はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第29話です。


二人の季節

 二泊三日の柏崎家別荘旅行。

 楽しい時間というのは早く過ぎてしまう物で、あっという間に一日目が終了。

 皆は寝る時間になり、当初決めた部屋割にし従って、それぞれが決められた部屋に入る。

 それぞれ明日はどうしようか、そんなことを思いながら全員が床につく。

 その中で、小鷹は一日目の疲れが素直に出たのか、ベッドに横たわると数分も経たないうちに寝てしまった。

 同室に夜空がいることなどお構いなしで。最も、夜空が何かしでかす物なら、彼の寿命が減るだけなのだが。

 

「……ここ……は」

 

 夢を見る小鷹。

 その小鷹の瞳に映るのは、見慣れた場所、風景。

 十年経っても変わらずそこにある、遠夜市の一風景。

 そこは公園だった。そう、この公園はかつて、小鷹が死神として君臨していた公園。

 家を出て数分、今もある見慣れた公園。

 辛い思いでと、楽しい思い出が入り混じる。小鷹にとって全てとなった場所。

 

「どうして、この場所が……」

 

 今になって、どうしてこんな夢を見るのか。

 どうしてこの場所が夢に現れるのか。

 夢とは何が起こるか分からないものだ。だが、この場所を小鷹が見るのには、何か理由があってもおかしくない。

 小鷹が困惑の表情を浮かべながら、色々模索してる中、突如声が聞こえてくる。

 

『やめて! お願いしますゆるしてください!!』

『ぎゃははははははははははははは!!』

 

 一人は、何かに対し怯え、許しを請いている子供の声。

 そしてもう一人、その狂気的な笑い声は、小鷹が良く知っている笑い声だ。

 

「あ、あれは……?」

『ぎゃはは、だめだ。お前はボクの公園で好き勝手したじゃない。だから潰す、ボクを困らせる奴は全部……!』

 

 そう、今に笑い、子供をいじめようとしているのは、まぎれもない過去の自分。

 かつて金色の死神と恐れられた過去の自分。

 小鷹が見ていた夢は、過去の自分の夢だった。

 

『ゆ、許してぇぇぇぇぇぇ!!』

『だ~め~!!』

 

 過去の自分が、今にも少年を殴ろうとしている。

 この時小鷹は咄嗟に思った。この少女を止めなければならないと。

 小鷹は走る。その笑い狂う少女の元へ。

 

「やめてっ!」

 

 そして少女の肩をぐっと掴み、少女の奇行を止める。

 今の自分ならばこの少女を止められると、そう思っての行動だった。

 

『誰だ! ボクの邪魔をするな!!』

「だめ! あなたは誰も傷つけてはいけない!!」

 

 ものすごい力で抵抗する少女。

 しかし現在の小鷹はそれを勝る力で少女を押さえつける。

 さびしかっただろう。苦しかっただろう。だからこそこんな行いをする少女を、小鷹は放っておけなかった。

 

『うるさいな! ボクに味方なんていない!! 気にいらない奴は全部、ぶっ潰せばいいんだ!!』

「それではだめなの!! 味方ならわたしがいる!! お姉ちゃんは誰よりも、あなたの味方だよ……」

 

 小鷹はそう言って、少女を思いっきり抱きしめる。

 かつて自分は、ずっとそう言い続けてあらゆる者を傷つけてきた。

 自分に授かったこの力は、嫌なものから全部を遠ざけてくれる。小鷹のために存在する力。

 この力があれば怖いものなどない。しかし、その力こそが、一生小鷹に付きまとい小鷹を傷つける忌むべきもの。

 そんな力を悪用し続けてはいけないと、小鷹は少女に味方だと告げ、説得しようとする。

 

「そう、わたしはあなたの味方。そうでしょ……?」

『……嘘つき』

 

 そう優しく言葉をかけた瞬間。少女は全てを否定するかのように、闇深い眼光で小鷹を睨みつける。

 それはまるで、得物を睨む鷹のごとく。全てをさらい奪おうとする鷹のごとく。

 全てを信じず、己の欲望のみで飛翔し続ける。傷だらけの鷹のように。

 

「え?」

『嘘つき。本当は誰よりも自分の事が嫌いなくせに。こんな力を持っている自分が嫌なくせに。そんな自分が捨てられないくせに……』

「ち、違う! わたしは……ボクは!!」

 

 徐々に、少女の身体に闇が纏う。

 その身体は巨大化し、三日月のように笑いながらも泣きっ面の仮面を被り。

 その爪は鋭く、禍々しい姿へと変貌していく。

 まるで本物の死神のように、少女は小鷹に襲いかかる。

 

『嘘つきーーーーーーーーーーーーー!!』

 

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「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 夢にうなされ、汗だくで飛び起きる小鷹。

 飛び起きて数秒、状況を理解できず、首を左右に振りあたりを確かめる小鷹。

 そして落ち着きを取り戻した所で、あれが夢だったことを知る。

 ひどい夢を見た。過去の自分に殺されかける夢、今まであんな夢を見たことなどなかった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 小鷹はいてもたってもいられなくなり、ベッドから降りる。

 そして部屋を出てキッチンの方へ向かい、水を一杯コップに注ぎ、飲み干す。

 水を飲み干し、まだどこか興奮を抑えられない体で、辺りを見回す。

 

「ふ……。あ、あぁー……」

 

 何かを言いたそうにしながら、何を言っていいかもわからない。

 時計を見ると午前三時、みんながまだ寝静まっている。

 皆疲れて寝ている。起こしてはならないと、小鷹は静かに部屋に戻る。

 

「……最悪だ」

 

 部屋に入るなり、小鷹はそう吐き捨てた。

 最も見たくない夢だった。過去の自分の夢を見たことは何度かあったが、殺されかけたのはこれで初めてだった。

 いったいどうしてそんな夢を突如見てしまったのか。眠気と興奮が混じる今の小鷹では考えることができない。

 

「どうした……? なんかうなされてたぞ?」

 

 部屋の扉前で考え事をしてると、奥のベッドから夜空の声が聞こえてきた。

 

「……ごめん、起こした?」

「あぁ。急に叫ぶからびっくりしたぞ。どうしたよ?」

 

 そう言うと夜空は起き上がり、自身の寝ていたベッドに座りこむ。

 そして枕元にある証明を灯した。

 暗がりで良く見えなかった小鷹の顔がうつり込み、改めて小鷹の表情の苦しさが物語る。

 

「な、なんでも……ない」

「なんでもないわけねぇだろ。汗びっしょりだし。言いたいことあるならなんか言ってみろよ、聞くから」

 

 明らかに小鷹が何かを言いたげにしていそうだったため、夜空は話を聞こうとする。

 そのそっけない優しさに、小鷹は頬を人差し指でぽりぽり掻いて恥ずかしさを隠す。

 ぎりぎりまで話そうかどうか迷ったが、せっかくだし話してみることに。

 

「……昔の夢を見ていた」

「どんな?」

「昔のボクに……殺されかける夢」

「……そうか」

 

 てっきり、その話を聞いて夜空は笑うのかと思っていた。

 しかし、夜空は笑うどころか、納得したように小鷹を見やる。

 その時の夜空の顔は、小鷹にどう励ましてよいかを悩んでいた顔だった。

 今の自分が、今の小鷹にどう言えば良いのかを。

 

「お前は……自分が嫌いなのか?」

 

 夜空が小鷹に問う。

 その問いに、小鷹はまたも困惑する。

 先ほどの夢とどこか合致するような質問内容だった。故に、どう答えていいか小鷹はわからない。

 戸惑っていると、夜空がふぅとため息をついて、小鷹の頭にわしゃわしゃと撫でた。

 

「こ、皇帝?」

「あ~あ。いやなんつうか、考えていてもしゃあないなって」

 

 人の頭を撫でておいてちゃらんぽらんな答えしか下さない夜空に、小鷹は少しむくれる。

 

「むー。てか、皇帝ってボクの過去……知ってたっけ?」

「あー知ってるよ。よ~く……な」

「?」

 

 夜空のその答えに、小鷹は全てを理解することはなかった。

 結局その後、夜空は隅々まで話を聞くことなく、照明を消して二度寝し始めた。

 結果的に何も解決してなさそうだが、このくだりがあったおかげなのか、小鷹の中で少しの安堵がもれる。

 先ほどの興奮が嘘のように消えている。

 

「……寝るかな」

 

 小鷹もすぐさま、ベッドの中に潜る。

 そして数分、さきほどの夢について考える。

 小鷹は自分が嫌いなのだろうか、それについて答えを考えてみる。

 その問いに関しての答えは……どちらかといえばイエスだった。

 小鷹は自分が嫌いだった。嫌いな方だった。

 というより、この怪力が嫌いなのは間違いなく事実。だが、それでもどこかで、この力を持っている事に安心する自分がいるのも事実。

 そんな自分がいるのに、あっさりと嫌いと断言して良い物なのか、小鷹はまた考える。

 

「……でも、ボクにとってこの力は……あってはならないものだ」

 

 最終的にはそこへ行きつく。

 もし現実に、先ほどのように誰かを傷つけようとする自分が現れようものなら、先ほどと同じように自分を止めるだろう。

 それは、もう自分が誰も傷つけたくないと、そう思っている証拠だろう。

 だが、それをどうして、今近くにいる仲間たちに言うことができないのだろう。

 小鷹には今、たくさんの味方がいる。なのにどうして、その苦しみをぶちまけることができないのだろう。

 

 どうして未だに、全てを信じることができないのだろう……。

 

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 十年前……。

 

「死神だぁぁぁ!!」

「逃げろぉぉぉ!!」

 

 いつものように公園で、小鷹の姿を見て逃げ出す子供達。

 もうこの光景を何度見てきただろうか、もうどれくらいこの光景を認めてきただろう。

 少女には恐怖はない。しかし、怖いものが無くとも傷つきはする。

 表面上は笑っているが、心のどこかでは傷ついている。

 だがこの時は、そんな自分を諌めてくれる存在がいた。

 

「タカ。あんな奴らの言葉なんて気にしない方がいいよ」

 

 その声は、小鷹の後ろから聞こえてくる。

 その少年、Sの字が入った赤白の帽子を被った中性的な少年。

 当時、小鷹が『ソラ』と呼び、親しくしていた少年の声だった。

 

「ソラ……」

「にしてもひどいよね。最近のタカは何もしてないじゃん。それなのにああやって大げさに逃げ出すんだもん」

 

 少年はそう言葉をかけ、笑顔で小鷹の傍による。

 それが、死神を味方につけ調子に乗った少年の行動ではない。

 少年が彼女を思う心は本物だった。けして小鷹を死神と知って近づいているわけではない。

 少年からすれば、小鷹が死神だろうがなんだろうが、どうでもよいことだった。

 

「ボクは……傷ついてなんていないよ」

「嘘だ。さっきだってあいつらに襲いかかろうとしてたよ」

 

 少年にそう言われ、小鷹はぎくりと表情をゆがませる。

 おそらく近くにソラがいなければ、いつものように撃退していたことだろう。

 小鷹にとってこの少年は、そういう存在だった。

 ソラが傍にいてくれれば、自分は間違いをしなくても済む。

 この少年の前で、誰かを傷つける姿は見せたくないと、そう心の中で思うことができるのだ。

 

「それより今日は何をしようか。キャッチボール? サッカー?」

「……それ前にもやったけど。ソラはキャッチすることも、ボールを蹴り返すこともできなかったじゃない」

「う……。だってタカの投げるボール、木にぶつかればひびが入るし、動物にぶつかれば即死するじゃん。そんなの僕には取れっこないよ」

 

 少年の言葉を聞いて、小鷹は申し訳なさそうな顔をする。

 怪力の小鷹は普通の遊びをする際にも、感情が高ぶって何かを壊してしまう。

 ソラもソラで、そんな少女と普通に接し遊ぶことができるのがすごかった。

 このこともまた、彼が同級生に『三日月の勇者』と言われることの所以でもあった。

 

「……ごめん」

「謝んないでよ。何かこう、タカでも安心して遊べるやつがいいよね。……あ! あれなんかどうかな?」

 

 一つ案が思いつき、少年は小鷹のそれを提案する。

 

「だめだよ。あれは大人がついてないと、ボク達だけじゃ……」

 

 少年の提案に対して、小鷹は危ないと首を横に振る。

 少年の提案した"あれ"なら、小鷹も力を発揮せずに楽しめるはずだっただけに、落ち込む。

 

「そうだよね、危ないもんね~。さすがのタカでも口から"火"は吹けないか」

「どういう意味だ~?」

 

 冗談ながらも物騒なことを言う少年に、小鷹は笑いながら飛びついた。

 普段から馬鹿力を発揮する小鷹だが、この少年に対してだけは、力を押さえることができた。

 そう、この時の小鷹は、少年を心から信じることができたのである。だからこそ、その力を少年に行使することがなかった。

 

 本当に、楽しい毎日だった。

 小鷹にとって、全てを許せる毎日だった。

 ソラという少年が、小鷹にとっての何よりで、信じられる全てだったのだろう。

 

 もう、顔も忘れてしまった。

 思い出の多くはまだ残っている。だが、その思い出に小鷹は、何度も苦しめられてきた。

 何も言わずに街から離れ、少年を置き去りにしたことを、何度も攻め続けてきた。

 こんな自分に対しあんなにも笑顔で、あんなにも優しく触れ合ってくれたのに。

 自分にとって何より信じられる存在だったのに、全てを終わらせたのが小鷹自身だった。

 

 自分で全てを終わらせたくせに、小鷹は未だに……少年に助けを求め続けている。

 

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 旅行二日目。

 

 この日の午前は、傍にあるプライベートビーチで海水浴を堪能した。

 運よく二日続けて天気は晴天。まさにそこは、小鷹達を出迎えてくれるような楽園だった。

 二日目もビーチボールをした。この日は、小鷹の怪力と理科の発明の対決が大きな見せ場だった。

 小鷹の放つ破壊力のあるボールを理科のパワードスーツが受け止めるという光景に、周りはヒートアップし続けた。

 小鳩とマリアも子供らしく興奮していた。チームを組んでいた小鷹と星奈、審判の幸村も高揚していた。

 そんな時間もあっという間に終わり、気がつけば夜。

 明日にはこの別荘を去る。そして残された一週間ちょっとの夏休み。

 始まりには終わりがある。そう思うと、小鷹達は一抹の寂しさを覚える。

 

「いやぁ、今日はすげぇもんを見た」

「そこらのスポーツ観戦より面白かったわ。小鷹、理科。お疲れ様」

 

 別荘に帰り、改めて小鷹と理科の対決を思い返す夜空と星奈。

 理科自身は良い研究結果を手に入れ、貴重な体験をしたと喜んでいた。

 一方小鷹の方は、改めて己の活躍を思い返し、少し恥ずかしがっていた。

 

「一流の天才が作り上げたパワードスーツに対応できるボクって……」

「小鷹お姉さん、そんなに落ち込まないでください。理科はお姉さんのおかげで非常に楽しい時を過ごせましたよぉ」

 

 対戦相手の理科に感謝され、どうにも言えない気持ちになる小鷹。

 しかし考えていても仕方がない。二日目の夜ご飯を食べ終え、皆で夜に何をするかを考えることに。

 

「こう七人も一斉に集まることって、そうそうないしね~」

 

 本日の旅行は小鷹御一行にしては過去最大の七人。

 小鷹自身も、生まれて初めてこんな大人数でどこかへ旅行をしたこともあってか、この時間を非常に惜しんでいた。

 

「全くだな。この面子だとどっかの部活みたいだな。この面子で部活作れんじゃね?」

 

 現在集まっている一行を見渡し、夜空が冗談染みた一言を放つ。

 

「なはは! じゃああたしは先生なのだあははーーー!!」

 

 現在小学四年生のマリアが、この面子で部活をやるとなると先生がいいらしい。

 マリアの将来の夢は学校の教師なのだろうか、それを聞いて夜空が茶化すように言葉を返す。

 

「おめぇが先生だと? おめぇそんな先生のいる部活がまともな活動が成り立つわけねえだろ」

「クックック。貴様みたいな年派もいかないクソガキが先導者のマネごととは笑わせる」

「なんだとこのうんこ吸血鬼ーーー!!」

「うぎゃ! なにすんじゃばかたれーーー!!」

 

 小鳩に馬鹿にされたことが嫌だったのか、マリアは身につけている十字架のアクセサリーで小鳩を叩いた。

 結果、いつものように喧嘩になる。歳は四歳も離れているのだが、どう見ても小学生同士の喧嘩にしか見えない。

 

「……こんな光景も毎日のように見られそうだな」

「確かに。なんか部室内でゲームやったり本読んだりしてのんびり過ごすだけになりそうね」

 

 夜空に続いて星奈も、そんな他愛のない話に乗っかる。

 

「部活か。そんな感じでも楽しそうだね。仮に部活ならこの場合は合宿ってことになるのかな?」

「合宿ですか。仮に現在の理科達が合宿中だとして……」

 

 小鷹の合宿と言う言葉を聞いて、理科が考えを巡らせる。

 この面子が合宿で集まり、真夏の夜に何をすれば良い絵面が成り立つか。

 そして、理科はポクポクチーンと思いついたように手を叩いて。

 

「そうですね。夜に男女が集まって青春を謳歌するということはそう、乱ぎょふっ!!」

 

 ごんっ!

 理科が全てを言い終わるより先か、小鷹が思いっきり理科の頭にげんこつをした。

 普通なら即死級の威力なのだが、頭は良くても実際はバカなのがおかげなのか理科は無事だった。

 そして理科は、埋まった体を逆再生のようににょきにょきと戻して言葉を返した。

 

「それ以上言ったら、ぶっ壊すよ?」

「あだだ……。いやいやお姉さんこそ、『らん』の一言だけでそれに結びつける時点で中々のむっつりじゃありませんか? ランドセルかもしれませんし、他にも頭にらんと付く言葉など腐るほどあるのですよ?」

「む……」

 

 あきらかに馬鹿にされているのだが、確かに頭文字だけで決めつけてしまった小鷹にも原因がある。

 

「はっはっは。まぁ結局のところは、乱交パーティっていうつもりだったんですけどね~」

「…………」

 

 一瞬の隙を突いたのか、理科はその禁断の一言を言いきってしまった。

 これには小鷹、星奈と小鳩も呆けた表情で黙りふける。

 一方で、唯一の男である夜空が理科のその提案に食いつく。

 

「おいおい理科。おめぇ……天才だな?」

「はっはっはお兄ちゃん。あなたの大切な従妹は天才なんですよ~」

「だっはっは! じゃあその遺伝子を欲しがるのは、当然のことd」

 

 どがしゃあああああああん!!

 

 と、小鷹は今度は、別荘の壁をぶん殴り大穴を開けた。

 そしていつものように頭に怒りのマークを浮かべ笑みを浮かべる。

 その笑みから伝わってくるのは、「これ以上言ったら殺すぞ☆」なのはいわずもがな。

 

「「……すいません」」

 

 夜空と理科、両方揃って小鷹に土下座。

 その後、小鷹は呆れ、ひょいと壁の方に顔を向ける。

 大穴のあいた別荘の壁、それを見た後、小鷹の顔は自然と星奈の方へ向いた。

 

「小鷹。ここ……うちの別荘」

「……すいません」

 

 今度は小鷹が星奈に土下座した。

 

「まぁいいけどさ……。それで結局何をするのよ?」

 

 再度話は、この夜に何をするかの話題に戻る。

 いち早く手を上げたのは理科、先ほどの発言の後なので、小鷹と星奈に恐々と睨まれる。

 

「先ほどのはまぁ冗談だとしまして~」

「冗談じゃなかっただろ……」

 

 小鷹、理科の発言にツッコミ。

 

「このまま下ネタを連発していたら、イケメン夜空お兄ちゃんの従妹が痴女だと思われてしまい大好きなお兄ちゃんの株がガタ落ちですからね」

「もう落ちまくってるけどね」

「ですからちゃんと、理科は持ってきてるわけですよ~」

 

 理科はそう言って、奥から自身のカバンを持ってくる。

 そしてごそごそと中を探し、あるものを取り出し皆の前に提示した。

 

「じゃ~ん! "花火"です!!」

 

 理科が持ってきたのは花火だった。

 普通に店で買って来たものもあれば、花火職人と協力して作った特製花火もある。

 色取り取りに並ばれた花火を見て、小鷹は思うことがあるのか、じーっと見つめている。

 

「花火……」

「え? どうかしました小鷹お姉さん?」

「……いや」

 

 この時、小鷹は過去を思い出していた。

 かつて親友と何をしようか悩んでいた時のこと。

 普段力が余ってしまいなんでもうまくいかなかった時に、小鷹でも安全にできる遊びはないものかと探っていた時。

 親友が提案した、この一言。

 

『何かこう、タカでも安心して遊べるやつがいいよね。……あ! あれなんかどうかな? 花火!!』

 

 その時は、子供だけで火遊びは危ないと、親から言われていたのでできなかった。

 かつて親友とできなかった花火。それを今、たくさんの仲間と一緒にできる状況。

 そう思い、小鷹はふっと笑みを浮かべた。

 

「……そっか。いいね、花火」

「わ~お。小鷹お姉さんが笑いました!!」

「……笑ってないよ」

 

 理科にそう茶化されて、恥ずかしさを隠そうとする小鷹。

 

「姉御、火はわたくしがつけましょう」

「クックック。姉よ、我が混沌の炎を見せてやろうぞ」

「なはは! 一緒にやるのだお姉ちゃん!!」

 

 幸村と小鳩とマリアに引っ張られ、いち早く外へ出る小鷹。

 その光景を見て、夜空も何かを思い出し、笑う。

 

「……よかったな、小鷹」

 

 まるで自分の事のように喜ぶ夜空。

 その夜空を、隣で星奈は疑うような視線で見つめていた。

 

 こうして七人全員が外に集まった。

 別荘の中からバケツとライターを持ってきて、バケツに海水を入れる。

 各自好きな花火を手に、ライターを持った幸村に着火してもらい、それぞれ花火を満喫する。

 

「花火って、実はやるの初めてなんだよね……」

「そうなのか? そりゃよかったな……」

 

 これが花火初体験の小鷹は、小さい花火でも素直に楽しんでいる。

 途中途中嗜虐的な笑みを浮かべているのは、小鷹の中の残虐さの表れなのだろうか。

 そんな小鷹の口元に、夜空が一本の花火を差し出した。

 

「……これは?」

「あん? 小鷹おめぇ、口から火は吹けないのか?」

「そりゃどういう意味よ!!」

 

 まるで自分を怪獣見たいに言う夜空に、小鷹は憤慨する。

 

「てか、このやり取りどこかでしたことあるんだけ……ど……」

 

 この時、小鷹は一瞬だけ、過去の事を思い出した。

 かつて小鷹に、同じようなことを言った気がする。

 いや、それは気じゃない。小鷹は同じことを言われたのだ。

 小鷹はもう一度、夜空の方を見やる。夜空の表情を、まじまじと見つめる。

 

「……こう……てい?」

「ん? どうした小鷹?」

「……みかづき……よぞ……ら」

「……小鷹?」

 

 突如、夜空を通して何かを見た小鷹。

 まるで何かを重ねるかのように、小鷹は夜空をずっと見つめる。

 その二人の光景を、遠くで花火をしている星奈の目に入る。

 

「……」

「あはは、どうしたのだ星奈~?」

 

 ぼーっと小鷹と夜空を見つめている星奈を、マリアが一声かける。

 だが、今の星奈にはその声が耳に入ってこない。

 

「……なんだろう、あの二人の間には……やっぱり何か……が」

 

 一方で、小鷹はというと。

 明らかに様子のおかしい小鷹。

 転校してきた時から今にかけて、いや、それ以前までの出来事を逆行させて。

 それらの全ての出来事を、この三日月夜空という人物に結び付けるように、小鷹は思考を巡らせる。

 

「……いや……まさか……よね」

「なんだ? 俺の顔に何かついてるのか?」

「な、なんでも……ない」

 

 そう言って、小鷹は夜空から目を反らした。

 一瞬、小鷹の脳裏には何が映り込んだのだろう。

 この時、その何かが、小鷹の中で完全に判明すればよかったのだろうか。

 いや、小鷹はこの時恐れたのだ。それを明確な物にしてしまうことが。

 どうして、それすらもわからずに、小鷹はそのことから視線を花火に集中させた。

 

「……小鷹」

 

 そして、夜空自身も先ほどのやり取りを無下にするつもりはなかった。

 もうそろそろ、二人の間に"その時"がやってくる。

 だが、今はその時ではない。今その時が来てしまえば、かつてを繰り返すだけになってしまう。

 だからこそ少年は過去を捨てた。全てを作り直すために。

 

 その後も、皆は花火を満喫した。

 持ち手の花火が無くなったとは、置き型の花火を並べ火を付けた。

 そして最後に待っていたのが、志熊理科が隠し持っていた『ラスボス』である。

 

「ではでは、ラスボスのおなりですよ~」

 

 そう言って、理科は張り切ってラスボスを点火させた。

 いったいどのような花火が打ちあがるのだろうか。皆がわくわくしている。

 徐々にカウントダウンが狭まってきて、緊張の面持ちの中、花火は舞いあがる。

 

 ひゅるるるるるるるる――ぼんっ。

 

「……こんだけ?」

 

 ずいぶんと待たせたにしては、これまたちっぽけな花火だった。

 甲高い音を鳴らして空高く舞い上がったそれは、上空で小さく破裂しただけ。

 

「……あれだな、タイトルは『残念な肉』で」

「なんであたしなのよ!!」

 

 この花火の一連の流れを、夜空なりのタイトルで締めくくられた。

 結局はその程度なのかと、皆が油断していると……。

 

「うお!」

 

 筒から立てつづけに先ほどと同じ光が何発も発射され。

 それが連続で破裂し、上空でキラキラキラと星が瞬いた。

 さらにその後、火柱となって約三十秒間花火は唸りを上げる。

 その一連の流れを見た星奈が、まるで自分の事のように鼻を高く上げた。

 

「ふっふふん! このあたしには負けるけど中々の輝きだったわよ」

「タイトルは『高級サーロインステーキ』」

「全然変わってないじゃないのよ!!」

 

 結局、最後まで肉から話題の変わることのなかったラスボス。

 皆満足で花火が終わり、それぞれが役割ごとに跡かた付けをする。

 こうして二泊三日の旅行、最後は綺麗に締めくくられた。

 その後は少しの間トランプなどをして時間をつぶし、日が跨ぐ頃には全員が床に就いた。

 皆がそれぞれ部屋に入り、改めてこの二日間を思い返してみる。

 

「楽しかったね、この二日間」

「あぁ。いい思い出になった……」

 

 部屋にて、小鷹は同室の夜空と一緒にそんなやり取りを交わしていた。

 

「……皇帝、本当にありがとう」

「なにがだよ?」

「あの時、あなたに会わなければ、この時間はなかったようなものだし」

 

 そう、全てはあの時、転校してから一ヶ月後の五月、三日月夜空に会ったことで全ては始まった。

 あれから約三ヶ月。小鷹もずいぶんと変化した。

 最初は根暗で女の子らしくなく、外見にも華が無かった濁った金髪の少女。

 しかし今では、気持ちで人は変わると言うが、小鷹はとても華のある少女となった。

 出会った当初に比べると、なんだかとても栄えのある少女になった気がする。

 それは夜空、星奈共に認めていた。

 

「そうかよ。だが小鷹……それは違うのよ」

「え?」

「この繋がりは、間違いなくお前が作ったものだ。お前自身が頑張ったから、得た繋がりなんだよ」

 

 そこだけは、夜空自身も譲れないところだ。

 夜空自身はあくまで小鷹に"力を貸した"だけにすぎない。

 全てを手に入れたのは間違いなく小鷹自身の力なのだ。そうでなければ、小鷹はいつまでも変わらなかっただろう。

 

「……そうかな」

「そうだよ。そうと言え。そうやって胸を張れよ」

「ははは。努力するよ」

 

 本当に、夜空といるとなんでも元気になる気がする。

 小鷹はいつのまにかそう思うようになっていた。まだ不慣れな部分はあるが、少しずつ心を許し始めている。

 まるでそれはあの時のように、あの少年に対する気持ちのように。

 

「……小鷹」

「え?」

 

 すっかり眠くなり、ベッドにもぐりこむ小鷹。

 夢を見る刹那、夜空のこんな一言が聞こえてくる。

 

「――変われ。そしてもう一度……"僕達"……」

「きこえ……ない……よ」

 

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 小鷹は夢を見ていた。

 場所は再び、かつて親友とよく遊んだあの公園。

 この夢を、昨日も見た気がする。

 

「また……この場所……」

 

 このままでは、また過去の自分が現れて。

 そう思っていた。だが、今度現れたのは、意外な人物だった。

 

「タカ。どうしたんだ?」

 

 その声に反応し、小鷹は振り向く。

 そこにいたのはソラだった。かつて小鷹が親友と呼んだ少年。

 まるでそれは、あの時にタイムスリップしたかのように。

 今、小鷹の目の前にかつての親友が座っていた。

 

「あ……ソラ……なの?」

 

 気がつけば自分も十年前の姿になっていた。

 そしてその場面は、もうすぐ自分がこの街を去る数日前。

 もうすぐ自分はこの街からいなくなってしまう。それを、今の小鷹は知っている。

 

「そうだけど? なんか負抜けた顔してるね」

「……ソラ」

 

 なぜかは知らないが、その名前を口に出した途端、目から涙が流れ始める。

 流れる涙は止まらない。それは後悔の涙か、夢とはいえ、大切な人と再会したことの涙か。

 いろんなものが混じったその涙を流しながら、小鷹は少年の方へと寄る。

 

「どうしたのさ? 涙なんか流して……」

「ごめん、ソラ。ボクはもうすぐ……君の傍を離れることになるんだ」

「……え?」

 

 夢の中なのは知っている。

 それが言えたとしても、歴史が変わるわけではない。

 小鷹の心が救われるわけではない。何も変わらない。

 だが、わかっていても、小鷹はそれが言いたかった。

 独りよがりなのはわかっている。だが、言わずにはいられなかった。

 ずっと言いたかった。この一言を。

 ずっと謝りたかった。そのことに苦しみ続けた。

 

「ごめんなさい。わたしは……あなたに縋り、依存し。あなた無しでは自分すら抑えられなかったのに。なのに……なのに!!」

「……タカ」

 

 かつての親友は、それを聞いてどう思うだろうか。

 夢の中だから、なにが起きるか分からない。

 

「……タカ」

「うぅ……。ソラ、わたしは……」

 

 どんどん涙があふれて止まらない。

 まるで子供に戻ったように、えぐえぐと涙する小鷹。

 そんな小さな小鷹を、小さな親友は寄ってきて、そっと頭を撫でた。

 

「ソラ?」

「……タカ、もういいんだよ。もう大丈夫なんだよ」

「え……?」

 

 そして、少年は優しく声をかける。

 

「もう、誰も傷つけなくていい。君を見てくれる人はたくさんいる。もう……僕がいなくても大丈夫なんだ」

「い……嫌だよ。わたしはあなたを失いたくない!!」

「いや、だめだよタカ。いつまでもこの時を……想い続けてはいけないんだよ。君も変わらなくちゃ……」

「いやだ! いやだ!!」

「大丈夫。きっといつか、そう遠くないうちに、僕が君を見つけ出すから」

 

 そう告げて、ソラは背中を向け、どこかへと言ってしまう。

 小鷹はそれを止めようと前に進む。が、なぜかソラに近づくことはできない。

 

「ま、待って!!」

「タカ。もう一度僕達……親友になれるよね?」

「ソラ……ソラーーーーーーーーーーーーー!!」

 

「……えへへ」

 

 そうほほ笑む少年の顔が、少しずつ光となって消えていく。

 夢が覚める。小鷹がどれだけ抵抗しようが、夢は塵となり、現実が訪れる。

 あの時、少年が見せてくれた笑顔は、幻だったのだろうか。

 小鷹の願望が、夢となって現れただけだったのだろうか。

 全てが作り物で、ただ小鷹が願っていただけで。

 

「……う、うぅ」

 

 午前四時半ごろ。

 太陽が昇り始めたあたり、空が薄い青色に染まる朝。

 目覚めた小鷹は、指先で目元をこする。

 目元には泣いた跡があった。きっと寝ながら、泣きじゃくっていたのだろう。

 隣のベッドにいる夜空に迷惑をかけただろうか、と……隣を見るが夜空の姿はない。

 

「……皇帝?」

 

 この時、小鷹は無性に、夜空に会いたくなった。

 すぐさま部屋を飛び出す。そして海の見える窓のテラスの方を見る。

 そこには夜空が海を眺めて立っていた。そんな彼の元へ、小鷹が向かう。

 

「朝、早いね」

「んあ? おめぇも人の事言えねぇだろ」

 

 夜空がいじわるそうにそう返してきた

 朝が早いのはお互い様だ。

 二人して、昇る朝日と海を眺める。

 そんな中で、夜空が夜中の話題を口にした。

 

「にしても小鷹。ずいぶんとまぁうなされるもんだな」

「うっ……。やっぱり聞こえてた」

「昨日は突然飛び起きて、今日はずっと泣いてた。なんか嫌なことでもあったのか?」

 

 改めてそう言われると、小鷹は恥ずかしくなって顔を隠した。

 

「ご、ごめん」

「ま、いいけどな。でもなんか……すっきりしたような顔してるぞ?」

「そう……かな? 確かに少しは……すっきりしたかもしれない」

 

 夢の中とはいえ、親友に一言謝ることができた。

 が、それと同時に得た悲しみは、まだ小鷹の中に残っている。

 

「今日はね、親友の夢を見たんだ」

「ほ~う」

「あまり顔も覚えていないのに。おかしい話だよね。裏切ったことを謝ったら、そいつ……笑顔で許してくれた。ボクを……諭してくれた。全部ボクの願望が生んだ幻想なのに、それで満足して……馬鹿みたいだよ」

「……そうか」

「不思議なんだ。十年前にいなくなっちゃったはずなのに。まるで……まだ近くでボクを見てるような……気が……して」

 

 その話を夜空にしていく中で、その悲しみが小鷹の中で溢れる。

 そして押さえ切れなくなり、また小鷹は涙する。

 その話を聞いている夜空の顔を見ると、どんどんその悲しみがあふれ出てならない。

 

「皇帝。今からボク……変なことを言うかもしれないけどさ……聞いてほしいんだよ」

「……なんだ?」

「ボク。あの花火をしてる時に……思っちゃったんだよ。バカらしくて、言うのも恥ずかしいんだけど」

「……言えよ」

 

「……夜空が……ソラだったらいいな……って」

 

 その言葉を聞いた時、それまで白々しく振舞っていた夜空自身、それが抑え切れなくなった。

 平然と振舞おうとする気持ちと、あふれ出る感情が混じり合い、身体をぶるぶると震わせる夜空。

 そしてゆっくりと、夜空は小鷹の方に視線を向ける。

 

「…………」

「……夜空?」

「……それだけお前が、俺の事を信じてくれてるってことで……いいんだよな?」

 

 そう夜空は、震えた声で小鷹に尋ねる。

 小鷹もその問いに対し、堪えられないままに首を縦に振る。

 その動作を見た夜空は、ただ何も考えず、小鷹を思いっきりだきしめる。

 思いっきり。もう離さないとばかりに抱きしめる。

 

「!?」

「……ありがとう、小鷹」

「……うん」

 

 全ての問いが、明らかになったわけではない。

 ただし、この二人に訪れるその時は、すでに近くまでやってきている。

 もうすこしで、小鷹は全てを捨てることができる日がやってくる。

 小鷹の忌むべき怪力。彼女にとって何よりの味方であるその力。

 それが完全に消失した時、この二人の間に奇跡が起こる。

 

「……嘘」

 

 そんな二人の様子を、遠くで見ている一人の星奈は呟いた。

 そして逃げるように、自身の部屋へと戻る。

 

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ヒュウガ『あ、せもぽぬめさんじゃないか?』

 

ユーサー『あ、珍しいですね!!』

 

スケゴ『二月以来じゃないかね~』

 

 旅行が終わり、我が家に帰ってきた星奈。

 今、彼女の中に渦巻く悲しみを、どこへぶつけたら良いのだろうか。

 考えた末、前まで利用していたチャットにぶつけることにした。

 

せもぽぬめ『お久しぶり。ちょっと……話を聞いてもらいたくて……』

 

ヒュウガ『お、なんだねなんだね。なんでも聞こうじゃないか』

 

せもぽぬめ『あたし、完全に振られちゃったの』

 

 もう、夜空の気持ちは知ってしまった。

 あんな光景を目の当たりにしてしまった以上、もう自分の恋が実ることはない。

 それを悟り、どうせならあまり顔を合わせない人たちになら話せると、そう星奈は思っていた。

 

ヒュウガ『おやおや。結局皇帝くんとは上手くいかなかったわけか』

 

ユーサー『そんな~。応援してたのに残念です!!』

 

スケゴ『こりゃ。皇帝攻略は難しいところかもねぇ~』

 

 チャットのメンバーも、それぞれに思ったことを文章に乗せる。

 

ヒュウガ『いやせもぽぬめさん。この世にはまだいい男性がたくさんいるだろう。めげるな!!』

 

せもぽぬめ『ありがと……』

 

ヒュウガ『にしても、やっぱり皇帝は未だに十年前を引きずっているということかね』

 

せもぽぬめ『……十年前?』

 

ユーサー『せもぽぬめさんは知りませんでしたっけ。てか、彼の個人情報ですよ? 簡単に言ってもいいことなんですか?』

 

ヒュウガ『振られてしまった以上。納得のいく理由は必要だろう』

 

 チャットのメンバーの発言では、なにやら夜空の十年前には何かがあるらしい。

 十年前といえば夜空がまだ小学生のころ。そんな話を聞いても仕方ないかもしれない。

 が、一応聞いてみようと、星奈はキーボードを叩く。

 

せもぽぬめ『あいつの十年前がどうかしたんですか?』

 

ヒュウガ『なんかさ十年前、彼には親友がいたそうだ。最も十年前のことだから、今となっては関係ないことかもしれんがね』

 

せもぽぬめ『……親友?』

 

 

ヒュウガ『あぁ、かつて遠夜市を震撼させた。"金色の死神"だよ』

 

 

「……え?」




そして物語はクライマックスへ……。

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