ルイズが勇者兼王子(DQ5)を召喚しました 作:hobby32
さて、ルイズとしては、自分の部屋の中で、サルでも飼ったような気分になっていた。
とにかくレックスは、ジッとするのが苦手であった。特に用事が無かったり、話すことがなければ、部屋の中で体操をしたり、木刀の素振りをしたり、倒立しながら歩いたり、ブリッジの姿勢からクモのように歩いたりと、とにかく落ち着きがなかった。
勉強の邪魔だとルイズが怒ると、じゃあ、外に遊びに行かせてよ、とせがんでくる。ルイズは、いろいろ悩んだが、こんなのが同い年にして魔法も、そして恐らくは剣も優秀だと思うと、嫉妬心が刺激されるものだから、外に行かせた。すると実に活き活きと走り回ったり、飛び跳ねたりして、学院勤めの平民たちを引き連れて、ボールを蹴ったりして、子供のように遊んでいた。
これでいて、使い魔の仕事はほとんど完璧にこなす。ルイズを朝起こすところから、水汲み、部屋の掃除、洗濯と文句も言わずにこなしていた。出来もかなり良い。まあ、こちらの世界の文字が読めず、本棚をぐちゃぐちゃにされたときは、さすがに自分でやろうとルイズは思ったが。
あとは、せいぜい着替えを手伝うのを嫌がるくらいである。こればっかりは、「自分でやってよ」とレックスは文句をタラタラ言った。「文句を言った分につき、ご飯抜き」と言ったら、大人しくなったが。
あとは、ルイズの授業のお供をするのだが、毎回律儀に『フバーハ』という呪文をかけて、机と椅子のすき間でグッスリ眠っていた。他の使い魔もグースカ寝ているので、イライラしてもルイズは、起こしたくても起こせなかった。
剣も魔法も凄まじいのだろうけど、普段の日常では全然そんな素振りを見せない使い魔であった。
さて、レックスは、活発な分、食いしん坊であり、隙を見ては厨房によく通っていた。そこでは、『我らの拳』とあだ名された。レックスは、チヤホヤされるのを嫌がり、特別待遇の椅子も、すぐに普通のでいいと撤去させた。そうすると謙虚だということで、ますます、コック長のマルトー親父から気に入られたものである。
レックスとしては、平民同士でワインを飲んで盛り上がったり、シエスタの振る舞ってくれる料理やデザートを平らげるのが大好きであった。
シエスタは、ギーシュからレックスが自分の盾となって庇ってくれたことで、心底から大好きになっていた。子供のように無邪気で、笑顔が優しくて、とてつもなく勇敢で強い。もうメロメロであった。料理を振る舞う腕もますます奮うものである。
マルトー親父が、上機嫌でレックスに訊ねる。
「ときに『我らの拳』。どうやって、あんなゴーレムを軽々と持ち上げる腕っぷしがついたんだ?」
「ああ、おじいちゃんとお父さんの血のおかげたよ。もの凄い力持ちだったから」
本当は、祖父のことは見ていないが、圧倒的な力だったと、父やサンチョから何度も聞いた。
すると、マルトー親父は、厨房のみんなに声を張り上げる。
「おまえたち聞いたか? こうやって自分の家族を大切にするのが、誠の勇者なんだぞ!」
マルトーの「勇者」という言葉に、レックスは、噴き出した。急に言われてビックリしたのである。
レックスは、苦笑しながら言う。
「本当の勇者は、僕よりお父さんだよ。僕の何倍も苦労して生きてきたんだから」
10年の奴隷生活とか、8年の石化状態とか、全く僕には考えられない。それでいて、ほとんど旅人の生き方しか知らないのに、立派に国王の仕事もこなしているし。本当に、わがままな僕より圧倒的に凄い。
しかし、マルトーに真意は伝わらず、
「くぅ~! ますます気に入ったぜ! 『我らの拳』よ! なんて親思いの良い奴なんだ!」
と言われて、強い力で抱きつかれた。違うんだけどなぁ、とむさ苦しい体に抱きつかれながら、レックスは思う。
さてある日の夕方、外で遊び疲れたレックスが、ルイズのいる部屋に戻ろうとしたとき、
「ん?」
キュルケのサラマンダーが、トテトテと近づいてきた。
「どうしたの、君」
人に懐いたモンスターには慣れているレックスは、多少熱いにも関わらず、サラマンダーの頭を撫でた。
すると、サラマンダーは、レックスの青いマントをクイクイ引っ張った。
レックスが見上げると、キュルケの部屋のドアが開けっ放しであった。
「ご招待?」
レックスは、不思議そうに首をかしげながら、キュルケの部屋へと入ってゆく。
「ドアを閉めて」
夕方の薄闇に隠れながら、キュルケは、微笑みながら告げる。
レックスは、後ろ手でドアを閉めた。
「どうぞ、こちらへ」
レックスが近づいてキュルケの姿を見る。薄い肌着一枚である。
この時点で、ああ、とレックスは悟った。
キュルケは、座って、と言ったが、レックスは、首を振った。
「あら、どうして?」
不思議そうに首をかしげるキュルケ。
「こういうのは、あんまり好きじゃないんだ」
レックスは、天井を見上げた。それは、完全に遠慮します、のポーズであった。
キュルケは、それほど動じず続ける。
「恋しちゃったのよ、あなたに」
「へえ」
レックスは、くたびれたような顔つきとなる。
「あなたがギーシュのゴーレムを持ち上げた姿、とっても格好よかった。まるで、伝説のイーヴァルディの勇者みたいだった」
レックスの肩がピクッと揺れる。また、『伝説の勇者』か。そう言われるのにうんざりしていたから、こっちの世界では隠していたのに。
それを脈ありの反応だと受け取ったキュルケは、恋歌を綴っただの、あたしの夢にあなたが毎日出てくるだの、レックスからすれば、ふーんで片付けられることを言い始めた。
キュルケが言い終えると、レックスは、
「それだけ? もう帰っていい?」
と全く興味なさげに言い放った。
「なっ!?」
キュルケとしては、これは全く予想外の反応であった。自分の恵まれたプロポーション、情熱的な誘い、こういったものに落ちない男は今までいなかったからである。彼女の主観では。
しかし、相手は、『伝説の勇者』だの『グランバニアの王子』だの、幼い時分より、初対面の人間からでもやたらとチヤホヤされていた少年である。逆にルイズのように、自分を召使い扱いしてくることに新鮮さを覚えるタイプである。むろん、だから、ルイズに惚れているかと訊かれたら、違う、と答えるが。
とにかく、キュルケのこういう数段階すっ飛ばしたアプローチに心奪われるほど、レックスは単純でもなかった。自分の父と母のように、一緒に冒険するなどして共にいる時間を過ごしてから、関係を深めるのが筋だろうと思っていたので、キュルケの突然のお誘いにまったく興味が湧かないのである。
キュルケが驚いたきり、返事がないので、レックスは踵を返して、部屋から出ようとする。
しかし、何もせずに男を帰しては、キュルケのプライドが廃る。キュルケは、ベッドから立ち上がって、レックスの背中に抱きついた。
もちろん自分の自慢の双丘を押し当てるためである。
キュルケは叫ぶ。
「待って、レックス! あたしが悪かったわ! でも、好きになったのは、本当なの! だから!」
すると、この瞬間、もの凄い勢いでドアが開けられた。
それは、果たして、ルイズであった。キュルケの叫び声が聞こえたようである。
「キュルケ! 誰の使い魔に手を出してるのよ!」
「わお」
レックスは、凶暴そうに眉をつり上げて、怒りの炎を瞳に宿す自分の主人の登場に驚いた。
ルイズは、キュルケがレックスに背中から抱きついた体勢なのを見た瞬間、怒りが爆発する。
「ツェルプストー!!」と叫んで、煽情的な格好のキュルケを蹴り飛ばし、解放されたレックスの手を握って、自分の部屋まで引っ張っていった。
そして、扉にカギをかけてから、キョトンとしているレックスに向き直る。
レックスは、火でも噴きそうなルイズの怒った顔に目を丸くした。
「ツェルプストーの女に尻尾を振るなんて、あんたは何してんのよ!!」
あまりにも甲高い声だったので、レックスも一瞬、耳をふさいだ。
ルイズは、この使い魔をどう罰してやろうかと思ったが、方法が思いつかなかった。
殴っても、蹴っても、ムチを振るっても避けられるし、ご飯抜きにしたところで厨房に逃げ込むだけだろうし、外出禁止にしたところで部屋の中で運動するだけだし、爆発魔法を唱えようにも詠唱中に逃げられて、部屋の中がめちゃくちゃになるだけである。
仕方がないので、ガミガミと説教する他なかった。コイツのすばしっこさがとにかく厄介なのである。
「なんで、キュルケの部屋なんかに行ったの!!」
「キュルケの使い魔のサラマンダーに誘われたからだよ。服を引っ張られてさ」
レックスは、素直に答える。
その後、キッパリとレックスがキュルケの口説きを断ったと聞くと、急速にルイズの怒りの炎が鎮火した。
「よくあんた、あんな色魔の誘惑を断れたわね」
かなりの男がキュルケに陥落したことを知っているルイズには、意外だった。
「だって苦手なんだもん。あんなやり方」
レックスは、尖った髪の生える頭を掻いた。
彼としては、ベタベタされるよりも普通に接してきて欲しかった。せっかくこの世界で、『伝説の勇者』とか『王子』とかの身分から解放されて、ただの『レックス』として扱われることを楽しんでいたのに。キュルケの言葉を聞いて、また『勇者』に逆戻りかと思って嘆息していた。
「へぇ、なら、あんたはどういう風に接してほしいのよ?」
後から考えたとき、ルイズはどうしてこんなことに興味を持ったのか不思議に思った。
レックスは、苦笑いしながら言う。
「普通でいいんだよ、普通で。別にルイズの使い魔をやったって構わないし、平民扱いでもいい。でも、僕はただのレックスなんだ。そういう一人の男の子として普通に接してくれればそれでいい」
「……意味がわからないんだけど、普通ってつまり、どういうこと?」
「………………」
レックスは、珍しく困った表情で黙り込む。
それを説明するには、それこそ『伝説の勇者』だの『王子』だのということを言わないといけないわけで、そうなると、このルイズも畏まってしまうかもしれない。いや、異世界の身分なんかどうでもいいと思うかもしれない。
正直なところ、あまりにも特殊な状況で、レックスもよくわからなかった。異世界の王子だと言ったところで、どういう反応をされるかなんてぜんぜん想像できない。まだ、ルイズがやたらと頭を下げるようになるのか、それとも「だからなに?」と言ってそのまま使い魔として扱うのか、全くわからなかった。
なので、余計なことを言うのは、避けることにする。それで、話を逸らすために、最近ちょっと欲しいな、と思っていたものを所望する。
「ねえ、ルイズ。剣ちょうだい」
「剣? 急にどうしたの?」
「素手で戦うこともできなくもないけれど、やっぱり、僕には剣が一番しっくりくるんだ。召喚された時は、木刀しか持ってきてないし」
元の世界なら、かぶと、よろい、たての一式すべて揃えたいところである。しかし、この世界ではそこまで戦いが頻繁ではないようで、そんな重装備をしている人を見かけない。だから、武器だけでいいか、と思ったのである。
ルイズは、少し考えたが、うなずいた。
「いいわ、買ってあげる。ただし、あんた、杖も買いなさい」
レックスは、首をかしげる。
「杖? なんでまた? 僕はなくても使えるよ」
「こっちでは、杖を使って魔法を使わないと、先住の魔法って言われて、恐れられるのよ」
「ああ、だから、あの時、止めたのか」
レックスは、教師爆破事件で、最初にルイズにベホイミをかけようとした時、いったん止められたのを思い出す。
「そう。バレてたら、あんたは貴族どころの騒ぎじゃなかったわよ」
「……わかった。こっちの世界のやり方に従うよ」
どうやら素手で、ギーシュを負かしたことは、悪いことではなかったようだ。実は、7体のゴーレムが現れた時、面倒くさいから、大量の雷を落とす呪文の『ライデイン』を使って、まとめて撃破することも考えた。が、貴族扱いが面倒なのもさることながら、ゴーレムがあまりにも小っちゃくて、そこまでしなくてもいいか、と思えたのだ。観客の中に雷を怖がる人もいると思ったし。
ということで、レックスは、翌日、虚無の曜日ということで、剣と杖を買ってもらえることとなった。
それ以上に、ひとまず自分が色々と重たい称号を持っていることを、ルイズに明かすかどうかを考える先延ばしをすることができた。