トリック・オア・トリート!
お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!
トリック・オア・トリート?
お菓子が欲しいの? 悪戯したいの?
トリック・アンド・トリート!
お菓子もほしいし、いたずらしたい!
トリック・アンド・トリート?
ちょっと欲張り過ぎじゃない?
……ノートリック・ノートリート……
……実はお菓子もいらないし、別にいたずらもしないでいい……
……ただ少し、ちょっとこの日を言い訳に……
ほんのすこしだけでいい。
ほんのひと時だけでいい。
ちょっとあまいひと時を。
ちょっとすっぱい体験を。
* * * 檸檬糖飴 * * *
幻想郷に存在する地底世界――旧地獄。
その中核をなす地霊殿という場所が、私の家である。
もっと詳しく言うと、さらにその地下にある『灼熱地獄跡』が私の居場所だ。
そこで私が何をしているかといえば……
「ひ~~ま~~だぁ~!」
毎日、暇をしている。
お燐やさとり様に言わせると、私はここで『電気を作ったり』、『お湯を作ったり』しているらしいけれど……難しいことはわからない。
前は勝手に間欠泉が地上に出ただけで怒られたのに、今度は毎日お湯を送らないといけないとはどういうことだろうか。
理不尽である……とはお燐の言葉。
理不尽って何だろうね? よくわからないや。
難しいことはお燐たちにお任せである。
私としては、毎日こうして間欠泉の火加減を見るだけでさとり様の役に立っているみたいだし、
みんなから褒めてもらえる……そして、おいしいごはんとおやつが食べれて、
そばには大好きな人達がいるのだから大満足だ。
けれど、最近はちょっとだけ不満なことがある。
さとり様の様子がちょっとおかしいということだ。
一日中ぼうっと過ごすときがあったと思えば、
次の日にはそわそわとあわただしく動いたり、
そうと思えば、何か考え事をしてずっと机で難しい顔をして過ごしているときもある。
風邪か何かをひいたんじゃないかなと心配だったけど、
お燐が「あれは風邪じゃないから大丈夫だよ」と、いっていたので安心である。
けれど同時に「風邪よりたちの悪い病気かもしれないけどねぇ」とも。
うにゅ? 私は安心したんだろうか、心配なのだろうか……わからなくなってきた?
うー……うー……わからないから……ちょっとお燐に聞いてみよう……難しいことはお燐にお任せである。
* * * * *
同じ灼熱地獄跡。
けれど、間欠泉センターとは離れた場所がお燐のお気に入りの場所だ。
本当の一番のお気に入りの場所は、私もお燐も『さとり様のすぐそば』なんだけど、
最近はあまりそばにいさせてくれないから仕方なく『二番目より後』で我慢している。
私にとっての『二番目』は『お燐のすぐそば』なんだけど、
お燐は間欠泉センターの近くは苦手みたいだ。
まぁ、それもしょうがないよね。
お燐は猫舌らしいから、お湯にはあまり近づきたくないだろうし……って、違う?
うにゅ?
「お~り~ん~?」
「ん~? なになに~おくう~? どうしたの?」
と、ガラガラガラと一輪車を転がしてくるお燐。
その上にはいつも通り人の生首が大量に載って……いない?
はじめは人の顔がいっぱい乗っているように見えていたけれど……『これ』なに?
「お燐、『それ』どうしたの?」
「かぼちゃだよ。そろそろ、イベントに必要だから採ってきたんだ……お空も一個いる?」
とお燐が台車から持ち上げ……
「う~、もらう……」
受け取ったものは奇妙な形をした、お燐が言うところの『かぼちゃ』だった。
「ねぇ、お燐……なんで『これ』こんな形してるの?」
「ああ、言ったでしょ? そろそろイベント……ハロウィンだから、顔の形のかぼちゃを用意したんだ。地上のみんなも楽しみにしてるって話だよ?」
と自慢げに指すのは、『顔の形』のように目や口がぽっかりと空いた物。
けれど、私が言いたいのはそっちのほうじゃなくて……
「なんでこれこんなに四角いの?」
と手に持つ、これまで見たこともないほど、真四角な『かぼちゃ』らしきもの。
かぼちゃといえば。もっとこう……ごつごつした丸いものだと思うんだけど……これはまるで上下左右をそうなるように切ったかのように平らになっている。
見てみれば、台車に載っている『かぼちゃ』はすべて同じように、四角い。
「お燐。これ料理するときには便利そうだけど、ここまでするのはやり過ぎじゃない?」
たぶん、顔を彫った時にお燐が何かしたんだろうなぁ、と思ってそう言ったのだけれど、
「え? 私は何もしてないよ……」
うにゅ?
「かぼちゃを採った時には全部この状態だったんだよ?」
お燐が指さすのは……かぼちゃの外の四角い部分と……彫られている顔の部分。
「嘘だ~、外の形はまだいいけど……顔の部分もって……それは無理があるよ?」
「私も種をもらったときに話を聞いたときは嘘だと思ったけど、できてみたらね……全部私が顔を彫ってたらどれだけ時間があっても足りないよ」
と楽ができて喜んでいるお燐を見ながら、もう一度『かぼちゃ』を眺める。
それは綺麗に顔のパーツが彫られていて……中身もくりぬかれている。
そのままかぶってしまって大丈夫なほど、きれいに。
『中身はどこに?』とは思うのだけれど……お燐も知らないみたいだから突き止めようもない。
「『ナズー』だとか『ねずー』だとか? でも育つかぼちゃだってさ。 だから、この灼熱地獄跡でも十分育つっていわれて、おにぃさんにもらったんだもの」
うー、場所の名前なんだろうけど、よくわからない……かぼちゃ自体がおかしな気もするんだけど……
「それで、お空。何か用があったんじゃないの?」
「はっ、そうだ! お燐に聞きたいことがあったんだ!」
お燐の言葉で、今までかぼちゃに気を取られて忘れていたことを思い出す。
「最近さとり様の様子がおかしいよね、お燐は大丈夫って言ってたけど……えーっと、えーっと」
頭の悪い私じゃわからなくなったから……お燐ならわかるかなと思って……
「私、さとり様が心配だから……何かできることあるかなって……」
こういうことを聞けるのは、思いつく限り同じさとり様のペットのお燐と、あとは……一人くらいだ。
「おにぃさんも、最近こっちに来ないし……」
「え、おにぃさん?」
けど、その一人は……地上にいて、数か月前に顔を見せたきり、やってこない。
「どうしたらいいのかな?」
お燐の服の端を掴んで、ぎゅっと握る。
私は何もできないわけじゃないはずだ。
私の中には神様の力もあるし、無力なわけじゃない。
けど、何をしたらいいか私にはわからない。
さとり様のために何かしたいのに、それが正しいのかもわからない。
私はバカだから、考えることが苦手だ。
だからそこは、お燐とかほかの人を頼るしかないんだけど……それがちょっとだけつらい。
「ていっ!」
カポッ、とお燐が私の頭に何かをかぶせた。
暗くなった視界で頭にかぶさったものに触れる。
それは、平らな場所と、とがった場所がある……植物のような独特の感触。
「お空は考えすぎなんだよ」
と、被り物と格闘している中で、お燐が変なことを言った。
考えすぎ? でも、考えられないのが私なのに?
「さとり様は大丈夫! 私が病気って言ったのは嘘だから気にしないの!」
「えっと……嘘?」
「そう、嘘。さとり様は病気でもなんでもないから、お空が悩む必要なんてないんだよ?」
「でも……でも……」
「だからお空は考えすぎなんだよ。私たちはさとり様のペットなんだから、『何も考えずに』そばにいればいいんだよ。それが、一番さとり様のためなんだから」
「う~、よくわかんない……」
「だからわからなくてもいいんだって、ずっとそばにいてあげるだけでいいんだから。お空はお空らしく、何も考えないでいいんだよ。せっかくのハロウィンなんだし、そのまま被り物をして、『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞー』っておにぃさんに言ってきなよ」
「ハロウィンを楽しむの?」
「そうそ、そしてお菓子をもらえたらさとり様と一緒に食べて、貰えなかったらおにぃさんごと攫ってきちゃおう! ずっとこっちに顔を出さない罰だね」
「さとり様喜ぶかな?」
さとり様と私たち。そしておにぃさんがいる食卓を想像して、少しだけ体が浮き立つように感じた。
楽しそうだなって。
「喜ぶ喜ぶ、だから、ハイッ!」
パシンとお燐んが背中を押した。
「いってらっしゃい!」
「うん、行ってくる! おにぃさん連れてくるから待っててね!」
* * * * *
「やれやれ、お空もさとり様も……同じ病気かにゃん❤」
* * * * *
コロコロと口の中で飴を転がす。
甘い味が舌に広がり、果物の香りが口いっぱいに満たされる。
いやー、ハロウィンの時期っていいよね。幸せだよね。
最近はいろんなお菓子が出るようになったからね。
本当ならそういうお菓子はハロウィンでもらいに来た子たちに配るために買うんだろうけど。
おいしいものがあるんならまず自分で味わうべきだと思うんですよ。
というか……お菓子もらいに来る子なんていないですしね……いや、特に意図はないですけど、いざ誰も来ないと物悲しくはあるんですよ?
とか思ってる間に、もうキャンディのアソートも最後の一個になっちゃいましたよ。
一日に何個食べてるんだ自分。
「トリック・オア・トリート!」
とか、思っていたら……来ましたよ。もらいに来る子。
「お菓子をくれなきゃいたずらするぞー!」
目の前に唐突に表れたのは……妙な形のかぼちゃ……ジャック・オー・ランタンを被った女の子。
その服装や……あー身体的特徴で……なじみのある地霊殿のとこの子だとは分かった。
しかし、あげたいのはやまやまなんですが、なにぶん手持ちのお菓子は……
口の中で大きな飴玉の感触がある。そして、手元にはつい先ほど空になったばかりの袋が……。
どうするべきか、新しく買いに行くか? けど面倒だし、だから……
「悪戯を所望する!!」
とだけ言った。
お菓子もないことだし、できればおとなしく帰ってもらえると助かるなぁと。
けれど彼女は、
「じゃぁ、一緒に地霊殿にいこっか!」
なんでそうなる!?
「だって、お菓子もらえなかったらおにぃさんを攫って来いってお燐が言ってたし?」
……いや、さすがに、地底世界まで連れてかれるのは困るんですが。
自分もこっちでやることがあって、顔出せないわけですし。
他の悪戯で済ましてもらえないでしょうか?
「うにゅ? でも、お菓子もらえないんじゃ、仕方ないよ?」
くそうっ、どうしてもお菓子を渡さないとあきらめてくれないようだ。
だとすると、手持ちのお菓子はない……いや、一個だけあった。
「よし、わかった。お菓子をあげよう。けど、俺を恨むなよ?」
「恨む? なんで?」
というや否や、お空がかぶっていたかぼちゃをずぼっと取る。
そのいきなりの行動と明るさの変化で、お空が目をつぶった隙に……
一つだけ残った飴をお空の口に入れた……最後の一個は柑橘系の酸味の強い甘さでした。
「うにゅ? あま……い?」
少し考え、『何をされた』のかわかったらしく、ぼっと頬を赤くして、かぼちゃをひったくるようにして彼女は去った。
「お、おにぃさんのばかー!」
被害は飴玉一個。
俺、大勝利である。
* * * * *
うにゅ~、どうしてあんな風になっちゃったんだろう。
「お空どうしたの?」
「う~、お燐~」
お燐は私の周りを見ると、納得したように一輪車に積んであったあるものを取り出す。
「お菓子もらえなかったのは残念だったね……私のもらったのを分けてあげるよ」
といってお燐が私に差し出したのは……
「レモンキャンディだけど、いい?」
黄色い包み紙に包まれた、小さな『毒薬』だ。
「……そ、そんな恥ずかしいの食べられないよ!!」
「キャンディが恥ずかしいって……なにさ!?」
「う~、恥ずかしいから……恥ずかしいんだもん……」
「あーじゃぁ、別のがいいかな?」
と、改めてお菓子を探そうとするお燐に……
「もらう……」
「え? でも……」
「もらう……」
私の手には黄色いキャンディがひとつだけ。
* * * * *
トリック・オア・トリート。
レモンキャンディを見るたびに、私の中の『神様』が暴れ出す。
レモンキャンディをなめるたびに、しっかり思い出す。
それはちょっと甘酸っぱすぎて、当分忘れることはできそうにない味と感触。
見てもだめ、食べてもだめ。
私は『これ』をどうしたら……バカな頭じゃわからないよ。
私の代わりに……レモンキャンディなめる?
絶対あげないけど。
私のお気に入りの味だから。
はい、読んでいただきありがとうございましたー。
作者のカゴメです。
自分としては今回から作風を変えたという思いでタイトルからガラッと変えましたー。
(朗読主からクレームも来たので(笑))
さとり兄は犠牲になったのだ(悲)
まぁ、同人誌にする場合はさとり兄Verになってるとは思います。
最後に一言。
なんか今回の作品無性に恥ずかしいかったです(赤面)