黒見誘拐未遂事件から二日後。一日休校した後、体力などを回復させた対策委員会のメンバーと俺は、委員会室に集まっていた。その理由はもちろん────
「……それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます」
アビドス高等学校の問題に対応するための定例会議のためだ。この定例会議は俺が来る前から定期的に行われていたらしいが、カタカタヘルメット団の対処や、補給物資などの問題等、その場をどうにか凌ぐための会議だったらしく、今回からは進展が期待されているみたいだ。
司会は一年生の奥空アヤネ。一番気真面目というか……苦労人な面が目立つような彼女は、扉の近くに座っている俺を見て、咳払いをしてから始める。
「本日は先生にもお越しいただいたので、いつもより真面目な議論ができると思います!」
「は~い☆」
「ん、期待する」
「何よ、いつもは不真面目みたいな……」
「うへ、よろしくねー、先生」
「ああ、よろしく頼む」
各々がいつも座っているであろう席に座り、落ち着いた空気感で会議が始まる。
「とりあえず、朝に聞いてたが……奥空、何か気になることがあるんだったか?」
「はい。前回の戦闘でも思っていたのですが、カタカタヘルメット団は不良集団にしては戦力を持ちすぎています」
「どこかと取引をしているのは間違いないんだよねぇ。先生と神聖な物漁りした時、契約書みたいなの見つけたし~」
「信仰無き物漁りなんだよなぁ」
もちろんこのことについては、対策委員会の面々に伝えてあるし、その契約書も回収している。弾薬や爆発物、さらには何台もの車両や戦車……維持費なども考えると、金欠気味であろう不良集団が持っているのが不可解なものばかりだ。
「集まっている情報をもとに、前回の戦闘で破壊したFlak41改や、鹵獲した車両や戦車の外装、部品を調べてみたんです。もちろん鑑定売却を行うディーラーさんを交えて」
「ああ、前に業者さんが来てたのはそういうことだったんだ?」
「はい。先生に仲介してもらって……そうしたら、彼女達が使用している戦車は、キヴォトスで使用が禁止されている違法機種であることが判明しました」
そう言って奥空が端末をテーブルの上に置くと、いくつかの写真が表示された。その写真はドローンで撮影したものだけではなく、業者を介した写真も含まれている。
「つまり……正規品じゃないってこと?」
「はい、少なくとも各学園が正式採用している戦車ではないようです。となると個人向け、趣味での販売目的になりますが……ディーラーさん達曰く、一般向けで販売されているキヴォトスの店舗には、鹵獲品に使われている内部パーツは販売されていないそうです」
「もしそうなら、違法改造ということにはなるけど……」
「ええ、不良集団が違法改造する程度はキヴォトスでは日常茶飯事です」
世紀末かよキヴォトス。なんで治安がある程度どうにかなってるんだ……それだけ学園の治安維持組が頑張ってるってことなのか、それとも掃き溜めみたいな場所があるのか……後者だろうな、多分。
「問題なのは内部パーツってことだよね?」
「はい。ディーラーさんからもらった資料も交えてお話ししますが……まずはこれを」
奥空が端末の画面をスライドすると、分解されてエンジン部分が剥き出しになった戦車や車両が映し出されていた。ディーラーを仲介した時は基本的に端にいたから気付いていなかったが、車のエンジンにしてはおかしい。エンジニアではないが、ニコやネロと一緒に車の改造をしていたから分かる。これは確か……
「ガスタービンエンジン……か?」
「はい。しかも通常とは違う、出力を高める改造が施されているものだそうです。代わりに燃費が悪いのだとか」
「大食らい……しかもこれ、メンテナンスにも時間と費用がかかる代物だったはずだぞ」
正規の品をニコの工房で見たことがあるから言えるが、正直これを車に使うなら他のエンジンを搭載した方がいいだろというレベルのものだ。そもそもガスタービンエンジンってのは確か、飛行機とかヘリに使うもんだろ。戦車に搭載するなんて馬鹿な真似をするやつはとんでもない大金持ちか、ただの馬鹿だ。
「燃料費、整備費のどちらも馬鹿にならないエンジンを戦車に搭載するとは思えない。私が戦車を持つなら安価で燃費がいい動力を積む……」
「けど、燃費のこととか、全く気にしてる素振りはありませんでしたよね?」
「そう言われてみると怪しいわよね……ホシノ先輩と先生が持ってきた契約書も鑑みると……」
「ヘルメット団には間違いなく大きいパトロンがいるってことになるねぇ~」
「そんでもって、夜に襲撃してこない理由もそのパトロンが何か言ってるからって可能性もあるわけだ」
捕まえたカタカタヘルメット団は全員ヴァルキューレ警察学校? とかいうところに連れていかれたみたいだが、そのヴァルキューレの生徒から話を聞く限り、パトロンなどについては口を割っていないらしい。まるで言ったら消されると言わんばかりの怯え方だったらしいが……
まぁ、それはともかく。百人規模のカタカタヘルメット団全員を養い、補給を請け負うことができるパトロン────企業がいるであろうことは確定した。流通ルートを辿れば、恐らくそのパトロンに辿り着くだろう……と、奥空は言葉を結ぶ。
「危険ではありますが、パトロンが判明すれば、活路が見えるかもしれません」
「そうですね。どうしてカタカタヘルメット団が執拗にアビドスを狙うのかも、理由が分かるかもしれませんし」
「私は探ることに賛成する。何かやることがあれば言ってほしい」
「はい、よろしくお願いします」
カタカタヘルメット団がアビドスの校舎を狙う背後関係を探る方針を固める。もちろん、これは時間が必要な事柄なので、すぐには洗い出せないだろうが、この背後関係が分かれば、進展は間違いなくあるだろう。
「カタカタヘルメット団の背後関係についてはここまでだな。次の議題は?」
「あっ、はい、そうですね。では次の議題は…………学校の負債をどう返済するか、です」
奥空がそう言った瞬間、全員の目が輝く。今まで補給やらヘルメット団やら目の前のことをどうするか、という会議しかできなかったからこそ、アビドスの根幹に関わる問題に取りかかれると意気込んでいるのだろう。
「では、ご意見がある方は挙手を」
「はい! はい!」
真っ先に挙手したのは黒見だ。元気がいいもんだ。
「はい、一年の黒見セリカさん、お願いします」
「……なんでフルネーム?」
「あはは……何というか、せっかくの会議だし、そっちの方が気が引き締まるかなぁって……」
「Hmm……ま、型から入るのは大事だわな」
型から入ってロイヤルガードを失敗したのはいい思い出だ。ダンテ、お前のスタイルはどうやってんだ。あれもスパーダお爺ちゃんから教えられたものなのか?
「いいじゃーん、お堅い感じで。今日は珍しく先生もいるんだし~」
「ん、珍しくというより、初めて」
「ですよね! なんだか委員会っぽいです!」
「はぁ……ま、いいか」
黒見は気を取り直して姿勢を正す。自分の意見に自信を持っている感じがするな。
「対策委員会の会計担当としては、現状、破産寸前といったところよ。このままだと廃校は免れないわ」
「ん、それは周知の事実」
「毎月の返済額は利息だけでも788万円! 私達も頑張って稼いではいるけれど……正直利息の返済も追い付いてないわ。これまで通り、指名手配犯を捕まえたり、苦情の解決、ボランティア活動だけじゃ足りないわ! だから、何かこう、でっかく一発狙わないと!」
「でっかく……例えば?」
砂狼が首をかしげると、黒見が笑顔で鞄を漁り、色鮮やかな一枚のチラシを取り出した。
「これよ! 町で配ってたチラシ!」
テーブルの上に置かれたチラシを覗き込むと、『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットで、あなたも一攫千金』、と書いてある。
「黒見、ちょっと聞いてもいいか?」
「え、何かあったの先生?」
……何か、一昨日のこともあってか、黒見の当たりが柔らかくなったような気がする。ようやく仲間として受け入れてもらったような気がして、ちょっとだけ感慨深さを感じながら、俺は会計担当の黒見に問う。
「まさかこれ、買ってないよな?」
「え? 二つ買ったけど……どうかしたの?」
「大丈夫か? 気分悪くなってるとか、何かの集会に参加させられてるとか、そういうのはないか?」
「え? え? 何? 別に具合が悪いとかは無いんだけど……」
そうか、それは良かった。良くないが良かった。
俺が胸を撫で下ろすような仕草をしたのが不思議だったのか、小鳥遊が口を開く。
「何かあったの、先生~?」
「昔、こういうブレスレットを買わせてカルトに入信させて、神への信仰を示すのだー、とか言って人を薬漬けにしてた連中がいてな……そのブレスレット自体が麻薬成分を含んでた」
もちろん裏には悪魔がいた。力こそが全てな悪魔の癖に、狡猾な奴は狡猾だから腹が立つ。ぶちのめしてレッドオーブにしてやったがな。
俺の言葉に顔を青くした黒見は、自分が騙されていることにようやく気付いたようで、鞄に入れていたブレスレットをまるで呪物を触るかのように取り出した。
「せ、先生、大丈夫よね……? これ、そういうものじゃないわよね……!?」
「ああ、見たところな。ただ、麦飯石ってのは生産地によっては重金属が混ざってたりするから、病院で検査してもらう必要はある。金は出すから今度の休み、検査行くぞ」
「セリカちゃんは世間知らずなところあるからねぇ。気を付けないと悪い大人に騙されて、人生取り返しがつかないことになっちゃうかもよー?」
「うう……せっかくお昼抜いて貯めたお金で買ったのにぃ……」
「上手い話には裏があるってこったな……」
「大丈夫ですよセリカちゃん、お昼、一緒に食べましょう? 私がご馳走しますから」
意気消沈する黒見を慰める十六夜は、妙な包容力を持っている。本当に高校生かと思う程だ。……いや、系統的にはキリエに似てるのか?
「えっと、それでは他にご意見がある方……」
「はーい!」
「……はい、三年の小鳥遊ホシノ委員長。……ちょっと嫌な予感がしますが」
「うむうむ、えっへん!」
胸を張った小鳥遊に、奥空は少々疑いの目を向けている。真面目な意見が出た試しがないのだろうか?
「アビドスのいちばんの問題は、全校生徒がここにいるので全員ってことなんだよね~。ぶっちゃけ生徒の数=学校の力なわけだから、生徒の数を増やせば毎月のお金だけでもかなりの金額になるよ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだよ~。学費とか最たる例だよね~。だから、生徒の数を増やすことから始めてみない? そうすれば連邦生徒会での発言権も与えられると思うよ~」
「なぜか連邦生徒会にも学閥とかあるしな。一枚岩であれよと言うのは野暮だから言わんが」
「言ってる、言ってるわよ先生」
魔剣教団にも派閥があったから正直どの場所でも変わらねぇんだなって思ったのは内緒だ。
「でも生徒を増やすとしても、どうやって……こんな状況ですし……」
……ああ、なるほど。アビドス高等学校の生徒達が生徒を増やすという選択肢が浮かばなかったのは、ハードルが高いことが理由にあったのか。
砂漠化が進んでいるせいでアビドスから去った住民や生徒は多い。それを呼び戻すこともできていない現在、新しい生徒を増やすという選択肢は浮かばないのも当然だ。もちろん一度考えはしたのだろうが、この状況では難しいとして断念したのだろう。
「ふふん、簡単だよ~。他校のスクールバスをジャックすればオッケー!」
「はい!?」
「登校中のスクールバスをジャックシテ、うちの学校への転入学書類にハンコを押さないと、バスから降りれないようにする! これで生徒数が増えること間違いなし!」
「────興味深いね、それ」
冗談なのか本気なのか分からない表情で言ったからなのか、血の気が多い砂狼が一枚噛ませろ言わんばかりの表情を浮かべて立ち上がった。
「おっ?」
「ターゲットはトリニティ? ゲヘナ? ミレニアム? 狙いをどこにするかで戦略を変える必要がある」
「えーっと、うーん、そうだなぁ……トリニティ? いや、ゲヘナにしよーっと!」
「待て待て待て待て。それは流石に冗談じゃ済まねぇ」
「そ、そうですよ! そんなやり方をしたら、他校の風紀委員が黙ってないですよ!?」
不良集団を撃退することはできても、大きな学園の風紀委員と戦うとなれば難しい。そもそも、それをやってしまったら俺は止める側に付かねえといけなくなる。アビドスが文字通り更地になる可能性だってあるのだ。流石に止めなくては。
「うへ、やっぱそうだよねぇ」
「やっぱそうだよねぇ、じゃありませんよホシノ先輩! もっと真面目にやっていただかないと……!」
「なら、私にいい考えがある」
威風堂々の構えで宣言した砂狼。奥空の表情には「絶対ろくな意見が出ない」という思いがありありと浮かんでいた。苦労してんな、奥空。
「……はい、二年の砂狼シロコさん」
「銀行を襲うの」
「はい!?」
「……Oh」
ろくでもねぇ案が出てきたな。まさか銀行強盗を宣言するとは思ってもみなかったぜ……しかも本気で言ってやがるぜ、砂狼のやつ。奥空の顔色が青を通り越して病的な白になった。ストレスでいつか倒れるんじゃないかって心配になるな……
俺が思わず奥空に憐みを湛えた目を向けそうになる間にも、砂狼は自信満々に温めていたらしい計画を明かす。
「確実かつ簡単。ターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行が狙い目。金庫の位置、内扉会場用のサーマル、金庫扉開錠用のIDキーを持っている責任者の情報やその他諸々の情報や、逃走手段まで用意、把握してる」
「えっ、は!?」
「マジかよお前」
「五分で一億は稼げる。はい、これ覆面」
嘘だろ砂狼のやつ、計画のために覆面だけじゃなく地図も作ってやがる……図面作成とか、結構得意なのか? 銀行強盗については評価したくねぇが、この精密な地図や図面は評価すべきだな。別の方向に使えれば、間違いなく真っ当に稼げるぞこの才能。
「い、いつの間にこんなものまで……」
「うわー、これシロコちゃんの手作り?」
「わぁ、見てください! レスラーみたいです!」
「「………………」」
ああ、うん。苦労してんな、一年ズ。
「いやー、いいねぇ。人生一発でキメないと。ねぇ、セリカちゃん」
「そんなわけあるか!? 却下ッ、却下ーッ!!」
「そうです! 犯罪はいけませんっ!」
「……」
「そんな膨れっ面してもダメなものはダメなんです、シロコ先輩!」
……もしかして、一年生が真面目でブレーキをかけてくれるから先輩達がこうなっているんじゃねぇのか? 小鳥遊もブレーキになるんだろうが、一年生二人が通常のブレーキで、小鳥遊がパーキングブレーキな感じがする。
砂狼の案が却下され、全員が着席したところで奥空が頭を抱えて呟いた。
「皆さん、もう少し、こう……真面な意見を────」
「あのー! はい! 次は私が!」
「はい……二年の十六夜ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでお願いします……」
最後に残った十六夜が温厚な笑みを浮かべて手を挙げると、奥空はまるで最後の希望に縋るかのように指名する。
「もちろん、犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!」
「へぇ、それはどんな~?」
「それはですね……スクールアイドルです!」
「「……アイドル?」」
どうなんだ、それは。確かに孤児院の子供にアイドルになった子はいたが……どうなんだ、それは。
俺達が戸惑いの表情を浮かべて十六夜を見れば、彼女は自身が描くプランを語る。
「そうです! アニメで観ました! 学校を復興するのに定番の方法はアイドルです! 私達が全員アイドルとしてデビューすれば……」
「Hmm……」
「却下」
考えてみると、歌とダンスはともかくとして、ビジュアル、人当たりの良さなど、アビドスの生徒達はアイドルとしての適性がある。ワンチャンあるか、と俺が考えていると、小鳥遊が却下の声を上げた。
「あら、これもダメなんですか?」
「なんで? ホシノ先輩なら特定のマニアに大うけしそうなのに」
「うへ……おじさんみたいな貧相な体が好きって言っちゃう輩なんて人間としてダメっしょー。ないわー、ないない」
小柄な女性に庇護欲をそそられるって人間は少なくないと思うが。間違いなく一定数はいる。
「決めポーズまで考えておいたのに……」
結構本気で考えていたのか、十六夜は肩を落とす。
何だかんだで生徒全員の意見は出尽くしたものの、結局何一つ決まらなかった。議論が何一つ進まないとかあるんだな。
「あのぅ……議論が全然進まないのですけど……」
「もう先生に任せちゃおうよ~。先生、これまでの意見の中でやるならどれがいい?」
「俺か? そうだなぁ……」
「えっ、今までの中から選ぶんですか!? もう少し真面な意見を出してからの方が────」
「大丈夫だよぉ。先生が選んだものなら間違いないって~」
「なんでそう言い切れるんですか!?」
奥空が引き留めようとするが、生徒の視線が全て俺に向けられる。マジで俺が選べと? いや、まぁ、ちゃんと考えるけどよ……
「まさか、アイドルやれなんて言わないわよね?」
「アイドルでお願いします☆」
「…………」
まず銀行強盗とバスジャックは却下。マルチ商法も却下で、最終的に残るのはアイドルということになるわけだが……成功するかどうか、資金はどこから工面するかを考えると微妙なラインだ。だが、この中から選べと言われたら、合法なのはアイドルなわけで────
「まず、この選択肢から選ぶならアイドルだろうな」
「ええっ!? 本気ですか先生!?」
「選択肢から選ぶなら、って話だぞ? 一応俺からの提案も聞いてくれ」
俺の言葉を聞いてホッ、と息を吐いた奥空。正直悪くない選択肢ではあると思うんだよな、スクールアイドルってのは。悪くないと思う。
心の中でそう呟きながらも、俺はアビドスの資料を得てから今日に至るまで考えてきたことを口にする。
「俺から提示できる案は三つ。一つは農業、一つは生徒の確保、もう一つは動画投稿だな。どれから行く?」
「じゃあ順番にお願いします」
「オーライ。んじゃ、農業からな。じゃ、これを見ながら聞いてくれ」
俺は持ってきた資料を全員分配る。資料のタイトルは『砂漠環境でも育つ植物達』、である。説得力というのは資料などの根拠あるものが必要なのだ。
「まず提案するのは、学生が作った野菜や植物を販売すること。時間がかかるからすぐに売るのは難しいが、需要はあると思う」
「サボテンって食べられるの?」
「ウチワサボテンの葉と実は食用だぞ。果実は意外と甘い。アビドス砂漠に生えてたやつ、持ってきたから食ってみろ」
昨日、一日使ってアビドス砂漠のウチワサボテンから収穫してきた果実────カクタスフルーツと呼ばれるそれを配る。棘は取り除いているし、皮も切り込みを入れているので、キヴォトスの生徒であれば簡単に剥けるそれを一口齧ると、アビドス高等学校の生徒全員が目を輝かせた。
「甘いっ!」
「スイカとか梨みたいな甘さですね☆」
「うへ、意外と癖になる味と食感だ~」
「ん、色んな所に生えてるけど、食べられるとは思ってなかった」
「大きさもそこそこで、おやつにも最適ですね……!」
とりあえず好感触なようだ。やはり食べ物というのは大体のことで通じるな。
「資料にある通り、砂漠地帯であっても育つ植物はそこそこいる。もちろん土壌整備などはしないといけないが……長期的なプランとしてこの案を出させてもらった」
「うんうん、いいんじゃなーい? で、生徒の確保ってどうするつもりなの?」
「カタカタヘルメット団いるだろ? あいつらみたいな連中は意外といる。もちろん好きでやってるやつもいれば、やりたくないけど、やらなきゃ喰っていけない連中もいるわけだ」
これはアロナに調べてもらった情報が根拠にある。シャーレを占拠した不良生徒の中には、矯正局から逃げ出した連中もいれば、便乗した者もいる。この辺りは弁護できないが……ヘルメット団に所属している三割は、衣食住に困って所属している生徒らしいのだ。
「そこで、だ。現在進行中のプロジェクト、『不良生徒学生復帰制度』、そのモデル校としてアビドス高等学校を指名したい。……もちろん、お前らが拒否するなら無理強いはしねぇ」
「そんなプロジェクト、シャーレでやってるの?」
「まだ草案、仮可決の段階だけどな。連邦生徒会の面々は正直どうなんだって渋顔だったぜ」
俺がアビドス高等学校に来てからようやくできあがった企画書を連邦生徒会に送りつけたが、現在賛成が六割、反対が三割、どっちつかずが一割という状況だそうだ。メリットとデメリットを鑑みてるんだろうが……不良生徒の学生復帰のためのカリキュラムとかはシャーレが請け負うんだから、向こうにデメリットは無いようなもんだと思うんだが……何か不都合でもあるのかね。
そもそも一度罪を犯したら終了、っていうのはどうなんだって思うのだ。もちろん犯罪をやりたくてやった連中は許しちゃいけないんだが、やり直したい、どん底から這い上がりたいって思うやつらがいることも忘れちゃいけない。略奪と簒奪、暴力と血みどろの裏社会にいるしかなかった、溺れ続けるやつらに手を伸ばして再出発できるようにしてやることも先生の仕事なんだと俺は思ってる。
「学校に行きたくても行けないやつを俺は見てきた。居場所がないからスラムにいる子供も、俺は見てきたよ。そういう子供は大体、這い上がるための糸も梯子も道もねぇ。どん底で生まれたから、どん底に突き落とされたから一生どん底なんて、クソだろ」
「不良生徒も、そういう類の人ってこと?」
「一部はな。好きで不良やってるやつだっているだろうし、そこは否定しねぇよ。けど、好きでなったわけじゃねぇ連中だっているさ」
そういうやつらが這い上がれるように道を作ることは、治安を良くするという点でも、絶対に必要な行為だと思うのだ。
「まあ、生徒の人数を確保するって面で、この制度を採用してもらうことも視野に入れておいてくれ。ここで答えを出してもらう必要もないしな」
「ん、分かった。それで、動画投稿っていうのは?」
「SNSや動画投稿サイトでアビドスの活動をアピールするんだよ。この方法だと、募金とかクラウドファンディング? がメインになるかもな」
「活動……でも、私達がやってることって、学校にのしかかってる借金返済なんだけど……そんなのアピールしてどうにかなるわけ?」
「そう、それだ。最低な話だけどな、人間って他人の悲劇や悲劇から這い上がるサクセスストーリーが好きな連中が多いんだよ」
俺がそう言うとピンと来たのか、顔を顰めるアビドスの生徒達。自分達の状況と、俺の話が重なったのだろう。
「そういう連中だけじゃなく、純粋に何かしてやりたい。けど何をすればいいのか分からない、分からないから何もしないって連中も、結構多い」
「そういった人達に支援の道筋を作る、ということですね?」
「Exactly.俺が元々拠点にしてた孤児院でも、こういう動画投稿でフォルトゥナの孤児院について知ってもらって支援を受けたことが結構多い。知ってもらうってことは大事だぜ」
もちろんこれだってすぐに決めてもらう必要はない。やろうと思えば俺がSNSで呟いてもいいわけだしな。シャーレの先生ってアカウントでSNSを始めたら正気かと思うレベルのフォロワーが一日でついたのは記憶に新しい。どんだけ動向をチェックしたいんだよ。
「あと、動画投稿は知名度がなぁ……」
「ああ、そういう問題もありますよね……」
「色々山積みだが……色々煮詰まってきてるだろうし、一回会議を止めて飯食いに行かねぇか? 正直腹減ってんだよ」
「賛成~。おじさんもお腹空いてきちゃった。サボテンの実だけじゃ足りないよ~」
真っ先に小鳥遊が賛成したことで、他の面々も一度会議を打ち切って昼食にすることを決めたようで、賛成の声を上げる。考えが煮詰まりすぎると、答えを急いでしまうこともある。こういう大きな問題にはゆっくり対応していくのが肝要なのだ。それをできなくて痛い目を見たのが俺だ。
「ああ、飯代は俺が出すから好きなの頼んでいいぞ」
「お金大丈夫なの、先生」
「そもそも使わねぇからな……燃料とか経費で落とせるし。あと、飯は大体栄養ブロックとコーヒーで済ませてるからな」
「先生、あれを食べるくらいならラーメンとか食べた方がよっぽど健康的だと思うわよ」
酷い言われようだな。……不味いのは否定できないが。