はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第12話です。


けちらせ! どーぶつの森

ファルコン『ばんわです』

 

ユーサー『あ、ファルコンさんちわっす~(^O^)』

 

スケゴ『ばんわ~』

 

ヒュウガ『おひさしぶりです~』

 

 ある日、小鷹はチャットを開いていた。

 このチャットは、夜空に教えてもらったMO――モンスター狩人オンラインのレギオンチャットである。

 本日ログインしているメンバーはファルコンもとい小鷹と、ユーサー、スケゴ、ヒュウガの計四人。

 この三人は全て夜空と親しく、小鷹もチャットでの会話ではすぐに打ち解けることができた。

 こうしてたまにログインしているものの、肝心のMOは全く進んでいない。

 

ユーサー『ファルコンさん最近MO入ってこないですね、自分はもうHR200超えましたよぉ~』

 

ファルコン『すいません、やっぱりMOは難しいんですよ』

 

ヒュウガ『まぁMOはポータブルシリーズよりも難しく設定されてるからな、気軽にやっていけばいいと思うぞ。くはは』

 

ファルコン『自分なりに頑張ります』

 

ヒュウガ『いざって時は皇帝くんが色々教えてくれるだろう。ゲームも、あんなこともこんなこともな……』

 

ファルコン『ちょっとヒュウガさん、何言ってるんですか……』

 

ヒュウガ『くはははははは!!』

 

 と、巧みな会話文をうちこみ場を和ますヒュウガ。

 このヒュウガという人物が、遠夜市内のレギオンのリーダーを務めている人物。

 リアルでも顔なじみという夜空いわく、ヒュウガという人物はこの遠夜市内でも最も人望が厚く、人気の高い人物だという。

 通っている高校でも三年会長を務めており、頭もよく運動もできて、おまけに老若男女全てに愛される容姿の持ち主とのこと。

 小鷹とは対照的な、そして夜空にも似たリア充の中のリア充。だがそれでなお小鷹に敵対心を持たせないほど、宥和な人物であることが伺える。

 

スケゴ『実のところ私も最近MOログインしてないんだよねぇ~』

 

ユーサー『てか最近ログインしているのヒュウガさんと自分だけじゃないですかやだー』

 

スケゴ『だって最近うちのバイト仲間も、みんな"どーぶつ"の方にハマっちゃってんだもん』

 

ファルコン『どーぶつ?』

 

 妙な単語が出たのが気になり、小鷹がスケゴに問う。

 

スケゴ『最近発売した"けちらせ! どーぶつの森"のことだよ。3DSのやつさ』

 

 最近巷のショップで売りきれぞくしつの人気ゲーム、けちらせ! どーぶつの森。

 人気シリーズどーぶつの森の最新作であり、子供から大人までハマっているほのぼのゲーム。

 プレイヤーが村長になり村を作っていき、自分なりの村をすれ違いやワイファイで相手に見せあい、コミュニケーションを深めあうゲームである。

 モン狩とはまた違った意味で、人と触れ合うことを目的としたゲームと言えるだろう。

 

ユーサー『あ、知ってますそれ! 自分の友達もやってました!!』

 

スケゴ『最初はつまらなそうだなと思って買ったんだけどこれまた意外と面白くてね、私はシスターさん御用達の協会をついさっき建造したばかりだよ』

 

ヒュウガ『ワイファイで遠くの人と遊んだり、身近な人たちと遊んだりと用途の多いゲームらしいな。よし私も明日買ってこよう!!』

 

ユーサー『ヒュウガさんまで、じゃ……じゃあ自分も買ってこようかな!!』

 

 話を聞く限り、かなり面白そうなゲームのようだ。

 他人と村を見せあい、他人と仲良く遊んだり、他人と繋がる。

 そしてそれは、より多くの友達を作る要素になりえるかもしれない……。

 

「どーぶつの森……か」

 

-----------------------

 

「どーぶつの森?」

 

 翌日。

 学校で夜空と星奈に持ちかけた話題は、真っ先にそれだった。

 中々に有名なゲームだったため、夜空にもすぐに伝わる。

 

「やっぱりその、友達作りにはゲームが一番だと思うんだ」

 

 小鷹の考えは特に間違っていない。

 みんなで仲良く遊べば知らぬ間に友達になっているものである。

 

「まぁ確かにそうかもしれねぇな。んでお前はどうしたいんだ?」

「その、三人で一緒にどーぶつの森をやってみたいなって……」

「なるほど、ゲームのお誘いってわけね」

 

 夜空に聞かれ、小鷹がもどかしく答える。

 普段は大抵夜空か星奈がプランを考えてくれるもので、小鷹から誘いを持ち出すのは非常に珍しい。

 今まで流されてばかりで活動的でなかった張本人が、積極的に友達を作りたいと、そう発言したようにも聞こえて二人は内心嬉しく思う。

 

「星奈もゲームは好きでしょ?」

「ジャンルは偏ってるけどね、好きよ」

「なら、その……」

「……もっとほら、胸を張って言いなさいよ。他人を誘う時に弱気なのはどうなのよ?」

 

 珍しく、星奈は優しく小鷹を促す。

 今までどこへ行こうなにをしようとなればいつも星奈からの誘いだった。

 その際も、星奈は小鷹に容赦なく引っ張り回すように強引だった。

 小鷹も内心、星奈のその強引さには憧れがあった。もっとこんなふうに、強気に行けたらと。

 

「じゃあ、みんなでどーぶつの森やろうよ!!」

 

 小鷹は意を決して言った。

 その言葉に、二人はふっと笑みを浮かべる。

 

「ちっ、しゃあねぇな……」

「いいわよ、この女神であるあたしが村を王国にしてやるんだから!!」

「おめぇの場合出来んのは王国じゃなくて豚の飼育場だこのバカ」

「なんですって!!」

 

 結局二人は些細なことで喧嘩をし始めるが、それもすぐに収まった。

 こうして週明け、小鷹達は三人でどーぶつの森をやることになった。

 土曜日と日曜日、小鷹は時間があれば己の村を立派にした。

 ただ予想以上に資材が集まらず、村が発展しないものだった。

 途中途中チャットでヒュウガ達にアドバイスをもらいながら、小鷹は自分のセンスを相手に見せつけるべく、めずらしくゲームに熱中したのだった。

 

 そして週明けの月曜日。

 その日、夜空は学校を休んだ。というかサボった。

 そのまま放課後になり、三人は小鷹の家に集まることに。

 

「……ねみぃ~」

「皇帝、今日学校休んだでしょ?」

「だってだるかったんだもんよ」

 

 ものすごく寝不足な顔で、夜空が言う。

 あきらかにゲームのやりすぎである。いったい何時間やっていたというのか。

 

「ふん、不良は学校を休んでも気にしないから気楽なものね」

「てめぇみたいに親の期待に添うだけで真面目やってるやつとはちげぇんだよ」

「むー!」

 

 眠そうにしていても、夜空は星奈への罵倒を忘れることはなかった。

 このままでは無駄に時間が過ぎるだけだ。

 三人はいつもの茶の間に移動し、自分たちの3DSを開く。

 それぞれのプレイ時間は、小鷹が10時間、星奈が20時間、夜空が53時間である。

 

「53時間って……」

「あんたほとんど寝ないでやってたわね」

「だってよぉ……」

 

 こりゃあこれだけ眠そうにしているのもわかる。

 学校をさぼってまでゲームに没頭、聞くだけで廃人臭が漂う。

 だが、これには夜空なりの思いがあったのである。

 

「このゲームは身近な奴に自分の村を見てもらうゲームなんだろ?」

「う、うん……」

「だから、俺の頑張りを……みんなに見てもらおうと思ったんだよ」

 

 その言葉を聞き、小鷹は思わず心を打たれた。

 なんやかんやで自分たちの事を思ってくれており、こんな小さなことでもただ必死に。

 そして全力で関わってくれようとする。かっこ悪いのかかっこいいのか、小鷹は思わず笑みを浮かべた。

 小鷹はその時また一つ、夜空のことを見直したのだった。

 

「ふ、ふん。かっこつけちゃってさ」

 

 星奈もまんざらでもない様子だった。

 きっとみんなで楽しめる。小鷹は期待に心を膨らませていた。

 さっそくみんなで通信することに、通信することで、互いの村を行き来できるのがこのゲームの特徴だ。

 そしてチャットで人と話したりして遊ぶのだ。

 

「まずは小鷹の村ね。へぇ、あんた的にはがんばったじゃない」

 

 小鷹の村は一番プレイ時間も短かったが、普段の小鷹からすればそれなりに女の子らしい装飾が施された村だった。

 実のところワイファイでMOユーザーたちにアイテムを貰ったりして、足りない部分をそこで補ったのである。

 家の周りは花が咲いており、すぐそばに噴水付きの公園がある。

 そして反対方向に進むと大きなガーデンがあり、そこで華を育てている。

 総合的に、お花だらけの村であった。シンプルだがそこがまた小鷹の頑張りを尊重しているようにも見えた。

 

「星奈の村は、うわぁすごいゴージャス……」

 

 星奈の村はまず、我が家から違った。

 家具が全て高級品で、家の傍にはそれまた立派な銅像が建てられている。

 そして辺りに自分の人物画が反映させており(おそらく絵のうまい下僕に書かせたのだろう)。まさに星奈の村という感じだった。

 

「すげぇな。すごすぎてどん引きだわ」

「なんですって! あんたの村はどうなのよ!!」

「ふっ、プレイ時間53時間の集大成をなめんなよ」

 

 夜空に馬鹿にされた星奈は、真っ先に夜空の村に行く。

 すると、あの皇帝と恐れられた三日月夜空村は、予想をはるか斜め上に行くものとなっていた。

 

「にゃにゃ~ん」

 

 村のありとあらゆる場所に、猫である。

 猫、猫、そして猫である。

 我が家に数匹猫がおり、村の外にも猫がいる。

 猫の壁かけに猫の家具、猫型の家と全てが猫尽くしの夜空の村。

 にゃんこ祭り絶賛開催中と言わんばかりの、猫村がそこにあった。

 

「いやぁここまで猫で埋めんのは大変だった」

「ね、猫って……」

「か、かわいい……ぷっ」

 

 星奈は呆れ、小鷹は思わず噴き出す。

 

「小鷹、なにがおかしい?」

「だって……ククク、皇帝が猫好きって想像つかないんだもん……」

 

 夜空は大の猫好きである。

 実のところ冒頭一話の独り言は、猫としゃべる練習だったりする。

 夜空にとって猫は癒しの要であり、自分を安らかにしてくれる存在だった。

 

「……やっぱりおかしいかな」

「いや、そんなことないと思うよ。ただ、可愛いところもあるんだなって……」

「か、可愛いって……このバカ」

 

 珍しく照れる夜空。

 そんな彼の反応に、小鷹と星奈は物珍しさを感じる。

 そんなこんなで、全員の村を紹介しあったわけで。

 このあとはアイテムを交換したりみんなで遊んだりとほのぼのするのが主な目的だろう。

 と、思われたのだが。

 

「したらまずはあたしの村で遊びましょうよ、埋蔵金の発掘に手伝ってもらうわ」

「埋蔵金って……でもおもしろそうだね」

「でしょ? 夜空もいいわね?」

「……あぁ、いいぜ」

 

 と、ここでなにやら夜空が不敵な笑みを浮かべた、ような気がした。

 そしてみんなが星奈の村へ。高級志向な星奈の村はとても輝かしかった。

 小鷹は星奈についていく、一方で夜空はというと。

 なにやら一人別のところへ。小鷹はそんな夜空が気がかりになる。

 

「皇帝?」

「ほっときましょ、あたしの村の出来に酔いしれてんのよ」

「純粋にそうだといいんだけどなぁ……」

 

 と、二人が埋蔵金のある跡地へ差し掛かった……その時である。

 ドカァァァァァァァン!!

 突如星奈の村で巨大な爆発音と爆発が響き渡る。

 

「な、なによ!?」

 

 星奈が急いで村の中心部に戻る。

 すると星奈の我が家付近では、とてつもないことが起こっていた。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁ! あたしの家がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 なんと星奈の家があった付近にいたのは、巨大なバズーカを抱えた猫。

 そしてさきほどまであった星奈の我が家は、木っ端みじんに吹き飛んでいた。

 そう、この猫は間違いなく夜空の村の猫である。

 肝心の夜空はというと、何食わぬ顔でさらに数匹、物騒な武器を抱えた猫を送り込む。

 

「よ~し、次は肉のところの倉庫を襲撃だ~」

「あんたなにしてんのよぉぉぉ!! ってちょっとーーーーーーーーーーーー!!」

 

 星奈の制止を振りはらい、夜空は次々と星奈の村を焼き払って行く。

 徐々に星奈の村から住人が避難し始める。だが夜空は容赦なく村を焼き払い、住人を蹂躙していく。

 森の木々も、釣り堀も、全て破壊しつくす夜空の村の刺客たち。

 そして数分後、星奈の村は焼け野原と化した。

 

「あ……あ……あたしの村……が……」

 

 先ほどまでそこに存在していた村の神々しさが、今では微塵も感じられない。

 下僕に書かせた星奈の人物画も、焼けただれて彼女の形すら残っていない。

 星奈がここ二日間頑張って作り上げた村が、夜空の手によって全てが闇に葬られた。

 

「なにすんのよ夜空ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ごめんごめん操作ミスっちまった。てへへ」

 

 もはやてへへで済むレベルではない。

 泣き顔で怒りを露わにする星奈、その表情は美少女の美も感じられないほど歪んでいた。

 わざとらしく夜空はごめんと謝り、何事もなかったかのようにゲームを再開する。

 操作ミスとは言うが、先ほど襲撃と口にしていたあたり、操作ミスなわけがなかった。

 小鷹は今思う、夜空がどうして53時間という長い時間をプレイし続けたのか。

 それは全てがこの時に収束されていた。そう、夜空はこれをやるためだけにここまでゲームをやり込んだのだった。

 

「操作ミスなわけがないでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!」

「だって、うちの猫がバズーカ持ち出して勝手に」

「バズーカ持たせたのはあんたでしょうが!!」

 

 勝手にゲームのキャラがバズーカを持ち出すわけがない。

 色んな理由を作ってはわざとらしく誤魔化す夜空。

 小鷹はただただ、その光景をしれっと見ていた。

 

「まぁまぁ肉。これはみんなで仲良く村で遊ぶゲームだ。俺のまちがいの一つは多めに見てくれよ」

「……そうね、操作ミスならしかたないわね。しかた……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 必死に平然を保とうとしているが、奥底にある怒りがあふれ出て逆に不自然になる星奈。

 夜空はそれを指差して笑った後、小鷹の村へと向かった。

 

「安心しろ小鷹、もう操作ミスはしねぇよ」

「……あのバズーカどこで手に入れたの?」

「ダウンロードコンテンツってやつだ」

「……」

 

 ただただ星奈にいやがらせをするためだけに時間を費やし、おまけにお金まで払ったとなれば呆れてものも言えなかった小鷹。

 ここは夜空を叱るべきなのか、だけどそれもなんだかめんどくさくてやめた。

 見た感じ夜空は小鷹の村を襲う気配はない。というか小鷹にちょっかいをかけたらリアルで痛い目に会うのが明白だった。

 

「でも、正直ひどいと思うよ」

「心配すんな、通信切った時に出来事を全てリセットすれば村は元に戻る。それにこの要素はあくまでおまけだ。協会に行って村の復元を行って戻すこともできる」

「てか、開発陣もこんな要素なんでいれたのやら……」

「最近のガキどもは過激だからな」

 

 そんなもんなのかな、と小鷹は煮え切らない想いを抱いていた。

 そして、いくら村が元に戻るといっても、星奈がうけたダメージは図りしれず、奥でどよんと落ち込んでいた。

 数分後、星奈はずっしりと立ち上がり。

 

「……コンビニ行ってくる」

「いってら、二度と帰ってくんな」

「……」

 

 そう言って、星奈は恐々としたオーラを纏いながら小鷹の家を出た。

 ひょっとして拗ねて家に帰ってしまったのだろうか、小鷹は心配になる。

 

「……皇帝」

「あんなことじゃ、あいつはへこたれねぇよ」

「……皇帝はわかってないよ。星奈の気持ちが」

「なんか言ったか?」

「いや……」

 

 と、その時。

 小鷹の携帯にメールが届く。

 相手は星奈だ。小鷹は夜空に気づかれないように携帯を開く。

 

『ねぇ、あんたんとこワイファイ繋がってる?』

 

 内容はこんな素朴な質問だった。

 それに対し、小鷹はイエスと答え、送信する。

 そして数分後、コンビニから星奈が帰ってきた。

 袋からポテチやチョコレートを無言で取り出し、テーブルに置く。

 あきらかに怒っている。そして、小鷹は一つ気づく。

 その袋の底に、紙切れが数枚入っていたことを。

 

「……まさか」

 

 そして星奈は奥の方へ行ってしまった。

 さきほどのワイファイが繋がっているかという質問。

 そして袋の底にあった紙切れ。

 小鷹はなんとなく星奈のやろうとしている事がわかってしまったが、夜空にはだまっていることに。

 

「……ねぇ、皇帝の村に行ってもいいかな?」

「お、いいぜ。俺のにゃんこ祭りをとくと拝んで行けばいいさ」

 

 と、小鷹は夜空の村へ移動。

 目的はにゃんこ祭り……ではない。

 これから起こりうる結末を、見定めるためだった。

 

「猫だらけだね」

「まぁな、ここらの公園でも結構猫がいるだろ。小鷹は猫に話しかけたりしないのか?」

「しないよ。でも、猫には少し思い入れがあるかな」

 

 そう言って、小鷹は少しだけ昔話を語り始めた。

 

「昔、親友と猫の面倒を見ていたことがあるんだ。確か猫の名前は……"ナイト"だったかな」

「……そうか」

「いつのまにかいなくなっちゃったけど、懐かしいな」

「…………」

 

 小鷹のその思い出話に、夜空はなにやら寂しそうな表情を浮かべる。

 だが、小鷹は夜空のその突然の変化に気づく気配はない。

 

「親友か……」

「なに? ボクにだって友達くらいいたよ」

「……その親友とは今も一緒に遊んだりしてるのか?」

 

 夜空のその質問に、今度は小鷹が寂しそうな表情を浮かべた。

 

「……裏切っちゃったんだ。だからもう」

「………」

 

 夜空はそれを聞くと、小鷹の頭に手をぽんと置く。

 

「皇帝……?」

「そんな寂しそうな顔すんなよ、誰にだって失敗の一つくらいあらぁ。だから……」

 

 寂しそうな顔をするな。

 それははたして、誰に向かって言った言葉だったのか。

 小鷹に向けた言葉だったのか、それとも……。

 

「……そうか、小鷹。お前は……今でも」

「どうしたの? そんな真剣な顔しちゃって……」

「……なんでもねぇよ」

 

 小鷹と夜空。

 この二人の間に神妙な空気が流れる。二人の間にこの時、何が横切ったのか。

 それは他の人には理解のできない。この二人の間だけにある何か。

 小鷹の過去、そして小鷹の親友。

 そしてそれに反応をみせた。皇帝と呼ばれた男。

 二人の間に密かに流れる、絆を超えた……。

 

 ピコン……。

 

「ん?」

 

 と、なにやら夜空の村に星奈が現れた。

 いったい奥で何をやっていたというのだろうか。

 

「んだよ星奈のやつ。何しに来やがったんだ」

「さ~て、し~らない」

「ん? どうしたこだk」

 

 と、その時だった。

 突如小鷹の村に流れ込んでくる、数台の戦車。

 

「戦車!?」

 

 夜空はそれを見て驚きを隠せなかった。

 その数は全部で三台。乗っているのは星奈の村の住人だ。

 

「ま、まさかあいつ……!?」

「夜空……私の怒りを思い知れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 星奈の怒号と共に、戦車の砲台から弾が発射される。

 その威力は先ほどの夜空軍のバズーカに比べてはるかに威力があり、圧倒的な速さで夜空のにゃんこ祭りを破壊しつくした。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺のにゃんこ祭りがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 星奈は容赦しなかった。

 可愛い猫がなんだと。無残に爆発して吹き飛ばされる猫たち。

 一匹、また一匹と猫は息絶えていく。圧倒的な制圧力で星奈は、夜空の村を襲った。

 

「お、俺の村が……」

「ぎゃははははははは!! 思い知ったようね夜空!!」

 

 ぎゃははとは、もはやそれは美少女の笑い声ではない。

 そう、先ほど星奈はコンビニに行き、ゲームのポイントを三万円ほど購入してきたのだ。

 そしてダウンロードコンテンツの中で最も高価な戦車を、己の財力をフル活用して衝動買い。

 それを全て夜空の村に送り込み、先ほどの倍返しを行ったのである。

 

「てめぇこのクソ肉が!! 動物愛護団体に訴えてやる!!」

「なにが動物愛護団体よ! あんたがこのあたしに喧嘩を売るのが悪いんでしょ!?」

 

 こうなるともはや手はつけられない。

 やられたらやり返す。小学生も同然のこの二人の精神力に、小鷹はいつのまにかおいてけぼりに。

 気が付けば互いの村に行き来し、互いの全戦力を投入して戦争をし始める始末。

 

「てめぇの村を蹂躙しつくして、挽肉にしてくれるわ!!」

「上等よ! 私の全戦力であんたみたいな不良の腐った性根を粉砕してやるんだから!!」

 

 もう何度互いの村が焼け野原になっただろう。

 夜空と星奈は互いに睨みあい、ほのぼの村づくりゲームがいつの間にか戦争ゲームと化していた。

 

「さぁ死ね!! 人を殺す時だけ生きていると実感できる!!」

 

 先ほどまで優しい人柄の皇帝はどこへやら。

 人としてどうかと思う台詞を言い放ち、バズーカやら巨大砲撃やらで星奈の村を襲撃。

 

「カスはカスらしくあたしに跪いて足を舐めなさい!!」

「んだとこのクソビッチが!! てめぇの足を舐めるくらいならそこらの※※※の※※※を舐めて※※※してた方が三十倍マシだこのバカ!!」

「あんたみたいな貧相な不良が、あたしとこうして張り合えること自体が光栄なのよ!!」

「なにが光栄だこの愛玩※※※が!! てめぇなんざ※※※の※※※よりもはるかにちっぽけな※※※だ!!」

 

 おそらく今までの中で一番に、夜空の発言がえげつないものになり果てていた。

 星奈も星奈で夜空の危ない発言に対して怯むことなく張り合っている。本来の女子なら引きまくって言葉にもならないところなのに。

 というか、やっぱり最終的にこうなってしまった。

 全ては小鷹がどーぶつの森をみんなでやろうと勇気を持って誘ったのが全ての始まり。

 本来ならばみんなで村で遊んで和気あいあいとするはずだった。だがまさか、こんなおまけ要素でここまで崩れ去るとは。

 なんとも残念な結果。どんどん存在が小さくなっていく小鷹。

 

「あのさ、二人とも……このゲームはこんなえげつないものじゃ……」

「小鷹は黙ってろ! これはこの肉との問題だ!!」

「あんたは少し黙ってなさい!! この不良を更生させてやるんだから!!」

「……(怒)」

 

 この物言いには、小鷹も黙っているわけにはいかなかった。

 徐々に小鷹の中のリミッターがはずれていく。みんなで一緒に楽しく遊びたかっただけだったのにと。

 自分の思いが踏みにじられたあげく、こんな放置状態にまでされて。

 小鷹は知らぬ間に、拳を握りしめていた。

 

「……二人とも」

「てめぇの努力のすべてを踏みにじってやらぁ!! てめぇの村には草木一つ残しはしねぇ!!」

「あんたの村こそ、何度でも何度でも何度でも焼け野原にしてやるわ!! いや、焼け野原どころか野腹も残さないわよ!!」

「…………二人とも」

「「だから、小鷹はだまって……!! 」」

 

 ドガシャガララララララァァァァァァン!!

 

 二人が声をそろえ、小鷹に意を唱えた時だった。

 等々小鷹は爆発し、なんと我が家の大広間の大きなテーブルを真っ二つに叩き割った。

 この光景を見て、二人の絶えぬことのなかった喧嘩がぴたりと、嘘のように止まった。

 互いに怒りをぶつけまくっていた夜空と星奈の顔に、徐々に染まる恐怖の色。

 冷や汗をかき、口もがくがくと言葉にもできない。

 そして小鷹は、怒りよりもはるかに怖い無表情を表に、拳を握りしめたまま。

 ゆったりとした重みのある声で、こう言った。

 

「……え? なんだって?」

 

 その言葉が二人の身体に伝わり響き渡り、気が付けば夜空と星奈は土下座していた。

 そして上の階から妹の小鳩が怯えた様子で降りてきた。そして気が付けば小鳩まで土下座していた。

 結局小鷹主催のどーぶつの森は、こんな無理やり感を残したまま幕を閉じた。

 

 

 その後日。

 

ユーサー『ファルコンさん、この家具とかどうですか~?』

 

ファルコン『あ、いいですねそれ』

 

ヒュウガ『くはは、これで釣り堀エリアはレベルマックスだな』

 

 色々あったが小鷹は、ネット環境を生かしてチャットの人たちと楽しく遊んだという。


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