はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第11話です。


楠幸村、お姉さまでお嬢様?

 ある日小鷹と星奈は放課後、学校帰りにカフェに寄っていた。

 小鷹達はいつも三人組で行動をしているが、たまに星奈は小鷹をこっそり誘っては一緒に遊びに行ったり、買い物に行ったりしている。

 その際星奈は金持ちなので、基本的に星奈がなんでもおごってくれる。小鷹的には得のあるお誘いである。

 

「そういえばあんた、昨日の抜き打ちテストどうだったのよ?」

「八十点ってところかな」

 

 星奈の何気ない質問に、小鷹は特にためらうことなくそう答える。

 前日には抜き打ちテストがあった。小鷹は飛び抜けてはいないがそこそこ頭がいい。

 普通の女子高生として考えるならば、小鷹は容姿、頭脳、運動神経。それらの中で特に優秀な能力がなく、総合的に見ても本当に普通のステータスなのである。

 平凡を地が道で行くような彼女であるが。神様がどこで間違ったのか、怪力が彼女を普通ではなく異常にしてしまったのだ。

 

「そう。まぁあたしは言うまでもなく百点だったけどねぇ」

「あ、このケーキおいしいね~」

「って人の話聞きなさいよ!!」

 

 聞くまでもなく特に興味もないことなので、小鷹はケーキに夢中になる。

 星奈は容姿端麗スポーツ万能、そしてお金持ちとまさに神に選ばれた超絶完璧美少女である。

 だが完璧であっても完全でないのが人の性か、神様はまた間違いを起こしたようで彼女は非常に性格が悪い。

 男子どもを下僕と呼んで足蹴にしたり、他の女子を見下してはボロクソ言って突き放す等、本当に容赦がない。

 この通り、人には必ず裏があるということである。隠しておけば万事解決なことが、隠しきれないのが人生である。

 

「あ、でも本当にこのケーキおいしいわね」

 

 と、星奈がケーキにフォークをつけた時だった。

 ガランゴロン……。

 店の扉が開き鈴が鳴る。そして入ってくるのはおよそ五人の女子高生。

 制服を見る限り、小鷹たちの学校と違う。近くにある女子高の制服であった。

 

「ここでお茶にしましょう、"お姉さま"」

「そうしましょうそうしましょう!!」

 

 今時らしいというのか、騒がしく聞こえてくる女子高生の声。

 足並みそろえて店内に入ってくる中で、お姉さまと呼び湛えられている中央の女子。

 

「ここのカフェのケーキはおいしいんですよ。"幸村"お姉さま」

 

 幸村お姉さま。

 おそらくはお姉さまと呼ばれる人物の名前だろう。

 だが小鷹はおかしく思う。幸村という名前だと女よりも男を思い浮かべる。

 しかし確かにお姉さまと呼ばれている。小鷹はその幸村という人物に目を向けると。

 

「……」

「か……かわいい」

 

 女である小鷹が見ても、そう呟いてしまうほど可憐だった。

 その幸村と呼ばれた人物は、間違いなく少女であった。

 清楚な雰囲気を醸し出しており、艶のある茶色のショートカットが左右に揺れる。

 星奈とはまた違った魅力を持った美少女だ。幸村という勇ましい名前に反して、その容姿は反則すぎると小鷹は唇を噛む。

 

「楠幸村……ねぇ」

 

 星奈も騒がしいのを見兼ね、幸村含む五人の女子高生の方を流し目で見ていた。

 その口ぶりだと、どうやら星奈は幸村を知っているようだった。

 

「知り合いなの?」

 

 小鷹が尋ねると、星奈は軽い口調でその問いに答えた。

 

「一応中学校の時の後輩、ほとんど話したことないけど」

「へぇ。ひょっとして星奈は中学校の時も今のように男子を侍らせていたの?」

「人聞きの悪いこと言わないでよ。ひょっとしてあんた最初にあたしに会った時の事根に持ってたりすんの?」

 

 星奈が少し身を引いてそう質問をすると、小鷹はニコっとほほ笑む。

 そのほほ笑みは何を意味するのか、小鷹は怪力はもちろん時々夜空顔負けの暴言を星奈に吐くこともある。

 他にプールでナンパしてきた男たちを容赦なく返り討ちにしたところを、星奈だけが直に目撃をしている。

 物理的な意味でも精神的な意味でも、小鷹は地味な少女という風貌の裏に恐ろしい魔物を飼っている。

 今まであらゆるものに屈することのなかった星奈であったが、そんな小鷹に対しては内心小さな恐怖を抱いているのであった。

 

「……その、あの時はごめんなさい」

 

 小鷹の純粋な笑顔が怖かったのか、今更ながら素直に謝る星奈。

 

「いやいいよ。気にしてないし」

「……本当?」

「うん。だってボクの頭の色がギョウ虫みたいなのは、本当のことだしぃ~」

(……絶対に気にしてるわね)

 

 星奈が押されているのを悟ったのか、小鷹はチャンスとばかり星奈に圧力をかけて遊んでいた。

 かつてこの遠夜市で最も恐れられた小学生。

 今となっては完全に鎮静化しているがその血は残っているのか、時々溢れる小鷹の腹黒さはその断片なのだろうか。

 

「……あ」

 

 と、幸村が率いるお嬢様系女子高生たちが二人を横切る際、二人は幸村と目が合う。

 そして幸村は見覚えがあるように、星奈に向かって軽くお辞儀をする。

 素朴な雰囲気。気品の感じるところはあれどそれは上流社会の挨拶のような堅苦しいものではなく、先輩に挨拶をする後輩のそれであった。

 お辞儀をされた星奈は少し戸惑い、ぎこちなく会釈をし返すと、幸村達は通り過ぎ小鷹たちの後ろ向かいのテーブルについた。

 

「礼儀正しいんだね。幸村さんは」

「……そうね」

 

 と、小鷹たちが幸村の話題を出すと同時に、あちらからもなにやらヒソヒソと聞こえてきた。

 

「お姉さま。あの人たちは?」

「はい。わたくしのちゅうがっこうの先輩です。もうひとかたはしょたいめんですが」

「あれって確か、聖クロニカの柏崎星奈さんじゃありません?」

 

 どうやら星奈の名前は他の学校の生徒でも聞き覚えのあるもののようだ。

 

「私聞いたことあります。とても美人なんですけどその分ものすごく"下品"だとかで」

「ぶっ!!」

 

 名前だけでなく、嫌な噂も伝染していたらしい。

 それを聞いて星奈が飲んでいたコーヒーを噴き出した。

 

「そうなのですか? わたくしはあまりかかわったことはありませんが、とてもせっきょくてきなおかただったおぼえがあります」

「色々噂を聞きますよ幸村お姉さま。なんでも男子をたくさん引きつれて学校で大きな顔をして歩きまわっているだとか」

「外見はとてもお美しいのに、残念なお方ですわ」

「育ちが良すぎるというのも考えものですねぇ。そんな不良まがいの事をされて、父親である理事長も悲しんでいらっしゃることでしょうに」

 

 結構小声であるが耳を凝らせば嫌でも聞こえてしまう言葉の数々。

 やはり褒められるのは外見のことだけで、中身の事に関してはズタボロに言われまくっている。

 男子高校生に絶対的な人気を博しているが、女子高生には絶望的にまで敵視されている。

 人の本心にある嫉妬がそういう結果を生み出したのも事実であるが、星奈が意地を張りつづけていたことも当然原因である。

 

「ちょ、あんたら好き勝手……ぶっ!!」

「はいはい落ち着く落ち着く」

 

 言われっぱなしで黙っていられなかった星奈が席を立とうとしたが、それを小鷹が押さえつける。

 

「こここ小鷹……ちょっとあいつらに一言文句を言ってくるから、あたしの頭を押さえつけている手をどけなさいよぉぉぉ……」

「店内に迷惑がかかるうえにまたあらぬ噂が増えるかもしれないから押さえつけてるんでしょ……」

 

 すでに星奈はご立腹で、今にもあのお嬢様系の方々に噛みつきそうな勢いであったが。

 それを小鷹は防ぐため、星奈の頭を軽く押さえつけているのである。あくまでも"軽く"である。

 そんな星奈に言い放題の生徒達に対し、お姉さまである幸村が叱りつけるように言葉を放つ。

 

「そんなことを言うものではありません。ひとにはだれにだっておてんはありましょう。かるいきもちでそういうぶぶんをぶじょくするのはおろかもののすることです」

「ゆ……幸村姉さま」

「もうしわけありません」

 

 悠々とした口調。のしかかるようなその重みある言葉にその女子高生たちはおろか、小鷹と星奈まで聞き入ってしまう。。

 その可憐でゆったりとした雰囲気の裏に潜む、重く、そして熱い何かを背負っているような、幸村からはそれが感じられた。

 それが彼女の強さであるのだろう。その強さが小鷹たちにもしっかりと伝わってきた。

 

「楠幸村か……うらやましいな」

 

 その立ち振る舞いと慕われている光景を見て、小鷹は羨まずにはいられなかった。

 

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 後日。

 この日小鷹は、趣味の一つである買い物に出かけていた。

 今日は近所のスーパーではなく久しぶりに街の方へ出向いていた。いつものウィンドウショッピングと並行し、我が家の食材を買いに来た。

 基本的に家事は妹がやってくれる。何もしないのは姉として悪いので、自分にできる範囲の事はきちんとこなす小鷹。買いものくらいはきちんとできるもん。

 そして数時間大きいショッピングセンターを満喫し、駅へ向かう最中のことであった。

 

「さてと、早く帰んないと小鳩が心配する……ん?」

 

 なにやら街の中で、一人の少女が男たちに絡まれていた。

 あぁまたこんな光景かと、小鷹は頭をかく。

 最近やたらとそういう光景を見る。さっきも街付近に屯っている悪そうなガラの高校生集団が何人かいた。

 こう久しぶりに故郷に戻ってみると、ずいぶんと治安の悪そうな街になっていたのである。

 基本的にはあまりそういうのに関わりたくなかったのだが、遠目から映ったのは意外な人物であった。

 揺れる小さな茶色のショートカット。そして見覚えのある制服姿。

 間違いない。その少女は先日喫茶店で見かけた楠幸村であった。

 

「おやめください。こういうことをしてはずかしくはないのですか?」

 

 おっとりした雰囲気ながら、強く一歩も引かず、男たちには向かう幸村。

 そういうところを見て、また小鷹は彼女を羨む。

 どうしてそこまで強くあり、人望があり、そして恐怖に立ち向かえるのだろうか。

 地味で引っ込み思案である自分とは対照的だ。次第に羨む心と同時に対抗心が芽生える。

 いいところを見せたい。見せつけたい。自分にしかできないやり方で……と。

 今日は特別だ。と小鷹は指をコキコキ鳴らし幸村の元へ向かう。

 

「おいおいそんなことって、俺らはただ一緒に遊ぼうって誘ってるだけじゃねぇかよ~」

「……」

「あぁ、黙っちまったよ。まぁ心配すんなよ変なことはしねぇから」

 

 幸村は言い返すのをやめ、眼をつぶっている。

 見ていられなくなり、急ぎ足で小鷹はその元へ向かう。

 

「あの、その人困ってますよ?」

 

 そう一言、幸村を庇うように小鷹が男たちの前に立つ。

 

「あぁ? なんだてめぇ?」

「んだよてめぇも仲間に入れてほしいのか?」

 

 当然この程度で男たちは引くつもりはない。

 

「どうしてもというなら、"力づく"でやめさせますけど……」

「ぶっははははは! 女子が息まいて何言うかと思えば……やってみろやこの濁り金髪がぁーーーー!!」

 

 と、男の一人が小鷹に襲いかかった。

 だが男は襲いかかる相手を間違えた。間違えてしまった。

 男は小鷹の胸倉をつかみかかる。が、小鷹はその胸倉を掴む手を軽く握りしめる。

 

「い……いててててててててててて!!」

 

 あくまで小鷹は"軽く"握りしめただけ。

 そして小鷹はその手を離した後、今度は男の髪の毛を掴み、そのまま男を地に押しつけた。

 その一連の流れを見て、他の男たち、そして幸村までが唖然とした表情でただただ見ていた。

 

「う、うごけねぇ……」

「どうします? 他の方々も……殺りますか?」

 

 なにやら物騒な漢字に変換された小鷹の言葉。

 少しばかりわざとらしいあくどい笑顔を浮かべ、小鷹は男たちを威嚇する。

 男たちは当然、小鷹に恐怖をして逃げ出した。

 プールの時といい今といい、それはまるで……十年前の光景にそっくりそのままだった。

 

「……"つまらない"と、今でもボクは漏らしてしまうのかな」

 

 十年経っても変わらない自身の中の魔物。

 それどころか身体の成長が、今の彼女をあの時以上のものとしていた。

 いつになったらこう、自分よりもがたいのいい男子達を怖がらせる珍妙な光景から逃れることができるのだろうかと、小鷹は切に思った。

 

「……んでその、大丈夫だった?」

「ありがとうございます。えぇとたしかあなたさまは、かしわざきせんぱいといっしょにいた……」

「羽瀬川小鷹。その柏崎の……"同級生"だよ」

 

 小鷹はその場はそう説明をし、自身の名を名乗る。

 幸村は自身を救ってくれた勇ましきその少女の名を聞き、途端に眼を光らせた。

 

「はせがわこだか殿」

「ん?」

「とても、かんぷくいたしました。その勇ましきお姿にわたくし、純粋にほれてしまいました」

 

 なにやら予想以上に感謝をされているらしい。

 感謝をされるのは久しぶりで嬉しい限りであったが、どうもいきすぎな感じがしてむずがゆかった。

 と、彼女の様子が少しおかしいこと。ここまでならばまだよかった。

 問題はその後であった。小鷹がその時軽い気持ちで、どのような人物を救ってしまったのか……。

 

「その、女の子が一人でこんなところをふろつき歩いていたら危ないと思うよ」

「いえ、ひとりではありません。ずっと"そば"にについておりました」

「……そばに?」

 

 と、その瞬間である。

 

「ゆ、ゆるしてくださいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「すいませんっした!! 命だけはおたすけをーーーーーーー!!」

 

 この叫び声は、先ほどの男たちのものであった。

 小鷹はすでに制裁を下したはず。なのに先ほどの自分以上に、何かに対し叫びを上げている。

 そしてその数分後、小鷹と幸村の近くにかけよってくる二人の人物。

 一人は袴を着た、アイロンパーマの強面の男性。体型は痩せ型で左目には縦線に傷跡がついている。

 そしてもう一人は大きな図体の丸坊主の男性。サングラスをかけておりこれまた怖い。

 見た目だけで、小鷹が身震いをしてしまうほどの二人の男性。そして……。

 

「"お嬢"、お怪我はございやせんか?」

「先ほどの若い奴らは、あっしらがしばいておきやしたんで」

 

 お嬢。

 今、袴を着た方が幸村に対してそう言った。

 そしてもう一人の大きい方は、さっきの男たちをしばいたと言った。

 

「しんぱいはありませんおふたりとも。このおかたがわたくしをたすけてくださいました」

「……ボク?」

 

 間違いなく幸村を救ったのはボク、こんにちはボク羽瀬川小鷹です。

 それを知ると強面の二人は、小鷹の方を向き、真剣な眼差しで小鷹を見る。

 これは、あきらかにやばい雰囲気だ。Vシネマとかでよく見る、間違いない、頭に「や」のつく"アレ"であった。

 

「な……なんですか?」

「うちお嬢が……お世話になりやした!!」

「ひぃ!!」

 

 と、深々と小鷹に礼をする袴の男性。

 その圧倒的なオーラ、感じ取れるやばい雰囲気に小鷹は圧倒される。

 

「しかしお嬢もいい加減にしてくだせぇ。少しの間ひっこんでいろとは、ここにいるお嬢さんが通りかからなかったらどうなっていたことか……」

「もうしわけありません猿飛さん。じんぎのわからぬわかものにひとことものもうしてやりたくむちゃをしました」

「お嬢はか弱いんですから、どうせならドスの一つでも持ち歩いてくだせぇ」

 

 仁義、ドス。

 ここで小鷹は改めて気づく。やばいやつに関わってしまったと。

 軽い気持ちで、とんでもない大物を助けてしまったことを。

 

「にしてもお嬢さん、あんた中々やりまんなぁ」

「女の身でありながら男を地に叩きつけるたぁ、うちの組の若い衆よりも強いかもしれませんね」

「……"組"?」

 

 恐る恐る小鷹がそう口にする。

 すると猿飛と呼ばれた男性がおっとと口を滑らしたような動作を取る。

 お嬢である幸村に目を合わせると、彼女は嘘が嫌いなようで、素直に自分の素性を答えた。

 

「わたくしは、"関東遠夜楠組"の四代目の一人娘です」

「……つまるところ?」

「あなたがたに伝わるような言い方をすれば……"ヤクザの娘"です」

「や……やく……ざ?」

 

 他人を救えるような立派な人間になりなさいと、親に言われたことがある。

 他人の救い感謝をされることは、何よりうれしいこと。困っている人を助けることは良いことである。

 小鷹自身はとても良いことをしたはずである。だが、結果として小鷹は……大変な人たちと関わってしまったこともまた結果であった。

 そう、ここにいる楠幸村は正真正銘のヤクザの娘であり、同時に名門校に通うお嬢様でもある。

 お姉さまでありお嬢でもある。大物すぎるにもほどのある話である。

 

「してその羽瀬川さんとやら、ぜひともこれ……ほんの一部です」

「いりません!!」

 

 なにやら猿飛が懐から財布を出し、諭吉を二枚ほど小鷹に握らせようとした。

 だがそれを受け取ってしまえば面倒なことになりかねないので、小鷹は必死に抵抗をする。

 

「うぐ、本当にすごい力やなぁ……」

「いるもんですなぁ、チャカで撃たれても死なない人って……」

「いくらボクでも銃で撃たれれば死にます!!」

 

 なんという言い草、銃で撃たれて死ななければもう小鷹は人間をやめてしまっている。

 怪力自慢であるが人間をやめた覚えはない。

 

「あの……その……一般人が下手な真似してすいません!!」

 

 しどろもどろに小鷹は言う。

 ただでさえ普通の人にもろくに話しかけれない引っ込み思案が、ヤクザの人たちとまともに話などできるわけがない。

 小鷹はすぐさま全力でその場を去ろうとする。去り際、幸村が改めて小鷹に感謝の意を述べる。

 

「あの、羽瀬川殿」

「な、なななな! なんです……か?」

「本当にありがとうございました。それでその、差支えなければその……」

 

 もじもじと幸村は恥ずかしそうに、そして意を決したようにこう言った。

 

「あの、"姉御"と呼ばせてもらえませぬか?」

「はい!?」

「おい、あのお嬢が今、この人を姉と呼んだぜ」

「あまり人を認めようとしないお嬢が認めたとあっちゃ、あっしらも呼ばずにはいられんわな」

 

 小鷹を置いてけぼりに、楠組三人は妙に納得したような顔で。

 そして小鷹の去り際、まるでそれはお見送りのように深々と重々しく。

 

「ありがとうございやした! "姉さん"!!」

「姉さん!?」

「小鷹の姉御、またどこかでお会いしましょう」

「あ……う……さよならぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 もうそれは立ち去るというより、逃げ去るようであった。

 友達の少ない少女、羽瀬川小鷹。

 今の目標はただ一つ、普通に友達を作ること。

 そして今日の出来事、ヤクザの若い衆に姉さんと呼ばれ、ヤクザの娘に姉御と呼ばれた。

 小鷹は本日大きな一歩を、否……大きすぎる一歩を踏んでしまったのであった。

 

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 翌日。

 

「皇帝……」

「どうした小鷹?」

「ボクね、闇の道に踏み込んでしまったかもしれないんだ……」

「誰かー、アイスノン持ってきてくれー」


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