アインズ様を怒らせたクズ男(改)   作:黒郎丸

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前回までのあらすじ
 願いの指輪でラナー王女とクライム、ラキュースたち”蒼の薔薇”とガゼフを救出した。
 一方、自分たちの許可なく勝手に捕虜を略奪したクズ一行らの所業に対し、アインズたちナザリック勢は憎悪を募らせていた。


断罪編
踏み絵


◇ ────帝都アーウィンタール

 

 

 その何の変哲もない道端で、薄汚れた作業服に身を包んだ一人の作業員の男がゴミを拾い、回収していた。

 

 職業に貴賤はないとはいえ、その姿を見た者の全てが、彼の事を底辺に位置する人間だと認識するだろう。

 

 そんな彼が、建物の側に落ちているゴミを拾おうとした。

 

 その時──、

 

 

「………」

 

 

 ───ドスッ!

 

 

『ギィ……ッ!?』

 

 

 唐突に、建物の壁にナイフを突き立てた。

 

 

「………」

 

 

 そのナイフを抜くと、先程までとは違い、虫のような魔物が突き刺さっていた。

 どうやら、それが建物の窪みに挟まっており、平らな壁だと見せかけていたようだ。

 

 だが、その魔物を見ても動じることなく、何事もなかったかのように死骸をゴミとして袋の中に回収する。

 

 

「………」

 

 

 なかなかの擬態能力だったが、人間に対する敵意が隠しきれていない。密偵としては三流もいいところだ。

 邪神の手の者とはいえ、末端の下級モンスターでは、この程度か。

 そう、男は思った。

 

 ()()を袋に入れて、再び別のゴミを回収するために動こうとした。

 まさにその時、道を歩いていた通行人が彼に向けてゴミを無造作に投げつけた。

 

 どうせ、ゴミ捨て業者なのだから、そのゴミもついでに捨てて置けという意志表示なのだろうが、それは人を人として見ない行動でもあった。

 

 だが、その作業員の男は特に気にした様子もなく拾い、袋の中に入れる。

 

 その際、ゴミの表面に書かれていた模様を、さりげなく袋の中から確認した。

 それは模様のように書かれている文字であり、袋の中のゴミを整理するフリをしながら、その文字を読んだ。

 

 

『クインティアの片割れは神の手に落ちた。

 神との会談が終わるまで作業を続行、指示を待て』

 

 

 そこには、簡潔にそう書かれていた。

 

 

「………」

 

 

 その内容を目に焼き付けると、作業員の男はゴミ袋を手に持ち、再び()()を再開した。

 

 

 

             +

 

 

 

◇ ────皇城

 

 

 現在、この城の一画には皇帝ジルクニフの命令で大勢の騎士や文官が集められていた。

 どうやら、他の部屋にも集められているらしい。

 

 

「……なぁ、これから何が行われるんだ?」

 

「何でしょうね。陛下が私たちを集めるなんて、余程の事があるはず……」

 

 

 そこには私たち文官だけでなく騎士たちも集められていました。

 

 

「皆、よく集まってくれた! 諸君らを集めたのは他でもない。抜き打ちで調べたい事があるだけだ!」

 

 

 その場を仕切っている検査官を名乗る者は集まった者たちに対し、複数の列を作って並ぶよう命じています。

 俺たち文官は一列に並び、人数の多い騎士たちは複数の列に分かれ始めました。

 

 

「よし、並び終えたな。そう身構えずとも、やる事は簡単だ。目の前に設置している物体を踏んでもらうだけで良いのだ」

 

 

 ──ザワ…ザワッ……

 

 

 周囲にいる騎士も文官たちも何事かと(ささや)き合っている。

 

 私だけでなく前に並んでいる同僚も訳が分からず、顔を見合わせた。

 好奇心に駆られ、顔をずらして前に置かれた物体とやらを確認してみる。

 

 目線の先に合ったのは──、

 

 

「何ですか、これ……?」

 

 

 そこにあるのは、なにやら恐ろし気な骸骨の魔法詠唱者(マジックキャスター)の姿絵だった。

 もしかして、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)というアンデッドモンスターか?

 

 その横にも違った絵が置いてある。

 一見すると豪華な模様に見えるが、どこかの国の旗だと分かる。いや、この特徴的な絵柄の旗は、どこか見覚えが……。

 

 

「諸君らにしてもらう事は至極簡単だ。この絵を踏みつけろ。ただそれだけでいい」

 

 

 その言葉を聞き、周囲から疑問と困惑の声が上がる。

 

 

「それと、なるべく強く踏みつけるようにな!」

 

 

 なんなのですか、これは?

 そんな事をして何になると?

 

 というか……、これは、つい最近まで我が帝国と同盟を結んでいた魔導国の旗と魔導王の姿絵ではないですか!

 

 私が唖然としていると、すぐ後ろから殺気に近い、いや、殺気そのものが放たれているを感じ取った。

 何事かと思って後ろを振り向くと、そこにいたのは私の友人であり同僚の文官だった。

 

 彼の尋常でない様子に私は恐怖を感じた。というか、妙に圧が強いような気がします。

 まるで、熟練の騎士から感じる強者の威圧感。あなた、私と同じ文官でしたよね……?

 

 

「よし、お前からだ。踏め」

 

「は、はい!」

 

 

 前に並んでいた別の同僚は言われるがままに、その魔導王アインズの姿絵を踏みつける。

 

 後ろにいる同僚が彼の背中を、物凄い形相で睨みつけている。 

 その不自然な様子に、私だけでなく前にいる検査官殿も、彼のことを訝しんでいるのが分かる。

 

 その検査官殿は、とりあえず自分の目の前にいる同僚の検査を先に終わらせる事にしたようです。

 

 

「もっとだ。もっと強く、足を動かしながら踏むんだ。負の感情を込めながら思いっきり踏むのがコツだ!」

 

「こ、こうですか!」

 

 

 前にいた男が、絵の中の魔導王の顔に思いっきり体重を乗せながら、ぐりぐりと更に強く踏みつける。

 

 その様子を見た後ろの同僚が大きく体を震わせ、全身から漏れ出ている殺気が更に強くなった。

 

 さすがに異様だと思い、たまらず彼に声を掛けた。

 

 

「あ、あの……、本当に一体どうしたと言うのです? たしかに、他国の王の姿絵を踏みつけるなんて真似は、私だって疑問に思う。しかし、さすがに動揺しすぎでは?」

 

「……怒るのは当然だ。こんなの間違っている。あの皇帝………、陛下は乱心なさったというのか……ッ」

 

 

 ……本当に今日の彼は様子がおかしいですね。いつもなら冷静沈着に物事を俯瞰して見れる人なのに……。

 

 

「よし、お前は合格だ。次!」

 

 

 さて、いよいよ私の番ですか。

 

 足を進めると、目の前の足元に絵の描かれた鉄板が設置されてある。

 

 たしかに魔導王の姿絵で、どうにも恐ろしく描かれている。

 私自身は踏むのに抵抗はない。別に魔導王のファンというわけでもありませんから。

 

 しかし、後ろの同僚が私にまで怒りをぶつけてくると思うと気が滅入りますね。自分の意思で踏むわけじゃないというのに……。

 

 ふと周りを見渡せば、他の列に並んでいる騎士たちが嬉々として姿絵を踏みつけているではありませんか。

 

 

「俺はコイツの部下に兄貴が殺されたんだ! オラッ! いい気味だぜッ!」

 

「まったくだ! お前らも憂さ晴らしに踏んどけ! ざまぁみろだ!」

 

 

 以前、まだ同盟を結んでいなかった頃に、強大なドラゴンに騎乗して城に殴り込んできた闇妖精(ダークエルフ)の使者に大勢の騎士が殺された。

 

 その悲惨な事件は、ここにいる騎士だけでなく、陛下に仕えている人間であれば誰もが知る所です。いや、忘れられるわけがありません……。

 事件の詳細を知らないのは、民間人だけです。

 

 あの時の恨みは、そう簡単に晴れるものではない。

 ましてや、文官である私たちはともかく、騎士の方々は殉職した同僚の中に身内や知り合いがいた者も多いでしょうから。

 

 ここぞとばかりに、魔導王の姿絵と魔導国の旗を踏みつけている。

 

 一応、丈夫そうな金属板に張り付けられている絵ではあるが、勢い余って踏み抜いてしまいそうですね。

 

 いや、本当に壊れないか心配になるのですが……。

 

 

「どうした? 次はお前の番だぞ?」

 

 

 私は魔導王の姿絵を踏み終わり、横に置かれた魔導国の旗を踏もうと移動した。

 後ろに並んでいた同僚は自分の番だと言うのに魔導王の姿絵の前に固まっており、なかなか踏もうとしないため検査官殿から叱られていた。

 

 

「おい、どうした? 何を躊躇う? まさか、踏めない事情でもあるんじゃないだろうな?」

 

「……こんなことして本当にいいと思っているのですか? 仮にも一国の王なのですよ!? 一時期は同盟を結んでいた王に対しての所業ではない!」

 

「それがどうした? 今はどちらかと言うと仮想敵国だぞ? それに、この場で行われている事は、お前たちから外部の者に積極的に話しでもしない限り洩れる事はない! 遠慮なくやって構わん! さぁ、つべこべ言ってないで、さっさと踏め! 次が控えているんだ!」

 

「くっ……」

 

 

 なぜ、彼が魔導国の肩を持つのかが不明です。同盟関係など、とっくに破棄されたというのに……。

 たしかに異様な儀式だと思うが、そんなに目くじらを立てることでしょうか?

 

 まぁ、これ以上、駄々をこねるのも不味いでしょうし、流石に観念して踏みますかね?

 そう思った矢先──、

 

 

「なっ………!?」

 

 

 彼は、いきなり背中を向けて出口まで走っていくではないか!

 

 

「ふむ、どうやら()()()のようだな。全員、ソイツを捕らえろ!」

 

「「「はッ!」」」

 

 

 検査官殿の命令に応え、出口付近に控えていた屈強な騎士たちが一斉に出口を塞ぎ、逃亡を企てようとした同僚を羽交い絞めにかかる。

 

 同僚は暴れに暴れて、なかなか捕らえる事が出来なかった。私と同じ文官とは思えない力強さです。

 周囲の騎士たちも援護に回るが、なかなか捕らえる事が出来ないでいた。

 

 

「コイツか。お前たち、後は私に任せろ」

 

 

 何もない空間から突然姿を現したのは、赤いローブに身を包んだ仮面の魔法詠唱者(マジックキャスター)だった。

 彼女の事は有名だから、私も良く知っている。最近になって陛下に重用されるようになったイビルアイ閣下だ。

 

 彼女は騎士が束になっても一向に捕まらない同僚に近づくと、なんらかの魔法を唱え、あっさりと彼を捕らえてしまった。

 

 

「クソッ……」

 

「さて、貴様には念入りに取り調べを行う必要がありそうだな。連れていけ!」

 

「「「はッ!」」」」

 

 

 命じられた騎士たちに、同僚が引きずられていく。

 

 私はそれを信じられない気持ちで見ている事しかできなかった。

 本当に、どうしてしまったというのか……?

 

 もしかして、最初から魔導国のスパイだったのか? でも、姿絵を踏む事すら強く拒絶する理由が分からない。スパイなら、そこらへん割り切る事も大事でしょうに。

 

 スパイにしては、やたらと周囲に殺気を振り撒いたりと、今日の同僚は様子がおかしすぎました。

 まるで、他人が成りすましていたかのような………。

 

 

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