はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第19話です。


なんというか俺の高校生活はまちがっている

「聖クロニカ学園……?」

 

 渡されたパンフレット、そこには聖クロニカ学園と書かれていた。

 正式名称は私立聖クロニカ学園。名前からもわかる通り、キリスト教学校である。

 聖クロニカ学園は品行方正な学校として知られている。この遠夜市内でも名を連ねる有名な高校である。

 学園の雰囲気も相まってか、比較的面倒事とは無縁の落ち着いた生徒、お金持ちの育ちの良い生徒ばかりが通っている。

 そんな学校に、中学時代はかなり荒れていた、分類されるならば不良である夜空が通うにふさわしい高校なのだろうか。

 

「改めて自己紹介をさせてもらおう。聖クロニカ学園の理事長である。柏崎……だ」

「理事長……さんが、わざわざ俺なんかを勧誘っすか?」

 

 自分はそこまで褒められたような、ましてや優秀な生徒ではない。

 当時中学三年生の夜空からしてみれば、このような学校紹介は珍しい事例。

 夜空はこの状況に対して、少しばかり理事長の柏崎氏を試すようにこう言った。

 

「いいんすか? 俺正直不良みたいなもんっすよ? 今はその、受験シーズンなんで大人しくしてますけど」

「ふふふ。自ら自分の欠点を相手に言えるとは、やはり君は今時の若者にしてはこう、度量があるな」

「そりゃどうも」

「いや、私は君のような若者と出会えてよかったと思っている。良い人物に自らの学園を紹介できたとね」

 

 度量がいいのはどっちか、柏崎氏の大きな物言いに、夜空も少し苦笑する。

 ここまで真っ直ぐに、ずれも揺れもない言い方をされると、その人柄に惹かれてしまいそうだ。

 

「それに三日月くん、私は別に君を更生させたいだとか、もっと人の良さを身につけてほしいだとか、そんなことは思っていない。自分の間違いは自分自身と向き合い直すものだからな」

「なるほど。神に祈り懺悔しに来いというわけじゃないんですね?」

「ふふ、私は――我が学園を面白くしたいのだよ」

 

 その言葉は、夜空をまた一つ考えさせる。

 面白いことはいいことだ。面白ければ全てが丸く収まる。ような気がする。

 戦争をしている国々が、みんな笑い合えば戦争が無くなるかもしれない。面白くないことが起きることで出るいざこざも、みんなが面白ければ起きない。

 だからこそ、それは難しいことだった。全てを笑いに包む、面白くすることは何より難しい。

 故に、夜空は柏崎氏に尋ねた。

 

「俺が学園に入ることで、学園は面白くなりますか。俺は……面白く過ごせますか?」

「それは君次第だろうな」

 

 夜空のなおも試すようなその質問に、柏崎氏は誠意をもってそう答えた。

 君次第、すなわちそれは夜空次第だ。

 この学園に進学することで、夜空は選択しなければならない。中学から高校へと移り変わり、新たなる場でまた一から、やり直さなければならない。

 中学では大きく間違った。そして、大きい人物に諭してもらった。数々の出会いがあった。喧嘩に明け暮れた殺伐とした風景の傍ら、大きな人の優しさを味わった。

 だが夜空の青春はそれでも終わっていない。彼の学園生活は、この三年間を持ってしてもなお、終わりを告げてはくれない。

 柏崎氏の言葉には、彼のこれからの冒険の奥深さと困難さを、そしてわくわくさせる期待にも似た感情を抱かせてくれた。

 

「……はは。俺、理事長の事、気にいりましたよ」

「それはよかった」

「前向きに考えておきますよ。柏崎……"ペガサス"さん」

「なっ!?」

 

 夜空がパンフレットに載ってある氏の名前を口にすると、先ほどまでの大物はどこかへと消えてしまった。

 大きな器だけではない、それなりに小さな隙もあるようだ。

 

「ふっ……自分の名前は、大切にした方がいいっすよ」

「ぐむむ。まったく……面白い男だ」

 

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 一年前の五月ごろ。

 三日月夜空は聖クロニカ学園に進学した。

 自分なりにたくさん考えて、それでなお柏崎氏の言葉の数々を踏まえた上での選択だった。

 彼の両親は前向きに賛成してくれた。そして夜空の学力は遊び歩いている不良にしてはずば抜けて高かったため、難しいとされる入学試験も余裕で突破してしまった。

 こうして聖クロニカ学園に入学して一ヶ月、この日はかつて同じ中学時代を過ごした、遊佐葵とファミレスで待ち合わせをしていた。

 会うのは三月の卒業以来、久しぶりに会って高校生になった心境を話合おうとのことであった。

 

「だ~。だるいわぁ~」

「よ、夜空くん!? なんかすごい疲れてますね……」

「そりゃおめぇ。もう入学してから大変なんてもんじゃねぇよド畜生がぁ……」

 

 ファミレスに付くと、すでに葵の姿はあった。

 夜空はファミレスに付くなり、疲労を見せて崩れるようにファミレスの席に座る。

 そして夜空はビックチョコパフェを頼んで、店員が離れると机にぺたりと貼りついた。

 

「いったい何があったんです? 運動系の部活にでも入ったんですか?」

「ちげぇよ、部活なんか入れたもんじゃねぇぞ。おめぇよもう、入学してからどれくらい生徒に押しかけられたと思ってんだよ……」

「え? どういうことですか?」

「おめぇ入学式の日よ、気が付けば周りの女子共の視線が俺に釘付けだよ。周りから「なにあの人やだイケメン!」「ものすごいかっこいい!」「やば、あの人超かっこよくない!?」だの聞こえてきてよぉ」

「……自慢ですか?」

「自慢で済むなら俺はこんなに疲れてねえっつうの!」

 

 ゴツン!

 

「ぎゃん! もう久しぶりに会っていきなりげんこつとかやめてください!!」

 

 人の気も知らないで軽々しく自慢と発言する葵に、夜空は軽くげんこつをする。

 そう。夜空は聖クロニカ学園に入って、中学時代の最初と同じくかなりの女子に目をつけられてしまったのである。

 夜空自身はまるで自覚はないのだが、夜空は眉目秀麗、女子にも劣らない長い黒髪を持つ美人。超モテモテなのである。

 そのせいか入学してから今に至るまで、学校ではファンクラブまで作られ、毎日のようにたくさんの女子が自分に群がってくるのだとか。

 

「学校に行くたび女子共が「皇帝お茶しませんか、皇帝一緒にお食事しませんか」ってうるさいんだよ。なんだよ皇帝って! 俺はルルーシュじゃねぇんだよ!!」

 

 気がつけば自分のあだ名が皇帝になっていた。

 夜空が出した例の人物も、作品内では学校一のモテ男であった。

 ある意味夜空も、その人物に負けず劣らずなのかもしれない。

 

「大変ですね、皇帝」

「皇帝じゃねぇってこのナイチチが」

「誰がナイチチじゃ!!」

 

 葵は自分のコンプレックスの一つである小さな胸の事をバカにされてむくれた。

 葵にとって言われたくないことは自分の小さい背の事と胸の事。ちなみに夜空は会うたびどっちかをバカにしてくる。

 

「まったく。でも……楽しそうでなによりでよかったです」

「どこがだ。毎日が疲れるだけだ。最近サボり始めてるわ」

「だめですよさぼったりしたら。こちらは日向さん達とまた会って、良くしてもらってますよ」

 

 葵の進学先は、日向が卒業後に行った学校であった。

 ここら辺では名のある進学校で、ここら地区では五本の指に入るほど学力の高い葵にはもってこいの高校。

 将来は良い職につくため、そして自らの青春をするために、彼女自身が考えて選んだ学校である。

 

「元気か、あのお節介焼きは」

「すごいですよ。なんと一年の時から先代生徒会長の直接任命で生徒会長の座を取ったらしいですからね。うちの高校じゃ異例のことだったそうです」

「マジかよ。あのリア王が、なんでも完璧すぎるつうの。さすがは自らの学園の生徒全員と友達になる生徒会長だな」

 

 日向の相変わらずぶりを聞いて、安心で笑いがこぼれ落ちる夜空。

 もう一度あの面子で学園生活を送りたいなと、夜空は自らの中学時代を振り返る。

 

「夜空くんの学力ならうちの学校も充分入れたと思いますけど、どうして聖クロニカにしたんですか?」

「面白くなるかなと思ったからだ。その学校の理事長に直接言われてな、期待を抱いたんだがな」

「そうですか。でも、夜空くんならきっと学園を面白くすることも、面白く過ごすこともできると思いますよ」

 

 そう言うと、葵は夜空の手を取り笑った。

 夜空も思わず釣られ笑い、そして話は学園生活からこんな話題に変わった。

 

「時に夜空くんはその……彼女とか作らないんですか?」

「あぁん? おめぇの口からそんな話題が出るとはな。そうだな、なんかこう群がってくる女子は微妙な奴が多いからな」

「んもう、贅沢すぎますよ夜空くん。自分なんて男子からチビチビってバカにされてますよ」

「ははは。でもそれは褒め言葉として受け取っておけよ。ちっちゃくて可愛いってことだ」

「かわっ!」

 

 何気ない夜空のその一言に、葵は自分の髪の毛の赤も潜むほど顔を赤くした。

 

「絶対にその言葉、真正面から受け取りませんからね! 君はまた自分をバカにして!!」

「おいおい、何をそんなにむきになってるんだ?」

「むきって……んもう!!」

 

 葵はコーヒーを飲んで少し落ち着く。

 数分後夜空の元にビッグチョコパフェが運び込まれてくる。

 甘いものが好きな夜空はがっつくようにパフェを食べ始めた。その様子を見て葵が少し引き気味になる。

 お互いに頼んだものに夢中になると話が弾まない、葵はそれがいやだったのか、また一つ中学時代に話を戻した。

 

「そういえば夜空くん、その……あまりこういうのを聞くのはよくないと思うんですけど」

「なんだ?」

 

「……好きだったんですか? 日向さんの事」

 

 聞くべきか悩んだ。本来こういうことは聞くべきではないのかもしれない。

 そしてどうしてそんな質問をしてしまったのか、葵は考えるとまた顔を赤くする。

 一方で、質問の矛先を向けられた夜空は、パフェを食べるのをやめ、珍しく真顔になり答えた。

 

「……あぁ、見た目だけじゃなくて、あいつの内面にガチで"惚れてた"」

「……じゃあどうして、告白しなかったんですか?」

「フられるのが怖かったわけじゃねぇ。ただ……あいつが遠すぎたんだ。あいつの存在が遠すぎて……俺にはとても届かない。だから、自分の気持ちを押し殺したんだ」

 

 中学時代、夜空は日向と過ごす中で、彼女の尊大さ、器の大きさ、そして豪放磊落な性格に大きく惹かれていた。

 当然、同じ中学で彼女を狙っていた生徒は多いと聞く。その中で夜空は一番間近にいて、一番チャンスがあったのだろう。

 だが夜空と同じく、彼女に惹かれた生徒は皆、彼女に告白するのはおろか、近寄ることすらできなかったという。

 そう、それだけ日高日向という人物は高みにいるのだ。高みにいてなお自分達を見下ろさない、全てを自らの高みに引きずり上げる。

 彼女には大きな力がある。それは夜空みたいな喧嘩が強いとか、そんなものではない。それ以上の、本物の強さなのだ。

 夜空が探していた強さを彼女は持っていた。だからこそ惹かれた、その強さに。

 

「葵、俺はまだ……自分が強くなったなんて思ってねえんだよ」

「……その、前に少し聞きましたが。『金色の死神』の事、君はまだその人のことを?」

「もう九年も経つのにな、俺の頭からそいつの顔が離れねぇんだよ。誰よりも強くて怖くて、どんな小学生でも……ましてや中学生でもかなわなかった最凶のいじめっ子だ」

「……でも、もうこの街にはいないんですよね?」

「あぁ、きっと二度と会うことはないだろうな。でも俺は誓ったんだよ。「いつか君を守れる強い男になる」ってな」

「どうしで……そこまで」

 

「――だってそいつ、すごい悲しそうな顔してたんだよ」

 

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「皇帝、その……私たちと一緒にお茶でもしませんか?」

「ちょっと! 皇帝は私達と約束してるんです!!」

「なによ! あんた前に皇帝と一緒に街を遊びに行ってたじゃないのよ! 皇帝めっちゃ仕方なく付き合ってあげてたじゃないのよ!」

 

「……うっとおしい」

 

 三日月夜空、高校一年の秋ごろ。

 夏休みが終わるころには、すっかり夜空を囲む女子生徒の集まりは、聖クロニカの一大勢力になりつつあった。

 皇帝通る所には多数の女子あり、夜空は男子生徒からはひどく恐れられている者の、それを補っても女子生徒の方が多かった。

 聖クロニカ学園は昔は女子校だったという、そのこともあってか女子生徒の人数の方が多いのである。

 女子たちからすればまさに、数少ない男子の中の輝く黄金の宝……といった具合なのだろうか。

 

「言っておくけどそんな約束した覚えないからな! 俺は忙しいんだよ!!」

 

 と、夜空は女子を追い払おうとするのだが、相手は女で自分は男、荒っぽいことはできない。

 結局離れていかない女子共をひきつれて、自分のクラスである二年五組へ。

 

「あ、皇帝ちょっと聞いてくださいよ!!」

 

 なにやら教室に入ると、一人のメガネ系女子生徒が夜空に話しかけてきた。

 そしてその連れには泣いている女子生徒も、また一気に取り巻きが増えてしまったなと、夜空はため息をついた。

 

「……なんだよ?」

「実は友達のアキコがいじめられたんです!!」

「……いじめくらいお前らで解決しろよ」

 

 どうして俺に言ってくるんだよと、夜空は心の底から迷惑がった。

 しかし、どうも彼女らだけでは解決できない事情らしい。

 

「その皇帝、私達だけじゃ無理なんです。相手はあの理事長の娘、『聖クロニカの女神』こと柏崎星奈なんです」

「かしわ……ざき?」

 

 その名字、そしてこの学校の理事長のことは、学校に対して興味が薄い夜空でも良く知っていた。

 その理事長の誘いでこの学校の進学を決めたほどだ。夜空からしても、理事長である柏崎氏への尊敬心は大きい。

 しかし、その尊敬すべき氏の娘が自分の高校でいじめをした。夜空は少しその話に興味を持った。

 

「どんないじめ?」

「アキ(※あだ名)が料理実習でそいつと一緒のグループになったんですけど、「あんたみたいな品のない庶民は皿洗いでもしてなさいよね」と横暴に扱って、アキ……めっちゃ傷ついて」

 

 なんという小学生じみたいじめだ……と、夜空は呆れ果てて物も言えなかった。

 しかしまぁ、理事長の娘という地位はあれど、一般生徒を品のない庶民とまで言うとは……ずいぶんとぶっ飛んだ話であった。

 あのような気品と器の大きさを持ち合わせた理事長の娘が、そんな育ち方をしてしまったとなると、どうも甘やかしてしまったんだなと思ってしまう。

 

「放っておけばいいだろうが」

「でも、その後も一緒のグループになって男子から、「お前は星奈様の視界に映るな、星奈様の目にゴミが入るだろうが」って散々バカにされて」

「つかそいつ、自分の事"様付け"で呼ばせてんの?」

 

 こりゃまた絵にかいたようなお嬢様キャラだな、頭の中は相当ぶっとんでんだなと夜空は鼻で笑う。

 が、良く考えると自分も女子から『皇帝』と呼ばれている辺り、あまり違いはないのかもしれない。最も夜空はそう呼ばれている事を良くは思っていないが。

 

「でも皇帝ならあのクソ柏崎を屈服させることができると思うんですよ!」

「もう周りの取り巻きの男子共も含めてやっつけてやってください!」

 

 こりゃあめんどくさいことになったなと、夜空は頭を抱える。

 第一自分だって庶民だし、地位なんてない。周りの男子どもを黙らせることはできるだろうが柏崎女史まで黙らせられるとは思えない。

 夜空が色々考えている中、なにやら廊下からひそひそ男子達の声が聞こえてきた。

 

「あぁ、なんだ?」

「あ、噂をすれば!」

 

 そう、廊下からは色んな男子から「星奈様!」という声が聞こえてきたのであった。

 そして夜空の教室を通り過ぎる。その光景はまさに圧巻であった。

 約二十を超える男子達に囲まれた大名行列。その中央にあり得ない程の輝きを増す女子生徒こそ、学園理事長の娘、柏崎星奈であった。

 目を引きつける綺麗な金髪、容姿端麗、まさに神に選ばれたと言ってもいいほど栄えのある出で立ち。

 そして何より、夜空でさえもつい目がいってしまったのが、メロンのような巨大な"肉"……もとい胸であった。

 

「……でかっ!」

 

 思わず声に出す夜空。

 と、この時、夜空と星奈の目が合う。

 多くの男子を引きつれた超絶美女と、多くの女子を引きつれた超絶イケメン。

 聖クロニカを揺るがす二つの巨大勢力が、すれ違った瞬間であった。

 

 これが、三日月夜空と柏崎星奈の……因縁の始まりであった。

 

 

「……いやいや、この小説バトル物じゃねえぞ!」




アニメ二期がはじまりましたね。
なのでタイトルはアニメ二期の一話からもじったものにしました。というかその一話のタイトルも何かからもじったものだったりしますね。作者は平塚先生が好きです。

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