鴎誕生日記念SS。大人になった羽依里と、作りかけのままだった鳥白島の「あの施設」のその後を書いた掌編です。



1 / 1
2024年の鴎誕生日記念にXに流した掌編の、加筆修正版です。
鴎、誕生日おめでとう 




夢を見る島

 ――考えていた。

 春風が吹き付ける、船の後甲板に立って、俺はひとり、考えていた。

 空と海。

 同じ碧と白の組み合わせなのに。

 海だけを、怖いと思ってしまうのは何故だろう。

 大きな船だから、揺れたって落ちてしまう心配はないというのに。

 

 ユメガサメレバ アワニナル

 

 爪先が示す方、船のスクリューが立てた航跡の泡が、俺にそんな言葉を発してきた気がした。

 そして、思考の靄が晴れる。

 そうか。

 空には、亡くなった人が思い出と一緒にいる気がするのに。

 海に浮かべた思い出は、泡と消えてしまう気がするからか。

 

「……おとーさん、どうしたの?」

「むごっほ」

「へんなせき~」

「ドクドクちゃんが楽しんでくれるかなぁって、考えてた」

「ちがう! ドクドクじゃなくてロクロクちゃん! ちゃんとおぼえて!」

「あ、ごめんごめん」

 

 憤懣やる方ないという表情で、娘はぷいと横を向くと、髪に飾ったドクロマークのアクセサリーをいじっていた。

 

「いいのか? プンプンしてる子はひげ猫団に入れないんだぞ?」

「わーっ!? ごめんなさいごめんなさいおこりませんっ」

「そう言ってる間に、ほら、見えてきたぞ島が」

「わぁっ、たのしみ~!」

 

 俺は、娘の手を取り、行く手に近づく緑の固まりを眺める。

 島がある。

 鍵を探し、洞窟を抜け……海賊船の入り江に向かう。島全体をめぐるようなアトラクション。

 鴎と。俺と。島の仲間と。本が繋いでくれた大勢の仲間が。夢を紡いで完成した島だ。

 夢が始まったあの頃。俺たちが携帯できるのは本と、白黒画面のゲーム機だけだった。

 それが今、手にするものは地球の裏側とも電話出来るスマホになって。

 声だけでなく、お金だって七つの海を超えて集まってきた。

 クラウドファンディング・ひげ猫団。それが、夢を叶えたものの名前だ。

 作りかけのまま途絶えていた夢は、大人になったひげ猫団員たちによって、次の世代に手渡せる「形」になった。

 

「ひげ猫団の冒険、好きか?」

「だいすき! おとーさんがいっぱいよんでくれるから!」

「はは……」

「タカもカモメもだーいすきだよ!」

「うんうん、お父さんもな、カモメって子が好きだったんだ」

「へー! ママとどっちが好き?」

「う~ん、ママに会う前だからな。ママと同じぐらいかな」

「じゃあ、おとーさんの『おし』だね!」

「むごっほ。そ、そうだな。推しって言っていいかもしれない」

 

 笑った。確かにそうだ。

 こんな年になっても、わざわざ誕生日当日を選び、海を超えて島に行く。

 ついそんなことをしたくなる彼女は、確かに俺にとって、推し、と言えるのかもしれない。

 鷺さんも、意図して決めたんだろう。

 鴎とカモメの誕生日は、一緒だった。

 

「そうそう、今日行くひげ猫団の海賊船、昔、お父さんも作ったんだぞ」

「それ、もうなんかいもなんかいもきいたー!」

 

 またむくれてそっぽを向いた娘が、次の瞬間、小さな指で天色の春空を指差す。

 長い長い、船のような、いや島のような、広い雲。

 その前を横切る、一羽の鳥を。

 

「かもめさん!」

 

 鴎か。海猫か。

 いや、鴎だ。今日は鴎に決まってる。

 どうだ、鴎。

 お前はいま、この世界を楽しく飛べているか?

 女性の声のアナウンスが、まもなく鳥白島漁港に到着します、と懐かしい地名を告げた。

 

「よーし、じゃ行くか。降りたらスーツケースに乗れ。ビューンってゲートまで押していくからな」

「わーい!」

「待って」

 

 そこに、割り込む声がした。

 

「そこはきょう誕生日の私が優先だよね、羽依里?」

「やめとけ。スーちゃんがぶっ壊れて泣くのは鴎、お前の方だぞ」

「むぅ。羽依里おとーさんはいけずぅですなぁ」

「自分の子とそんな権利を取り合うんじゃない」

「なら私をおんぶ! そしたら前は空くからスーちゃん押せるでしょ?」

「お前なぁ……」

「おとーさんおかーさん、はやくー! みんなならんでるよーっ!」

「だってさ。まずは行こうか、鴎」

「うんっ。今日はめいっぱい楽しもうね、羽依里!」

 

 伸ばされた手をとり、俺は、心に帆を張る。

 そうさ、鴎。

 お前と過ごしたあの夏は、もう決して、夢と消えたりはしないんだ。




当初は、原作鴎ルートの設定に沿って、ちょっとビターな感じに書いてましたが……お祝いの日に悲しい話は似合わないと思い直し、夢のある形にしてます。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。