雉も鳴かずば撃たれまい
最近、わたしのトレーナーが話題だ。
今もこうして廊下を歩いていると、勝手に耳に入ってくる。
「この間の雑誌見た!?」
「見た見た!二人ともスゴイ可愛かったよね!!」
「ね!トレーナーさんなんて、一瞬アイちゃんより可愛いかも…って思っちゃったもん!」
「わかるー!!」
わたし達を褒める声。
前回の雑誌撮影では、先方からの要望で何故かトレーナーが女装して、わたしと一緒に写るページが何枚かあったのだ。
わたしはノリノリでトレーナーにメイクを施し、結果今回の評判が誕生したのだった。
くっ……!迂闊だったわ……!!
お話を貰ってから研究に研究を重ねた結果誕生した目も眩むような美少女。
トレーナーは今までそこまで容姿に対して注目されていなかった。それがここに来て……!
しかも、わたしより可愛いだなんて……!
確かにトレーナーは可愛いわ!でも、私だって可愛さでは負けていない…!
それに今までそんなこと話していなかったじゃない…!それが急にこんな人気になって……!!
わたしは、負けたくなかった。
許せなかった。
「トレーナー!」
一息に扉を開けた。
わたしの用意したアロマの香りに、わずかに彼の香りを感じる。
「お帰りなさい。アイさん」
呼びかけに応じ、そちらへと顔を向けると、デスクへと座るいつものトレーナーが──って……!!!
「ト、トレーナー!?ななな、なんで前髪……!!??」
トレーナーは、わたしの問いを受け、気恥ずかし気に頬を朱に染めながら笑みを浮かべた。
クッ…………!!!!
「あはは……。ちょっと恥ずかしいんだけどね?この間、撮影してもらったときにアイさんもスタッフさんも凄い褒めてくれたからさ」
ちょっと冒険してみたんだ──と答えるトレーナーは、熱を冷ますように顔を手で扇いでいる。
クッ………!!!!
「──良いんじゃないかしら。とても──ええ、とても似合っているわ」
危なかったわ──
わたしは九冠ウマ娘、こんなところで負けるわけにはいかないもの──
「えへへ。ありがとう。君に言われるのが一番うれしいよ」
クッ………………!!!!!!!
「──当然よ。だって、わたしが一番貴方の傍にいたんだもの」
危なかったわ──
彼のこの無邪気な笑顔は、わたしだけのもの──
「トレセン学園に来る途中で、おばあさんにも褒められてね?可愛い子だねって──」
ダンッ、と思わず足に力が入った。
彼の座っていたキャスター付きの椅子は、わたしに押されて壁へと押し付けられる。
今日の彼は──瞳がよく見える。
「──それで?」
「え、あ、えっとね?僕は女の子じゃないですよって言ったんだけど……良いからってくれたんだ。だから、はい」
手のひらに乗せた飴を差し出してくるトレーナー。
リンゴ味で美味しいよ、と自分の口の中の飴玉を転がす。
「──笑ったのかしら」
「……?──誰が?」
「トレーナー。そのおばあさんに笑ったのかしら」
「え。うーん、どうだろう。どちらかと言うと苦笑いだったかなあ?」
苦笑い……それならセーフかしら?
彼の、この新スタイルの彼の満面の笑みを、初めて受け取ったのが私なら良いとしましょうか。
少し深呼吸して、一息つく。
取り乱してしまったわ。大丈夫よ。彼の一番はわたし。
何事においても──
「あ!そうだ!ララさんも褒めてくれたよ!やっぱり可愛いどすなあって」
えへへ、と前髪を弄る彼に、わたしは我慢の限界だった。
「ラァラァァァァァァァァ!!!!!」
「うぇっ!ちょ、ちょっとアイさん!!??」
数分後、ララと話をつけたわたしは当初の目的を思い出し、急いでトレーナー室へと戻っていた。
「トレーナー!」
「あ、アイさんお帰り―」
書類を持って、彼が近づいてくる。
ぽやぽやした雰囲気は、いつもわたしを癒してくれる。
しかし、絆されるわけにはいかない。彼に勝負を挑むのだから。
可愛さ勝負を……!
「トレーナー!わたしと──」
「わわっ」
躓くトレーナー。両手に書類を持っていては、受け身が取れない……!
わたしが──受け止める!!!
今日一番の足を使い彼と床の間に滑り込み、落ちてくる頭を抱え込む。
「間に合った……良かったわ。もう、両手に物を持っているときは気をつけなきゃダメじゃない」
胸元のトレーナーへと声をかける。
柔らかい髪の感触と、いつもの彼の匂いに、初めて嗅ぐ整髪剤の香り。
そして、全身で感じる体温が心地よかった。
もう少しこのままで──と思っていると、ふぐふぐと声にならない声が聞こえてきた。
「トレーナー?どうしたの?」
わたしの声に反応するように床を叩くトレーナー。
それは、とても弱弱しい力で──
あっ。
「ご、ごめんなさい!トレーナー!わたし、少し考え事しちゃってて……!」
急いでホールドを解除する。
腕から抜け出したトレーナーは、少し咳き込んで力なく笑った。
「……だ、大丈夫だよ。受け止めてくれてありがとうね?」
わたしの胸の中にいた恥ずかしさからか。年下の女の子に助けられた気恥ずかしさからか。
それとも、単純に苦しかったからか。
赤らんだ顔で少し苦しそうにするトレーナーは、なんだか少し……
「エッチね……」
「うえ?アイさん今なんて──」
「なんでもないわ!……それよりも本題に入りましょう」
「本題?」
「ええ……トレーナー、貴方のことが最近噂になっているわ。とても可愛いと」
知らなかったのだろうか。トレーナーは、その大きな目を開いて驚いている。
何度も瞬きをしながら。
クッ……!
「今日は、わたしよりも可愛いなんて声も聞いたわ」
「ア、アイさんより可愛いなんてそんな……!!」
顔を赤くして、体の前でわたわたと手を振って否定するトレーナー。
クッ…………!!!!
「だから、わたしは貴方と勝負することにしたわ!可愛さ勝負よ!!」
「可愛さ勝負!?──そ、そんなのアイさんが勝つに決まってるよ!?」
その言葉に、わたしの眉がピクリと動いた。
わたしが勝つに決まっている?そんなこと──
「そんなことやってみないとわからないじゃない!それに貴方はわたしのトレーナー!最初から負けを認めるなんてありえないわ!」
「ええ!?ど、どっちの立場なの?アイさん……」
「ふふふ──それじゃあ先行は譲ってあげるわ。トレーナー、貴方の可愛いを見せて頂戴」
「……僕の可愛い??」
腕を組んでうぬぬと悩み始めたトレーナー。
ふふ、そうよ。可愛いとは一朝一夕では手に入らないもの。
たとえ、トレーナーが常日頃からわたしを唸らせていようともね。
数分して。あっ、と声を上げたトレーナーは、恥ずかしそうにしながら咳ばらいを一つしてこちらを見つめる。
何か思いついたのかしら?
「えっと、ア、アイさん。手……つないでもいい?」
少し屈んで、上目遣いにこちらを窺うトレーナー。
その大きな瞳はわずかに潤んで、少し紅く染まった耳が彼の照れと緊張を伝えてくる。
グゥッ……………!!!!!
「お、おねがい」
とどめと言わんばかりにわたしの懐に飛び込んで、少しぎこちない笑みを浮かべる彼。
彼の熱と香りが伝わる。
何の反応も示さないわたしに不安を感じたのか、少し不安そうに揺れる瞳と震える唇を見て、わたしは────
ああああ。
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
膝から崩れ落ちる。
戦意喪失とは、このことなのかしら……
最後の力を振り絞って、わたしはトレーナーへと尋ねた。
それは、自分で思いついたのかと。
「これはね。えっと、ララさんが」
…………ラァラァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!
「へくちっ」
「大丈夫か?ララ」
「大丈夫大丈夫。誰かうちのこと噂しとるんやろ。ふふ……」
アイさんは撃たれてしまいました。
ということで、お久しぶりです。このシリーズは四か月ぶりくらいの投稿になってしまいました。
申し訳ない。他にやりたいことをやっておりました。
アンケートを設定してから初投稿ですね。
結構長いこと放置してたんですけど、物語性が唯一のゼロ票なのが素晴らしいと思います。そうです。物語性なんぞ存在しないので正しいのです。
おっぱいばかりになるかなと思っていたら、割と分散したのが意外でしたね。
皆さん結構ラブをお求めなんですね。期待に応えられているのか分かりませんが頑張ります。
執筆自体が久しぶりだったので、クオリティが落ちていたらすみません。
それでは、ここまで読んでくださりありがとうございました。
前回からお気に入りしてくれた方もありがとうございます。