「あぁぁ!どいつもこいつも、楽しそうに!マスターもう一杯」
「いや、飲み過ぎですよお客さん。居酒屋も兼用してますけど四時までは、カフェなんですが」
「酒を出してるのだから、問題はないでしょ」
「そうなんですが」
鬼願からの案でカフェ兼居酒屋の四季に手伝いに来た傀偽は、朝から酒に逃げている、女性の相手をしている。
「けど、若くない?貴方」
「高校生だから一応問題はないよ、」
「取り敢えず、お酒持ってきて、どうせ慰めてくれるようなやつは居ないから」
「だから酒に逃げるのか?俺からしたら華を聞いてほしそうに見えるが」
人を引きつけ、相手の欲しい言葉を並べる傀偽の癖、知人からしたら嬉しいことだが、赤の他人からしてみれば、嫌なことである。
「話したところで何になるの?年はもいかない子どもが、相談に乗れるとでも?」
「正解を伝えることはできなくとも、縋るものが足りないことだけはわかる。経験がないのは知っている、それでも嫌と言うなら、他に譲るが?」
「……経験するものでもないわよ、わかったなら」
欲しい言葉を言うが故に、相手に怒りを覚えさせる、欲しい言葉に何も知らないガキが加わると苛つくように、客に対して今の傀偽は、それにしかならない。
「取り敢えずはい」
「注文と違うわよ」
「桃酒、桃は女性を敬う意味がある、気に触ったのなら謝ろう」
本来、人に寄り添う傀偽の癖は、知った中にしか使うことはできなかった、見鬼だけでは相手の表情などをうまく見れないからだ。
視力が戻ったため、より深く相手を知る、理解しようとし、言霊から付いた花言葉の知識で、相手との距離を測る。
はたから見たらただのナンパしているキザ野郎。
「まぁ、悪い気はしないわね」
「そうか…!っ……何も、殴ることはないだろ」
「聞き込みをしろ、女誑し」
ナンパをみていた死強が痺れを切らして、殴って止める。
「……やっぱり、嘘ね、人はそういうものだけど」
「悪いな、臨時の手伝いをしていてな、」
「その気もないくせに、あそこまでペラペラと甘い言葉がでてくるとは」
「全部が嘘というわけじゃない、癖に近いな、周りの人間が、何を求めているかが何となくわかる、それに動かされることがある」
「それは、難儀なお役目ね」
悪態をつく彼女、縁結びの霊術か、必要とすることに縁は働く、彼女もまた、鍵なのだ。
「役目ってわけじゃないが……」
「まった、注文も多くなってきたから、傀偽、死強さん、頼むよ」
「またか、死神の能力をこんなふうに使うかね」
「いいじゃないか、霊術の練習になる」
「なにする気?」
「無駄遣いの極み」
傀偽の蛇足により注文が停滞したため、すべきことが多くなる。傀偽と死強が霊気を高めて、動き出す。
咎の重距離
✕
怪と人の縁糸
「3秒で終わらせる」
「ん、了解」
カランと小気味いい音を立て、注文をしたすべての席に食器が置かれる。
「はっ?」
「いやぁ、火を使わない物なら一瞬で終わるから楽だな」
「まさか、鎌を包丁として使うことになるとは」
「結構酔うなこれ」
「本当に無駄じゃない!」
切って、盛り付けて、運ぶ、パフェの注文のためだけに、能力を使用したのだ、無駄ではある上かなり手を抜いている。なお、普通においしいものができる。
「それじゃあ、他の方やってくる」
警戒されている傀偽は他の客をさばきに行く。
聞き耳を立てられていたのか、人の現状を答えるという遊びをやらせれることになるのだが、
「……ショートボブの貴女は傷心旅行中、かな。原因はたぶん恋愛絡みだ、自分には厳しいけど、恋人にはとことん甘くなるタイプかな。ハーフツインテの貴女は島の住民、この島へ旅行を勧めたのは貴女だね、島の住民で見ないから、活動的。それで友達思い、気に入った相手にはとことん面倒見るだろ?真逆なようでよくにた二人だから貴方たちは親友なんだ。どう?合ってる?」
捕まった客に、軽い関係性のみを教えられ、性格等をどこまで当てられるかを、やった傀偽。ここまで来るともう異常だ。
「いやぁー驚いた!この店員すごいぞ、お前が彼氏に浮気されたのも当てちまったな!」
「いや、浮気は言われてない…」
「あ、ごめん、そこはあえて言わなかった、傷つくと思ったから。
もう少し踏み込むなら、ストーカーされてるかな?恋愛絡みの問題で、周りを警戒している。浮気の可能性もあるけど、女性と共にいて親友という言葉があったから、それはない。警戒心のほうがあったから、おそらくストーカーで間違いないだろう」
「嘘…心でも読めるのか、君は…」
相手の一挙手一投足で予想する、これは怪異との戦闘からくるものだ、相手の視線、感情、雰囲気、これらを見て相手の動きを予測し、動く。夜廻で命をかけて学んだものの一つだ。
「人の心は読めないけどね、よく見ることはできるかな」
―――
「…はぁ…妬ましいわね、あの優男、いつもあんな風に、人をたぶらかしてるの?」
「人聞きの悪いことはしないでもらいたいかな、お客さん、あいつに悪意はない、」
「否定はしないのね」
「まぁな、あいつの周りにいる女性は、ナイフで刺しそうな者もいるからな」
傀偽の余興を遠目に見ていた、死強は悪態をつく女性の相手をしていた。傀偽ほどではないにしろ、人の生には敏感な死強は、あきれていた。
「彼も貴方も、ずいぶん他人に親切ね」
「アンタはわからないが、アイツは、昔救えなかった旧友に似ているんだ、無意識に償っているのかもしれん。だからかもな、人をよく見ようとするのは。一緒にいて楽しいというのもあるかな」
「そう思わせてくれる者に、私も会ったことがあるわ」
「違うわよ、……そうだったらどれほどよかったか」
どこか、遠く寂しい眼をする彼女、過去に置き去りになった。人との関係、一生続くことはない。そういう関係があったという事実だけが残り続ける。忘れてしまえばそれだけだが。
「それでご注文は?」
「ああ、ごめんなさい、それじゃあコーヒーをここカフェでしょ」
「コーヒーな、頼んでくるよ、俺は作れないから」
「閉まらないわね」
「和以外は苦手なんだ」
悩みは解消されたのか、彼女は暗い顔ながら笑った。
―――
「あっそうだ、【島の七不思議】についてはご存知か?特に【部屋】に付いて聞きたいかな」
「【七不思議】で【部屋】というとあれか【〇〇しないと出られない部屋】のことだろ?」
「なに?それ」
「島に伝わる怪談、都市伝説みたいなもの」
本来の目的をようやく始めた傀偽、やはりというか、島の外の人間は知らないようだ。
「俺達はその部屋を探していてね、何か知ってることはあるか?」
「いや、探して何するつもりだよ」
「まぁ、ちょっと、【部屋】に関わらず【七不思議】にはちょっとした因縁があってね」
傀偽は、本来の目的を伏せながら話す、その目は女性ではなく別の人間を見ていた。
そのきっちりとしたスーツを着た男は丁度席を立ち、まっすぐと歩く。
「ちょっと、失礼…」
「あっ…お手洗いなら…」
「黙れ、そんなんじゃない」
店員の言葉を高圧的に遮る、その男はまっすぐと、歩いてくる。
「なあ、ちょっといいか?」
「なに?」
「その浮気してた彼氏さん、かなりプライド高い人?」
「え?そうね、プライド高くて見栄っ張り、カッとなると手が出る人だった」
急な質問に驚きながら答える彼女に、さらに言葉を発する傀偽。
「最低だなソイツ」
「いつも他人を値踏みしている感じ?店員に態度か悪かったりしたんじゃないか?」
「な、なんでそのことを」
傀偽の質問にどんどん顔色が悪くなる、己の嫌なことを知られるのは、怖いものだ。
「歩くときは大股?」
「そ、そう…」
「高級感漂う装いで【出来る男】をアピールしてくる?」
「そうよ…」
顔色どころか、心臓が早生しているのを傀偽は感じながら、さらにまくしたてる。その間にも男は近づいている。
「貴女と話すときは威圧的?」
「な、なんで」
「腕を組んで上から目線?」
「全部あったて…」
その言葉が終わる時には男は彼女の背後に立っていた。
「どうして僕から逃げたんだ?なぁ?」
「おい、お前何してんだ」
「うるさい黙れ」
「あがっ…!!」
威圧的な言葉を止めようとした、付き添いの女性は突き飛ばされて、同じく臨時に来ていた鉄が受け止める。
「や、やめて」
「やめてだと!俺があんなに愛してやって、それどもまだ不満だってのか?」
「黙って出ていって、もう変わりの男を見つけたか?」
話を聞かずに言葉を続ける。
「傀偽は天然たらしだが、今回は誤解だ」
「やはりか」
鉄の言葉の一部分を切り取って、断言する。
「……」
「お前がいない間、俺がどれだけ心を痛めたか、今この場でわからせてやる!」
その言葉とともに、男の手にナイフが握られる。
「ちっ、死強!」
「なんだよ、知ってる人でも…」
「ナイフ持ち、手伝え」
「黙れ餓鬼ども、二人の時間に水を差すな!」
少しの会話ですら邪魔として、己が世界のみを見る男。それを終わらせるべく、傀偽がフライパンを持つ。
「止めればいいんだな」
「正解」
咎の重距離
✕
怪と人の縁糸
「な…消えた!?」
「〈死者選別の鎌・ 白、連〉」
人相手でも、ナイフがあるからと、能力を使い、フライパンで殴打をする。
「いや、鎌じゃないだろ」
「…やりすぎた」
「…そうだな」
「まだ、慣れんな、酔いはないけど、脚に響く」
咎の重距離は瞬間移動ではなく、距離を縮めるというもの、一歩で二歩または三歩分を動くため脚に負担がかかる、
「取り敢えず、警察呼ぶが」
「なろ縛っとくか」
鵺や鈴鹿を縛ったときと同じ気を込めたものだ。
「お前、あんなのと付き合ってたのかよ…どうかした?」
「だめ…今すぐ離れて!!」
焦った言葉に、男を中心として霊気が発せられる。
「俺のことをただの凡人だと思ったか?お前ら全員終わりだよ。召喚魔術〈〇〇しないと出られない部屋〉」
「不味い、今すぐ外に!」
「さっきからそう思っていたのだが、ドアが全然開かない」
「なっ?!」
男が何かをした直後、異変を感じた店長が扉を開けようとしていたが、開かなかった。
「どいてくれ、やってみる」
「そんなこと出来るはずが、」
「黙れ!」
怒り任せに男を扉にぶん投げる、傀偽、虚しくも扉は開かずに、男が気絶するだけだった。
「おいおい、軋みすらしないとはどうなってんだ」
「こんな頑丈だったか?この扉」
「……開かないわよ、当たり前じゃない、探してたのでしょう?【部屋】を」
それは【七不思議】が一つ、捕らえ、閉じ込め、何人も逃さぬ牢獄、【〇〇しないと出られない部屋】改め、【