『不死身がいるそんな噂、普通は気にもとめないでしょう。ですが私は天狗の血を引くもの、怪異などがいることは当たり前でした。
『ですから、一目見たいとすぐに噂の流れる島に来ました。島に着いた私はすぐさま聞き込みを開始、一人目からそれらしき者をみたという人に出くわしました。
『二人目の方は不死を知っているようでしたが否定をしていて何か隠したいような感じで、おそらくですが見鬼をもったこちら側に近しい人でした。
『そのものについていくと、常軌を逸した怪異に出会うことになり、死を感じ取る事となるとは思っていませんでしたけど』
「見るな!」
浜にはおびただしい量の血痕が、その中で生首を持ち、人を貪る少女。
人を喰う怪異はたくさんいる。だが死体の山を築き上げ、まだなお足りないとそう言っているそんな少女の怪異。そんな怪異はまず知らない、いない、伝承にすらない、この島にも本土にも。
「考えるに、全員アレに食われたみたいだな」
「悪い死強、こいつは知らない」
「そうか、やっぱりか、怪異に食われて死ぬのは、【普通】じゃないよな」
「ちょっと、なんでそんな冷静なんですか」
怪異に慣れた者だとしてもこの惨状を見て動ける死強と傀偽に、風奈は驚く。余計に何者かという疑問が立つがそれ以上に異常な存在がそこにいる。それにわざわざ立ち向かわんとするその行動は風奈には理解できないことだった。
だが、その言葉により少女の視線が傀偽たちの方へと向けられる。
「なんだ、まだいたんだ。いただきます」
『眼前に広がる闇、先が、終わりが見えないそれは、彼女の尽きない空腹を表しているようで。そんな考えも瞬時に吹き飛び、残るは死、避けない……と……』
「危ないな、距離の分からない常闇攻撃、防御は不可、当たれば即死、回避は難関、一介の怪異が持てるもんじゃないな」
「これは…」
少女からかなり距離を取った場所に移動したことに。驚く風奈、己が知るのかで最速の怪異である祖父の扱う神通力でもこんなに早くは移動できないと、まるで瞬間移動だと、多くの疑問が行き交う風奈を置いて、二人が動く。
「傀偽、下がってろ、」
「いや、俺も…」
「傀偽、天狗娘、それとフルール。ちょうどいい、よく見ておけ、これが死神としての俺の本分、〈
咎の重距離
瞬きのうちに生み出される闇に、ためらうこと無く進む死強、同じく瞬き一つの時間で、怪異の後ろに飛んでいた。そして少女の怪異の胸には深々と大きな太刀傷が刻まれて、血も出ている、これが死神の死強の実力だ。
「ねぇ…殺したの?」
「ああ…次期に消える」
死強に恐る恐る聞く、フルール、怪異との関わりがない一般人だったからこそ怪異も死も慣れることはない。死神についての話は分かっても、お練れがいる場所については理解していなかった。
「放置していたら被害は拡大していたでしょう、これでよかったと思います」
「そうだな」
「お…かあ……さん、おな…か……すい…た」
「!」
日々が入りボロボロと崩れるちく少女の怪異が去り際にはなった言葉は、母を呼ぶ言葉、母の不在、満たされない食欲。哀れと想ったか傀偽が近づく、そのまま口に手を近づけて、相手の口の牙(犬歯)へと乗せて
「っ痛、」
「えっ?」
指を喰わせる
死強が怪異を切り、死ぬことを知って。同じく夏になれば永遠と怪異殺しをしてきた経験も、少し的外れのようなものは編む田が、それでも意志のない怪異ならまだしも、こうやって人の形をとるものは傀偽にとっても始めてで、余計に心に響く声となってしまった。
「お…かあ……さん、おな…か……すい…た」
母を呼ぶ声、幼さの残る言葉遣い、見た目どうりの子供、なぜ怪異となっているのかは、分からない。それでもと
その子のもとに歩み寄り。せめて、
その思いが満たされるようにと、
指を差し出したのだ。
「えっ?なんで…指」
「ごめんね、もう君は助からないから、少しでも満たされたらいいなって」
『
「うん!」
消えていく怪異、流れる怪異の記憶、またも傀偽の目の先に赤い糸が結ばれる。そこからさらに流れる怪異の
『お母さん、おなかすいた』
『そう、ね、でも我慢しなきゃだめよ、お国のために戦っている人たちがいるのだから。勝てばいっぱい食べられるから。それまでの我慢よ』
『…うん、贅沢は敵だもんね』
『そうよ、■■、ちゃんと守るのよ』
食べるものが少なく贅沢ができない時代、配給も減り、生活は乏しくなるばかり。それでも必死に生きようとする一つの家族。
母も子もやせ細り空腹を知らせる鐘が鳴り響く、父がいないのは戦地に赴いたからだろうか、二人だけだ。育ち盛りに食べるものがないのはつらいだろう、苦しいだろう。
そんな日々が続いてく。終わりの見えなくなった戦争と、空腹で寝ることすらできないもどかしさ。夜の暗さが、夜の闇が、いっそう心を、空腹を、加速させ、鳴りやまない空腹の金が虚無を奏でる。
『おなか、すいたな~』
ひとりごと、だけどその時代においては万人に共感されるほどの全体的に下がった配給に言葉。お国のためと、アメリカ人は悪い者と、戦争を肯定する、いや、させる国は結局負けた。
けれども、終戦を知らせる夏が来る前に、母は寒さで凍え死に、春には少女をも空腹で、夜闇に息絶える。
尽きない空腹は、満足に食べることのできない子供が、残した思い、闇は寝れない夜の悲しみか…………尽きぬ空腹を、底が見えないものとするのか…………
「………」
「傀偽、」
「この子、戦争の被害者だ、それも食べれなくて死んでしまった子だ…」
「…そうか、悪いことしたな、あの時代は賽の河原も大変だったな」
重苦しい空気、怪異にまでするほどの空腹、それを作った戦争。今を生きる者は戦争の悲しみを直には知らない。
直に知る者はとうにいない。言葉が残されてそのうちネジ曲がり考え方もが変わっていく。
「…あの…指…大丈夫なんですか?」
「ん?ああ、問題ない」
風奈の心配に対し、問題ないと答える傀偽。実際に流れ出る血は止まり、滴り落ちた血は瞬時に蒸発する。その流れで指が完ぺきに再生される。
「えっ?!」
「なんだ……まあ、取材、するか?」
結局、めぼしい収穫はなく宿に戻ることになった一同。風奈は取材とは言ったものの、すぐに取り組むような空気ではなかった。人が死に、それに耐えられるものはこの中で二人だけ。
夏休みの夜回りで新種の怪異が出ることなど今まで一度もなかった。傀偽は気づきながらも、また別を考えないと行けないと。この夏がいつもとは違うことを実感しながら死強と共に話し合いとなる。