君と奏でる幸せの音∶intermezzo   作:賀茂川泰伸

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今回のお話は本編のプレイバックみたいな形になります。
7話裏側の百合子視点で進みます。一人称視点から書くのは初めてですが、どうかお付き合いください。
今回はシリアスなお話になります。
それでは、本編をどうぞ。

※7話はこちら→https://syosetu.org/novel/361281/8.html


運命の人

私―七尾百合子は、あの日、運命の人と出会った。

 

~~~

 

私と同じアイドルで友達の望月杏奈ちゃんは、一緒に自主レッスンをしていた。

アイドルは毎日のレッスンが欠かせない。

先生が来てなくても頑張らないと。

 

「ごめんね。練習中だった?」

「あ……プロデューサーさん……」

「はい!大丈夫ですよ、何かご用ですか?」

 

 

その最中に、プロデューサーの天宮さんが呼んできた。

何の話なのかな。そう思って話をするため杏奈ちゃんと一緒に事務室へ向かった。

 

「急に呼んじゃってごめんね。今日話したいのは、リリースイベントのことについてなんだ」

 

お仕事の話でも、私たちのことを気遣ってくれる優しいプロデューサーさん。同じ女性だからか、私たちの目線に立って一緒に考えてくれる。この人がいるから、安心してお仕事ができる。まだ私たちと同じく新人で、たまに失敗しちゃうのはご愛嬌ってことで。

 

リリースイベントといえば、CDを売り出す時に行うイベントのことで、私たちの新曲の発売記念として開催が決定したみたい。

そのことで私と杏奈ちゃんを呼んだみたいで、プロデューサーさんと向かい合う形で椅子に座った。

 

「それでイベントですけど、どんな内容ですか?」

 

気になって質問するとプロデューサーさんが企画書を見せながら答えてくれた。

トークショー、サイン会、ミニライブ……とにかくめじろ押しだった。

 

「今回のイベントは『ファンの人たちも一緒に楽しもう』ってことで、色々練りこんでみたの」

 

ファンの人との交流は、アイドルにとって一番大事なこと。その辺りをわかって企画したことがわかる。

まだ始まってもないのに、胸が高鳴っている。

それは杏奈ちゃんも同じみたいで、目がキラキラしていた。

 

「すごい……全部、楽しそう……!」

 

その様子を見て私までドキドキしてきた。

イベント、頑張らなきゃ。

説明を聞いている間、私の頭はずっとそれでいっぱいだった。

 

「ということで説明は以上です。練習、がんばってね!」

 

あっという間に説明が終わり、解散になった。

 

 

「楽しみだね!杏奈ちゃんはどう?」

「うん……杏奈も、楽しみ……頑張る!」

「一緒に頑張ろ♪えいえい……」

「「おーっ!!」」

横にいた杏奈ちゃんにさりげなく聞いてみる。よっぽど楽しみにしてたみたい。

~~~

 

月日は経ち、イベントの前日の夜。

いつもは本を読んだり、ゲームをしたりして過ごすけど本番の前日だから、早めに寝ることにした。

明日はどんなステージになるんだろう。ワクワクが止まらない。

でも、()()()()()になるなんて、当時の私たちは知るよしもなかった。

 

 

翌日、プロデューサーさんが家までお迎えに来てくれた。運転手さんにもあいさつをして車に乗り込み、杏奈ちゃんと合流し、隣に座った。会場に着くまでの間、アイドルの話やゲームの話とかをして盛り上がった。

話し込んでるうちに運転手さんが今日の会場に着いたことを教えてくれる。

もっと話したくて名残惜しいけど、我慢して車から降りた。

 

会場はショッピングモールの中にあるイベントスペース。その中でやるみたい。人の目につくからリハーサルはできないのは心(もと)ないけど、ファンの人たちと交流できることを思えば期待感でちょっと胸が膨らんだ。

よーし、今日は頑張ろう!

〜〜〜

 

「あっ、もうこんな時間……二人とも準備はできた?」

「準備できてます!」

 

プロデューサーさんが腕時計を見て私たちに伝える。色々なことを考えていたら、すぐに時間は流れて開演の時間になった。そろそろ準備して、会場に出ないといけない。

衣装もOK、メイクもOK、顔もしっかり洗ってきてさっぱり。さっきまで読んでた本の続きは気になるけれど、今はぐっと我慢。

控室の鏡の前でくるっと回ってみる。そうすると、自分がアイドルだってことを実感させられる。

杏奈ちゃんに目をやると、目がキラキラしていてとても楽しそう。

 

「はいっ!杏奈、準備万端です!」

 

スイッチが入ったみたいで、さっきまでと違って声もトーンが上がっている。

そんな私たちの様子を見て、プロデューサーさんもにっこり笑った。

 

「それでは本日の主役にご登場いただきましょう。765プロ、ミリオンスターズより七尾百合子さん、望月杏奈さん!」

 

スタッフさんが表でお客さんに向かって呼びかけた。

開演時間になったのを来ている人や私たちに知らせるような大きな声だった

 

「うん、大丈夫そうだね。それじゃ、いってらっしゃい!」

 

「大丈夫です!行きます!」

「ビビッといっくよ〜!」

 

その言葉と同時に、私たちは飛び出した。

たくさんのファンの人たちが私たちを見ている。その人たちに向かって大声で呼びかけた。

 

「皆さーん!!こーんにーちはー!!」

「「こんにちはー!!」」

 

一斉に大きな返事が返ってきた。ファンの人たちが私たちを待っていたみたいに。

返事の一体感、声の重なり。ステージに立ってるんだって自覚する。

 

「765プロの七尾百合子です!今日は皆さんに会えるのを楽しみにしてましたっ!」

 

その場にいる人に向けて自己紹介する。最初は自己紹介からスタートするのがルーティンみたいなもの。私たちのことを知らない初めてのお客さんもいることを忘れちゃいけないよね。

 

「同じく765プロ、望月杏奈だよっ!今日も杏奈のこと、応援してねっ!」

 

「「応援するよ!」」

 

杏奈ちゃんが自己紹介すると、フロア全体に響くような大声が空気を揺らした。私の時はそんなでもなかったのに、ちょっと羨ましくて悔しいな。そんな気持ちを切り替えてマイクを使って呼びかける。

 

「今回のイベント、最初はトークショーです!」

「杏奈たちのこととか、新しいCDのこと、ここにいるファンのみんなとお話しちゃうよ!」

 

杏奈ちゃんが挨拶すると、向こう側からわあっと歓声が聞こえる。私も手を降ったり、見回したりしてファンの人を見て挨拶した。挨拶を終えて、用意された椅子に座って皆に聞こえるように話を始めた。

話の内容は色々あって最近の出来事や収録のお話、お互いの趣味などがテーマになった。みんな私たちの話に夢中になって聞いていた。

話が終わって、私がマイクを握って観客席の方を見る。

 

「それでは、ここに来たファンの皆さんに『今日ここに来た理由』を聞いてみたいと思います!」

「え〜と……それじゃあ、そこの黄色い上着の人で!」

「えぇ!?」

 

その人はいきなり呼ばれて自分を指さしている。相当びっくりしているみたいで、そういうイベントは初めてなのかな、と思った。

びっくりして大声が出たせいか、周りの視線が彼に集まっている。そこに杏奈ちゃんがマイクを持って近づいた。

 

「ねえねえ、ここに来た理由を聞かせてほしいな!」

「理由かぁ……、友達に勧められて来たって感じです」

 

人伝(ひとづて)にイベントのことを聞いていたのかもしれない。ステージから私は二人を見つめる。質問された人、私たちと年が近そうだった。

 

 

「そうなんだ~、ところで何歳?杏奈たちと同い年に見えるけど」

「14歳です」

 

なるほど、そう言うことだったんだ。それくらいの人にも知れ渡ってることはもしかしたらクラスメイトにも私のことを推してる人がいるのかな。そうだったら嬉しいなって思った。

 

「聞かせてくれてありがと♪それじゃ次いくよ〜!」

 

そう言って杏奈ちゃんが彼から離れていって、次の人にインタビューを仕掛けていった。私もそっちに行かなきゃ。二人でインタビューをする予定だったから。ステージから降りて二人で色々な人にマイクを向けてインタビューを始めた。

私達がマイクを向ける度にファンの人達が嬉しそうに話す。その笑顔を見ると、アイドルやっててよかったなぁって思えるんだよね。

 

〜〜〜

「ふーっ……。すごい盛り上がりだったね〜!」

「うん……みんな……楽しそう……だった」

 

トークショーも終わって休憩時間になって、私たちはライブ用の衣装に着替えるために裏へと引っ込んだ。今日は新曲のお披露目。その為の衣装だって用意されてる。ピンクが主体で胸には薄い青のリボン、フリルは二色という衣装だった。

率直な感想を言うと、可愛い。こんな衣装、私にはもったいないくらいの可愛さだった。でも、かわいい衣装を着られるのはアイドルの特権みたいなもの。デザインした美咲さんには後で盛大にありがとうしなきゃね。

新曲用の衣装に着替え終わると、杏奈ちゃんが鏡の前でポーズを決めていた。

 

「百合子さん……どう……かわいい?」

 

ステージから降りたことでオフになったのか、少し恥ずかしそうにこっちを向いていた。

 

「すっごくかわいいよ!」

「えへへ……」

 

褒めたら少し俯きながら返事をした。見てください。私の友達、最高にかわいいです。

プロデューサーさんも顔が緩んでいる。同じ女の人だから共感できるところがあるみたい。

 

「杏奈ちゃん、百合子ちゃん。本番はこれからだよ!はりきっていこ!」

 

もうすぐライブという所でプロデューサーさんが呼びかけた。イベントは今からが本番。目一杯楽しんで、楽しませたい。

 

「プロデューサーさん…!そうですよね!」

「杏奈……、頑張る…!」

 

では、後半も頑張っていきますか!

いってきます!

 

〜〜〜

 

「「もっともっともーっと、Loveしたーい!!」」

 

結果からいえば、大成功。サビの振り付けは曲の中で一番大切な所。失敗したくなかったけど、うまく息を合わせて成功させた。これが私たちの必殺技です、なんて。ライブを見た人たちからも大きな声援と拍手を聞いて、成功したって分かった。ここがハイライトだ、と思った。ステージから降りたくないなぁ。

歓声の冷めない観客席に向かって私たちは言った。

 

「というわけで、今回の新曲、『成長Chu→LOVER!!』でした!」

「今日発売のCDに収録されてるからリピート、よろしくね〜っ!」

 

~~~

というわけで皆さんお待ちかね、サイン会の時間がやって来た。列に並んで帰っていく人たちの応援を聞くたび、頑張ろうという気持ちが芽生え、手が痛くなることなんて考えなくなった。

目の前に灰色のパーカーにニット帽を被った人が来た時だった。

 

「早く逃げて!!」

 

後ろの人が叫んだ。よく見ると、杏奈ちゃんが質問した男の子だった。

えっ?逃げて?何だろうと思っていたら手にある物を見た瞬間、頭が真っ白になった。

折りたたみナイフだ。一目みて分かった。おもちゃじゃない。本物だ。鈍く光っている刃物を見て確信した。

 

「ひっ……!」

「い……いやぁぁぁぁぁぁ!」

 

いやだ、こわい、たすけて。

私の頭の中が一瞬で支配されてしまった。

逃げたいけど、足に力が入らない。どうにもできないでいるとスタッフさんが私たちを引っ張っていた。けれど私の頭にあったのは逃げてと叫んだ彼のことでいっぱいだった。

見てしまった。彼があの男に腕を掴まれてしまう所を。逃げて、と叫ぼうとするも恐怖に縛られ声が出ない。

そのまま私たちは裏の安全な場所まで移動させられた。

 

「どうしたの!?」

「プロデューサーさん……」

 

心配そうに私たちに駆け寄るプロデューサーさん。スタッフさんが事情を説明すると、泣き出してしまった。

 

「うぇぇぇぇぇん……二人が無事でよかったよぉ……!」

 

泣きながら私たちを抱きしめてくれた。その様子に、私も泣き出してしまった。

 

「ううっ……プロデューサーさん……!」

「わあぁぁぁぁん!」

 

その後、警察が来てスタッフさんが事情を説明した。また、私たちも呼ばれて話をしたけど、ほとんど話せなかった。終わってすぐ、それぞれ家に帰された。

 

「ゆりちゃん、おかえり……!」

「お母さん……!」

「無事でよかった……!」

 

家に帰って来てお母さんが玄関で私を泣きながら抱きしめてくれた。安心と事件の怖さで私も泣き出してしまった。荷物を下ろすためリビングに行くとテレビが映っていて、アナウンサーが事件の概要を話し始める。

 

「速報です。本日、都内で行われた765プロのリリースイベントで刃物を持った人物が見つかりました」

「この事件はサイン会の列に14歳の少年が容疑者の後ろに並んでおり、所持していた折りたたみナイフに気づいて叫んだことで発覚しました。また、出演者やスタッフ、観客含め怪我人は居ないようです」

 

よかった。無事でいてくれたんだ。次は犯人の話になった。 

 

「警察は犯人の無職・32歳の男を傷害未遂及び銃刀法違反で現行犯逮捕しました」

 

次の言葉が、私を絶望に引きずり込んだ。

 

「調べに対し男は『存在が憎かった。刺そうかと思っていたが、邪魔が入った』と容疑を認めています」

「そんな……うちの子たちを刺そうって……!」

 

存在が、憎い。その言葉が私の胸を突き刺した。あのナイフが遅れて心を傷つけに来たんだ。

やられてないのに切り刻まれたような痛みを感じる。

私の中の何かが、音もなく崩れていった。

 

~~~

 

あの日以降、私の生活は変わった。レッスンはもちろん、外に出ること自体が怖くなって一日中部屋から出ずに引きこもり、そして毎日事件の記憶がふっとよみがえるようになって涙が止まらなくなった。本も読まなくなり、杏奈ちゃん含め他のアイドルの子とはずっと連絡を取っていない。

ニュースで伝えられた犯人の言葉が頭を離れない。

 

――存在が憎かった。

 

私を憎んでいる人が刺しに来るかもしれない。これからも怯えて暮らさなければいけないのか……

 

――そう思った瞬間、何もかもが壊れた。

 

アイドル、やめよう。

そう決心してしまった瞬間だった。

 

やめること伝えると、プロデューサーさんは残念そうな返事を返した。杏奈ちゃんの方もアイドルをやめるらしい。

引きこもり始めて数日後、プロデューサーさんが連絡してきた。

 

『逃げてって叫んだ男の子、その人が劇場に来るみたいです。無理しなくていいからね』

 

最後にお礼を言って終わらせよう。みんなにさよならもしなきゃいけない。

 

「立てる?ゆっくりでいいから」

「……うん」

 

予定の日になって、お母さんに支えてもらって重たい足を引きずるように部屋を出て、洗面所の鏡で自分の顔を見ると見た目が数日前とまるで違っていた。引きこもってケアしなかったせいか髪はボサボサ、目は隈ができていて一瞬自分の顔だとわからなかった。人に会うため最低限の身だしなみを整え、あの日以来の外に出た。

〜〜〜

 

「百合子、さん……」

「杏奈ちゃん……やめちゃうんだね」

「…、うん…!もう、怖いの…いや……!」

 

劇場を訪れるのも今日が最後。もう、アイドルどころか普通の生活にも戻れない。

プロデューサーさんに挨拶をして、その人が来るのを待った。彼は同僚の相河さんの家族だったらしい。

控室のドアがノックされ、どうぞと返事を返す。男の子が入ってきた。

 

「失礼します。今日はお話があると聞いて来ました」

 

そう言って頭を下げて、椅子に座った。これから来ることが怖い。イベントに来たばっかりにあんな目にあったから怒鳴られるんじゃないか、と思った。

 

 

「この度は本当に……ありがとうございました!」

 

プロデューサーさんがお礼を言ったと同時に泣き出していた。

 

「あのときっ…、しらせてくれなかったら……、ううっ」

 

「プロデューサーさん…」

「落ち着いてください…、私たちまで…ぐすっ」

 

思い出して泣いちゃった。泣く資格すらないかもしれない。何を言われても受け止める、そのつもりだった。しかし彼が発したのは意外な言葉だった。

 

「本当に二人とも無事でよかったです」

「でも……」

 

楽しいはずのイベントで彼を危険に晒したのだから。

次の言葉で、考えが大きく変わることになる。

 

「僕なら大丈夫。二人がアイドルしてるところ、また見てみたいんだ。だから落ち着いて、顔をあげて」

 

聞いた瞬間、心に春風が吹いた。咎めるどころか私たちを気遣うような温かい言葉。痛みや苦しみを吹き飛ばすように、彼の言葉は心に響いた。

酷い目にあったなんて感じてないような言葉だった。気づけば思わず泣き出してしまっていた。

 

 

「うっ…ひくっ…ありがと……!」

「あなたが無事で…ほんとに…よかった……!」

 

二人して、名前も知らない人の前で大泣きしてしまった。でもその人は大丈夫、怖かったねと言ってくれた。泣き止むまで待ってくれていた。

 

しばらくして、名前を聞いてみた。

 

「名前聞いても、いい?」

「今永幸哉。年は14歳。よろしく」

「七尾百合子です。こっちの子が……」

「杏奈……望月杏奈……。よろしく……です」

「天宮優愛です。百合子ちゃんたちのプロデューサーをしてます」

 

自己紹介を終えると、扉が開いて未来が入ってきた。彼―幸哉くんはイベントのことを未来から聞いていたらしい。でも、まだ名前を呼ぶ程の関係じゃなかったみたいだった。

それで、これからは名前で呼ぶことを未来が提案した。まずは未来を名前で呼び、次は私たちの番になった。

 

「百合子、杏奈。これからも応援するよ。イベント、来てよかった」

 

そう言った彼の顔はとても穏やかな笑みを浮かべていた。聞いた瞬間、心がじんわりと温かくなっていくのを感じる。憎んでいる人ばっかりじゃない。心の底から応援してくれている人がいる。そう思ったとき、心の傷が急に癒えていくような、そんな感覚が私たちを包みこんだ。

 

「ありがとう……幸哉くん!」

 

思わず名前で呼んじゃった。失礼にとられたかと思ったけど、むしろどういたしましてと言ってくれた。その後は持って来たCDに二人てサインをした。彼と私たちを繋ぐ、特別な品物になった。

〜〜〜

 

その後は幸哉くんと未来と杏奈ちゃんで劇場を歩いた。途中で会ったのり子さんに彼が触れたとき、突然怯え始めた。やっぱり彼もあの時のことを思い出したのかな、と思ったけどそれは違う理由だった。それはお昼を一緒に食べた時のこと。

 

「実は僕、学校に行ってないんだ」

「転入前の学校でいじめられてて、自殺しそうになったところで慶一さんに助けられた」

 

幸哉くんは語り始めた。

いじめられて自殺しようとしたら助けられ、この町に引っ越したこと。

のり子さんに掴まれて恐怖を感じたことを。

 

彼もまた傷を負った方なのに、危険を顧みずに助けてくれた。

幸哉くんの方を見た途端、彼の姿はどんな伝説の勇者や英雄よりかっこよくて、そして輝いて見えた。

 

その瞬間、胸の奥がきゅん、となった。これが恋に落ちる、ってことだってわかった。

 

皆が彼を励ます。私もそれにならった。

 

「みんな……本当に、ありがとう!」

 

その顔はとても明るく、私たちを照らす光に見えた。

 

〜〜〜

 

お昼のたこ焼きを片付け、彼が帰る時間になった。既に未来は連絡先を交換したみたいで、私と杏奈ちゃんも頼んでみた。幸哉くんはいいよ、と言ってくれた。これで彼とお話ができる。そうして帰るのを見送った後、杏奈ちゃんが呟いた。

 

「好き……」

「どうしたの?」

「杏奈、幸哉くん、好きになった……」

「そうなんだ……私も、大好き。……同じ人、好きになっちゃったね」

「……うん!」

 

どうやら杏奈ちゃんも彼に恋をしたらしい。でも、負けるつもりはない。大好きなのは私だって同じだから。

一つ大事なことを伝えないといけない。プロデューサーさんにメッセージを送った。

 

『私たち、アイドルやめません!』

 

プロデューサーさんから嬉しそうなメッセージが返ってきた。元気になったみたいでよかった、って。

 

今日一日で、私たちの世界は変わった。雲の隙間から光が差し込んだような、そんな一日。ありがとう。私のヒーロー、そして運命の人。今は無理かもしれないけれど、いつか彼に伝えられますように。

 

愛しています。あなたのことが、大好きです。

 




というわけでしたが、一人称視点を試験的に導入してみましたが。ヒロインとなるキャラクターの視点から描いたお話ではこれから使っていきます。キャラの口調や性格を文章に落とし込めていたでしょうか。
百合子のP(プロデューサー)の皆様には不快に思われた方もいらっしゃるかもしれません。本当に申し訳ございませんでした。この場を借りて謝罪させていただきます。
誰がヒロインになるのか……次のお話も楽しみにお待ち下さい!




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