はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第22話です。


とあるコンビニ店員の一日

「じゃあ今日からよろしくね~」

「はい、よろしくおねがいします」

 

 私は聖クロニカ学園に通うとある女子高生だ。

 そして今日から私は、自身の懐事情により、ここ駅前のコンビニ"セブンス"でアルバイトをすることになった。

 土日には近所の本屋でもアルバイトをしているが、要はかけもちというやつだ。

 健康面は大丈夫か? 勉学に支障をきたさないか? あぁ別に心配してくれなくとも構わない。私の成績は問題ない。中学校のころから友達と遊ぶといった時間などはいっさいないから、暇な時は読書か勉強しかしていない。

 こんな風に自己紹介をするとおり、私という人間には友達が少ない。というかいない。

 容姿に問題があるわけではない。自分は綺麗な長い黒髪と恵まれた容姿を持つ、"美少女"に分類される側の人間だからな。

 ……え? そんな私の名前? そういえば自己紹介をし忘れていたな。

 

 ………。

 …………。

 

 すまない、確かに自己紹介は大切なことだ。それは対人恐怖症である私でさえきちんと理解はしている。

 のだが、どうも私は名前を名乗ることができないらしい。

 理由は不明だが、名前を名乗ると"存在を抹消"されるというか、とにかく危ない状況にさらされるのだ。

 ということで、今後私のことは"私"という呼称で進めさせてもらう。すまないな。

 

「私はこのセブンスで働いている高山ケイトだよん。高校一年生なので学生としては後輩にあたるが、君よりここの実務経験は上だ。最も数ヶ月の差しかないけどねぇ」

「はぁ……」

「そんなかしこまらなくていいよん。もっとこうライトにロックしていこうよん。君めちゃくちゃ美人だし、そんな仏頂面決め込んでないで笑って笑って」

 

 と、出会って間もないのにこうも距離を縮めてくる高山店員。

 なぜだ。どうしてこう出会ったばかりの初対面相手にずかずかと話しかけられるのだ? おかしいのではないか、いや絶対におかしい。

 それとも私が臆病なだけなのか、確かに人ごみの中に行くと吐き気を催すほど他人が苦手だが……。

 

「にしても、まったく客が来ないですね」

「そりゃ仕方ないよ。こんな昔からある、言っちゃ悪いが二流コンビニの向かいにちゃんとした立派なコンビニが立ってるんだからさ」

「時の流れとはいえ、残酷なものですね」

「そりゃ有名ブランドには勝てないってね。なにせ向かいにあるのはセブン○レブンだからね」

 

 窓から除くと、学校帰りの学生は皆こちらなど見向きもせずに、セブン○レブンに入っていく。

 確かにあっちとくらべてこっちの品ぞろえはスーパーなどでよく見かけるジュースやパン、そして安っぽいおにぎりしか並んでいない。

 ……。って、少し気になったことがあるので、あまり人と話したくはないがちょっと質問をしてみることにした私。

 

「……セブンスとセブン○レブンは違うのか?」

「何を言ってるんだい君は、ここはセブンスっていうコンビニ。セブン○レブンは向かいにあるの」

「いやだから、こうモン狩りとかロマ佐賀みたいな、セブン○レブンの名前を濁してセブンスじゃなくて?」

「あれはあれ、これはこれ。モン狩りとロマ佐賀は本編で強く印象付けたからそのまま採用しているけど、基本この小説で実名出す時は伏字使ってるから。だからセブンスはセブンスだし、セブン○レブンはセブン○レブンだよ」

 

 すまん、よくわからん。

 というかさりげなく本編とか小説とか言っているが、そんな裏事情言ってもいいものなのか?

 まぁ、私という存在がそれに触れるのもおかしい話なのだが。

 

 ピロピロピロ~♪

 

 と、お客さんが入ってきた。

 私がアルバイトを務めて初めてのお客だ。やばいな、対人恐怖症の私が接客などできるだろうか。

 あまりお客が来ないと聞いたからここを選んだのに、お客が来てしまったではないか。

 客の外見は、くすんだ金髪の男子高校生だ。どっかで見たことあるような気がするが気のせいだろうか。

 

「あの、すいません」

「い、いらっしゃいま……」

 

 と、私がお客の応対をした時……。

 

「あー危ないお客だー(棒読み)」

 

 高山店員はわざとらしくそう言って、

 

 ポチッ。

 ブーブーブー!!

 

「な、なんだ!?」

 

 突如防犯ブザーが店内に鳴り響く。

 プリンみたいな頭をしたお客が戸惑っている。これはどういうことだ。

 隣を見ると。高山店員がレジの下にある防犯ブザーのボタンを押しているではないか。

 

「……なにをしているのだ?」

「いや、もうこの頭見ただけでわかった。こんな金髪を染めそこなったような眼つきの悪い男子は間違いなくヤンキーだ。きっと幼女にお兄ちゃんとか言わせて女たちを侍らせている奴に違いない。だから警察呼んだ」

「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 その電光石火のようなやり取りに、プリン頭の客は絶叫。

 数分後、本当に警察がやってきて、プリンみたいな頭をした男子高校生は逮捕された。

 

「またこんな扱いかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 哀れ少年、君の事は忘れない。

 なんか悲しいような、でも悲しくないような。おかしいな、私にとってとても大切な人だった気がするのだが……。

 

「やれやれ、まったく世間には悪い男がいるもんだねぇ~」

「……やたら私と比べて扱いがひどすぎないか?」

「いいんだよ、あんなヘタレ主人公はアナザーワールド(ここ)にはいらない。ここに彼の役目はないということだ。あはは」

 

 と、冷徹にケイトはそう言い捨てて、大きく背を伸ばし一仕事したと奥からコーラを取り出し飲み始めた。自由なアルバイトだな。

 それから数分、すっかり下校時間だというのにお客が来ない。時計を見ると六時半、しだいに向かいのコンビニからも学生の姿が少なくなっていく。

 私はあまりにも暇で、あくびすらするほどだった。下手したら本でも読みだしてしまうかもしれない。

 店番というのも暇な者だな。高山店員は商品のチェックをしてるし。

 

 ピロピロピロ~♪

 

 お、お客がやってきた。

 入口の方へ目を向けると、そこに男子高校生がいた。

 さきほどのプリン頭とは違い顔立ちの整った少年、男のくせにその黒髪は腰まで長い。

 

「お、よーぞらくん久しぶりだねぇ~」

「おうケイト。んだよ相変わらず客少ねぇな~」

 

 店に入って早々、少年は高山店員と談笑をし始めた。

 なんというかこの少年からは、リア充の匂いがする。リア充など死ねばいいのに。

 ……おかしいな。憎むべきリア充のくせになんかこう……この少年には親近感がわく。なんだこの感覚は。

 

「して……あの美人の姉さんはアルバイトか?」

「そうだよん。私だけじゃ人手不足なんでずっと募集してたんだけど、まさかこっちに来てくれるとは思わなかった」

「そうか。して、エロ本を買いに来たんだけど」

「ぶっ!!」

 

 その少年は、コンビニに入ってエロ本を買うことを宣言しだした。それを聞いて私は噴き出す。

 おいおい、私と高山店員は女子だぞ。そんな女子高生二人を前にしてエロ本を買うとかバカじゃないのかこの男。

 あんな卑猥で破廉恥な本を……ぐっ。

 

「奥の方に巨乳の姉ちゃんのやつがあるよん~」

「おぉ、トロピカルやっほー」

 

 高山店員! 貴様までなんでその話に乗っかる!? おかしいだろ!!

 

「えぇと、この二冊お願いしまーす」

「う……」

 

 よりにもよってこの男、裸姿の巨乳女が映っている方を上にして私の前に出してきた。

 この男には恥ずかしいという概念がないのか? こんなもの……あぁもう!!

 なるべく見ないようにしよう。早く値段を言って商品渡して帰ってもらおう!

 

「せ……千二百円です……」

「あん? どうして目を反らしてんだ?」

「その……」

「にしても姉さん。ずいぶんとまぁ美人だな。でもちょっと胸が少ないかな」

 

 さらにこの男は、私の胸にまで駄目出しをしてきたではないか。

 胸は関係ないだろ。確かに私は貧乳の方かもしれないが、でも……それよりはある方だと思う……ぞ。

 いやあるだろ。隣にいる金髪の方がでかすぎるから比較対象にされているだけだ!

 

「時に姉さん、この表紙の女の子どう思う?」

 

 なぜエロ本の感想を私に委ねるのだ!!

 

「ど、どうと言われても……」

「はっは~ん。あんたこういうの苦手だな? もっと俺の従妹みたいに女子でもこういうやつの話題は笑ってついていけたほうがいいぞ」

「そ、そう言われても……」

「なんか美人の割に暗そうだなあんた。どうせ学校でも一人で読書ばかりして、家に帰っても勉強しかやることないんだろ?」

 

 ぐっ……全部あたっている。

 この男、何故か分からないがとても恐ろしい。私の全てを見抜かれそうだ……。

 

「そ、そんなことは……ないぞ」

「そうか? そりゃすまねえな。なんか誰もいないところで"いもしない誰か"と話してそうだなとか思ってよ」

「そんなことないぞ!!」

 

 な、なんでこの男それすら見通してるのだ!?

 まずい、心が読まれそうだ。この男なら、後ろにいるトモちゃんすら見えていそうな気がする。

 なんなんだこの男! 良く見れば私と非常に良く似ているし。

 

「おいおいよーぞらくんナンパかい? その子が可哀そうだよん」

「そんなんじゃねぇよ。なんかからかいたくなるんだよな。この姉さんが他人に気がしなくてよ……」

「……」

 

 その後私はがんばってエロ本の勘定をし、男に手渡す。

 この男の名は三日月夜空というらしい。通う学校は私と同じく聖クロニカだ。

 こんな恐ろしい男がいるなんて、今度からは会わないようにしなくては。

 と、買い物を終えたのにこの男はコンビニを出ない。早く家に帰れ!!

 というか店内でエロ本を読むな! 私が働いている前でそんなものを読むな!!

 

「なんだ姉さん? そんな遠くを見てるようじゃアルバイトになんないと思うぞ」

「うっ……」

 

 夜空という男は、よりにもよって私から見えるようにエロ本を読んでいる。

 なんだろう、本を読んでいる姿も近しいものがあるのに、読んでいるジャンルがこうも違うと全然印象が……。

 

「あぁ君、そろそろ休憩行っていいよん。奥の方にスタッフルームあるから使ってもいいし、なんならコンビニ見学してもいいし」

「なんかめちゃくちゃ自由すぎないか?」

「お客来ないからねぇ。あ、せっかくだし君メルアド交換しようよ」

 

 高山店員はそういって携帯を用意する。

 め……メルアド? 家族以外で交換するようなものなのか?

 知らなかった。家族以外でメールをすることがあるなんて。世の中は広いものだ。

 

「……後日で」

「なんだいそりゃ。というかなんか堅いね君。人付き合いに自信ないのかい?」

「当たらずとも遠からずというか……」

「いや近いわ、遠いことはないわ」

 

 どうやら私の人付き合いの下手さはどんな人間にも見抜かれやすいようだ。

 なんかこう友達を作る部活でもあれば入るのにな。はは、あるわけないけど。

 

「よーぞらくん。少しこう友達との付き合い方っていうのをこの美人さんに教えてあげたらどうだい?」

「あん? そんなもん友達になりたいと思ったら「友達になろうぜ」とでも言えばいいだろ?」

「はっはっは。そりゃそうだ」

 

 どうしてこの二人はこんなにも難しいことを平気で言えてしまうんだ。リア充は恐ろしい、リア充は偉大だ。リア充最強だな。

 

「いや、別にいいです」

「まぁ本来は人に教わるものじゃねぇけどな。俺だって友達は少ないし、アドバイスなんてできる立場じゃねぇ」

 

 嘘だ。その言葉は絶対に嘘だ。

 お前みたいに人前でエロ本読みながら笑い話できるような奴が友達少ないはずがない。リア充とはお前のようなやつをいうのだ。間違いない。

 

「……そんな睨まんでも」

「うー」

「そんな敵視するような目を向けられてもな。こう自分に自信を持つことだな。ちょっとやそっとのことで自分は不幸だなんて思ってたらめんどくさくないか?」

 

 と、夜空という男は急に真剣口調になった。

 

「例えば、姉さんには十年前に親友がいて、その親友が突然いなくなったと。まぁ出来すぎた話だがそんなことがあったとする」

「ある」

「あんのかよ。してだ、十年後にその親友が突如自分の前に姿をあらわしたと。さすがにそんなことあるわけないが」

「ある」

「えーーーーーーーー」

 

 適当に言った割には、この男の推測は全て射を抜いていた。

 しかしあくまで当てずっぽうだ。気にしたら負けだろう。

 

「という一連の流れがあるとして、十年間の変化が影響で親友が自分に気づいてくれない。こちらから話したくても十年前の経験が影響でうまく話せないと」

「あるある」

「とまぁそれを引きずって引きずって、次第にその親友にも仲間が増え始めた時、居心地の悪さを感じる。そこで姉さんが自身を可哀そうだと思えば……そこまでなんだよ」

「……どうしてだ?」

「そりゃおめぇ。そう思うってことは姉さんからしたらそいつは親友なんかじゃねぇ。"依存対象"なんだよ。じゃないとそんな考えには至るはずがない」

「……だが、それでも私に、その親友しかいなかったとしたら?」

「その親友は姉さんに大きな影響を与えたかもしれねぇが、その親友は姉さんと親友になったことで人生が変わるほどの影響を受けていたのか? と……そう考えたことはあるか?」

「……そうでなければ困る」

「……あのよ、それおかしくね? 姉さんは怒るかもしれねぇがよ、所詮その親友からしたらお前の存在ってのは"その程度"なんだよ。それで自分がそいつの隣にいるべきだ、いなければならないなんて考える時点で、姉さんがどれだけその親友に迷惑かけたか自覚出来てるのか?」

 

 この男の言葉の数々、聞いているだけでぞっとする。

 何も知らないはずのこの男に対して怒ればいいのか、泣けばいいのか、わからない。

 そして、何も知らないはずのこの男に対してどうしてここまで引きさがれるのか、わからなかった。

 なんというか、私もこの男の様になれたらと、そんなことを思う。

 私はいつも自分に対して嫌になる時、理想の自分に対して願望を抱く。

 その願望の権化が、言ってしまえばこの男のような……そんな気がする。

 

「すまねぇな。赤の他人が口出ししてよ。じゃあな」

「……あの」

「なんだ?」

「……またのご来店を、お待ちしております」

「おう、頑張れよ」

 

 と、夜空という男は一人真っ暗な外へと帰っていった。

 いったいなんだったのか、あの男と出会うことで、私は何を得たのだろうか。

 この出会いは……とても大切なものだったとでも言うのか……。

 

「あ、そうだ姉さん」

 

 私がそう考えていると。

 急にその男はコンビニに戻ってきた。そして……。

 

「つか、"幼馴染"ってだけでメインヒロインだと……ぶっちゃけ地味だな」

「んな!?」

「あと、メインヒロインって最近の傾向じゃ負けフラグらしいぜ。じゃ~な~」

「に……二度と来るなーーーーーー!!」

「なっはっは! バーカバーカ!!」

 

 こうして、私のアルバイト一日目は終了した。

 どうしてこうも自分と同じなのに、こんなにも扱いやら人としての器が違うのだろうか。

 そうか、きっとあいつが男で主人公だからだろうな。きっとそうだ、そうに違いない!!

 私の未来は明るい! 明るいのだ!

 

 ……多分。




原作の"彼女"視点の物語となっております。

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