はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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特別編です。


火輪ストーリー~ガブリエラ火輪のズバリ言うわよ~

 年が明け、時は二月。冬休みが開け少し達、学生たちは冬の寒さと青春の荒波、そして進学という脅威に立ち向かっていた時期。

 ここ遠夜市の駅近くにある、一件の小さなビル。

 入口にある銀のプレートを見ると、階数ごとに所有している会社名や事業所名が書かれている。

 そのビルの三階に位置する場所。そこが今、遠夜市の学生や社会人の間で話題になっていた。

 その階に書かれているのは、"占い"という二文字だ。

 占いというものは、言ってしまえば言葉を売る仕事である。

 言う人によっては出任せで金を巻き上げてるなんて話もあるが、軟く言ってしまえばそれもまた事実。

 だが、人というのはスピリチュアルには惹かれるものがある。それはなぜか、今自身に悩みがある人ほど、神やら霊やら、お告げがなによりの励みになるからである。

 そんな遠夜市の一画にある占い屋。そこにいる占い師というのが、なにやらとても当たると有名らしい。

 その噂を聞きつけ、一人の生徒が今日、その占い屋へと足を運んだ。

 

「あんたが今遠夜市で話題の占い師ね。最近悩みが多くって、ちょっと占ってよ」

 

 と、店の人相手にも大きな態度を取るその少女は、柏崎星奈だった。

 彼女はメイド喫茶に行ってもどこ行っても、金を払っている客という己の立場を最大限に生かすのだ。とまぁ、それを抜きにしても本人は基本的に態度がでかいのだが。

 これでも最近はかなり成長した方で、一年前、果ては二年前はこれの倍は他人を見下していた超性格ブスだったのである。

 そんな彼女に対し、店の主は特に嫌な顔一つせず、金を受け取れればいいやと言ったものか。さっそく占いをはじめた。

 なにやら高そうな水晶に、力を込めているではないか。

 

「……あら、あなた」

「ん? なんかわかったの?」

 

 そう、星奈が占いの結果に食いつくと。

 開始直後、占い師がこんなとんでもないことを、口にしたのだった。

 

「――あなた、明日死ぬわよ」

 

-----------------------

 

 ――今、巷で話題沸騰中の天才占い少女、その名は"ガブリエラ火輪"!!

 彼女の占いは中学の時からよく当たると身内で話題となり、店を出した所あっという間に有名に。

 今では時よりテレビの特番にも出演し、有名人をバンバン占い、そして的中させてきた。

 某有名人の結婚のことや、あの有名アーティストの薬物疑い発覚まで、これまで三十件中二十二件の占いが的中しています。

 そんな超高校級の占い師であるガブリエラさんに、インタビューをしてみたいと思います!

 

『こんにちは~。あなたが噂のガブリエラさんですか~?』

『イエーイ☆』

『あ、あの……。ガブリエラさん……ですか?』

『イエーイ☆ 私を愛する全ての美少女達見てる~☆』

 

 ……と、朝の番組内で特集されていたその占い少女こそ、昨日星奈を占ったガブリエラ火輪その人である。

 十字架のアクセサリーをたくさん身につけ、青黒いフードを被った外見をしている。ちなみに十字架は彼女の趣味で、本人いわくかっこいいとのこと。

 インタビュアーの質問を横目に、棒読みでピースを披露しているこの余裕ぶり。

 ちなみにこの占い少女、本名は神宮寺火輪という。

 神宮寺火輪といえば、あの三日月夜空の中学時代の同級生、そして日高日向の下で生徒会を全うした彼女である。

 

『なんでも、最近は十件中七件も占いを的中させたみたいですね~』

『はい。キャッチフレーズは『私の占いは三割外れる』ですから。三割は絶対外れます』

『そ、そこは当たることを押し出すべきでは……?』

『当たることを前提としたら、そんなものは魔法か超能力よ。占いはスピリチュアル、スピリチュアルなんてものは言ってしまえば直感よ。直感や虫の知らせなんて誰にだってあるんだし、そんな持て囃されても困るわ』

 

 インタビューで全国放送されているというのにこの言いよう。どうやら本人はあまりテレビが好きではないらしい。

 そんな朝の番組を、昨日衝撃的な占いを受けた本人は、視聴しながら朝ご飯を食べていた。

 ただ、当然あんなことを言われた翌日に、気分良く朝ご飯が食べられているわけがなく。

 

「……お嬢様。全然ご飯が進んでいませんが?」

 

 そう星奈を心配するのは、柏崎家の家礼であるステラ。ちなみに最近になって先代の家礼であった初瀬が引退したため、彼女がその名を受け継いだ。

 といっても、柏崎家に入ったばかりの彼女が家礼になったことに対し、彼女よりも長くいるメイド達はあまりよく思っていないらしく、結構大変とのこと。

 一応、彼女が星奈の遠い親戚(というか天馬の隠し子)であることはばれていない模様。

 そんな彼女と朝食を共にしていた星奈は、うつろな目をして目玉焼きを見ていた。

 

「……姉さん。占いって信じる?」

 

 そんな突拍子もない質問を受け、ステラはバカバカしいといった具合にあっさりとこう答えた。

 

「いえ、私は昔から霊とかお告げとか信じておりませんよ。というかお嬢様、その姉さんというのはやめてもらえませんか?」

 

 ステラは言葉の最後で、そう星奈にお願いをする。

 行動力のある星奈本人は、いつのまにかステラが自分の姉さんであることを突きとめていた。

 というのも、ステラの素性というのがこれまた何かの縁か、夜空の父親が務めているレッドフィールド社の社長の娘だったからである。

 なので夜空はほとんど覚えていないが、夜空とステラは結構昔に会っていたりもする。

 最も夜空の性格上、そんな人様の家庭崩壊を招きかねないような裏事情を簡単に言いふらしたりはしない。

 ということは、星奈の性格を踏まえて察すれば、彼女の好奇心故の恐ろしさということだろう。

 

「……そうよね~。占いとかそんな充てにならないもの信じる方が馬鹿よね~!!」

 

 そんな台詞を、何話か前に口にした気もするが。

 開き直った星奈。だが、そんな彼女に対しまたも試練が降りかかる。

 それは、テレビのインタビューでのこんなやり取りだった。

 

『ちなみにガブリエラさん。今日の運勢なんですけど……よかったら教えてもらえませんか?』

『別にかまわないけど……。あなた何座?』

『おうし座です!!』

 

 おうし座。それを聞いて星奈はピクリと反応した。なぜなら星奈はおうし座だから。

 

『おうし座ね。言っちゃあれだけれど、おうし座の今日の運勢は最悪よ』

『そ、そうなんですか!?』

『悪い星が見えてるわ。特にひどいあだ名とかつけられてる、ちょっと……いやかなり性格の悪い女性の方は要注意よ。頭の上に死の星が見えてるわ』

 

 割と、というか相当範囲が狭まった気がする。そういえばこんなことが前にもあった気がすると、星奈は思いだした。

 そんな星奈にもお構いなく、火輪は更に言葉をつづけた。

 

『日ごろの行いの悪さがそのまま天罰に繋がるような感じ。まぁインタビュアーさんは大丈夫そうだけれど、そうね……。髪の毛の色まで範囲を狭めれば、金髪が整っている人ほど本当に危ないわ』

「……」

 

 もう九割方範囲が絞られ、言葉一つ出ない星奈。

 だが、占いというのは改善方法がある。ラッキーアイテム、ラッキーカラーというやつだ。

 当然このまま放っておけば火輪の評判も悪くなるため、火輪はちゃんとラッキーカラーを発表する。

 

『そんなあなたの運勢改善のラッキーカラーは、錆鉄御納戸色よ』

「どんな色だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 明らかに聞いたことの無い色を言われ、等々テレビに対しブチ切れる星奈。

 ちなみに読みは"さびてつおなんどいろ"という。例えるなら、錆は寂しく鈍い色のこと。鉄は暗い緑味の青色。納戸は暗い青色を指す。とまぁよくわからない色である。

 動画的には、スーパー○ズヤのテーマで一部の人には伝わる、そんな色である。

 

『ありがとうございました。以上、エンタメのコーナーでした~』

『イエーイ☆』

 

 結局、昨日の占いを助長するような余計な朝ご飯だった。

 その一部始終を聞いて、ステラが少々冷や汗をかきながら星奈に問う。

 

「お嬢様、なんか大丈夫ですか? お嬢様っておうし座でひどいあだ名つけられて性格がかなり悪くて金髪が整ってますが」

「言わなくていいわよ!! そんなこと自分が良く知ってるわ!!」

 

 ステラの余計な気づかいに荒っぽく返す星奈。

 確かにたかが占い、だがされど占いでもある。

 相手は占いを三割外す占い師。逆を言うなら、七割は当てるのである。

 つまり、昨日己の死を予言され、今日テレビで散々なことを言われた星奈の占いは……七割で本物になる。

 70%で星奈は死ぬ。簡単に言えばそういうことである。

 

「……学校行ってくる」

 

 テンションガタ落ちのまま、結局朝ご飯を一口もつけないまま星奈は席を立った。

 そして玄関にて、靴を履き終えた後、ステラに甘えるように問う。

 

「……ステラ。あたしが死んだら……あなたは悲しんでくれる?」

 

 もうこれから死にに行くような、戦争でもしてくるかのような者の言葉である。

 星奈のその哀れみ溢れる問いに、ステラは姉として……最大限彼女を励ます答えを出した。

 

「……当たり前でしょう。あなたが死んだら……私は涙がちょちょ切れます」

「あんたに聞いた私がバカだったわバーカバーカ」

 

 どうにも微妙な答えを聞いて、星奈はステラを見捨てるかのように家を出た。

 家を出てすぐのバス停からバスで数分、聖クロニカ学園に到着する。

 星奈はバスに乗り、とりあえず今日をどう乗り切るかを考える。

 

「……。わ、私が死ぬわけないのよ!! それに死ぬって聞かされて大人しく死ぬバカがどこにいるのよ!! なはっ……なはははははは!!」

 

 対処法を考えるというより、ポジティブな考えをして己をごまかしているような感じだった。

 バスの一番後ろの席で、自分は大丈夫だと自己暗示をする星奈。

 自分がこんな所で死ぬわけがないんだ。そう、心から思っていた。のだが……。

 

「うっ……。うぅぅ……」

 

 何やらバス内で聞こえてくるうめき声。

 耳を立ててみると、それは運転席から聞こえてきた。

 眼を凝らすと、なんと驚くことに、バスの運転手が苦しんでいるではないか。

 そしてバスの床に、今にも倒れそうになり。

 その反動か、バスが対向車線にはみ出してしまった。

 

「ちょっ! ちょちょちょちょちょちょちょちょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 星奈は命の危機を察したか、人間の生存本能か。

 他の人よりはるかに速い反応で運転席に向かい、そして刹那の速さでハンドルを左に傾ける。

 

 がたん! ギリギリギリギリィィィ!!

 

 そしてそのままバスは左のガードレールにこすりつけられ、緊急停止。

 バスに乗っている学生たちは、恐怖からか悲鳴を上げる。そんな中で星奈は、死の予言から回避すべく必死で悲鳴一つ上げない。

 結果的に立派な事故ではあるが、対向車とぶつかるよりは被害は避けられた。星奈を含めけが人は一人も出ていない。

 

「はぁ……はああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ……」

 

 思わず変な汗をかく星奈。

 そのとっさの判断と果敢な行動に、バスに乗っていた生徒達は星奈に喝采を浴びせる。

 周りから「さすが星奈様!!」だの「ありがとうございます生徒会長!!」だの、かつて嫌われていた彼女とは思えないほど、男女問わず彼女を讃えた。

 普段なら舞い上がっちゃうところなのだが、この日の星奈は命の危険からか、うれしいなんて感情を浮かべる余裕すらなかった。

 バスが朝から事故を起こす。さっそく不穏な一日が始まってしまった柏崎星奈。

 その後警察やらレスキュー車やらがやってきて、事情聴衆の後、星奈達は解放された。

 幸い学校は歩いて距離のところまでバスが進んでいたため、めんどくさいながらも歩くことに。

 時刻はすでに一時間目が始まっているが、事故ということで遅刻扱いにはならないだろう。

 

「ったく!! 朝からとんでもない目にあったわよ!!」

 

 そんな怒りを優雅な青空にぶつけながら、星奈は学校まで歩く。

 そして学校手前の交差点にて、またしても彼女の周囲で異変が起こる。

 星奈は気付いてしまった。幼い子供が犬の散歩をしている最中、犬が先に走り出してしまったのを。

 そしてそのまま道路へ飛び出す犬、その横からは無慈悲にも車が……。

 

「危なぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

 

 それをただ見過ごすことができる柏崎星奈ではなかった。

 星奈のどこか一般人を超越した瞬間的反応は、車と犬がぶつかる速度を超えた。

 星奈は犬を抱えて向かいの歩道へ飛びこむ。その際、歩道の岩の段差に頭を思いっきりぶつけた。

 明らかに軽傷では済まないだろう。そんな彼女に対し、運転手が野次をいれる。

 

「おい! なにいきなり飛び出してんだよこのバカ!! 気をつけろこの!!」

 

 そう怒鳴りつける運転手。

 だが運転手は後に知る、怒鳴った相手が悪かったと。

 星奈はむくりと立ちあがる。額からは割と尋常じゃない血を流して。

 

「バカはあんたの方でしょぉぉぉ!! 気をつけるのはそっちのほうよこのゴミ虫がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 運転手の怒鳴りをはるかに打ち消すかのような、ちょっと昔の星奈の怒鳴りが学校の周辺に響き渡った。

 これには思わず、運転手の方が怯んだ。

 

「ひっ……ひぃ!!」

「なんでこのあたしがあんたみたいな安月給の庶民のゴミクズ風情に車で轢かれかけたあげく怒鳴られなきゃいけないのよ!! どんだけ頭悪いのよこの低脳モブクズ大人!!」

「て、てめぇ学生風情でなんという言い草……」

「ギャーギャー喚くんじゃないわよ不愉快にも程があるっての! あたしの耳が穢れるからせめて人間様の言葉覚えてからしゃべりなさいよ!! 脳味噌の代わりにうんこ詰まってんじゃないの!? なに一丁前に車なんて乗ってんのよ! 人間に進化するまで四本足で生活すれば!?」

 

 怒涛の如く罵声を浴びせる星奈、気がつけば運転手は泣きそうな顔になっていた。

 最近はなりを潜めていたが、星奈の罵詈雑言は夜空に匹敵するほどすさまじい。よくこんなスラスラとひどい言葉が出てくるのかと関心すら抱いてしまうような勢い。

 

「このあたしの神に選ばれた美貌に傷をつけたらあんたどうするつもりだったのよ! あたしそこの学校の理事長の娘よ!! あんたみたいに月給十二万いくかどうかわからない庶民からでも容赦なく金がっぽり取ってあげましょうか!? 払えるんですか!? そこんとこどうなのよ!!」

「す、すいませんっした!!」

 

 運転手はこれ以上耐えられないと、彼もまた命の危機を感じたのか知らないが、車でその場から逃げ出した。

 生徒会長になってから自分が見下してきた人たちにも合わせられるようになった彼女であるが、ひょっとしたら日ごろ鬱憤が溜まっていたのかもしれない。

 そんな鬱憤を一気に吐き出した後、頭から血をダラダラ流しながら犬の飼い主である少女の元へ歩み寄る。

 

「……この子、あんたの家族なんでしょ? ちゃんとリードしなきゃ……駄目でしょ?」

 

 そう、天使のような笑顔で子供に犬を私に行く星奈。

 

「ふ……ふうえぇ……」

 

 ピーピー!!

 

 しかし血だらけで歩み寄られたからなのか、幼い子供もまた、命の危機を感じたのか防犯ブザーを鳴らした。

 

「なんで犬助けたのに防犯ブザー鳴らされるのよぉぉぉぉぉ!!」

 

 その後学校に入ると、星奈は担任に呼び出された。多分担任に呼び出されたこと自体初めてだったかもしれない。

 ちなみに大量出血は、こういうよくあるコメディものの都合というのか、あっけなく消えていた。

 事情を説明し、へとへとになりながら教室へ向かう。

 

「まったく。てか、歩み寄っただけで人に怖がられるって……どっかの友達少ない濁った金髪のクズ主人公のような気分を味わったわ」

 

 ここではないどこかのあの少年の事をさりげなくDisりながら、そんな少年の苦痛を疑似体験しながら廊下を歩く。

 その最中、そんな少年とどこか似ている濁った金髪の少女とはち会う。

 彼女の名前は羽瀬川小鷹。遠夜市では金色の死神といえば彼女のことである。

 

「星奈~。聞いたよなんかバスが事故ったらしいね」

「うん。もう朝から色んなことあったわ……」

 

 心からの苦労を口に出す星奈。

 この際だ、親友の小鷹に自身の悩みを打ち明けようかと思った。

 だが昨日占いで死ぬと言われたなどと打ち明けた際には、バカにされないだろうか。

 しかし、小鷹が守ってくれればきっと安心だろうか。そう思い、星奈は小鷹に占いの相談を打ち明けようとするのだが。

 

 ぷ~ん……。

 

 この冬の時期には聞きなれない羽音。

 季節外れの蚊である。稀に現れるが、こんな日に現れるだろうか。

 その蚊に気づいた星奈と小鷹。蚊は星奈の周りを飛んでいる。

 このままでは星奈は刺されるかもしれない。そう思ったのか、小鷹はというと……。

 

 ぶおおおおおおおおおおおおおおおおん!!

 

 星奈の顔すれすれに、拳による衝撃波を見舞った。

 多分二ミリか右に星奈がずれていたら、顔が削れていたかもしれないほどの威力だった。

 一方蚊はというと、小鷹の衝撃波でぽっくり死んでいた。

 

「ふ~危ない危ない。もう少しで星奈が刺される所だったよ~☆」

「殺す気かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 蚊を退治したというのに、小鷹に怒鳴りつける星奈。

 ついビビる小鷹。そして呑気な表情を浮かべ小鷹は返す。

 

「ど、どうしたの……?」

「どうしたのじゃないわよ! あんたの怪力顔前で味わったんですけど! 食らったら死んでたんですけど!!」

「あ、あぁ~。ごめ~ん星奈ちゃ~ん、あたし方向音痴で~☆」

「それ、関係ないし!!」

 

 小鷹の悪びれもないその一言に見切りをつけた星奈。

 小鷹は駄目だ。何かある度に彼女の怪力を味わって死ぬ可能性があると踏んだのだ。

 まだ一日は長い。まだ二時間目始まる直前だというのに早くも三件も被害に合っているのだ。

 下手すると、本当に星奈は死ぬかもしれない。七割の確率で。

 教室に入ると、なんでも星奈の朝の噂を聞きつけた女子が群がってきた。

 もうこの時期になると、あの星奈が女子からの人望を集めているのである。本当に誰が予想しただろうか。

 

「柏崎さん聞いたよ~。朝バスの事故を未然に防いだ上に車に轢かれそうになった犬を助けたんだって~?」

「えぇそうよ。もう朝からくたくたよ……」

 

 とろけるスライムのようになりながらも、健気に女子の言葉に答える星奈。

 その後も何度か会話に参加した後、星奈はこんな会話を耳にした。

 

「そういえばあたし先日言ったんだよね。ガブリエラ火輪のところ!!」

 

 その会話とは、星奈の死を宣告した火輪の話だった。

 

「聞いた聞いた! 砂川くんとの恋を占ってもらったっけ、本当に成就したもん!!」

「すごいよねガブリエラ! 的中率七割は伊達じゃないって! さすがは『私の占いは三割外れる』だね!!」

「あ、あたしの外れたんだよね。テスト範囲の占い……」

 

 と、色々聞くと十人中七人は占いが的中したらしい。本当に三割外す占いのようである。

 星奈はその中の三割に入れるのだろうか。いや、朝の出来事を思い返す限りこのままじゃ確実に七割の方である。

 星奈はまだどこかで、たかが占いとバカにしている。だが、諦めも少し滲み出ていた。

 そんな状態のまま、二時間目が始まった。

 数学の時間であり、星奈的には難しくもなんともない。なぜなら彼女はつねに成績一位だからである。

 その授業の最中、星奈は先生に指名された。

 

「じゃあ柏崎さん。この問題解いてみて」

 

 そう言われ、星奈は疲れを見せながらも黒板へと歩み寄る。

 こんなところで疲れているから問題解けないなどとはいえない。意地だけは誰にも負けない柏崎星奈。

 星奈が黒板の前に立ち、チョークを手に取った時だった。

 

 がたがたがた……。

 

 突如、小さな揺れが教室中を襲った。

 地震だろうか、しかしそれは……どんどん揺れが大きくなっていく。

 

「地震よ! みんな机の下に避難して!!」

 

 そう先生が焦り皆を誘導すると、生徒達は自分の机の下に隠れる。

 そして肝心の先生が、教壇の下に隠れる。

 となると、さきほど指名されて黒板のそばにいる星奈はどうだろう。

 自分の机は一番後ろ側。そして近くの教壇には先生が隠れており隠れるスペースがない。

 

「じ、地震に負けてはならないわ!! 例え先生が傷ついても、皆が無事なら私は本望!!」

「じゃあそこどきなさいよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 教壇の下でびくびく怯えながら、先生は教師らしいことを言うのだが。

 一人取り残される星奈は、先生の言動と行動がかみ合っていないその業にツッコミを入れる。

 すると、すごい揺れに対し驚異的にバランス能力で倒れないよう隠れられる場所まで移動する星奈。

 

 ガシャンガシャンガシャン!!

 

 だがそんな彼女に対し、自然の神様は無慈悲な真似をするのだ。

 地震の影響で、天井の電光灯が星奈の傍に次々と落下してくる。

 しかし星奈は負けなかった。電光灯を神回避し続ける。その姿は圧巻の一言だった。

 そのまま地震は収まる。気がつくと、星奈は電光灯の白い粉にまみれて佇んでいた。

 

「か……柏崎さん大丈夫!?」

 

 さきほどまで地震に怯えきっていた教師は、星奈を心配する。

 

「も……もういやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

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 昼休み。夜空のいる二年五組にて。

 星奈が一人散々な目に合っている事など知らず、夜空はクラスメートと呑気に話をしていた。

 

「三日月さ~ん。極征討伐レベルいくつまでいきました~?」

「え~? ディスもバルカンも1000越えたぞ」

「さっすが三日月さん! てか穿龍棍強すぎっすよマジで~」

 

 その話題は、モンスター狩人オンライン。MOの話であった。

 最近も次々とイベントが発生しており、お得なクエストが多数配信されているらしい。

 

「あんなもん1000までは簡単よ。それにランキング意識しなければ1000あればG武器もGX防具も大量に作れるし。剛撃5一閃2の装備も作ってるからな、今の所俺は満足よ」

「本当三日月さんのPS高すぎですよ。俺なんてレビの双剣作りたいのにレビ苦手で困ってますもん」

「レビぃ~? あんなもんルコと違って岩無いから楽だろ~」

 

 そんな他愛もない会話を楽しそうにしている夜空。

 今頃、死から逃れている星奈は何をしているのだろうか。

 

「ちょっとレビのコツ教えてくださいよ~」

「レビなんておめぇ。こう動いてるだろ? こんな風に小刻みに動いてるわけだ」

 

 と、夜空は急に四つん這いになって、モンスターの動きを再現しながらレクチャーしている。

 ちなみにレビというのは、磁力を纏って四つん這いに動きまわるモンスターである。

 夜空はそのまま、モンスターになりきって教室の扉の前まで歩きだす。

 

 ガラガラガラ……。

 

「んでよ……。こう歩きまわって……あれ? なんか急に目の前がまっくらに……。おいおい誰がフォロの話してるっつったよ」

 

 突如、夜空の視界がフォロの攻撃にやられたがごとく闇に包まれた。

 何が何だか分からないまま、夜空はくねくね動く。

 

「……っ!」

「つかなんだ? 暖簾? なんだこのひらひらしたの……。つか、なんか生温かい感触が」

 

 何か生温かい感触にぶつかりながらくねくね動く夜空。

 そんな彼に対して、クラスメートが恐る恐る夜空に忠告する。

 

「み、三日月さん……。それまずいですって」

「え? なにが?」

 

 どがしゃあああああああああああああああん!!

 

「ヴぁしむふわぁーる!!」

 

 突如何者かに顔を思いっきり踏まれ地面に鼻を強打する夜空。

 何が起こったのかと思い、上を見上げると。

 そこには、顔を真っ赤にして夜空を睨みつける星奈がいた。

 

「ににに肉! なんだお前こんなところで何してんの!? つかそのSE小鷹のやつだし……」

「なにしてんのはあんたの方だろ!! 教室入ったらいきなり四つん這いのあんたがあたしのスカートの中入ってきたんでしょうが!!」

「え……えぇ? あぁどうりでなんか気色悪い感触感じたんだよな」

「うるせぇその口閉じろや!! てかちょっとあたしと来なさい!!」

 

 そう無理やり星奈に連れて行かれる夜空。

 ついたのは誰もいない体育館。

 何が何だか分からない夜空は、星奈に問う。

 

「ったくなんだいきなり!」

「……うっ」

 

 と、突如星奈は夜空に泣きついてきた。

 まさか先ほどのスカート事件で心を痛めたのだろうか。

 

「なっ……! その……悪かったよ。お前のスカートの中とかステー○ガストの入口より価値があるってのに」

「ちょっと黙りなさいよ!! さっきから人が散々悩んでんのに肉肉うるさいのよ!!」

 

 そう涙を飛ばしながら怒鳴り散らす星奈。

 夜空は茶番をやめ、真剣に彼女の話を聞くことに。

 

「……どうした?」

「夜空……。あなた、あたしが死んだら……あなたは泣いてくれる?」

「はぁ? 意味わかんねぇこと言うなよ」

 

 と、夜空が星奈の言葉の意図を理解できていないその時。

 

 ガキン!!

 

 突如、体育館の天井から音がした。

 星奈と夜空は目を見開いて天井を見ると、なんと二人の真上の天井の鉄鋼のネジが外れかかっているではないか。

 夜空は察した。このままではやばいと。

 

「!? 星奈今すぐこっから離れろ!!」

 

 と、夜空が星奈の手を引っ張り体育館の倉庫の方へと走り出すと。

 それと同時に二人の方へ鉄鋼が落下してきたではないか。

 夜空の判断があと少し遅ければ、二人とも大惨事になっていた所だった。

 

「ったくあっぶねぇ。てか何、さっきの地震の余波? にしても運がねぇな」

 

 と、何も知らない夜空がそう呟くと。

 隣にいた星奈が、もう胸がはちきれそうになる苦しみを吐き出すかのように喚きだした。

 

「いやぁぁぁぁぁ! いやあああああああああああああああ!!」

「せ、星奈!? どうしたいきなり!?」

「もう駄目! あたし今日死ぬのよぉぉぉ!!」

 

 夜空にはまだ、星奈の言葉の意図が理解できていなかった。

 このままじゃ話もきけない。とりあえず夜空は星奈を体育館の倉庫へ連れ込んだ。

 この密封空間なら、よほどのことが起きない限りは安全だろうと夜空は思った。

 

「はぁ~。何が起こってんだか……。んでよ、星奈お前何があったんd」

 

 そう、夜空が星奈の方へ振り向くと。

 そこには、夜空の予想が届かない光景が広がっていた。

 なんと星奈は急に、自分の衣服を脱ぎだしたのだ。

 

「柏崎さーーーん! あなた何をしてらっしゃるのーーーーー!?」

 

 驚きか口調が若干おかしくなる夜空。

 そんな夜空に、星奈は涙を溜めた目で訴える。

 

「……もうすぐあたしは死ぬから、死ぬ前に……最後に、どうせなら好きな男の子と一線を超えたい」

「え? なんだって!?」

 

 夜空は瞬間的にそのワードを口にするほど、衝撃的な一言が星奈の口から出てきたのだ。

 

「夜空。あんたこんなあたしみたいな美少女にDT奪ってもらえるのよ、しかもあたしはもうこの世から消えるから、本当にあなただけのスペシャルで二千回なのよ」

「意味がわからないんですが柏崎さん! 僕にもわかるように説明してもらえますかね!?」

 

 夜空は動揺からか、口調は敬語で一人称は僕まで戻っていた。

 ちんぷんかんぷんな夜空をいいことに、星奈は夜空に抱きつき。

 そして夜空の衣服を脱がせ始めた。

 

「柏崎さん! この小説R18ついてない!!」

「どうせ完結済みなんだし気にする必要ないでしょ……」

「いや駄目だろ! タグ付けは守ろうよ!! てか本当に何があったの!? 僕だったらなんでも聞くからとりあえず話そう! ね!?」

「え? なんでもしてくれるですって?」

「言ってませんけどぉぉぉ!!」

 

 もう星奈は精神的にマイっているのか、性欲に身を任せてもう普段の星奈ではなかった。

 

「ったく何があったの……。ていうか僕彼女いるのに……」

「いいじゃないのよ。だってあたしもうすぐ死ぬから、邪魔ものは消えるってのに」

「だから……。死ぬってなに?」

「昨日占いで言われたのよ。巷で話題のガブリエラ火輪に……」

「なに!?」

 

 等々星奈の口から、真実が明かされた。

 それを聞いた夜空は、とりあえず星奈の肩を掴んで、一定の距離を取る。

 

「……ガブリエラ火輪って……。ひょっとして神宮寺火輪のことか?」

「え? 知ってるの?」

「僕……じゃない! 俺の中学の時の同級生だよ!! ちょっと待ってろ!!」

 

 そう夜空は半分衣服がはだけたまま、自身のスマホを取りだし電話をかける。

 その相手は、遠夜東第三高校の遊佐葵だった。

 

『もしもし? もうすぐ授業が始まるというのになんですか夜空くん?』

「あぁ葵か!? お前相変わらず身長はどうよ!?」

『いきなりなんですか!? 喧嘩売ってんのか!? あぁん!?』

「じゃなかった!! 火輪は今近くにいるか!?」

『え? い、いますけど……』

 

 葵の近くに火輪がいる。

 それを聞いた夜空は、すぐに彼女に代ってくれるように頼む。

 そして数秒後、火輪に電話が変わった。

 

『イエーイ☆』

「おめぇそれ流行ってんのか? あのさ火輪、お前昨日柏崎星奈って占ったか?」

『柏崎? あぁあの金髪の生意気な子豚ちゃんか……』

「さりげなくひどいこと言ってんな。あのよ、なんでも星奈が死ぬって言われたらしくって」

 

 そう夜空が火輪に問うと、火輪は無情にもすぐに返答した。

 

『ええ、そう私が"予言"したのよ』

「……マジか」

 

 それを聞いて、夜空は肩を下ろした。

 夜空は知っているのだ。神宮寺火輪は優秀な占い師ではない。

 彼女はなんでも、昔から事の顛末を予言する力を持っているらしく、実際に夜空も中学三年生の時、その片鱗を味わったことがある。

 その予言を彼女は占いとして使っているのだ。

 

『私の占いは三割外れる。逆を言えば七割で当たるわ』

「……つまり、柏崎星奈は七割で死ぬってことか?」

『そういうことになるわね』

「……今俺、大変なことになってんのよ。もう星奈がやばくってよ、犯される寸前まで来てんの」

『……犯される?』

 

 その夜空の発言を聞いて、火輪は夜空に聞き返した。

 

「いやその、言い方はあれだがとにかく大変なのよ!!」

『……』

「その、確かに柏崎星奈って奴はバカだ。力任せに暴れ回るしか能がなく、ナルシストでワガママで自分勝手で空気も読めず、自分の事を完璧超人などとたわけたことをぬかしているが、完璧どころか骨の髄まで穴だらけのレンコン女。つまるところ人間の形をした何かだ」

「ひ……ひどい」

 

 焦っているのかわからないが、夜空の口から次々と彼女の悪愚痴が出てくる。

 だが、その悪愚痴はそれだけ彼が彼女を見続けてきた証拠と言うことでもある。

 そして、夜空が本気で星奈を救ってやりたいという信念が、次の言葉から滲み出た。

 

「こいつが石を投げられても仕方ないどうしようもない大馬鹿者と、こいつが死んでもいいという話は全くの別物だ!! 俺はこいつに生きていてほしい!!」

 

 そう電話越しに火輪に叫んで聞かせる夜空。

 それを後ろで聞いていた星奈は、顔を赤らめて感激の表情を浮かべていた。

 

「なんとかならないのか火輪! 予言ってのは事の顛末に対し行動を移さなければ結果が成就される。だが、今俺たちはその予言を知っている。事の顛末を理解しているのだから、予言を変えることは可能なはずだ! ましてや、お前の予言は三割外れるんだからな!」

 

 焦りを見せながらも、それはどこか冷静に夜空は言う。

 そう、予言というのは完璧ではない。朝のテレビで火輪が言ったように、占いが十割当たるならそれは魔法か超能力。

 予言を口に出せば、その内容を知ることに繋がる。例えばこのまま右に進めば水に落ちると言われれば、左に行けば助かるのだ。

 そう、予言は変えられるのだ。単純な発想だが、夜空の言葉は間違っていないのである。

 

『……あっ、あー』

 

 突如、火輪が棒読みでそう口にした。

 それを聞いて、夜空はきょとんと眼を見開いた。

 

「……どうした?」

『夜空くん、予言が変わったわよ』

 

 そう、突然火輪が驚きの言葉を口にした。

 予言が変わった。その言葉に、夜空は真意を問う。

 

「……気休めじゃないだろうな?」

『うん。だって予言を変えたの、夜空くんだもの』

「……は?」

 

 その火輪の意外な言葉に、夜空は唖然となる。

 

「どういうこと?」

『夜空くん、今本気で柏崎さんを死なせないと決心したでしょ。つまりそれは、諦めて柏崎さんに犯されるという事の顛末をひっくり返したのよ』

「はい!? どういうこと!?」

『いやだから、このまま夜空くんが諦めて柏崎さんに筆を下ろしてもらっていたら……柏崎さんの"女としての価値が死んでいた"のよ』

 

 火輪のその説明を聞いても、よく夜空は理解できずにいた。

 

「……だから、どういうこと?」

『つまり、このままだと夜空くんと柏崎さんはS○Xしない。ということは柏崎さんは処女を失わない、処女であるということは柏崎さんの女としての価値は死なない。イコール、"柏崎さんは死なない"』

 

 それらの詳しい詳細を聞いて、夜空はジト目で。

 そして、ついさっき女一人守り通す勢いの発言をしたとは思えない、冷やかな口調で問う夜空。

 

「……要するに、星奈が死ぬっていうのは……命が無くなるってことじゃなくて」

『そう、"処女を失う"って予言よ』

「紛らわしいわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 なんというくだらない、まぁくだらなくはないのだが、大げさな予言に対してのちっぽけな結末を聞いて夜空は呆れ果てた。

 と、ここで星奈はあることに気付く、今日あった様々な不幸の数々。

 

「……じゃあ、朝からのあたしの不幸の連続は?」

『あぁ、あたしテレビで言ったじゃない。おうし座でひどいあだ名つけられて性格がかなり悪くて金髪が整ってたら最悪の運勢だって。それのことじゃない?』

 

 そう、朝からのあの不幸の連続。それは星奈の死の予言ではなく、エンタメでの火輪の占いによるものだった、

 つまり、星奈は死ぬかもしれない程の不幸を味わることはあっても、死ぬまで至ることはなかったということである。

 

「……」

『あぁ、先生が来たわ。そしたらお二人とも、イエーイ☆』

 

 そう一方的に、火輪は電話を切った。

 しばし、体育館の倉庫内で静寂が訪れる。

 そんな静寂を打ち破ったのは、夜空だった。

 

「……まぁその、よかったじゃねぇかよ。死ぬこともないし、処女を失うこともない」

「……」

「ったくびっくりさせやがって。にしても……憑きものが取れた気分だ。お前が死んだらどうしようかと思ったわ」

「……夜空」

「俺的にはお前は心を許した"親友"だからな、小鷹がいなくなるのと同じくらい……悲しくなるわけだよ」

 

 そんな女を落とすような言葉を、スラスラ言えてしまうから夜空はイケメンなのである。

 その夜空の何気ない言葉を聞いて、星奈は顔を真っ赤にして、そして号泣して夜空に泣きついた。

 

「う……うええええええええええええええええええん!! 夜空ぁぁぁぁぁぁ!!」

「おいおい、泣くんじゃねぇよバカ。声もでかいし……」

 

 今の状況を見られたら、どんな誤解を生むだろうか。

 そんなことも考えず、星奈は心から泣き続けた。

 だがいつまでもぼーっとはしていられない、早く着替えて教室に戻らないと。

 と、思った矢先。夜空のスマホが鳴った。相手は葵、さっきのままでいくと恐らく火輪からだった。

 

「もしもし、どうした?」

『その、授業が始まった途端……また見えてしまったのよ』

「え? なにがよ?」

 

 そう夜空が尋ねると。

 火輪の言葉から、衝撃的な一言が飛び出た。

 

『夜空くん、あなた死ぬわよ』

 

 と、その言葉と同時に。

 体育館の倉庫の扉が開いた。

 そこにいたのは……羽瀬川小鷹だった。

 

「……」

 

 彼女の姿を認識した瞬間、夜空はその予言が……多分七割で当たる方の予言であることを察した。

 

「……なんか大きな音が聞こえたから何があったんだろうとかけつけてみたら……。アナタタチ、ナニヲシテイルノ?」

 

 そう、小鷹の目の色が徐々に紅く変色していく。

 夜空は、冷静に火輪に電話で応対した。

 

「……火輪、お前の占いって確か」

『私の占いは三割外れる。イエーイ☆』

「で・す・よ・ねー。あは、あはははははははは! あーーーーーーーっはははははははは!!」

「夜空ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」

 

 その後、ガブリエラ火輪の占いが当たったかどうかは、定かではない。




お久しぶりです。はがないの10巻を読んで帰ってきちゃいました。
10巻発売ということで、生徒会の一人である神宮寺火輪のストーリーです。
今作では彼女はボードゲーム部の部長ではなく、クリスチャン設定から派生した占い師キャラとなっています。
あと、夜空や星奈の台詞のところどころにも、最新刊である10巻の要素が盛り込まれています。楽しんで読んでくれたら個人的には恩の字です。個人的には久しぶりにギャグ全開で書けたかなと思います。

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