「また来たの死神さん、今日もお迎えの仕事?」
「そうだな」
「いいな〜、私も連れてってよ」
「なに縁起でもないこと言ってるんだ、それれに俺はお前の天命が視えるから、お迎えはまだ先だよ」
「え〜、病気で外にもでれないのに〜そんなの暇だよ」
生と死が渦巻く病院で見鬼を持った少女がいた。体が弱く何回も、天寿を全うした者を迎えに来た死神に「連れてって」と声を掛けている。
「そんなもの直せばいいだろ、そうすりゃどこへだっていける」
「だって…治らないから、それに眼の前に死神がいるのに、縁起悪いだけじゃない」
「はは、そりゃ確かに縁起悪いわな」
苦笑いをする死強、それに笑顔で答える娘、死を運ぶ死神と嬉々として会話をするその娘は、急に態度を変える。
「でも、私は会えて嬉しかったよ、」
「えっ?」
死神の眼は、死を見定める。だから死神はどんな難病でも治ると高を括っていた。取り返しのつかないことがおこると知らずに。変わった態度は死神と少女に壁を作る。
「普通に生きて、友達を作って、普通の家族を持って、寿命を、天命を全うして、死神さんに迎えに来てもらう。そんな普通の行き方をしたかった」
「……おい、まてって、まて、待てって、おいっ」
「今度はちゃんと、守ってよね」
―――
「まてっ!……はあっはあっはあっ、またか」
久しぶりに悪夢をみる死強、普通を願った少女との過去、輪廻の輪から外れてしまった者との過去。目の前にいたのにまともに迎えることができなかった過去。病院の近くにうまれたカルト集団。邪神を崇めるその集団に、生贄にされてしまった者との過去である。
―――
「ここにお前の探しているものはいないぞ」
「…………」
「仕事が身に入らないのなら」
「閻羅!」
「……失言だったな。それでもこれ以上は支障が出る、配置変えさせてもらうぞ」
「わかった」
冥府で助けられなかった少女のことを思い死強は仕事に身が入らなかった。ここにはいない、そんなことは死強もわかっている。それ故に、裁定者に立場を考えずに声を荒げる。
死を求めるその姿と、それでも抗っている気持ち、それを、ただ普通を求めたものの、生を歪めたものが気にくわない。だから、余計に引きずっている。
―――
「あいつは、あの子は、
「……」
「あの子の天命はまだ先だったそれをてめぇがねじ曲げたんだ」
「……」
「てめぇだけは許さない」
拠り所がなくなって、すがる先のない人間が。
旧い文献、噂、書物から、引っ張り出す。
異界の邪神。それは神でもなくただの悪魔だった。
風習すら消えて、忘れられても、書物が残り、歴史を知らない者が安易に扱う。
だから生贄なんてふざけた真似をするのだろう。結果呼んだものは悪魔だった、それでも、嬉々として命を魂を捧げる者達。天命を振り替えて、何かを呼ぶ。それすなわち輪廻の逸脱、普通以外の逸脱した何か。
悪魔に願いを叶えようとしてもらったら、輪廻を外れ、歪んだ生を、短い生を生きていくことになる。それは、死強にとって、どうしても受けあれがたいことだった。
―――
「此度の件、咎めは無しだ、」
「……」
「邪神を崇拝する場所がまだあったとはな」
「……閻羅、」
黄泉石碑、黄泉に来たものを記す場所
「また来る、…気分を変えてバカンスでも行ってみるか?」
「…ここでそんな事ができるんですか?でもまあ南の島とかには行ってみたいかな…」
「考えておこう」
―――
「しかし【黄泉】…か、この夢も何近景あるのか……怪異には存在意義がある。この夢も執拗なことなのかもな」
なんの因果か、その少女の名は【
そして雪草も、少女も名に縛られていたのかもしれない、【
表に【希望】【慰め】【ありがとう】その娘に希望を見いだしたものもいた。名前が生を縛っていたことがよく分かる。
それでも、あの状態で生まれながらの理不尽に抗いながら生きていた。だからこそ死強に後悔の念が押し寄せる
「今度こそ、守って、救ってみせる」
「どうした、死強」
死強が結縁庵にお世話になった翌日の明朝、悪夢と共に目を覚まし、過去を振り返る。
覚悟を胸に決意を言葉に、
先に起きてた傀偽が戻ってくる。あまり話したくはないので伏せておくようだが、それでも概要は伝える。
「いや、少し過去をな振り返っていたんだ。俺が迎えに行けなかった者とのな」
「そうか」
「聞かないんだな」
他人の過去、それを濁されば聞きたくなるのが世の常、人の性、だが傀偽は聞いてこない、過去の重みを知っている者だから。深くは踏み込まず自分の意見を死強に投げかける。
「こう言ったら何だけどそれを聞いて俺に何が出来るかも分からない。
己の呪で、手いっぱいの奴が、何でもかんでも手を出してさ、失敗して、何もわからないのに手を出して、欲しがるのは強欲だよ。落ち着いて力になれるなら話してほしい、それが無理なら腹の奥に閉まっておく。それでいいんじゃないか、少なくとも重い過去を話すなら。それがいいと思う。それに隠し事の二つや一つあっても不思議じゃない」
「そうだな、強欲だな、けどそれを俺に課しただろ」
「悪いか?」
「いや、俺にふさわしい咎だ、けどこれじゃぁ、隠し事の意味はないようなものだけどな」
手を出そうとして、怪我を追った。それが傀偽、だからなのか、過去についても話す時は眼が見えなくても自然と眼が合う。魂を見鬼で深く視る、それが傀偽だ。
「そうだ、これお前の、採寸あってるか?」
「宿の、服か?」
「ああ、それじゃなければならないならいいけど」
「いや問題はない、」
傀偽は宿の制服を死強に渡す。いま死強が着てるのは、黒を基調とした和服。袖を縛れるような工夫がされているものだが、ただそれだけである。それに対して宿の制服は、無地の着物ではあるものの、背中に四の花と赤い糸。四季と出会いが記されていた。
傀偽は島にいる時は宿の服装で動いてる。それなら習うこともいいかもしれないと死強は一度着てみるも。元来のほぼ真っ黒な服装をした死強には合わなかった。
「どうだ?」
「……合わないな」
「失礼だな」
「感想を言ったまでだ、でも元のほうがしっくりくる」
「鎌も振りづらいし、戻させてもらうよ、というかお前なんでこれで戦えるんだよ」
「慣れもあるんじゃないか?でもまあそれは片付けておくよ」
結局服は元の黒の和服に戻すこととなる、慣れ親しんだものに変わるものなどない。魑魅魍魎が跋扈するこの島で、傀偽が普段着として使用しているのも慣れが理由だ。
呪いの捜索は、始まったばかりであり、それぞれが背負うべき咎もまだ四つ、名に込められた思いと意思、決意は人怪異で全く違う。
名を存在意義とされる怪異は、意義がなければ存在できない、名で縛れば存在意義を生み出すことができるが、その名に縛られ名の意味にしか動けなくなるのである。