リオ会長とトキが負けた。リオ会長を守りながらの戦闘となったためトキは力を発揮できなかった。なるほど、会長は足手まといだったのか。勉強になった。
負けちゃったので、遠隔で2人に付けたヘイロー破壊爆弾を外した。殺人はしたくないので。
そして、あれよあれよという間にエリドゥのコントロールタワーまで先生たちがやって来た。
「ふふふふ。よく来ましたね先生。しかしもう遅いです。準備は整いました。このスイッチを押して、keyを無理やり起動すれば! って、スイッチがない!? あれ? あれれぇ!?」
ポケットの中をガサゴソするが、まったく見つからない。落としたのだろうか? いや、そんなことはない!
「おい。探し物はコレか?」
「あー。それです。ありがとうございます。ネルさん」
「おっ、おう」
「じゃあ、私に返してくださいね」
「返すわけねーだろうが! あんたをぶっ倒すんだよ!」
ネルさんが恐ろしい。しかし、ここで折れるわけにはいかない。とはいえ、私のミメシスの力はそれほど強くない。そもそもミームとしての認識に働きかける力だ。
直接的な戦闘能力はそこまで無いのだ。だからこそ、会長とトキを利用した。ここは、穏便に話し合うしかないだろう。
「あのー。女の子1人をよってたかって虐めるのって良くないと思いますよ」
「あぁ!? フザケてんじゃねぇぞ!」
「ひぃん。ネルさん。怖いから怒鳴らないでくださいよ。先生も何か言ってください」
「"ミテルの話を聞いてからで良いんじゃないかなぁ?"」
「ありがとうございます。やっぱ好きなんすねぇ」
「おい!」
不良は苦手だ。前まで私に宿っていた彼女が嫌いだったから。輪廻ミテルという少女は一度死んでいる。彼女は、中学3年生の頃、虐めを苦にして首を吊っていた。
死の直前に、神秘が作用したのかヘイローは砕けなかった。その代わりに私という残滓が宿った。前世のミームと、核となる人格の残滓で拵えられた私は、ミメシスの本能に従って情報を拡散した。
でも、そんなこと彼女が哀れすぎる。私というナニカに身体を乗っ取られ、そのまま眠っているなんて悲しすぎる。だから、リオ会長の陰謀に便乗したのだ。
アトラ・ハシースの船を使い、世界をアーカイブ化しこの世界から銃を消し去る。虐められていたあの子は銃を見ると怯えていたから。獣耳もあの子は嫌いだった。あの子を虐めていた主犯に生えていたから。
だから、前世のようにしてやるのだ。少しでも良い世界にしてこの身体をあの子に返したい。そういうことを話した。
「ちょっと待って! 今、私が話しているミテルはどうなるの?」
「……存在意義を果たしたら消える」
「そんなのダメ! 私はあなたが何で有っても友達だと思ってる! 居なくなっちゃうなんて言わないでよ!」
「モモイ。その気持ちだけで、私が存在した意味は有ったよ。ありがとう」
「待って…! ダメだから! そんなの許さないから! ミテルのそんな辛そうな顔は見たくないの!」
「私は消えなければならない存在なんだよ。ここに居る皆を倒してでも、私は目標を達成する」
「そんなッ!!」
「私の話を聞いて、みんな私を認識したよね? だったらもう私の支配下に有るはずだ。ちょっとだけ我慢してくれれば、世界は変わる」
みんなの顔を見るのも、これで最後になる。ここで泣くわけにはいかない。使命を果たさないと。ネルから起動装置を取り戻しスイッチを入れる。
さよなら。みんな。
ミテルの肉体が様々な機器と接続されている。意識は無いようでピクリとも動かない。ようやく、身体の自由を取り戻したモモイが傍に駆け寄る。
「ミテル! 返事してよ! 起きてよぉ」
「"どうすれば……"」
「諦めるのは、まだ早いです。この超天才清楚系美少女ハッカーにお任せください。リオもコユキもここには、居ますから」
「ええ。ミテルの取った選択は看過できませんから」
「よくも私を扱き使ってくれたな〜! 叩き起こして借りを返させてやる!」
ミテルの精神へと潜り込むことで、アトラ・ハシースの船の顕現を止めるのだ。自身を消滅させて世界を変える。そんなことを大人である先生は許せなかった。
「"私が行く"」
「先生、ここは私が行くよ」
「アリスも行きます!」
「お姉ちゃんもアリスちゃんも……私だって!」
「……怖いけど、私も行く」
「"みんな…!"」
精神世界でようやくあの子に会えた。あの子は退屈そうに私を待っていた。
「誰が私を出してなんて頼んだわけ?」
「えっ」
「あの子たちは、アンタの友達でしょ。なんで私と上手くやれると思ったの?」
「そっ、それは……」
「大体、私はアンタの中で引きこもってる方が好きなの。そんなに私のことが心配なら、時々出てあげよっか?」
「……そうしてくれると嬉しい」
「アンタ、自分勝手すぎ。私の都合なんて考えずに勝手なことばっかり。はっきり言って迷惑なの。ほら、迎えが来たから帰った帰った」
「そんなんだから、虐められるんだよ」
「はぁー!? もう知らない!! バイバイ!」
先生とゲーム開発部のみんなが、私に手を伸ばしているのが見えた。羨ましそうな表情を浮かべたあの子が、私の背中を押した。
そっか、私はまだみんなの手を掴んで良いんだ。
モモイの手を掴む。そしてそのまま意識を浮上させる。
「良かったぁ。戻ってきてくれて良かったよ!」
「うん。ありがとうモモイ」
私は、責任を取ってセミナーを辞めた。大変なことをしてしまったのに、みんな同情的だった。
「ゲーム開発部にようこそ! ミテルのことみんな歓迎するよ!」
「……ありがとう。みんなに迷惑を掛けちゃってごめんね」
「全然大丈夫。それよりも、みんなでゲームしようよ。ミテルも入部したんだし!」
「アリスと淫夢ごっこをしましょう!」
「ちょっ、アリス!?」
みんなの笑顔に釣られて笑ってしまう。こんな私が笑っちゃって良いのだろうか。
「ねぇ? アンタがセンセイ?」
「"そうだけど"」
「私はミテル。もう一人のミテルよ」
「"おおー"」
「おおー、じゃないわよ。ミテルが、どうしてもって言うから来てやったんだからね。あっ、そうだ。私のことはリンネで良いわ。ややこしいから」
「"よろしくリンネ"」
「別に、アンタとよろしくやるつもりはないわ。生徒の足を舐める変態とはね!」
リンネの指摘に先生は固まってしまう。リンネは確かにそれを知っているようだった。
「ほら! 事実じゃない! 変態ロリコン! ミテルの足を舐めたら許さないんだから!」
「"舐めないよ"」
「どうして、こんな奴と話して来いなんてミテルは伝えてきたわけ?」
「"ごめん。間に合わなくて"」
「え? 何のこと?」
「"虐めのことだよ"」
リンネは黙った。それから、少しして口を開いた。
「アンタを責めても仕方ないって分かってる。ミテルが居たからそれで良いの。あっ、これ内緒だからね。絶対ミテルに言わないでよ!」
「"うん。言わないよ"」
「もう終わり! じゃあ、おやすみ!」
リンネが目を閉じた。そして、ミテルの肉体が目を開いた。
「先生。大丈夫でした?」
「"大丈夫だったよ。思ったより元気な子だ"」
「多分、虚勢だと思うんで優しくしてあげてください」
「"分かってるよ"」
ミテルの中にいるリンネは時折先生のところに顔を出すようになった。もっとも、まだ棘棘したところが残っていて、他の生徒とは会っていない。
根は素直なはずなのだが、辛い経験を経たことにより言動がキツイものになっているようだった。
結局、輪廻ミテルが起こした事件はキヴォトスでは小さなものだった。この神秘溢れるキヴォトスでは、世界滅亡の危機なんてしょっちゅうなのだから。