いがわかるまでは、軽率にウソップやナミと離れるわけにもいかないか。

 

 

 ブチが地面に落下してくる。

 誰かを狙って攻撃しようとしていたわけではないようだ。

 ブチの踵落としが誰もいない地面に繰り出され、負荷に耐えかねた大地は真っ二つに割れた。

 

「うお、あいつすげー!!」

 

 ルフィの暢気な声が聞こえる。

 俺達が体勢を崩した瞬間を狙い、シャムが一気に接近してくる。

 先ほどのブチの攻撃は、囮か。

 

 ガキンッ!

 

 シャムの一撃はしかし、ゾロの刀によって止められた。

 

「なんだ。お前が俺の相手をしてくれるのか?」

 

 ゾロが問いかけるが、シャムは答えない。

 催眠にかかっているため、意識がはっきりしていないのだろう。

 この状態で奇襲をかけられるというのは、たいしたものだ。

 

「よし、あいつの相手は俺がする!」

 

 言って、なかば地面にめり込んだブチの元へ走るルフィ。

 あれ、ちょっと待って。お前の戦うべき相手はあの執事だよ。

 お前がクロと戦わなくてどうする。

 

「あの催眠は厄介だ……俺が妨害する」

「あんた一人で大丈夫? 私も手伝うわ。他のでたらめ連中の相手なんてしてられないしね」

 

 ウソップとナミは、一番後ろに控えたジャンゴの方に目を向けた。

 いや、君らは休んでくれててもいいんだけど……

 

 

 あれ?

 

 

 気づくと、他の連中は戦闘を始めており、坂の中央には俺とクロだけが残された。

 感触を確かめるように指を折り曲げ、指に取り付けられた刀(猫の手って言うんだっけ?)を弄ぶクロ。

 

「さぁ、再開といこうか」

 

 クロの目はまっすぐこちらを向いている。

 

 

 で、出遅れた~~~っ!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「ふんっ」

 

 ブチの大振りな攻撃をかわし反撃するルフィ。

 しかし、ブチには大して効いていないようだ。

 

 単発の攻撃は効果が薄いと悟ったルフィは、腕を振り回し、ガトリングのように連続攻撃を仕掛ける。

 伸びきった腕やブチの体に命中した腕が収縮し、再び伸び始める瞬間に自身の力を上乗せして更に強い攻撃を。

 ゴムの特性を生かした、途切れる事の無い連続攻撃だ。

 

 それに耐えかねたブチは、強引にもルフィに向かって突撃を始める。

 だが、それは正解でもある。

 ゴムの収縮・反発を生かした攻撃である以上、ある程度ゴムが伸びる距離がなければ、この技は使えない。

 攻撃をやめ、ブチを待ち構えるルフィ。

 ブチの攻撃とルフィの攻撃が交錯し、お互いの体を抉る。

 ゴム人間とはいえ、大地を割るほどの力を持った相手の攻撃だ。

 衝撃が体を伝わり、ルフィの表情が苦しげに歪む。

 

 苦し紛れに放ったルフィの甘い拳を、ブチはその手で掴み取った。

 

「コンニャロ、離せっ!」

 

 腕にかぶりつくが、ブチは握った右手を離さない。

 離れれば勝ち目がないと、朦朧とした意識の中、本能的に悟ったのだ。

 残った左手を振りかぶり、ルフィへの攻撃を再開する。

 

「くそっ」

 

 ルフィもそれに応戦。

 片手同士が繋がった状態のまま、残った腕でお互いを殴りあう。

 ゴムのため致命的なダメージこそ受けていないが、わずかずつ突き刺さるブチの長い爪が、体に傷を増やしていく。

 鈍い痛みを抱えつつ、ルフィはブチの力と体格に押され、後退を余儀なくされていった。

 

 背には、崖が迫っていた。

 崖に押し付けられ、衝撃の逃げ場が無い状態で戦えば、さすがのルフィもやられてしまうだろう。

 猶予はない。

 

 ルフィは体中の力を振り絞り、ブチの体を押しのけにかかる。

 

「ヌッフゥーーーーン!!」

 

 無理をしているのだろう、ブチの体からは内出血だけにとどまらず、所々から血を噴出しはじめていた。

 だが、ブチは止まらない。

 目の前の敵を倒すまでは。

 

「すげぇよ、お前」

 

 ルフィは二カッと笑う。

 ルフィにとって、単純な腕力で負けるというのは久しぶりの事だった。

 脳裏に、かつての兄の顔が浮かぶ。

 負けるわけには行かない。シャンクスに、兄に、親友に誓ったのだ。

 俺は、海賊王になると。

 

「とっておきだ」

 

 こんな所で早々に躓くわけにはいかない。

 両手がふさがった状態で繰り出せる最強の技を、渾身の力を振り絞って行う。

 

「ゴムゴムのぉーーーーーーーー!!!」

 

 かつて無い攻撃が来る。

 それを悟ったブチはルフィを止めようとするが、今度は逆に、ルフィがブチの体を掴んで離さない。

 掴みあった腕が、今度はブチを地獄に落とす(くさび)となった。

 

「鐘ェッッッ!!!」

 

 ガゴォッッ!!

 

 ルフィの頭が、ブチの脳髄を揺らす。

 伝わりきらなかった衝撃だけでも、ルフィとブチの体は空中で数回転し、衝撃の凄まじさを見る側に伝えた。

 その後、力なく二人は地面に倒れる。

 

「あたー……、かってぇー」

 

 数秒の間、意識を途切れさせていたルフィは、ふらつきながらも頭を抑えて立ち上がり、口の中に溜まった血をペッと吐き出す。

 一方、ブチのほうは力を失ったままだ。

 完全に、意識を失っている。

 

「よし」

 

 両手を天にかざす。

 

「かったぞぉーーーーーーーー!!!」

 

 ルフィは、勝利を宣言した。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「こ、この野郎……、ふざけやがって」

 

 ゾロに相対するシャムは、背に二本の刀を背負っていた。

 油断である。

 意識もろくに無い相手だと甘く見たゾロは、刀を盗まれるという予想だにしなかった攻撃を受け、怒りをあらわにする。

 

「シャシャシャシャシャシャ!」

 

 笑っているのか掛け声なのか、あるいは相手を挑発しているのか。

 よくわからない声を上げつつ、シャムはゾロの周囲をぐるぐると回り始める。

 

「参ったな、一刀流は得意じゃないんだが」

 

 シャムの方に体を向けつつ、ゾロは愚痴をこぼす。

 なにやってやがんだ、こいつは。

 相手の意図を読めないゾロだが、考えても仕方がないと一歩前に踏み出す。

 

 と、鋭い痛みを足に感じ、ゾロはシャムの狙いを理解した。

 ゾロは知らなかったが、先ほどウソップが海賊に肉薄された際に、まきびしを撒いていた。

 ブチの攻撃によって地面が割れ、目視が困難となっていたが、抜け目の無いシャムは見逃さなかった。

 ゾロの周囲を回りつつ、狙いの場所にゾロを誘導していたのだ。

 

「シャアーーーーッ!!」

 

 隙を突かれて対応が遅れ、肩に傷を負うゾロ。

 反撃を試みるが、その頃にはシャムはゾロから距離をとっていた。

 

 

 さて、シャムの行動は、意識が無いものが行えるものではない。

 シャムには当然、意識がある。

 

 シャムはブチと違い、肉体が強ければイコール強い、などとは考えていなかった。

 どんな強い生物も、常にその強さが発揮できるわけではない。

 人間は、考える生き物である。

 相手の裏をかき、油断をさそい、不意打ちを行う。

 それが、シャムの考える最強の自分である。

 ジャンゴの催眠により強くなったと錯覚している状態でも意識を保てるのは、当然の帰結だった。

 戦闘前のジャンゴの言葉は(ブラフ)である。

 シャムは、意識がないように見えるよう演技をしているだけだ。

 意識がないのはブチだけであり、派手に目を引くブチでその言葉が真実であると思い込ませ、シャムが隙を突く。

 

 

「ちっ、うっとおしい野郎だ」

 

 ゾロは、手ぬぐいを頭に巻きつけ、意識を引き締める。

 こんな奴に手間取っている暇は無い。

 旧友と誓いあった願いを、こんなふざけた野郎に邪魔されるのは我慢ならない。

 

 だがどうする?

 刀一本で瞬殺できるほど、簡単な相手ではなさそうだ。

 せめてもう一本刀があれば……

 と、一つ脳裏にアイデアが思いつく。

 駄目元でやってみるか、とゾロは深く考えずに決めた。

 

 砕けた地面に足をとられたゾロを見た瞬間、再び俊敏な動きでシャムが襲い掛かる。

 だが、ゾロはそれを待ち構えていた。

 

 シャムの攻撃を一本の刀で受け流し、残った刀でシャムの腹を叩く。

 

「カハッ……」

 

 強く腹部を叩かれたシャムは、息を吐く。

 シャムの腹を叩いたのは、刀の鞘だ。

 ゾロは、刀の鞘を使い、擬似的に二刀流の状態としたのだった。

 

「やっぱ、刀を扱うようにはいかねぇな」

 

 鞘の先端に握りでもつけりゃあ使えるかも知れねぇが。

 ゾロは、その光景をイメージしてみる。

 

 ねぇな。

 

 そもそも、そんなことをするぐらいだったら予備の刀でも持ち歩いたほうがマシである。

 ゾロは頭を振り、嫌なイメージを振り払った。

 もう二度と思い出す事も無いだろう。

 

 返す刀でシャムを切り払い、ゾロは珍しく軽傷での勝利を収めた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「鉛星ッ!!」

 

 ウソップの放つ弾丸がジャンゴを襲うが、ジャンゴはふらりと横に一歩踏み出し、それをやり過ごした。

 

「なめられたもんだな」

 

 視線をウソップに向け、敵を見定める。

 まっすぐこちらを見つめ、同じような攻撃を繰り返す敵。

 周囲が見えていない。鴨だ。

 ジャンゴはそう判断した。

 

「まっすぐ飛ぶだけの弾丸なんぞ、風情がねぇよ」

 

 腕を振り、チャクラムを左右に飛ばす。

 一度戦場から離れたチャクラムは大きく弧を描き、森の上空を抜けて再び戦場に戻ってきた。

 チャクラムは、ウソップを背後から襲う。

 

「ウソップ! 後ろ!」

 

 木の陰から顔を出したナミの言葉に反応し、辛くも回避するウソップ。

 うっとおしそうにジャンゴがナミを一瞥すると、ナミは再び木の陰に隠れた。

 

 ジャンゴは戻ってきたチャクラムを手に取ると、続く一撃でナミの隠れた場所を攻撃する。

 

「……? いねぇ」

 

 周囲の木々を根こそぎ伐採するが、ナミの姿は見えなかった。

 警戒すべきだ。

 

 そう思ったジャンゴだが、ナミはあっさり姿を現す。

 崖を滑り降り、ジャンゴの傍に着地したナミは、棍を振りかぶってジャンゴに接近。

 

「馬鹿が。接近戦なら勝てるとでも思ったか」

 

 ジャンゴは、手に持ったチャクラムで直接ナミに斬りかかる。

 と、ジャンゴにあと数歩まで迫ったナミは急制動をかけ、飛びのいて逆に距離をとった。

 

「おあいにくさま。私はそんな野蛮な事はしないの!」

 

 棍から手を離し、懐から取り出したものをジャンゴの足元に投げつけるナミ。

 

「……!? まきびしィ!!」

 

 まきびしが刺さり、思わず足を高く上げてしまう。

 

 

「うまくやってくれたな、ナミ」

 

 ウソップは、いざという時のために数個だけ作っていた弾丸をパチンコに装着し、その瞬間を待っていた。

 簡単に避けられるような攻撃を繰り返していたのは、この瞬間のための前フリだ。

 地に足が着いていない状態で動けるような奴などいない。(羽が生えているような人外を除いて……)

 ジャンゴは、ウソップの一撃をかわせない。

 

「取っておきを喰らえ。火薬星ッッ!!」

「ブハァッ!?」

 

 頭に直撃した弾丸が爆発し、ジャンゴは動かなくなった。

 

 

「やった……俺だって村を守れるぞ、コンチクショウ」

 

 血を失いすぎたため、興奮と沈静化による血圧変化に耐えられない。

 ウソップは、立ったまま気を失った。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「頑丈な体だな。どんな実の能力だ?」

 

 俺は、猫の手を手で弾きながらクロに攻撃を仕掛ける。

 しかし、俺が攻撃に移ろうとした瞬間には既にクロは目の前にいない。

 

 なんだよこれ。

 この動き、人として認めないぞ俺は。

 

 単純なスピードでは、むしろ俺の方が早いだろう。

 予備動作が無い事に関しては、俺の飛行による移動も同じはずだ。

 緩急をつけるだけでこんなに変わるのか。

 あとは、相手の動き出しを見定めるのが抜群にうまい。

 このレベルに到達するまでに、一体どれだけの戦闘経験を積んだのか……

 参考にさせてもらおう。

 

 俺が腕に帯電させると、クロは攻撃の軌道を変えて俺の腕を掻い潜った。

 一撃を受けつつも俺は翼を強く振って強風を送り、クロの動きを止めようとする。

 しかし、翼に力を込めた時には既に、クロは俺の後ろに回っていた。

 振り向きつつ、地面を強く踏みつけて地面を揺らす。

 止まりやがれこの野郎。

 

 しかし、俺が振り返った時にはクロは既に俺から距離をとっていた。

 飛んでクロとの距離を詰めるが、それを見たクロもこちらとの距離を高速で詰め、カウンター気味に猫の手で俺の胴を切り裂く。

 さすがにこれは俺の体も耐えられず、体の表面に切り傷を残した。

 

 久しぶりに痛みを感じるが、不思議と恐怖心等は沸いてこなかった。

 肉体だけでなく、精神的な部分も作り変えられたりしているのだろうか。

 

 

 三分ほど攻防を繰り返した。

 クロの刃は俺の体を幾度と無く捕らえるが、俺の攻撃は奴の影を捉えるばかりだ。

 しかし、クロも疲労しないわけではないだろう。

 いまだクロの顔に焦りは見えないが、内心では焦りを感じているはずだ。たぶん。

 このまま続ければ、クロのほうが先に倒れるのは間違いない。

 チートボディ様々である。

 

 しかし、いつまでも戦い続けるわけにも行くまい。

 百計とまで呼ばれた男が、馬鹿正直に真正面から挑んで来ているのだ。

 今がこいつを倒す、最大の好機だ。

 方針転換される前に、なんとしてでも倒しきる。

 

 できれば、正攻法で倒したかったが……

 

 認めよう。

 クロは強い。

 今の俺では、いくら肉体のスペックが高かったとしても奴を捕らえる事はできない。

 要訓練だな。

 俺は、物語の主人公(ヒーロー)のように、戦闘中に急成長して敵を倒す事なんてできやしないのだ。

 

 

 俺は、戦い方を変える事にした。

 まずは手始めに、地面を凍りつかせる。

 

「ッッ!?」

 

 ブレーキが利かなかったのだろう。緩急をつけたクロの動きが乱れる。

 拳を腰溜めに構えて待ち構えていた俺は、その隙を狙って拳を繰り出す。

 

 初めて俺の拳はクロの体に触れたが、残念な事に直撃とは行かなかった。

 

「なんだこれは……噂には聞いていたが、自然系(ロギア)というやつか?」

 

 いいえ違います。

 

 力を強く使ったからだろうか。

 服に仕舞っていた光輪が飛び出し、バチバチ放電しながら頭上で高速回転している。

 さーて、お次はこいつだ!!

 

 炎がクロを包み込む。

 そう見えたが、クロは一瞬でその場を離脱していた。

 炎は、一瞬じゃダメージにならないな。

 こういう輩を相手にするには向かないようだ。

 

「でたらめだ!!」

 

 はじめてクロの顔をゆがませる事ができた。

 出鱈目ですまん。文句は神様に言ってくれ。

 まだまだいくよー。

 

 先ほど出した炎を、破裂させる。

 クロは、爆風にあおられてやむなく後退。

 だが俺は、その方向に罠を仕掛けていた。

 先ほどの爆発と同時に小さな爆発を地面に叩き込み、若干陥没させていたのだ。

 

 

 発動に若干の時間はかかるものの、目で見える範囲ならば不思議パワー……精霊回廊を用いた攻撃ができるので、俺を相手に距離を取るのは自殺行為だ。

 距離を取るなら、俺の視界から消えなければならない。

 

 動きの鈍ったクロに、今度は電撃をお見舞いする。

 さすがのクロも、雷より早く動くことはできない。

 これを目で見てから回避するのは不可能だろう。

 今度こそ、間違いなく俺の攻撃はクロを捕らえた。

 電撃を受けて体を硬直させるクロ。

 

 そこに突撃した俺は、拳を奴の腹にめり込ませる。

 吹っ飛んだクロは、崖に激突。

 崩れた崖の下敷きとなった。

 ここまでやって、起き上がってくるやつはいないだろう。

 

 

 いや、ゾロなら起き上がってくるかも。

 ルフィもゴムだし、起き上がってくるかもな。

 自然系(ロギア)なら、崖の下敷きになろうが関係なさそうだ。

 

 あれ、起き上がってきそうなやついっぱいいるじゃん。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。