名雪エンド後の、目覚まし時計たちを題材に書いた掌編です。

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チクタク

 時計を好む理由は人それぞれ。

 いつも正確な時間を知らなきゃいけない人がいる。

 時間の積み重ねを感じられるからという人もいる。

 針がコチコチ動くのが好き、何かで時間が区切られないとダラダラしちゃうからって人もいる。

 あ、あと、デザインが好きでインテリアにしたい人も。

 さて、わたしが時計を好きな理由は、ね――

 

 

 

「名雪、本当にいいのか?」

「うん、お母さんも了承してくれたし」

 

 代金はみんなお母さんのお金だしね、と付け加えて、最後の一個を入れて、ダンボール箱の口を塞ぐ。

 

「よいしょっと、これで全部か」

「うん」

 

 目の前には段ボール箱ふたつ。

 作業が終わったばかりのわたしの部屋を祐一は見渡して一言、

 

「……広くなったな」

 

 ものすごくひどい一言だった。

 

「わっ、祐一ひどいよ」

「ここはどこだ」

「ちゃんとけろぴーもいるし、机もあるし、どこからどう見てもわたしの部屋だよ」

 

 でも、部屋のあちこちに視線を動かしてみると、確かにがらんとしたような気がした。

 棚の上や、机の上、ベッドの周りにあったはずの目覚し時計がなくなるだけで、こんなに違うんだね。

 

「で、残ったのがあの大きいやつと……」

 

 祐一は、窓際の、歯車が見える大きな時計を見て、

 

「だって、高かったから」

「これか」

 

 すぐ近くのマイクのついた目覚し時計を取り上げた。

 

「これはぜったいに捨てないよ」

「早く壊れてくれ……見る度に憂鬱だ」

「そうそう、こないだ香里が、機械じゃいつ壊れるかわからないからって、パソコンで取り込んでくれるって言ってたよ」

「意地でも阻止する」

 

 握りこぶしを顔の前に掲げて戦闘態勢。

 

「わ、だめだよ~」

 

 まったくあいつはそんな暇あるのかよと愚痴りながら、祐一はマイクつきの目覚し時計を元の位置に戻した。

 その不安そうな顔が可愛かったから、わたしも、本音を言うことにした。

 

「……でもね、もしかして消えて忘れちゃった方がいいのかもって思ったりもする」

「それなら今すぐに望みを叶えてやる」

「だからダメだってっ」

 

 録音ボタンに手を掛けた祐一から奪い取って、胸にしっかり抱きかかえる。

 

「祐一、わたしがこんなに時計集め出した理由知ってる? 最初は、目覚し時計じゃなくてもよかったんだよ」

 

 一瞬きょとんとして、それから一度も聞いてなかったなとわたしの恋人は真面目な顔になった。

 その顔になってくれると、わたしも話しやすいよ。

 

「――時計なら、何でもよかったの。時計の針って、ぐるっと回れば、1日に2回、同じ場所をさすでしょ」

「ああ」

「もちろん、止まってても、だけどね」

「あぁ」

「でもその針みたいに、時間がぐるっと一回りしたら、また祐一がこの街へ来る『時間』が来るって、ずっと思ってたから、なんだよ」

 

 胸で温めた、メッセージ入りの目覚し時計をまたもとの場所に戻す。

 ちょっと二人、黙って時間が過ぎるのを待った。

 

「……長針と短針も、何度離れても重なるもんな」

「うん。でも、同じ時間ぐるぐるまわしてるだけじゃダメだって気がしたの、最近。また、あんなことがあるかもしれないし」

 

 下の階のゴミの側においてある、もう使われなくなった松葉杖を思い浮かべる。

 お母さんが家に戻ってくるときに使っていた松葉杖。

 悲しい出来事があったことの、証拠品。

 

「だから、大掃除にあわせてちょっとさよならしよっかなって」

 

 祐一が何か言う前に、よいしょって掛け声をかけてわたしは時計の詰まった箱を抱えた。

 わたしのこの時計たちは、これから、フリーマーケットで売られてゆく。

 ひとつひとつ、大切な思い出たち。どの時計も、買ったその日のことを覚えている。

 その思い出はわたしが抱えて、みんなには、これから他の思い出を作ってもらおう。

 

「まぁでも儲かったら、寿司でも食って帰ろうな」

「ううん、売上げは全部募金して帰るよ」

「は?」

「だってわたしたちは幸せだもん。ね?」

「まぁ、そうだけどな」

 

 バイバイ、みんな。

 ……大好き、だよっ。




書いたのは20年以上前なので、色々と温かい目で見て頂ければ(苦笑)
※pixivにも掲載しています。

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