乾いた大地で生まれた青い瞳の白い鳥は、
どこか親友・五条悟を思わせた。
決して追いつけない距離を感じながらも、
ただ対等でいたいと願う自分の気持ちに気付いた時、
歪んだ想いが静かに動き始める――。
百鬼夜行を決意するに至った理由――
こんな切っ掛けもありかも?という空想です。
ほんのり腐因気がないとは言いませんが、
友情としてお楽しみいただけたら嬉しいです。
────夢だな、これは。
夢────
倒れる様にベッドに入って、意識を飛ばしたつもりだったが、また朝まで眠れなかったのか。
それにしても、何故この場所なのだろう。
渇いた大地の所々に、申し訳程度の緑。
これは、サバンナ?
別段行ってみたいとも思ったこともないのに。
夢と云うのは不思議なものだ。
目覚めれば良いことは解っているけれど。
けれど。
目覚めても半端な時間であることだけは確かで。
空想の乾いた風は、思いの外心地好くて。
悪くない居心地なら、ここに逗まるのも一興。
────所詮、夢だし。
お誂え向きに、都合よく座れとばかりに岩が現れている。
如渡得船。
岩に腰を掛け思い切り伸びをする。
伸ばした手の、指の隙間から覗く空は、あの時の澄んだ沖縄のものが広がっている。
たった1日で、大きく壊れたあの日の、前日。
あの日に、心を置いてきたとでもいうのだろうか。
……なんて、詩的な考えに頬が引き攣る。
心って。
失笑しながら、空から地面へ視線を下ろすと、岩というより卵だが、卵と云うには岩な、そんな物体が忽然と現れている。
駝鳥の卵はでかいと聞いてはいるが、こんなにもか? と思うほどにでかい。
わたしの膝ほどの高さで、一抱えはありそうだ。
その物体からコツコツと小さな音がしていて、時折揺れている。
────卵なのか?
確実に内部から破壊され罅の入る音を、不思議と嫌悪や脅威は沸かず、ただ何が出てくるものか眺めてみる。
わたしの夢だし、どうとでもなる。
わたしは夢で一体何を望んでいるのか。
そうして、中から現れたのは真っ白い物体。
駝鳥の雛に関しての知識はないが、こんなにもでかく、ましてや白いものなのだろうか。
その上、
凝視してくる瞳は、青。
何もかも高みから見透かしていて、平然と困難なことをしてのける。
そんな────否が応でも悟を彷彿とさせる瞳。
それでいて、わたしの腕に収まりそうな小さな……悟。
惹き寄せられる様に鳥に近づき、
当たり前の様に腕の中に収める。
そいつは、腕の中で暴れもせず、それどころか安堵したかに胸にもたれてくる。
──右腕に、現実の重さを感じる。
また……いつもの事か。
鳥を引き寄せ、羽毛に顔を埋めてみる。
産まれたばかりの筈なのに、乾いている羽根が軟らかい。
全くもって、
ふわふわした白い毛が、わたしの鼻を擽る。
──
見上げてくる青い瞳。
青い瞳を見下ろすと云うのは、存外、奇妙な感じだな。
いつもは、
いつもは殆んど変わらない目線が、ほんの数センチ下がっただけで、こんなにも庇護欲は湧くものなのか。
愛らしいとさえ感じてしまい、これはあの悟だろう? と瞬時に否定する。
と、
背中に衝撃が走り、その勢いで腕の中から解れた鳥は羽ばたいた。
振り向いて、ぶつかってきたそれに目をやれば、またしても、鳥。
さっきまで腕の中にあったやつと、同じくらいの大きさの黒い、鳥。
────
まるで鏡でも見ているかのような既視感。
この鳥はわたしとでも云うのか?
その鳥は、飛翔にはまるで向いていないだろう短い羽根を、目一杯威嚇のように広げて、弁慶の如く立ちはだかっている。
白い鳥は、我関せずの粗知らぬ顔で、そこかしこを走り回っている。
本当に悟だ。
いつだって飛び回って、わたしの事も置いていこうとしている。
────「もう、あの人だけでいいんじゃないですか」
仲間を失った七海の絞り出すような声を反芻する。
一人で立ち向かえるモノではない筈なのに、一人で立ち向かってしまえる悟。
自分たちとは別格だということだけを見せ付けられ続けている。
置いてけぼりの、黒い鳥……
かつん
と、この場には不似合いな機械音が聞こえる。
目覚まし代わりのラジカセの電源の入る音。
じぃーと、CDの動く音が届く。
──朝か。
いつの間にか戻ってきていた白い鳥は、黒い鳥と寄り添いくるくると回りだす。
鳥たちの奇妙な動きから目を離せぬまま、左手でリモコンを捜す。
くるくる
くるくる。
軈て首を絡めあって
独楽のように回っている。
左手がリモコンを探し当てる。
白と黒の二羽の鳥は、静かに動きを止め陰陽の太極図ように円く収まる。
これが、わたしの望んでいることなのか?
一音目が鳴る前に、CDを停める。
ゆっくりと目を開けると、右腕には白いケモノ。
紫立ちたる陽が、輪郭を縁取り人形のような顔を際立たせる。
あの鳥の方が、可愛げがあるな。
わたしの右腕に、涎を垂らして熟睡している顔に、呆然とする。
ふわふわとした髪の毛が顔に当たる。
見慣れているはずの青い瞳は、今は長い睫毛で塞がれている。
……なぜ、いつもここにいるのだろう?
別に気儘に部屋に入って来ようとも、部屋で何をしようとも構いやしないけれど。
寝床に入って来るのはまだしも、なぜこんなにも、わたしに身を預けるように寄せてくるのだろう。
綺麗なくせに、妙に寝穢いその頭を静かに枕へと移す。
あれから、容赦なく入ってくる任務に困憊しているのだろうか。
……困憊? ……するのか? 悟が?
目の下が薄っすらと黒く見えるのは、睫毛が落とす影ではなくて、せめて困憊位していて欲しい、と思うのは歪んだ願望だろうか。
────
同じ速さで、同じ歩幅で、同じ方向を見ていた筈なのに、平気で空を駆け初められては追い付くどころの話じゃない。
元々の器の違い。
そうだろう。
それでも、親友という言葉で縛り付けた。
追い付けないなんて、
並べないなんて、
思いたくなかった。
「呪霊の生まれない世界」
槍で刺されたように、頭の中に閃く。
そんなものが望めるのなら、悟は自由になれるのだろうか。
術師だけの世界であれば、悟はこんな気絶するように眠らなくても済むのではないか?
無謀にも思えるが、悟なら充分にその力がある。
術師だけの世界────?
追い付くことも、
並ぶことも出来ないのならば、
足元から世界ごと変えてしまえばいい。
線を、引いてしまえばいい。
まあるくなった、二羽の鳥。
白と黒。
光と影。
……わたしが、解放してやろうか?
なんて、解ってる。
本当は、ただ対等でありたいだけ。
本当は、ただ一緒にいたいだけ。
笑って、
巫山戯て
莫迦やって、
術師だけの世界なんてあったら──?
なんて、解ってるさ。
そうなれば、親友がわたしを莫迦げた世界から、解き放ってくれるだろう事くらい。
君はわたしを探してくれるのだろうか?
わたしの莫迦げた妄想を、君は笑うだろうか?
それとも、激怒して叱責するだろうか?
目覚める様子も見せない悟をそのままにして部屋を出る。
「…………」
呪いの言葉を吐いて、なけなしの善意は、君に預けよう。
……さて、何から始めようか。
お読みいただきありがとうございます。
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