だから農家だつってんだろ! 作:一般通過魔法の水
先輩も加わって、D.Uへいざ出発…する以前のこと。私は随分とひどい目にあった。
「これでゲヘナの風紀委員長に変な勘違いされたとてえ、やり過ごせるよお」
「いやこら火力過剰でしょうが!?!?」
ええ、ええ。まずこちらのこの「なんかガン〇ムが持ってる武器」じみた、こちらの厳つい姿の銃なんですけどもね?
こんなもんよくてマシンガンだろって問い詰めたいこちらがですね、なんとネガイ先輩の手によって、さらに進化しちまいまして。
「あわわ、買っといたトラクターが見るも無残な姿に……!」
「いうてえボクがよお直しゃあさあ、どうとでもなるんでねがあ?」
「そういう問題じゃねーんだよな、うん…。はっきり言うけどアタシゃドン引きだよ、この火力は……あとうちは建材とかが専門なんだけどよ」
「んだどて、今度は蝉時雨*1のやつも開発手伝っただろう?」
「だからだよ!! なんでセラのやつも参加させたんだ、おかげで持ち歩ける連射式戦車砲になっちまった!!」
…いえ、実際はネガイ先輩じゃなくて、一人ミレニアムとまで呼ばれる例の技術超人のせいなのですが。とりあえずなんか強くなりました。
どういう事かわかんないよね。大丈夫だよ一番わかってないのホっちゃんだから、なんでもっと強化する必要があったのか全ッ然分かってないからホっちゃんも。
「ああー、燃えたなあ」
「もうあたしツッコまないからな。」
んで、銃の文句だけで終わりと思ったそこのお前。もう一つあるよ。
『飛行船発着場がないからこのままゲヘナに行くね』
「ちょっ…あの、マーマー?」
飛行船がたまたま手配できたのは良い、アシがあるのは悪い話じゃないし。でもどうしてゲヘナ?
「瓦井さん、笑ってないで何か言ってください。というか飛行船の免許とか持ってたんですか瓦井さん?!」
「いい旅になるよ…いい旅にね」
「あの瓦井さん。瓦井さん、ゲヘナの方に連絡は入れてあるんですか?」
「そんなもの必要ない、飛行船あるところにマーマーあり。屋台があるところにもマーマーあり」
「だから連絡は入れたのかっつってんだろうが、どっちなんです!?!?」
「無断使用だよ」
「馬鹿だコイツッ!!」
しかもなぜ着陸許可を取っていない???
「恐ろしい……これでもし問題が起きれば、学園間での事案に発展しかねない……」
恐怖で震えるこちらをよそに、先輩らは会話を弾ませる。
「ねえカグヤん、なんかあ可愛い家具とか無いかあ?」
「ふむ……帰ったら良さげな物をいくつか、特別なお客さんのために見繕っておこう」
「お、嬉しいこったなあー♪」
果たしてこのまま上手くいくのだろうかと、頼りにならない二人の雑談を聴きながら悩む。
「…あっ」
気がつくと、窓の外が上空に代わっていた。
「うまくいきますように…!」
そう祈る。祈るくらいはできる。
今はこんなでも、元はトリニティで暮らしていたのだから。ゆえに祈りは身近なもの。
でも、あそこは素敵じゃなかったから
政治なんてこりごり、だからここまでやってきた。
夢もかなぐり捨てて只管に、ただ何も考えず人のために動くことがかなう学園へ。
けど私、人を知らないの
どう叶えればいい、どう動けばいい、何が何なのか全部わからない。
所詮は他人の醜さに嫌気がさして、人付き合いを知らぬまま自らを部屋に幽閉した身だ。
だから横暴にふるまい、馬鹿なままでいればいい。結局は落目の愚者なのだから。
「嗚呼、なのに――」
身分を偽るような無能ひとりに、なぜ彼等はこうも暖かく接してくれるのだろうか。
「……すこし、ちゃんと話そうかな?」
「つまり?」
「いや、だから…私は元トリニティ生で、その…。」
「おう?」
失敗した、いや分かってはいた。
どうせ双方抜けている、ましてやこちらも至らない点が数多く存在する。
よって、決して正しい情報は伝えられず何も変わらなかったとて、その事実を然りと受け入れるつもりでいた。
けど、ここまで赤裸々に吐いてなお理解されないのは想定外。
本当はトリニティ生でしたと暴露すれば、帰ってきた反応は「おん、んでなんだあ?」だけ。
実は夢がなく、他人から請け負った物事を自分の夢と勘違いしており、
人生を惰性で生きなければ正気も保てやしないと零せば、「つらかったかあ?」と心配され。
「いや違うでしょう!? 『来る前の情報と違い過ぎる』とか『嘘をついてたのか!』とか、なにか物申したいことはあるのでは!?」
あきれてものもいえない。のうがとける。
普通なら空回りしてる人がいたのなら、被害が大きくならないよう宥めるか窘めるか、あるいは止めるのが定石。止まりそうにないのであれば相応の処遇を、というのもまた当然。
「なのにどうして放っておいたのですか!?」
「いやあ~うっちゃのガッコも雑過ぎてえ学校としてえ機能してねえもん、そんなの人に言えねよなあ」
「スタクセル学園が酷過ぎてあまり驚かれていない?!」
どういう事だろうか。
「えぇっと、つまり――皆さんご存じだったと? 私が、こんなにも空回っていたと」
「知ってるやつもいた、知らないのもいた、みんなあそん時のノリで生きてるからなあ。それになあ、人を間違ったり思考回路ごちゃごちゃな状態の人があ簡単に止まるか分らんだろお?」
「いつも元気な時ほど目がこわかったり人間違えたりとなあ、おかしかったものなあ」と軽い感じで語る目の前の呑気は、慣れた手つきで頭をなでてくる。
確かに向こうへ着いた夢を見たりと、これまではどこかおかしかった。
「ですが今日からは――――」
「今日からあ? ホっちゃん、ボクの喋り方どうだあ?」
「えっと、その、ふにゃふにゃしてるというかなんというか」
「そうかあ…この瓶の香水、あげるなあ」
「ありがとうございま くぅ。」
■□■□■□■
「何が、起きたんだよ…?」
目が覚めた直後に出た声音は、自分でもびっくりするぐらい覇気のないものだった。
「確か……」
何かされて寝落ちしたという現実は把握できた。怖いのは、肝心な『何か』の正体がわからないことである。
「唐突に先輩が鼻に吹き掛けてきた……香水の香りが心地よくって……それで……」
そう、香水。なんだかとっても落ち着く香りだったのだけれど、あの匂いの正体は一体。
「――ラベンダー?」
ありえなくはない。あの人は魔法研究委員、あるいは魔法部という、実際の名称がどちらなのか非常に分かりずらいグループと共同して特殊な香水を作っていたという噂がある。
その際に開発されたものであれば、匂いを嗅いだ人を即座に気絶ないし昏倒…というよりかは熟睡させてしまえたとしても何らおかしくはない。
むしろおかしいのは、あんなわかりやすい誘導にまんまと引っかかった自分の方だろう。
人はだれしも警戒心を持っている。なのに私は一切の可能性を考慮せずに食らった。
記憶をたどれば意識が飛ぶ寸前、先輩方も驚いていたような。
『これを避けないあたり、けっこうおつかれかあ?』
『いや、だからってこんなにも勢いよく寝落ちするかなぁ?』
『とりあえずどうしようかなあ、キャラクリミスってる感あるけどもお』
『そういえば前の復興部の人たちは、みーんなキャラクリ、キャラクリって言ってたよね』
……キャラクリ?
キャラクリというとゲームでおなじみの、あの「キャラクリエイト」の事だろうか。私はゲームの世界の住人だった? …いやまさか、そんなのありえないに決まってる。
「キャラクリってなに…?」
「知りたいかいそこのキミぃ!!!!」
「声がでかいっつってんだろうがッ?! もうちょい静かに現れる努力をしろよ!!」
ぽつりと呟くと、現れたのはネガイ先輩。
"コイツがいるときはだな、困ったときは必ず言葉に出すといい。そうすれば大体の事は解決するからな!"
湾路先輩が教えてくれたライフハックは存外役に立った。……本当に役に立ったと捉えてよいのだろうか?
鼻息荒く待っていた、青髪と金色のメッシュが特徴的な狂人。
復興委員?復興部?で最も優れていたらしい怪人が、ゲート前で荒れ狂い、今か今かと落ち着かず、ひたすら雄たけびを上げる競走馬の如き気迫でこちらの合図を待っている。
『いいから早く喋らせろ』
――と、ぽやっとした目が叫んでいるようにも見えたので、さっそく聞くことに。
「キャラクリってなんなんすか…。」
おそるおそる尋ねると、先輩はとろけた半目をクワッとかっ開く。どうやら私は魔物を起こしてしまったようである。
「なんだっけなあ、まあ…早い話が自分の将来像というかをはっきりさせるというかなあ――まぁ詳しいことは知らねんだな!」
「駄目じゃねーか!!」
ずっこける私を見て「んはは!」と笑った人物は、こう続ける。
しょうがないでしょうがあ、残ってる情報なんての少しも無ェんだから……と。
「ない?」
「おう、ないよお?」
ヘラヘラとした態度の割に、随分と寂し気な声。
「残ってる情報がないって、どういうことですか?」
「んや、先代も先々代も、ずーっとそうなんだけどな? みーんな失踪しちまったのよ。そいで皆してなあ、重要な役職に付いててな?」
「なのにしばらくして沖のほーうでなあ、どいつもこいつもドザっててねえ」
「ドザッ…まさかす――」
「おおっとお? まぁそれでなあ、みんなでなかったことにして「逃げた」「逃げた」言う間に…学校内の文化が完全に滅んだんだよな」
みんな真実から目をそらして、落ち着くのに精いっぱい。結果的に文化は少しずつ失われていく。
「一人目は急にいなくなって、二人目はどうにかあの自治区を発展させて、たっくさん人を呼んでから。そして唯一の生き残りはボクだけ」
「でも、皆さん幸せそうにしてたじゃないですか。みんな、普通に暮らしていたじゃありませんか!」
「そうだね。…けど違うんだよ、みんな知らないふりで精いっぱいなんだ。おかげでちょっと前に起きた事すら雑に覚えてる始末。」
まぁ、ボクと君もだけどさ?
ふわりと、体が下に引っ張られる。
外を眺めておらず詳しいことはわからないが、時計の時間から察するに目的地へ降下中のようだ。
「お互いにつらいことを隠し過ぎて、頭の中が色々ごちゃごちゃだ。んははっ!」
「ああ、別にめげるこたぁないよ。ボクらが付いてる間は、いいや一緒にいない時でも、君は君らしくいればいい。そんなとこまで一緒にならなくていーの!」
「でも私は皆さ、あの人らと同じじゃ……」
「大丈夫、悪いとこまで真似ようとしなくていい。それからこれはボクが預かってた、新しい復興委員の委員長様への伝言なんだけど――――」
――――エミはケーキの事を怒ったんじゃないんだ。
「ケーキじゃない。君が自分たちが背負うべきものを背負って、自らの全てを忘れそうになってたから叱ったんだって。惚れられてんじゃないかなキミ、んはははッ!!」
「んまーなにはともあれ、おしとやかな方がいいならそっちで。いつものガヤな感じが君自身であればそれでもいい。でも、覚悟もなしにボクらと感覚を合わせないでくれ」
「なら、私はどうすれば?」
「…
ドスン!っと重たい音が響いて、飛行船が揺れる。
「あの広い海のどこにも島はない。泳いでも泳いでも、ずっと広い海があって……海なんだ。」
衝撃にびっくりして一瞬だけ瞼が閉じてしまい、話をちゃんと聞いておかなければと目を開ける。
「せ、ん、ぱい?」
そこにあったのは深い海のように薄暗く、蒼い死んだ魚のように濁った瞳。
私は今日、この日。初めて目の前の少女が目を曇らせているのを見た。
「せんぱい…」
「行こうか、ホっちゃん」
椅子から立ちあがり、飛行船を降りていく何歳か年上の "誰か" は、何時もの明るい雰囲気とは完全に異なる自虐的な笑顔で笑う。
「せっかくサプライズも用意してたのに、パーティーがめちゃくちゃになったって聞いて謝っときたかった。ごめんね?」
「でも今度こそ。いつか今度こそ、次こそは絶対にうまくやるから、だから今日は簡易に済ませとく」
「スタクセル学園、復興・振興委員長の就任…おめでとう!」
渡された祝いの言葉は、なんだか『