はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第10話です。


暴走従妹、志熊理科現る

「はい、聖クロニカ学園前ね。二千五百円になります」

「ありがとうございます」

 

 聖クロニカ学園。

 小鷹たちの通う学校の前に止まった一台のタクシー。

 遠夜市駅からタクシーで約二十分。

 白衣に半ズボンという出で立ちのその少女は、長い道のりにくたびれたのか、金を払いタクシーから降りると大きく背伸びをした。

 後ろに縛っている一本のポニーテールを左右に揺らし、意気揚々と学園の敷地に入っていく。

 その格好の珍しさもあるや、少女の顔立ちもこれまたキュートでかわいらしく、学園内の生徒達の目を引きつけていた。

 

「むふっ、会いに来ましたよ……"お兄ちゃん"」

 

 そう小さくはにかみ、白衣の少女は頭の中を幸せに包みながら、学校の中に入っていくのであった。

 

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「ふわぁ、終わった終わった……」

 

 放課後、長い授業が終わり大きくあくびをする夜空。

 たいしてまじめに授業を聞いていたわけでもないのに、いっちょまえなその態度に小鷹は呆れる。

 

「あなたはほとんど寝てたでしょうが」

「だって暇なんだもんよ、そんなことよりも……今日は久しぶりに隣人同好会の集まりすっか」

 

 そう言って夜空は鞄を背負い立つ。

 最近は隣人同好会(別名:小鷹の友達を作ってあげるの会)の活動をやっていなかった。

 活動といってもくだらない話をしてある程度時間がきたら解散と、最近になってそのいい加減さが目立ってきた。

 小鷹は容姿自体はそれほど問題ではなくどちらかというと上の方に分類される。ただ近くにいるのが最上の美少年と美少女であるため乏しく見えるだけなのである。

 ネックなのは怪力と女子力の無さ。というか怪力である。間違いなく怪力である。

 

「したら星奈にも声かけないとね」

「んあぁ……しゃあねえな」

 

 相変わらず夜空は星奈を受け入れられないでいる。

 なので一緒になるとほぼ喧嘩になる。そして長続きすると小鷹が武力で制止をするというのが当たり前になりつつある隣人同好会。

 教室から出る小鷹、そして星奈のいるクラスに向かうその時であった。

 

「あの、すいません」

 

 突如、一人の少女が小鷹に声をかけてきた。

 首から見学者の札をぶら下げている。どうやらこの学校の関係者ではないらしい。

 小鷹は「なんでしょうか?」と返事をし、その少女に目をやると。

 少女は奇妙な格好でそこにいた。白衣に半ズボン。眼鏡をかけたチャーミングな美少女だった。

 

「三日月夜空さんはどこにいますか?」

「皇帝?」

 

 見知らぬ少女は夜空の名前を上げた。

 その本人は、少し遅れて教室から出てきて、小鷹とその少女の前に姿を現す。

 

「んあ? どうした小鷹?」

「あぁ皇帝、あなたに用があるって人が……」

 

 小鷹が夜空にそう教え、夜空はその少女に目をやる。

 すると、夜空は少女の姿を見て、眼を見開いた。

 少女の方も、夜空の姿を見た瞬間に身体を身震いさせて……。

 

「お……お……お兄ちゃーーーーーーーん!!」

「お兄ちゃん!?」

 

 お兄ちゃん。

 そう言って少女は夜空に飛びついた。

 その一連の流れに小鷹は思わず驚きの表情を浮かべる。

 

「理科! お前もう付いてたのか!?」

 

 その少女の名前は"志熊理科"。

 前に一度、小鷹達とはMO――モンスター狩人オンラインの中であったことがある。

 そう、これが噂の夜空の従妹。天才少女と名高い志熊理科である。

 

「ほら、前にMOで手伝ってくれただろ? にしても理科、来るなら事前に連絡をよこせよ」

 

 数か月前に近々こちらに来ることは伝えられていたが、突然すぎる従妹の来訪だった。

 優しく叱りながらも、本心では嬉しく思う夜空。

 

「お兄ちゃんを驚かせたかったんですよ」

「そうかそうか。にしてもよくきたなぁ」

 

 そう言って夜空は理科の頭をなでなでする。

 こうして見る限り、結構仲の良い従兄妹のようだ。小鷹も見ていて微笑ましく思う。

 ……が、小鷹は一つあることを思い出した。

 夜空に従妹がいることは前日のネットカフェでのMOにてわかっていた。

 だが、その時その従妹、理科はチャットにてこんな発言をしていた。

 

『ところでお兄ちゃん! 次いつセッ○スできるの!?』

 

 ここにいる可愛い従妹が、こんなとんでも発言をしたことを小鷹は覚えていた。

 それを思い出し、ほほえましさと怪しさが彼女の中で混ざり合う。

 

「そうだ理科、これからちょっとこの汚い金髪のお姉ちゃんのとこに遊びにいくんだけど。一緒に来るか?」

「汚い金髪ってなんや……」

 

 せめて濁った金髪と言え。

 小鷹は久しぶりに髪の色の事を侮辱されてイラっとする。

 

「えぇと、あなたは?」

「あ、初めまして。羽瀬川小鷹です。MOでは『ファルコン』って名乗っていたかな」

 

 相変わらず初対面の人には抵抗を覚える小鷹。だが相手は年下、腰を低くしていてはいけないと心の中で思う。

 わかりやすくMOのニックネームを付け加え名乗る。

 小鷹の名前を聞いて、理科はぱあっと顔を明るくして小鷹に迫る。

 

「あぁはいはいあの時の! お兄ちゃんから色々話は聞いています!! どうぞよろしくお願いします!!」

「こ、こちらこそ……」

 

 彼女の、理科の明るさは小鷹にとっては武器だった。

 明るすぎる。まさに今時のナチュラルな女子高生か。一個年下というだけなのに恐ろしい差を感じてしまった小鷹。

 

「んもうお兄ちゃんも、こんな可愛い女の人を傍に置いて隅におけませんねぇ~」

 

 可愛いと言われ、小鷹は内心喜びの表情を浮かべる。

 理科はまだ小鷹の"裏の面"を知らない。あのネックである裏さえ知られなければ小鷹は少し引っ込み思案というだけの普通の少女でいられる。

 理科がいる間はなんとしてでも怪力を発動しないようにしなくては、そう心がける小鷹。

 

「俺からすれば髪の色も顔も中古品だがな」

「ぐっ……(がまん、がまん……)」

「んもう! お兄ちゃんは贅沢ですね。それでお兄ちゃん、この人とはセッ○スしたんですか?」

「ぶほ!!」

 

 噴き出す小鷹。

 一瞬の穏やかなひと時ですっかり頭から離れていた。そうだ、この従妹は夜空が認めたエロマスターだったのだ。

 夜空自身、女子生徒を前にして下ネタを連発する容赦極まりない性格。その夜空がとんでもないと謳ったのがこの志熊理科だった。

 おまけにここは学校の中、やばい……他の人に聞かれたかもと小鷹は焦りで周りを見渡した。

 

「はっはっは、いきなり容赦ねぇなこいつぅ」

 

 こんなとんでもないスタートを切ったのに、寛大に受け入れる夜空。

 まずいな、知らないうちに拳を握りしめているぞ。

 多少の発言ならば許そう、じゃないといかんせん大変なことになりかねない。

 もう少し心に余裕を持てるようにならねばと、こんなところで小鷹は自分の汚点に対し向き合うのであった。

 

「まぁ俺は意外とこの女のことは気に入ってるが……やってねぇよ。可愛いお前の兄貴がそんな外道なわけないだろう?」

「そうですか、すいません小鷹お姉さん。いきなり変な質問してしまい」

「あはは、気にしてないよぉ。(いきなりすぎるし変哲すぎるだろその質問は!!)」

 

 表上小鷹は平然と振舞うが、内心ではツッコミを入れる。

 どうやらこの一件は早めに終わりそうだった。のだが……。

 

「ところでお兄ちゃん。前も聞いたんだけどいつ理科とセッ○スしてくれるんですか?」

「………皇帝?」

「はっはっは。家に帰ってからn」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 先ほど心に余裕をと言っていた自分はどこへ行ってしまったのか。

 やはり小鷹に限界は訪れてしまった。

 久しぶりにやってしまった。夜空を全力で殴りとばし、夜空がぶつかった衝撃で廊下の端の壁がめり込む。

 ちょうどその瞬間に隣から星奈が教室から出てきて、「おぉ~」と他人事のようにそれを見渡した。

 

「お兄ちゃーーーーーーーーーーーーん!!」

 

 そう叫び、夜空の元へ向かう理科。

 息を切らした小鷹の元へ、星奈がやってくる。

 

「はぁ……はぁ……。やっちゃったよ……」

「あら~。ずいぶん派手にやったわね。セクハラでもされたの?」

「許せない発言をしたから……」

 

 星奈にそう聞かれ、残った怒りを絞り出すように答える小鷹。

 周りの生徒の視線が痛い。小鷹は顔を真っ赤にし夜空を連れ出し学校を出た。

 気絶した夜空を小鷹がおんぶ、となにやら不思議な絵面になってしまったがそのままみんなで我が家へと向かう。

 

「いやぁびっくりしました。小鷹お姉さんすごい力なんですねぇ」

「うん。できれば君には見せたくなかったな……あはは、あはははは」

 

 半分涙目で答える小鷹。

 しかし理科は怖がるどころか、その怪力に付いて興味津々だった。

 

「ふむふむ。ぜひともあなたを研究所に連れて行って調べたいものです」

「……そういえば、理科ちゃんは天才少女……だったっけ? なんだよね?」

「はいそうですよぉ。理科は知る人ぞ知る超天才少女なのです!!」

 

 えっへん、と理科は自慢するように言った。

 ここにいる志熊理科、業界じゃあ大きく名を轟かせる超天才少女である。

 物ごころついた時からあらゆる言語のプログラムをマスターし、子供の視点に立った独自の理論を築き上げてはそれらが各業界で高く評価された。

 今ではあらゆる会社からオファーが殺到しており、科学者として開発者として、そして創作者としてあらゆる物を開発している。

 さらには彼女は自身の容姿の良さを利用しては、動画サイトで歌ってみたを投稿したり、有名生主さんと一緒に生放送をやっていたりと表上でも活躍を見せている。

 最近ではTV出演のオファーまで増え、彼女はこの社会の表と裏全域にわたって支持者を増やし続けている超がつくほどの有名人なのである。

 超がつくほど忙しい彼女であるが、最近はおだやかになってきたため休暇を取り、大好きなお従兄ちゃんのいるここ遠夜市へやってきたわけである。

 

「志熊理科ねぇ、あたしも聞いたことあるわ。愛時(恋愛ゲーム)のプログラマーでヒロインの一人である愛華ちゃんの声優もやってたでしょ?」

「あはは、声優に関してはプロデューサーにどうしてもと頼まれた上で挑戦したんですけどね。下手くそだったでしょ?」

「いやいや、結構役にハマってたと思うわよ。あとあなたのエッセイも読んだわ」

「それはどうもですぅ」

 

 星奈自身も、彼女の関わった作品に多く手をつけていたようだ。

 普段は誰も認めることのない星奈さえ認めざるを得ない人物、それがこの志熊理科である。

 普通に見れば、本当に普通に見れば彼女は憧れの有名人である。

 だが、初っ端から夜空とあんな会話をされてしまうと、どうにも抵抗を覚えてしまう小鷹。

 

「ったくよ、従妹が有名になりすぎてお兄ちゃんは寂しくなったよ」

「もう、意地悪を言わないでくださいお兄ちゃん。理科はいつでもお兄ちゃんが大好きですよ~」

 

 べたべたと夜空に甘える理科。

 傍から見れば仲良し従兄妹。なのだが、やっぱり裏があるようにしか思えない小鷹。

 

「それで……その、理科ちゃんはその……本当にお兄さんとせ……やらしいことをやったの?」

 

 やはりそこははっきりとさせたい。

 抵抗をしながら、言葉を選びながら必死に理科に尋ねる小鷹。

 

「あはは、あれはお兄ちゃんとのお約束のやり取りですよ。理科の純潔はまだ誰にも渡していませんよ」

「そうだそうだ。何年か前に理科は色々な同人誌売ってるサークルの人たちとの付き合いで大量のエロ本を貰って以来興味を持ってな、いつしか下ネタの知識が俺以上になってしまったんだ」

「そのエロ本押しつけたサークルの連中を今すぐ殴りに行きてぇ……」

 

 何年か前ということはおそらく中学生の時か、下手をしたら小学生の時だ。

 そんな小さな女の子にエロ本を大量にあげるサークルとは、もう犯罪臭しかしなかった、

 小鷹は拳を握りしめるが、これ以上……ましてや我が家で怪力を発揮するのは好ましくない。

 上には妹がパソコンやっているだろうし、下手に怖がらせるとさらに距離をおかれる可能性があるので怒りたくなかった小鷹。

 

「でもな小鷹。俺だってこいつの立派なお兄ちゃんだ。お兄ちゃんらしくその時はちゃんと対処したさ」

「対処?」

「あぁ、あまり大事な従妹を汚したくはなかったんでな。その大量のエロ本の中から艶めかしいものを全部取り除いて、"機械と機械"が性交しているマニアックな物だけをこいつに渡したんだ。中々の気配りだろ?」

「どうせなら全部燃やせばよかったのに。んで? その取り除いた艶めかしいものはどこへ?」

「んなもん俺が全部もらっt」

「そのせいで今のおめぇが形成されてんじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 要はもらったエロ本を互いに半分個しあっただけである。

 小鷹は怒りに身を任せ夜空にとび蹴りを見舞い吹き飛ばす。

 

「あが……。いやいやでも不思議なもんだよな。読書が大の苦手な俺が、エロ本に限ってあんなにもスラスラ読めちまうなんてな……」

「いちいち解説しなくていいわ!! お前のエロ事情なんてどうだっていい!!」

「でも俺が甘かった。機械×機械の十八禁本を読み漁るにいたってこいつ、いつしか機械を人に見立てて想像するようになり俺以上にひどくなり果ててしまった」

「悪化してんじゃねぇかそれ!! そもそもなぜ従妹にエロ本与える気になったんだよ!! もうその時点で兄貴失格だろうが!!」

 

 小鷹はいつも以上にキレまくる。だが夜空からしても、従妹が来たことに対して気分が上昇しているのかいつも以上に下ネタにキレがあるようにも思える。

 更には本日すでに小鷹から二発やられているのにピンピンとしており、耐久力も増している。

 星奈はあと何回保つのかと客観視しており(理科がきたせいか今日に限って自分に飛び火がいかない)。理科は女子とじゃれているお兄ちゃんを見て何を思っているのか、きゃわ~んと恍惚な表情をしている。

 

「仲がいいんですねぇ。従妹としてちょっと嫉妬してしまいますよぉ」

「どこがよ、なんかすごい嬉しそうなんですけど……」

「その嫉妬を抱く自分、そして大好きな兄を思う自分。それらが混ざってもう……絶頂なんですよぉ」

「変態だこいつ……」

 

 従兄も従兄なら従妹も従妹か。

 志熊理科、天才少女で有名人というのは表上で、裏はそうとうイカれた感性を持っている事が判明した。

 人には必ず裏があろう。星奈は容姿に恵まれているが性格が最悪だったことですでにそれはわかりきっていたことなのに。

 この理科はとんでもない変態。有名人ではない、有名変態とでも言って差し支えなかった。

 

「まぁまぁ小鷹お姉さん。理科の事は嫌いでも夜空お兄ちゃんの事は嫌いにならないでください」

「なんか引退した人みたいな言い草なんですけど……。いやその、一応皇帝には感謝してるし……嫌いじゃないから」

「なるほど。小鷹お姉さんはお兄ちゃんの事、好きなんですか?」

 

 急に訪れた真面目な場面。

 急すぎる、素朴な質問だった。小鷹は言葉に詰まる。

 そして、それを聞いていた星奈もなにやら、嫌な表情を浮かべている。

 等の夜空本人は、特に思うところはなさそうに、表情を変えずに黙っていた。

 

「……"友達"としては」

 

 追い詰められたからなのか、この状況に耐えかねたからだったのか。

 自然と口から出た、"友達"というその一言。

 長らく気にしていなかった。自分と、皇帝の間にある関係性を。

 ただの腐れ縁、同好会という名での付き合い。その程度だった。

 だけど、小鷹は今確かに、三日月夜空を"友達"と認めた瞬間だった。

 まさか急に現れた夜空の従妹が引き起こした、隣人同好会の多大なる成果であった。

 

「あ……」

「……構わねぇよ小鷹。お前は何一つ、間違ったことは言っていない」

 

 夜空の何気ない一言に、小鷹は心から救われた気がした。

 今ここに来て、孤独だった自分に、友達ができたと、実感することができた。

 

「……ありがとう、皇帝」

「なに感謝してんだバカ。感謝されることなんてした覚えはねぇさ」

「っっっっっ!!」

 

 目の前に来て、そう優しく語りかけてきた夜空に、一瞬大きく小鷹の気持ちは揺らいだ。

 頬が火照る。この一瞬だけ彼女は、皇帝という男に大きく何かを感じた。

 沈黙する。だけどこれは凍りついた沈黙ではない。

 優しさによる温かさが広がる。平穏であった。

 

「……あは、んもうお兄ちゃんかっこよすぎです!! こんなことされたらどんな女子でもイチコロですよぉ!!」

 

いつまでも止まって入られないと、この平穏を解くように理科が叫んだ。

理科の言葉に全員が反応し、平穏が解け小鷹と夜空に笑顔が満ち溢れる。

 

「お、落ちてなんかないよ!!」

「ははは、俺もこんなやつを落とした覚えなんざねぇな~」

「こっ……こんの皇帝!!」

 

 そう言って小鷹は夜空を捕まえ、頭をぐりぐりする。

 当然痛かったが、いつもよりも小鷹の力が穏やかだった気がした。

 それはひょっとしたら、彼女の怒りよりも優しさが上回っていたからかもしれない。

 

「さてともうこんな時間ですか。おばさんとおじさんには連絡してありますのでお兄ちゃんの家に厄介になります」

「おう、母さんと父さんも喜ぶだろうなぁ~」

 

 どうやらしばらくは、理科は夜空の家に泊まるらしい。

 

「ではお兄ちゃん、今夜お部屋に夜這しにいきますからねぇ~」

「……皇帝?」

「おう! 全裸で待機して……」

「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 やっぱり最後はこうなるのか。

 小鷹は最後の最後で夜空に一撃入れ、夜空をノックアウトしてしまった。

 その光景を見て理科は、お兄ちゃんが蹂躙されている様を想像したのか……。

 

「お兄ちゃんが小鷹お姉さんに攻められて……ユニバァァァァァァァァァス!!」

「お前らさっさと帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 暴力的ではあったが、その光景は微笑ましいものだった。

 本当に微笑ましい光景、だがその光景を……一人楽しく見ることがなく、ただ無表情を浮かべ奥でひっそりと見てたたずんでいた。

 

「……なによ、なんなのよ」

 

 その時、星奈が心の奥底で抱いたのは、どのような感情だったのだろうか。

 あの時、夜空と小鷹が迫っていたあの場面で、彼女はどう思ったのだろうか。

 そして、夜空と小鷹が友達になったその瞬間、彼女は何を焦ってしまったのか。

 

「じゃあね星奈、また明日学校でね」

「……えぇ」

 

 帰り際。星奈が浮かべたその笑顔は、あきらかに無理をしてのものだった。

 家に電話をして迎えを呼び、迎えがくるその間、星奈はひどく自分に対し嫌悪を浮かべた。

 外の小石を蹴って、馬鹿みたいに呟く。

 

「あたしって……最低」


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