空が茜色に染まる頃、
「碧医達はどうする?まだ外には出れるけど」
宿に住んでいない碧医に傀偽が質問をする。日がまだ出ているので外出はまだできる時間だ。
「なら帰る、あまり長居するのもよくないし」
「わかった、送ろう、天狗付いてこい」
「はいはい、わかりましたよっと」
死強と傀偽そして監視のため風奈と保護のためのフルールとともに、碧医達を送る。
鬼やら天狗、妖怪の代表と言える怪異が集まってきている現状に、日が出ているとは言え流石に気は抜けないということで、かなり気が張り詰めている。
「そういえば医者の勉強はどうなってる?そろそろ大学受験だろ?」
「順調ではあるかな、でも薬望先生はあまり期待はしてはくれないみたいだけど」
「あの人は生きてる次元が違うからな、あまり気にしないほうがいいだろ」
「そっか……」
―――――――――
『いよいよ、お別れか、やっぱり見えないけど、まぁ向こうでも頑張って』
『ありがとう、…ところで先生は?』
『…
『そう、そうだよね期待に応えられなかった私になんか、興味……ないよね』
先生、いや、傀偽の母に憧れ医者を目指した碧医。けど、出来ることはあまりないから、日が立つごとに、期待の眼差しはなくなっていき、見ることを、関わることをされなくなって、今ではほとんど関わりのない状態に碧医はかなりの心痛となっている。
『代わりと言ってはなんだけど、俺は応援するよ、医者になる夢』
『……うん…ありがと!高校でも頑張るよ!』
―――――――――
「懐かしいな、あの頃は俺もよく病院に行ってたな……」
「……そっかお姉さんに…」
「ああ」
「あんま覚えてないけど、難病だったんだっけ?」
「覚えてたのか、フルール」
「病室が一緒だったからね、顔も覚えてないけど」
傀偽の姉、今はもういない、だがそんな話、島を途中で離れたフルールも察していた。そしてさそこに死強が入ってくる。
「…姉がいたのか…もしかして雪草という名か?」
「知ってるのか?」
「ああ…なるほど……因果なもんだな、」
「?」
「俺が普通を人に望む理由だ。かつて俺が正しく迎えられなかった者だよ…」
「そうか、姉さんは…」
―――――――――
今日も無事に病院に着く、
『あら、カイくんじゃない!今日もお姉ちゃんのお見舞い?偉いわね〜』
『こんにちは、看護師のおねえさん』
『おお、君…薬望先生の息子さんだね、こんにちは』
『こんにちは、お仕事お疲れ様です』
いつも通り他愛のない会話、人形のように医者の子供という礼儀正しい子供を演じているかのような立ち振舞。扉を開け中に入る傀偽、いつも通り彼女は外を眺めていた。
『お見舞いに来たよ、お姉ちゃん、』
いつも通りの彼女も聞き飽きたであろうセリフを吐く傀偽。
『…また来たんだ、カイ、おまえはいいね、健康で』
『四季おじさんが果物持ってきてくれたんだ、ここに置いておくね、これ置いたら僕は帰るよ』
『用はそれだけ?』
『うん、そうだよ』
希薄な会話、互いに興味がないかのように掛け合う二人、そこには何もない、家族としての縁も姉弟の会話もなにもない。
『…ホントは私のこと、笑いに来たんでしょ。病気で苦しむ姿を見て悦に浸っているのでしょう。これ以上私から、何を奪えば気が済むの』
『……』
『そうだ、カイ…帰る前に、こっち来て』
姉が、ベットから落ちるように、そのまま傀偽に覆いかぶさる。細く、白い両腕が懸命に【僕】の頸に絡みつき、精一杯の力を込めている。不治の病に侵された姉、健康で傷一つない弟が、さぞ憎いのだろう。おいたわしや、姉の心は完全に壊れてしまったのだ。
助けなきゃ…助けなきゃ、
『重いよ、姉ちゃん』
『……苦しいとは言ってくれないのね、もう行っていいよ』
十も離れた姉弟なら、たとえ女児であろうとも、五つの男児の頸を締めるなら容易いなことだ。だが不治の病に侵され、やつれ、寝てばかりで力もない、それで頸が締まるわけもない。
雪草は手を解き、弟に部屋を出ることを強要する。
なぜ悲しむのか、あなたの弟は、苦しみも何も感じない肉
分からない。
だからこうして傀偽は、ノイズがかかるはずの記憶の中で鮮明に覚えているのだろう。「死神さんに会った」そう言って、彼女の目に光が灯るのはもう少し先の話だ…そしてそんな死神にあったのならソレは俺への【罰】だ
―――――――――
「……姉さんは、名という言霊に縛られた人だったよ」
「そうか、まぁなんとなくは、な」
過去の話はは湿った空気になる。それも死神に出会ったことを喜ぶ弟に出会うたびに殺そうとかかる者の過去などなおさらだ。死強も皆も深掘りはしなかった。それでも1人その空気を破るものがいる。
「…ねぇ、死強さん?」
「死強でいい」
「急いだほうが、いいんじゃないんでしょうか、これ」
「……みたいだな、少し、話しすぎたようだ」
日が傾き茜色だった空が、暗く、夜の訪れを知らせていく。
「そういや、今日はもう船でてなかったな」
「今そんなこと言ってる場合…なるほどねぇ」
「伯父貴に何かあったのか?」
「何かあったと言うより、その場所に問題がおきたかな」
「ああ、はやく家につかないとだな」
傀偽と死強が見た先は、昼の海岸だ。そこには、隠す気などないほどに大きな霊気が発せられていた。
「鬼羅さんは鬼だ、そうやすやすとやられはしない」
「…わかった、」
―――――――――
「ついたぞ」
「ありがとう、それじゃあまたね」
「ああ、縁があったらまた会おう」
「ええ」
「さて、船は……ちっ、この時間ねぇのかよ」
佐木を海へと送り届けた鬼羅は面倒くさそうに海岸に戻り、ぶらぶらと歩く。持っているのは酒と肴の数の子、これなら鬼でも一夜くらいは退屈はしないだろう。
「しかし、これはなんなんだろうなぁ」『この気持ち悪いまでに似た霊気、懐かしいなぁ』
巨大な船、異様な気配、間違いなく幽霊船だ。停泊しているが、この島に何のために停泊しているかは分からない。その船から何者かが降りてくる。
「!っはぁ゙」
異様な霊気に気持ち悪さと懐かしさを覚える鬼羅。それでも異様な敵に瞬時に拳をたたき込む。
「あらあら…いきなり殴りかかってくるなんて、鬼というものはこうも余裕がないのですか?」
『なんだ、コイツ…人間…?鬼の俺が咄嗟に攻撃してしまった…見たことのある赤い障壁にに異質な霊気、何をとっても異常だな』
「ねぇ、
「冗談じゃないだろ、腕の一、二本は諦めたほうがいい」
「おいおい、俺の本気を相手取るのに、腕の数本で足りると思ってるのか?それこそ冗談じゃねぇよ!」
拳を握り、一歩踏み込み、撃ち込む。宿と同じように、霊気を込めて。だがその拳は届くことはなかった。
赤い障壁に阻まれる、それは、折り重なった赤い糸、それにより拳が防がれる。
「残念です、あわよくば調僕をと思っていたのに」
「そんなこと考えていたのか」
白髪に紅の目、長い髪を持つ女性、そして幸と呼ばれたものは、子供だった。
『女と童か、やっかいな気配だな』
「にしても、何だその技、めんどくせぇな…まぁいいか、殴ってぶっ壊す。〈
―――――――――
「ちっ、クソ」
「赦したまえ、赦したまえ、我らが罪を赦したまえ。不死の命をもって、我らが罪を赦したまえ。その臓腑を神に捧げたまえ。さすれば、罪は洗われる。みんながみんな、夢の世界。嬉しい、嬉しい。あははははははははははは!!」
「ぎゃぁぁぁぁァァァ!、キモいキモいキモいキモい!!何なんですかこいつら!」
「ほんとうにな、不死とか言ってるし…」
「例の噂に釣られた【雑霊】どもだろ、斬ってもすぐに湧き出てくる…」
「それにしちゃあ、意識もあるし、木っ端よりは強いぞ!」
地面から、根が、枝が、湧き出るように生えてくる。木の枝のような体だが、実体はほとんどない。数が多い怪異を前に冷静に動く死強と、その気持ち悪さに叫ぶ風菜、
「逃げたほうがいいなこれは」
「逃がすな逃がすな、壊して潰して燃やして燻せ、戴き飾りし月に耀く不死の焔」
「だぁぁ!うるせぇうるせぇ!!意味がわからねぇことをしゃべんじゃねぇ」
「数が多すぎますよ!!一体一体は弱いですけど」
「死強!風菜さん!」
傀偽も鉈を振るい応戦するが、大部分は死強と風奈が捌いている。
「三人を連れてここから離れろ!傀偽!ここは俺達が止める!!」
「ちょっと私を入れないでください!」
「逃げるってどこに行けば!」
「…宿が一番近い」
「行きましょう!」
「そこでいい!急げ!」
「ちょっと置いていかないでください!!」
「戦って己の無実を証明しろ、アホ天狗」
「私戦闘は得意じゃないですって」
愚痴りながらも、着実に倒す風奈、それを見て傀偽は、動かなかった。己が一番襲われてはならないというのに、何をためらうのか、何に罪を感じるのか、
「いい加減にしろぉォォォ!黄泉ぃィィィィ!!いつまでここにいるつもりだ!早く逃げるんだよ!」
「けっど!二人だけを残すのは…」
「だぁークソ!!こういう時は優しさはいらないんだよ!何で鬼の力を使っても動かないんだよ」
千代が傀偽の体を引っ張るが、傀偽は動かない、動きたくないのが理由だろう、いくら弱いとはいえこの数は不安が募るのだろう。傀偽の考えはここで対応したほうがいいというものだった。
「でも二人、かなり強いよ!」
「やるじゃないか天狗女」
「冗談じゃないですよ、うわっ!また生えてきた!」
「キノコみたいだな」
「ほんとだ、徐々に減ってきてる…このまま行けば…」
「……俺も加勢する!」
数が減り、殲滅へと傀偽も加勢に行こうとする。ただ一人、周りを観察していたものの言葉に気づかずに。
「…なんだろう、この胸騒ぎ、嫌な予感が…」
「不死だ不死不たな死だろ不死おまえ死ね不死ねよ不死んでくれ不死不死しねしねしねしねしねしね」
「!碧医っ!避けろぉぉぉぉ!!」
数が減ったのではない、すでに回り込まれていたのだ。異常なほどの数が、霊気に敏感な死強、風奈、傀偽の感覚を鈍らせたのだ、
「まずいが…問題はない。俺に距離はないに等しい、刃は届く、故に問題はない」
ゴチャッ
「問題…は…」
「痛っ?!なんだ小指が」
反応が遅れたことに、まだ追いつくことを自分に言い聞かせるように鎌を構えた死強が雑霊を切り裂く前に闇が広がり碧医への攻撃は喰い消される。
そして傀偽の小指が欠ける、いや同じく喰われるが正しい。しかし今見えたのは…その場にいる全員が見た【闇】、それは昼に海岸で人を喰らい、戦時に命を絶った少女の妖術、だが姿は見えない。
それでも、今はそんなことより周りの怪異と、死強と風奈は驚きながらも瞬時に状況を再認識、武器を構える。
「イヤダイヤダ、食べられちゃうのは嫌だ」
「不死食べたい、ダレ?不死だれ?」
「全員たべればわかるよ」
「僕らが食べられちゃうんだってば」
「怖い、お腹の中怖い!!」
「諦め諦め」
構えたが、歪な言葉とともに消えていく雑霊。何とかなったのかと疑問と余韻が残る。
「死強さん!アイツラ逃げちゃいますよ!」
「え?あぁ…まぁいいだろ」
「え?いいの?」
「倒しても倒してもキリがなかっただろ、退いてくれるなら万々歳だ」
「そうだな、でもあの闇は」
「ああ、常闇の少女のだ」
「生きていたんですかね?」
怪異の霊気に敏感な二人が断言する。それでも見つかることはなかった。本当にどこかにいるのか、はたまた別の力か。
「傀偽さんの指を喰らうことで一名を取り留めたんでしょうか?」
「指一本でそこまでなるか?腕やら足とかならともかく」
「…いや、不死身の肉だ何が置きても不思議じゃない。取り敢えず、碧医、だったか?親に今日は泊まることを伝えておけ」
「え、あ、はい」
戦闘に慣れない一般人の穂香と沙也加、そして怪異に触れる経験がある碧医とフルールも腰を抜かして座り込んでいる。それを立たせて碧医を千代にフルールを傀偽が支える形で宿に帰る。
―――――――――
「ちっ、クソが」
「何とか倒せましたか、いやぁありがとうございます山吹、いえ
「ああ、」
『さて、それでは行きましょうか悪魔対峙』
「それでは行きますよ、二人を起こしてきてください」
「わかったよ、