ルイズが勇者兼王子(DQ5)を召喚しました   作:hobby32

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4話:レックスの日常

さて、ルイズとしては、自分の部屋の中で、サルでも飼ったような気分になっていた。

 

とにかくレックスは、ジッとするのが苦手であった。特に用事が無かったり、話すことがなければ、部屋の中で体操をしたり、木刀の素振りをしたり、倒立しながら歩いたり、ブリッジの姿勢からクモのように歩いたりと、とにかく落ち着きがなかった。

 

勉強の邪魔だとルイズが怒ると、じゃあ、外に遊びに行かせてよ、とせがんでくる。ルイズは、いろいろ悩んだが、こんなのが同い年にして魔法も、そして恐らくは剣も優秀だと思うと、嫉妬心が刺激されるものだから、外に行かせた。すると実に活き活きと走り回ったり、飛び跳ねたりして、学院勤めの平民たちを引き連れて、ボールを蹴ったりして、子供のように遊んでいた。

 

これでいて、使い魔の仕事はほとんど完璧にこなす。ルイズを朝起こすところから、水汲み、部屋の掃除、洗濯と文句も言わずにこなしていた。出来もかなり良い。まあ、こちらの世界の文字が読めず、本棚をぐちゃぐちゃにされたときは、さすがに自分でやろうとルイズは思ったが。

 

あとは、せいぜい着替えを手伝うのを嫌がるくらいである。こればっかりは、「自分でやってよ」とレックスは文句をタラタラ言った。「文句を言った分につき、ご飯抜き」と言ったら、大人しくなったが。

 

あとは、ルイズの授業のお供をするのだが、毎回律儀に『フバーハ』という呪文をかけて、机と椅子のすき間でグッスリ眠っていた。他の使い魔もグースカ寝ているので、イライラしてもルイズは、起こしたくても起こせなかった。

 

剣も魔法も凄まじいのだろうけど、普段の日常では全然そんな素振りを見せない使い魔であった。

 

さて、レックスは、活発な分、食いしん坊であり、隙を見ては厨房によく通っていた。そこでは、『我らの拳』とあだ名された。レックスは、チヤホヤされるのを嫌がり、特別待遇の椅子も、すぐに普通のでいいと撤去させた。そうすると謙虚だということで、ますます、コック長のマルトー親父から気に入られたものである。

 

レックスとしては、平民同士でワインを飲んで盛り上がったり、シエスタの振る舞ってくれる料理やデザートを平らげるのが大好きであった。

 

シエスタは、ギーシュからレックスが自分の盾となって庇ってくれたことで、心底から大好きになっていた。子供のように無邪気で、笑顔が優しくて、とてつもなく勇敢で強い。もうメロメロであった。料理を振る舞う腕もますます奮うものである。

 

マルトー親父が、上機嫌でレックスに訊ねる。

「ときに『我らの拳』。どうやって、あんなゴーレムを軽々と持ち上げる腕っぷしがついたんだ?」

「ああ、おじいちゃんとお父さんの血のおかげたよ。もの凄い力持ちだったから」

本当は、祖父のことは見ていないが、圧倒的な力だったと、父やサンチョから何度も聞いた。

 

すると、マルトー親父は、厨房のみんなに声を張り上げる。

「おまえたち聞いたか? こうやって自分の家族を大切にするのが、誠の勇者なんだぞ!」

 

マルトーの「勇者」という言葉に、レックスは、噴き出した。急に言われてビックリしたのである。

レックスは、苦笑しながら言う。

「本当の勇者は、僕よりお父さんだよ。僕の何倍も苦労して生きてきたんだから」

10年の奴隷生活とか、8年の石化状態とか、全く僕には考えられない。それでいて、ほとんど旅人の生き方しか知らないのに、立派に国王の仕事もこなしているし。本当に、わがままな僕より圧倒的に凄い。

 

しかし、マルトーに真意は伝わらず、

「くぅ~! ますます気に入ったぜ! 『我らの拳』よ! なんて親思いの良い奴なんだ!」

と言われて、強い力で抱きつかれた。違うんだけどなぁ、とむさ苦しい体に抱きつかれながら、レックスは思う。

 

さてある日の夕方、外で遊び疲れたレックスが、ルイズのいる部屋に戻ろうとしたとき、

「ん?」

キュルケのサラマンダーが、トテトテと近づいてきた。

「どうしたの、君」

人に懐いたモンスターには慣れているレックスは、多少熱いにも関わらず、サラマンダーの頭を撫でた。

 

すると、サラマンダーは、レックスの青いマントをクイクイ引っ張った。

レックスが見上げると、キュルケの部屋のドアが開けっ放しであった。

「ご招待?」

レックスは、不思議そうに首をかしげながら、キュルケの部屋へと入ってゆく。

 

「ドアを閉めて」

夕方の薄闇に隠れながら、キュルケは、微笑みながら告げる。

レックスは、後ろ手でドアを閉めた。

 

「どうぞ、こちらへ」

レックスが近づいてキュルケの姿を見る。薄い肌着一枚である。

この時点で、ああ、とレックスは悟った。

 

キュルケは、座って、と言ったが、レックスは、首を振った。

「あら、どうして?」

不思議そうに首をかしげるキュルケ。

「こういうのは、あんまり好きじゃないんだ」

レックスは、天井を見上げた。それは、完全に遠慮します、のポーズであった。

 

キュルケは、それほど動じず続ける。

「恋しちゃったのよ、あなたに」

「へえ」

レックスは、くたびれたような顔つきとなる。

「あなたがギーシュのゴーレムを持ち上げた姿、とっても格好よかった。まるで、伝説のイーヴァルディの勇者みたいだった」

レックスの肩がピクッと揺れる。また、『伝説の勇者』か。そう言われるのにうんざりしていたから、こっちの世界では隠していたのに。

 

それを脈ありの反応だと受け取ったキュルケは、恋歌を綴っただの、あたしの夢にあなたが毎日出てくるだの、レックスからすれば、ふーんで片付けられることを言い始めた。

キュルケが言い終えると、レックスは、

「それだけ? もう帰っていい?」

と全く興味なさげに言い放った。

 

「なっ!?」

キュルケとしては、これは全く予想外の反応であった。自分の恵まれたプロポーション、情熱的な誘い、こういったものに落ちない男は今までいなかったからである。彼女の主観では。

 

しかし、相手は、『伝説の勇者』だの『グランバニアの王子』だの、幼い時分より、初対面の人間からでもやたらとチヤホヤされていた少年である。逆にルイズのように、自分を召使い扱いしてくることに新鮮さを覚えるタイプである。むろん、だから、ルイズに惚れているかと訊かれたら、違う、と答えるが。

 

とにかく、キュルケのこういう数段階すっ飛ばしたアプローチに心奪われるほど、レックスは単純でもなかった。自分の父と母のように、一緒に冒険するなどして共にいる時間を過ごしてから、関係を深めるのが筋だろうと思っていたので、キュルケの突然のお誘いにまったく興味が湧かないのである。

 

キュルケが驚いたきり、返事がないので、レックスは踵を返して、部屋から出ようとする。

 

しかし、何もせずに男を帰しては、キュルケのプライドが廃る。キュルケは、ベッドから立ち上がって、レックスの背中に抱きついた。

もちろん自分の自慢の双丘を押し当てるためである。

 

キュルケは叫ぶ。

「待って、レックス! あたしが悪かったわ! でも、好きになったのは、本当なの! だから!」

 

すると、この瞬間、もの凄い勢いでドアが開けられた。

 

それは、果たして、ルイズであった。キュルケの叫び声が聞こえたようである。

「キュルケ! 誰の使い魔に手を出してるのよ!」

「わお」

レックスは、凶暴そうに眉をつり上げて、怒りの炎を瞳に宿す自分の主人の登場に驚いた。

ルイズは、キュルケがレックスに背中から抱きついた体勢なのを見た瞬間、怒りが爆発する。

 

「ツェルプストー!!」と叫んで、煽情的な格好のキュルケを蹴り飛ばし、解放されたレックスの手を握って、自分の部屋まで引っ張っていった。

 

そして、扉にカギをかけてから、キョトンとしているレックスに向き直る。

レックスは、火でも噴きそうなルイズの怒った顔に目を丸くした。

 

「ツェルプストーの女に尻尾を振るなんて、あんたは何してんのよ!!」

あまりにも甲高い声だったので、レックスも一瞬、耳をふさいだ。

 

ルイズは、この使い魔をどう罰してやろうかと思ったが、方法が思いつかなかった。

殴っても、蹴っても、ムチを振るっても避けられるし、ご飯抜きにしたところで厨房に逃げ込むだけだろうし、外出禁止にしたところで部屋の中で運動するだけだし、爆発魔法を唱えようにも詠唱中に逃げられて、部屋の中がめちゃくちゃになるだけである。

 

仕方がないので、ガミガミと説教する他なかった。コイツのすばしっこさがとにかく厄介なのである。

 

「なんで、キュルケの部屋なんかに行ったの!!」

「キュルケの使い魔のサラマンダーに誘われたからだよ。服を引っ張られてさ」

レックスは、素直に答える。

 

その後、キッパリとレックスがキュルケの口説きを断ったと聞くと、急速にルイズの怒りの炎が鎮火した。

「よくあんた、あんな色魔の誘惑を断れたわね」

かなりの男がキュルケに陥落したことを知っているルイズには、意外だった。

 

「だって苦手なんだもん。あんなやり方」

レックスは、尖った髪の生える頭を掻いた。

彼としては、ベタベタされるよりも普通に接してきて欲しかった。せっかくこの世界で、『伝説の勇者』とか『王子』とかの身分から解放されて、ただの『レックス』として扱われることを楽しんでいたのに。キュルケの言葉を聞いて、また『勇者』に逆戻りかと思って嘆息していた。

 

「へぇ、なら、あんたはどういう風に接してほしいのよ?」

後から考えたとき、ルイズはどうしてこんなことに興味を持ったのか不思議に思った。

 

レックスは、苦笑いしながら言う。

「普通でいいんだよ、普通で。別にルイズの使い魔をやったって構わないし、平民扱いでもいい。でも、僕はただのレックスなんだ。そういう一人の男の子として普通に接してくれればそれでいい」

「……意味がわからないんだけど、普通ってつまり、どういうこと?」

「………………」

 

レックスは、珍しく困った表情で黙り込む。

それを説明するには、それこそ『伝説の勇者』だの『王子』だのということを言わないといけないわけで、そうなると、このルイズも畏まってしまうかもしれない。いや、異世界の身分なんかどうでもいいと思うかもしれない。

 

正直なところ、あまりにも特殊な状況で、レックスもよくわからなかった。異世界の王子だと言ったところで、どういう反応をされるかなんてぜんぜん想像できない。まだ、ルイズがやたらと頭を下げるようになるのか、それとも「だからなに?」と言ってそのまま使い魔として扱うのか、全くわからなかった。

 

なので、余計なことを言うのは、避けることにする。それで、話を逸らすために、最近ちょっと欲しいな、と思っていたものを所望する。

 

「ねえ、ルイズ。剣ちょうだい」

「剣? 急にどうしたの?」

「素手で戦うこともできなくもないけれど、やっぱり、僕には剣が一番しっくりくるんだ。召喚された時は、木刀しか持ってきてないし」

 

元の世界なら、かぶと、よろい、たての一式すべて揃えたいところである。しかし、この世界ではそこまで戦いが頻繁ではないようで、そんな重装備をしている人を見かけない。だから、武器だけでいいか、と思ったのである。

 

ルイズは、少し考えたが、うなずいた。

「いいわ、買ってあげる。ただし、あんた、杖も買いなさい」

レックスは、首をかしげる。

「杖? なんでまた? 僕はなくても使えるよ」

「こっちでは、杖を使って魔法を使わないと、先住の魔法って言われて、恐れられるのよ」

「ああ、だから、あの時、止めたのか」

レックスは、教師爆破事件で、最初にルイズにベホイミをかけようとした時、いったん止められたのを思い出す。

 

「そう。バレてたら、あんたは貴族どころの騒ぎじゃなかったわよ」

「……わかった。こっちの世界のやり方に従うよ」

どうやら素手で、ギーシュを負かしたことは、悪いことではなかったようだ。実は、7体のゴーレムが現れた時、面倒くさいから、大量の雷を落とす呪文の『ライデイン』を使って、まとめて撃破することも考えた。が、貴族扱いが面倒なのもさることながら、ゴーレムがあまりにも小っちゃくて、そこまでしなくてもいいか、と思えたのだ。観客の中に雷を怖がる人もいると思ったし。

 

ということで、レックスは、翌日、虚無の曜日ということで、剣と杖を買ってもらえることとなった。

 

それ以上に、ひとまず自分が色々と重たい称号を持っていることを、ルイズに明かすかどうかを考える先延ばしをすることができた。

 

 

 

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