はがない性転換-僕は友達が少ないアナザーワールド- 作:トッシー00
「小鷹、お前MOって知ってるか?」
「えむおー?」
金曜日の放課後、夜空は小鷹の席に来ていきなり聞いてきた。
聞きなれない単語だったので、小鷹は首を横に振る。
「知らない、なにそれ?」
「オンラインゲームだ。正式名称はモンスター狩人・オンライン」
モンスター狩人・オンライン―――通称:MO。
全国でのユーザーが200万人を軽く超している。日本でも特に大ヒットしている人気のオンラインゲームだ。
人気ゲームであるモンスター狩人のオンラインバージョンで、全国色んな人と協力して狩りが出来る。
その圧倒的なボリュームが受けに受けて、お金はかかるが大盛況。ここにいる夜空も熱狂的なMOユーザーである。
「明日学校休みだろ?だから一緒にネカフェに行ってお前にやらせようかと思ってな」
「別にいいけど、お金かかるんでしょ?」
オンラインゲームと聞いて、最初に危惧した部分がお金。小鷹自身貧乏というわけではないが学生やはりそこがネックとなる。
ちなみにMOは初月無料。だが次の月からは1400円払わないとプレイできない。
その他オプションとして1000円を払うたびに様々なサービスを受けることが出来る。ハマり込めばお小遣いが破産する可能性だってある。
「ハマり込めばな。俺がお前のやらせようと思った理由は色々と紹介したい人達がいるからだ」
「紹介したい人達?」
小鷹がそう尋ねる。
「俺が参加しているここ遠夜市内のレギオンがあってな、暇な時はその人たちとチャットをしてるんだ。お前もその人たちと関わってくことが出来れば友達も自然とできるんじゃねぇかと、俺は思ったんだ」
MOはここ遠夜市の人たちにも愛されている。
実際に聖クロニカ学園の生徒でもプレイしている人は何人かいるらしい。
夜空はその遠夜市内のとあるレギオンに参加しており、去年には何回かオフ会をしているとの話である。
実際にそのユーザーの何人かとはリアルでもしょっちゅう会っており、大体が顔見知りなのだという。
「でも、なんか怖いなぁそういうの」
「お前はこの学校のクラスメートにも同じこと言ってんじゃねぇか。お前は他人というもの全般が怖いだけなんだよバカ」
「むー」
何かしらバカにされた上、バカとまで言われてむくれる小鷹。
少し不機嫌になる小鷹などお構いなしに、夜空はその体験談のいくつかを語りだした。
「"スケゴ"ってやつは駅前のセブンスで働いてるし、"ユーサー"とはボランティア活動に参加した時に一回会ったなぁ」
「ふ~ん、てか皇帝ってボランティア活動とかしてるの?」
「暇つぶしだ。俺はこの学校じゃあ孤立してるが、街じゃあ結構顔がきく」
と、不良なイメージのあった夜空の意外な一面を垣間見た瞬間であった。
めんどくさいなぁ、とか洩らしながらゴミとか拾っているのだろうか。
その皇帝という名称は、ひょっとしたらこの学校だけではないのかもしれない。
「とにかく明日ネカフェに行くぞ。お前どうせ休日は家に引きこもってばかりだろ?」
「う……」
「はい言い返せない。決定だ」
と、勝手に隣人同好会の土曜日の活動を決定し、夜空が帰ろうとした時だった。
「はいはい!私も明日一緒に行くわよ!!」
どこからか聞きつけたのか、星奈が小鷹の教室へとやってきた。
教室に入った瞬間男子生徒の視線が星奈に行く。だが一人皇帝と呼ばれた男は舌打ちを鳴らし目線を反らした。
「ってなんで無視すんのよ!!」
「話すだけで体力が削れるからだ……」
「なんですって!!」
「まぁまぁ……」
さっそく喧嘩に発展しそうな二人を、小鷹は優しく止めに入る。
「てめぇは来んな。お客が迷惑すんだろうが」
「ちょっと!何よその言いがかりは!!」
「お前の姿を見た瞬間「うっわぁ、うざそうな女来たわぁ」って愚痴をこぼす店員さんの顔が浮かんだわ」
「勝手に決め付けないでよ!!ネットカフェの店員も私の魅力に釘付けよ!!」
と、小鷹が止めに入ってもやっぱり一度点火すると中々止まらない。
あっという間に二人の痴話喧嘩はヒートアップ、周りにサクラまで出来始めている。
「何が釘付けだ。釘付けなのはてめぇの魅力じゃなくててめぇの身体だこのバカが!!」
「うがぁぁぁぁ!!また身体身体って!!あんた本当は私のこと狙ってんでしょ!?」
「はぁ!?性悪女のどの口が言いやがる!!お前で満足してんのはそこにいる下僕扱いの男子どもだけだろうが!!」
「ふざけないでよ!!私はこの学校どころか遠夜市、いや全世界で最も美しい神で美少女なんだから!!」
「黙れこの肉人形が!!お前なんてそこらの奴らの盗撮材料でしかねぇんだよ!!お前の下僕どもは毎日家で盗撮したお前の写真をオカズにしてオ○ニーしてるに決まってらぁ!!」
「な……ななななんてこと言うのよあんた!!って今そこの男子!ぎくぅって顔しなかった!?」
喧嘩が止まらないどころか女子である小鷹にはとても聞いていられないほど卑猥な内容になってきた。
お前らなんていう会話を教室のど真ん中でやってるんだよ……と顔を半分赤らめるおいてけぼりのぼっち少女小鷹。
当然オカズとまで言い放たれた星奈も顔を真っ赤にして泣きそうにしている。夜空はというとそこまで女子を追い詰めても悪気なく罵倒し続ける。
このままじゃああと1時間は収まりそうにない、次第に怒りが湧き上がる小鷹。自然と拳を握りしめる。
「あんたみたいな最低男なんて死ね!!顔だけのチャラ男不良社会のゴミ!!」
「てめぇこそ死ねやオ○ホ女!!散々使い潰されて砕け散れ!!」
「うがぁぁぁぁぁぁ!!死ね死ね死ね!!」
「砕け散れ!砕け散れ!砕け散……」
ドゴォォォォォォン!!
その時、近くで何かが砕け散った音がした。
音の先にいたのは、拳を握りしめ笑顔で怒るおいてけぼり小鷹であった。
そして、小鷹の目の前には無残にも砕け散った勉強机が、まるで涙を流しているように見えた。
「……喧嘩、やめよっか☆」
小鷹がそう言うと、先ほどまで喧嘩していた中身は小学生な美男美女が一瞬で沈黙した。
その後、何事もなかったかのように二人は小鷹に連れ去られる。それを教室の生徒達は黙って見ていることしかできなかった。
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翌日。土曜日は学生にとって休日。
小鷹達三人は午後十二時、市内のネットカフェ『深淵からの叫び声』に集まった。
ここは夜空がお勧めする市内の隠れた場所にあるネットカフェで、あまり人は入っていないが中の施設はかなり充実しているという。
「……おめぇ休日のお出かけに学生服はねぇだろ」
集まった矢先、最初に避難があったのは小鷹の服装であった。
小鷹は休日だというのに学生服という、お前そんな真面目ちゃんだっけ?といったような顔をした。
そんな小鷹とは違い、イケメン皇帝夜空の服装は黒が印象的なTシャツにタンクトップ、下はジーンズ。まさに都会の兄ちゃんという服装であった。
星奈はスカートにキャミソールという普通の格好だが、もともと目を引く奴が似合った格好をすれば注目度はさらに増す。
「あんまり、そういうの気にしないから……」
もともと女子力が少ない小鷹は、おしゃれに気を使うことがない。
お出かけだというのに相変わらず長めの濁った金髪は整っておらず、いつも通りというなんともフォローもできない。
夜空と星奈もそれを見て、問題点はそこもあったか……と呆れ顔を浮かべた。
「……服屋にした方がよかったかもな」
「まぁいいんじゃない、そこら辺はぼちぼちやってけば……」
「つか肉、こいつの女子力鍛えるのはてめぇの担当だろうが。仕事さぼんなら隣人同好会からはずれろ」
「うっさいわね!大きい活動だって今日が初めてだしこれからやっていけばいいでしょ!!というか肉って言うな!!」
「黙れ!てめぇなんてただの肉だ!!」
と、休日に集まってさっそく喧嘩するようなやつに休日うんぬん言われるのもなぁ……と小鷹は呆けた顔をする。
学校と違って街の人の目もある。ここで喧嘩されるのもまずい。とすぐさま止めに入る。
「二人とも、せっかくの休日なんだし喧嘩やめようよ……」
「ちっ……しゃあねぇな」
「む……しょうがないわね」
あっさりと喧嘩をやめた二人。
恐らくではあるが、日に起こる小鷹の武力的なやり方に何かしらの恐れを抱き始めたのかもしれない。
喧嘩を止め三人はネットカフェに入る。受け付けをするためやり方のわからない二人は椅子へ、ここの常連である夜空が前に出る。
「えぇと、ペア席とシングル。あそこの女二人がペアで俺がシングルで……」
と、プランを独断で決める夜空。
どうやら小鷹は星奈と一緒の部屋に入ることになるらしい。
「おい肉、お前一応MOのやりかたわかるよな?」
「えぇ、最近はやってないけど登録のやり方は覚えてるからこいつに教えることはできるわ」
と、星奈も一応MOは知っているらしい。
「パソコンは一台だけだから、てめぇは小鷹の隣で操作方法とか教えてやれ。俺は一人で手伝ってくれる奴とコンタクト取ってくるから」
「わかったわ」
さっきまで喧嘩していた二人とは思えないほど意思開通している夜空と星奈。
仲悪いはずなのに、ボクのために……となんかヒロインキャラになった感覚で思いあがる小鷹。
この二人は、結構なんだかんだで小鷹の面倒を見てくれるらしい。
「はぁ、ネットカフェなんて久しぶりね」
「柏崎さんは来たことあるの?」
小鷹がそう質問し。星奈が「一応……」といった感じで答える。
その時の星奈の顔からは、懐かしさというよりもなんとなく寂しさを覚えた。
「さてと、あいつが仲間集めてくる前にこっちも済ましてしまうわよ」
星奈にそう言われ、星奈の指示のままパソコンをつけMOのアイコンをクリックする。
開くと登録無料と書かれており、個人情報を打ち込むページへ。
その後キャラクリエイトというページが出てきて、性別やら髪の色やらを設定する。
最後にネットカフェでサービスとしてついてくる初心者用装備Cセットを手に入れ、ハンター"ファルコン"がデビューした。
「……ファルコン?」
「うん、ファルコン」
「……あんた"鷹"よね?なんでファルコンなのよ?」
「ホークよりファルコンの方がかっこいいからね」
と、自分の名前の一部分を否定して隼を選択するファルコン小鷹。
小隼という名前なら分からなくもないが、一度決めてしまっては名前は変えられない。
星奈は小鷹のへんな感性に首をかしげながらも、序盤のプレイを教えていく。
「さてと、じゃあ私達にフレンド登録送るわね」
「うん、名前教えてよ」
「夜空のやつより私の方が簡単に出そうだから私のから入るわね。『せもぽぬめ』で検索して」
「……なんでそんな名前なの?」
そのなんとも言えない、適当に押して決めたようなキャラネームに小鷹は聞かざるをへなかった。
聞かれるとはわかっていたが実際に聞かれ、星奈は少し困ったように、ぶっきらぼうに答える。
「……別にいいじゃないのよ、ただ適当に決めたのよ。(……あんのバカに適当にコントローラー操作されて決まったんだけども)」
本人がいいというのだから、気にすることはない。
小鷹は検索で『せもぽぬめ』を打ち込み、出てきたキャラの欄を選択。
そしてフレンドを登録して、そのフレンドリストの中をのぞく。
「えぇと、そっから『エンペラー』ってやつを見つけてクリックしなさい」
そう、そのエンペラーこそが夜空のキャラであった。
見つけて『あ~』となんか直観的なキャラネームだなと思いながら、小鷹はエンペラーもフレンドに登録する。
と、そこで小鷹はあることに気付く。
「……なんで柏崎さんのフレンドリストに皇帝の名前があるの?これって前から知り合いってことだよね?」
あの日、二人が家に揃った時、夜空は「初対面だ」と言った。
しかし初対面なのにこうしてネットゲームでフレンドになっているのはおかしい、小鷹は探究心のまま星奈に話を振る。
それを聞かれ、星奈が思わず黙り込んだ。
「………」
「???」
意外な反応だった。
だがその後星奈は、何も語ることはなかった。
沈黙の仲、夜空からゲーム内のメールが送られてくる。
メールが送られてくると同時に、隅のチャット欄に自分と夜空のネームが追加される。
『数名にコンタクトを取ったが、参加できるのは一人だけだ。俺の従妹が手伝ってくれるとさ』
いとこぉ?と小鷹はその文面を見て思わず目をぎょっとさせた。
それは小鷹だけでなく星奈も驚いていた。夜空に従妹がいたとは……まったくの初耳だ。
そしてメールが届いてからほどなくして、夜空の従妹と思わしきユーザーが隅のチャット欄に追加される。
キャラネームは【シグマ】。この人が夜空の従妹なのだろうか。
『あ、初めまして。お兄ちゃんがお世話になってます(^-^)』
顔文字付きの文面、なにやらシグマさんからは今時っ子の匂いを感じとった。
それに続くように夜空も、『余計なことは言わなくていいよ……』と呆れたように返した。
これは自分も挨拶した方がいいのかな、と小鷹はキーボードを打ち込む。
『あ、初めましてシグマさん。ボクはファルコンと言います。本名は小鷹って言うんですけどね』
「……あんたネトゲで本名ばらすの?」
「あっ、そうか」
文面を送信する前に星奈に指摘され、『ファルコンと言います。』の部分で止めてエンターキーを押した。
返ってきたのは『よろしくお願いします(^-^)』。愛嬌のある人だ。ネットの人はこういう人が多くて助かる。と内心ほっとする小鷹。
その後、そのシグマさんはなにやら夜空充てにこんな内容を送信してきた。
『ところでお兄ちゃん!次いつセッ○スできるの!?』
どがしゃーーーーーーーーーーん!!
何が壊れたわけでもないが、突如として大きな効果音がネットカフェ内に響き渡る。
先ほどまで小鷹がいたペア席にはその少女の姿はなく、なんというスピードか小鷹はいつのまにか夜空のいるシングル席へ。
そして問い詰めるかのように、夜空を座っている椅子に押し付ける小鷹。
「おいてめぇ、従妹とはいえ年下の女の子となんちゅうことをやってやがんだぁ?」
「うぐぐぐぐぐぐぐちちちちちがう!!これはなんつうかその……スキンシップゥゥ!!」
専売特許の怪力で夜空を締め上げる小鷹。
確かに従妹ときてあのような単語が出てしまうと、もうそこには犯罪の匂いしかしない。
思い返せば皇帝は星奈と喧嘩をする時卑猥な単語を連発しているが、これが実際の行為に出ているとなると女子の小鷹からすれば放ってはおけない。
「なーにーがースキンシップだぁ!!てんめぇマジでそこまでの外道だったのかぁ!!」
「くくく苦しい……た……頼むからそのアホみたいな怪力で締めるな!!てか締めないでくださいお願いしますぅぅぅ!!」
苦しいながらも必死に声を絞り出して助けを求める夜空。
星奈も騒ぎを聞きつけて様子を見に来る。「なにやってんのよ……」といった呆れ顔で二人のやり取りを客観視していた。
「……んで、実際のところは?」
「はあ……はあ……。いやさうちの従妹、めっちゃエロネタ連発するやつでさ。思春期ってやつ?つうかいっつもそんな感じ」
「……本当に、手出してないでしょうね?」
「…………」
「なんか答えろやーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
と、小鷹の怪力パンチが夜空の腹の部分にクリティカルヒットする。
これにはたまらず夜空も「ぐほっ!」と口からなんか出した。
「おごごごごご!てめぇ……その怪力で人殴んのはやめろや……マジで死にそう……」
「最低なあなたが悪いのよ、イケメンだからって何やっても許されると思うなよ」
軽蔑の眼差しで、小鷹が夜空を見る。
「あたたたた、でもよ、うちの従妹もそうだけど……俺たちってこういう年頃じゃね?」
「おめぇまだ言うか……」
小鷹が拳を握りしめ、夜空が本気で焦る。
「わかったわかった!ここは公共の場!!お客の迷惑!!暴力反対!!」
「……そうだね」
周りの状況を確認して見て、小鷹が顔を真っ赤にする。
「まぁいずれはその従妹も紹介してやるよ、なんか近々市内に来るって話してたし」
「……なんか会いたくないんですけど」
「一見こんなエロマスターだがその正体は世界で活躍する超天才発明家だ。サインくらいもらっておけよ」
「……そうなの?」
夜空の話では、その従妹は一種の業界では超有名人らしい。
それなら会ってみるのも悪くないかな、と小鷹は内心思う。
「さてと、従妹のアプローチに返信してやらねぇとな」
そう言って、夜空は先ほどの卑猥な内容に対しての返信をキーボードに打ち込む。
『……今度会った時な☆』
「死ねーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
まったく反省の色のない文面を見て、小鷹は渾身の一発を夜空に見舞った。
結局その日はみんなで狩りに行くことはできず(夜空が気絶したから)、他のユーザー達との会合も後日に持ち越しとなった。