はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド-   作:トッシー00

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第4話です。


三日月夜空と柏崎星奈

「なんでてめぇがここにいやがる?」

 

 学校が終わり、夜空が一足遅く小鷹の家に向かうと。

 そこには小鷹ともう一人、昨日さんざん小鷹を罵った星奈の姿があった。

 その奇妙な現象に、夜空が顔をしかめる。

 

「別に、私もこの子の手伝いをしようと思っただけよ」

 

 と、いけしゃあしゃあと言う星奈。

 当初小鷹は、『冷やかしならやめてください』と断ったのだが、一度言ったら撤回などしない星奈は無理矢理ついてきた。

 あれだけ『一緒にいたら質が落ちる』だのなんだの言いたい放題言っていたのに、いったい何があったというのか。

 

「何回も断ったんだけど、どうしてもって言うから……」

 

 小鷹自身も仕方なくといった感じであった。

 確かに昨日の態度から一変したのには裏がありそうだ。しかし無理に追い返すのに専売特許の怪力を使うわけにもいかない。

 かといって口喧嘩では相手には勝てない小鷹。結果的に星奈に飲まれる感じで仲間に入れてしまったのであった。

 

「言っておくけどもう決めたからね。私も仲間に入れてもらうから」

 

 と、言って一歩も動こうとしない星奈。

 小鷹は半分諦めた様子で、夜空はこめかみをヒクヒクさせていた。

 

「ほら、私って完璧じゃない?」

 

 それを聞いて、小鷹と夜空がイラっとする。

 よくこれだけ自分を好きになれるなぁ、と変な意味で尊敬する。

 

「成績優秀スポーツ万能、容姿端麗。まさに世界は私のためにあるようなものよ」

「理屈になってねぇよ……」

 

 言いたい放題の星奈に、夜空は呆れたように呟く。

 

「んで、どうしてそんな完璧な柏崎さんがボクの力になってくれるんですか?」

 

 小鷹はわざとらしく敬語で尋ねる。

 昨日、散々なまでに小鷹の外見から中身に至るまで侮辱し、リミッターをはずさせるまでの怒らせた彼女が一日経って一変する。

 あきらかに冷やかしか、裏があるようにしか思えない。もし昨日の腹いせというならば小鷹自身も黙ってはいられない。

 

「そんなのどうだっていいでしょ?そこの皇帝だってあんたの手伝いやってるんだから、ほとんどおんなじ理由よ」

「てめぇみたいな中身が錆だらけの下品な牛女と一緒にすんじゃねぇよバカが」

「不良ぶって社会のゴミになって汚れまくってるあんたには言われたくないわよ」

「……んだとてめぇ」

 

 容赦ない星奈の罵声に、夜空がこれまで見せたことのないほどに怒りをあらわにし始めた。

 そういえば、と小鷹はあることに疑問を抱く。

 初めて星奈の話題を出した時も、夜空は急激に表情をしかめた。

 その後も星奈の話題が出るたびに、夜空の機嫌は悪くなっていた。

 それに加え、夜空は以前から星奈の事をよく知っているようにも見えた。

 

「……ちなみにお二人は初対面……なの?」

 

 小鷹がそう聞くと、星奈がすぐさま答える。

 

「ふん、まぁ一応こいつとは……」

「初対面だ。こんな下品な女など気にかけたこともねぇ」

「っ!?」

 

 その星奈の言葉を遮るように、夜空がすぐさま訂正を加える。

 結局は、夜空自信が単に気に食わなかっただけのようだ。まぁ気持ちはわかる。小鷹はそう思った。

 肝心の星奈は、なにやら腑に落ちないような、寂しそうな表情を浮かべる。

 

「……そうよ、でもこいつは私にとってずっと前から敵だったのよ!!」

 

 と、いきなり敵対宣言をかます星奈。

 

「私はこの学校で男子どもを下僕としている、いわば聖クロニカの女王よ!そしてこいつは聖クロニカの皇帝って呼ばれてる。正直気に食わないのよ」

「うっわぁ、そんな小学生のような争いしたくないわー。お前の女王って俺の皇帝と違って自分で名乗ってんじゃねぇか。ないわー、星奈さんマジ小二病だわー」

「なんですって!!」

 

 夜空のバカにするような態度に憤慨する星奈。

 そしてそれを黙って見てるだけの小鷹。あれ?ちょっと仲間外れにされはじめた?と自分の立場に自信を無くす。

 

「っていうかおたくなに?あの男子どもに本気で崇拝されてるって信じてんの?いたたたた痛いよお母さん!ここに頭怪我してる人がいるよ~!!」

「ちょっ!何よ嫉妬してんでしょ!?自分が男子生徒に遠ざけられてるからって!!あの下僕どもは心の底から私に全てを捧げてるのよ!!」

「いやいや何を言うかこの牛の女王様は。男子どもはお前の※※※とか※※※しか狙ってないっつうの。いずれ捧げるのはお前の身体自身だ。早く男子どもにレイプされて死ね!!」

「あ……ああああああんたこそ、学校から追放されて死ねこのクソ皇帝!!」

 

 と、小鷹からすればもはや小学生の喧嘩をしている美男美女であった。

 さりげなく卑猥な単語まで混ぜて罵詈雑言を連発する夜空に、小鷹は無意識に顔を赤らめる。

 

「……殺す!」

「……潰す!」

 

 どうしてこうも仲が悪いのだろうか、小鷹自身も星奈の事はあまり好きではないがここまで喧嘩するのを見るとよほど険悪なようだ。

 犬猿の仲とかってレベルではない、いざやとしずお並みの仲の悪さである。

 

「……でも、なんか逆に仲良しに見えなくもないような」

「なんか言ったか?このナイチチ」

「あんたは黙ってなさいよこのギョウ虫女!」

 

 ……発言したら心に傷つくひどいことを言われたの巻。

 お前ら女の子に対しての配慮とか皆無なのか?と美男美女の二人の容赦のなさに悲しくなる小鷹。

 

「っていうか本当に気に食わない!うちの学校で私に跪かない男子なんてあんた一人くらいよ!!」

「てめぇにひざまずくくらいなら隣にいる汚い金髪を舐めた方がマシだっつうの!!」

「てんめぇそれどういう意味だよ……」

 

 さりげなく罵倒されたのに対し腹を立てる小鷹。てか汚い金髪とか言うな、コンプレックスベスト3なんだから。と内心本気で傷つく小鷹。

 というかこのままじゃあ拉致があかない。ここは隣人同好会、手伝ってもらう立場とはいえ話を元に戻さないと。

 

「ま……まぁまぁそろそろその辺にしておこうよ。あなたたち喧嘩するためにボクの家に来たわけじゃないでしょ?」

 

 むしろ喧嘩するだけに我が家を舞台にするなら出てけや、と内心思う小鷹。

 

「そもそもてめぇがこの女を不用意に仲間に入れたのが悪いんだろうが。この女絶対に昨日の腹いせ目的だぞ?」

「だから勝手に決め付けないでよ!!このギョウ虫女を手伝ってあげるのは嘘じゃないんだから!!」

 

 てかそのギョウ虫女って呼び方やめろや、と小鷹はそのあだ名をひどく嫌う。

 

「確かに無理やりついてきたっていうのはあるけど、一応その……柏崎さん美人だし」

「う……あんたその、結構うれしいこと言ってくれるじゃない」

「あ~あ、お嬢様育ちの牛は社交辞令って言葉もしらねぇらしいな」

「なんですって!あんたは黙ってなさいよ!!」

 

 小鷹が話の脱線を戻そうとする度に、夜空ないし星奈が互いを罵倒し脱線させるこのエンドレス。

 もはや完全に、小鷹は蚊帳の外になりつつあった。

 

「うぅ……頼む立場で言うのもあれだけど……二人ともちょっとは仲良くしてよ」

「仲良くぅ?この女のどこに親しく感じられる要素があんだよ。身体目的しか近づきようがねぇじゃねぇか!!」

「あ……あんたその最低発言やめないと本気でパパの圧力で退学にさせるわよ!!」

「きましたよ!何かある度に理事長であるパパを後ろ盾に女王様は発言!!完全にガキのやることじゃねぇか!!パパたちゅけて~ってか!!」

「ううううううううううううう!!腹立つ腹立つ腹立つ!!」

「…………」

 

 完全に、もうここにはいないような扱いになっているリアルぼっち小鷹。

 ここはボクの家なのに、友達作り手伝うとかなんだで勝手に人の家に上がり込んで……。

 その上喧嘩するだけして……、人のことは無視して……。

 徐々に怒りのボルテージが上昇する小鷹。しかしここは我が家。手荒いことをすれば住処が傷つく。

 小鷹は怒りに震えながらも考える。そして一人寂しく、席を立つ。

 そんな小鷹の様子など気にもせず、ただただ小学生のような喧嘩を繰り広げるイケメン皇帝と超絶美少女。

 

「とにかく今すぐこの家から出てけこのデカチチくそビッチが!!」

「あんたこそ出て行きなさいよ!!あのギョウ虫女は私一人いれば大丈夫だから!!もうあんたの役目は終わったのよ!!」

「"友達いない"やつが友達作り手伝うとかなにそれ笑えねぇんだよ!!文句あるなら友達一人でも作ってみろや!!」

「あんただって友達いないじゃないのよ!!確かに……あんたは色々と顔がきくようだけどさ!!」

「てめぇよりは何百倍もマシだ!!てめぇなんて外見と金だけで評価されてきただけのただの肉人形だろうが!もはやただの肉だ!!この肉が!!」

「あ……あぁぁぁぁぁぁ!!なんでよ!!ただ私は……私はあんたと!!」

 

 ブシュン!ガララララララララーン……。

 

「「…………」」

 

 突如として、二人の終わりなき喧嘩が沈黙した。

 二人が音が鳴った先を見てみると、"包丁"が綺麗な形で壁に突き刺さっていた。

 投げられた包丁はそれはみごとな軌道を描き夜空と星奈の間を通過、そのまま壁にまっすぐ突き刺さる。

 そんな包丁をものの見事に綺麗に投げたのは、さきほど仲間外れにされて一人寂しく席を立った少女。

 包丁とは逆の場所に、小鷹がその光のない目でギラリと二人を睨み、立っていた。

 

「……えぇと」

 

 夜空が戸惑いを見せる。

 

「……これは、何?」

 

 星奈が小鷹に尋ねる。すると小鷹はわざとらしく可愛げに……。

 

「……だーちゅ☆」

 

 そう発言し、ゆっくりと笑顔で席に戻る。

 その後しばらく、二人は嘘のように黙り込み、恐怖で身体を震えさせていた。

 小鷹はそんな二人を怖がらせないようにとニコニコ笑顔を絶やさずにいたが、逆にそれが二人には怖かった。

 

「……ゴホン!落ち着いた二人とも……?」

 

 小鷹がそう言うと、夜空と星奈が我に返る。

 

「その……すいませんでした」

「他人の家で……好き勝手やっておりました」

 

 まさかの星奈まで敬語で謝る始末。

 小鷹はそれを聞いて、「よし……」と呟く。

 

「それで、別にここまで来ちゃったらもういいよ。柏崎さんも仲間に入れよ?」

「ま……まぁ小鷹がいいって言うならかまわねぇが」

 

 と、少々嫌そうに答える夜空。

 しかし変に反論すれば、今度はだーちゅどころではすまないかもしれない。

 

「というわけでその、改めてよろしく柏崎さん」

「え……えぇ。ありがと」

 

 素直じゃないながらも、内心嬉しそうに言う星奈。

 こうして小鷹の傍には、美少年と美少女が揃ってしまった。

 これから先小鷹は、この二人によるプロデュースを受け、花ある学園生活にするため猛進するのであった。

 

 ただ、美女の方は小鷹と同様に友達が少ないわけだが……。


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