シャーレの部室とやらに赴くための公道を大型自動車で走り抜ける。防弾仕様とは恐れ入ったぜ、連邦生徒会の車両────いや、このキヴォトスの車は皆防弾仕様なのか? しかも乗り心地もいいと来た。最高だぜ。
「で、ちょいと質問なんだが……お嬢さん達は戦闘で何ができるんだ? 戦闘スタイルの情報が欲しい」
「私達の戦闘スタイルの情報、ですか?」
「ああ。大事だぜ、そういう情報は」
俺とネロは何も言わずとも合わせることができるくらいコンビネーションを磨いてきたが、早瀬、羽川、守月、火宮の戦闘スタイルなんてさっぱりだ。
ちなみに七神は戦闘に参加せず、退路の確保を優先してもらうことになっている。撤退の際に足は絶対に欲しい。ニコの役割はそういった面でもありがたかったな。
「現在の俺達は、その場にいた戦力をかき集めただけと言ってもいい。俺も含めて好き勝手暴れて構わねぇが、チームの誰が何ができるのかを頭の片隅に入れておくだけでも結構戦闘は有利に動かせる」
例えば俺はネロのレッドクイーンの兄弟剣に当たるブルーキングと、ブルーローズの姉妹銃に当たるレッドローズ、そしてデビルブレイカーを駆使して力に物を言わせた戦闘スタイルであることが多い。レッドローズで牽制し、デビルブレイカーで近付き、ブルーキングでぶった切る。ネロと結構似通ってることもあって、動いていれば自然と噛み合っていた。
そういう、気心知れた仲であればそうやってスタイルを理解して合わせることはできる。だが、各学園の生徒達と関わったばかりでそれは難しい。そんな状態で戦闘になればお互いに足を引っ張り合うことは目に見えている。
「羽川と守月みたいな同じ学園同士なら、何となく分かるかもだが、羽川、お前は早瀬の戦闘スタイルを知ってるか?」
「いえ、分かりません」
「だろ? それは皆同じだ。羽川が分からねぇように、早瀬も、守月も、火宮も、仲間が何をやれるのかをよく知らねぇ」
奇襲しようとしたらいきなりおっぱじめてしまう、なんて可能性もあるだろう。羽川が持ってる銃は狙撃銃っぽいが、それを近付いてぶっ放すスタイルの可能性だってある。そういう不確定要素はある程度削っておきたい。
「だから情報共有をしたい。目的地に到着する前にな」
「……ビアンコ先生、便利屋で、そういった経験をなさったことが?」
「これでも修羅場はある程度潜り抜けて来てんのさ」
教師はやったことねぇけど、と笑いながらハンドルを握る俺は、後部座席に座っている四人の生徒に一瞬だけ目を向ける。生徒の言葉を待っていると、こほん、と早瀬が咳払いをして口を開いた。
「私は主に電磁シールドを自身の周りに張って前線に出る戦闘スタイルを取っています」
「なるほど、盾持ちか。味方にそのシールドを張ることは?」
「可能ですけど、難しいですね。計算処理を行ってシールドを展開しているので……生体データがない人に使うのは……自分を中心にバリアの範囲を広げることは可能です」
「オーライ。前線の押し上げ、陣地防衛、撤退、どんな状況でも必須要素だな。頼りにさせてもらうぜ」
アンジェロとか硬すぎてうんざりする時あったし、盾持ちが味方にいるってことがどれだけ心強いかは理解しているつもりだ。にしても計算してシールドをね……頭の中に電卓でもあるんだろうか。それとも算盤とか?
「はい! 頼りにしてくださいね!」
ああ、混乱している状況だったさっきとは違った、子供らしい反応だ。レセプションルームで初めて出会った時、連邦生徒会長とやらは凄く頼りにされていたんだろうことが分かるくらい、さっきの混乱っぷりは凄まじかった。何の説明も無しに頼りにしていた人がいなくなってしまったら、誰もがああなるだろう。気持ちは分かる。クレドが死んだ時とか、俺もネロも凄い落ち込んだし。
「じゃあ、羽川はどうだ? ボルトアクションライフルみたいだが……スコープが見当たらねぇ。近距離戦闘がメインか?」
「いえ、遠距離からの狙撃が得意分野です。戦車やヘリの装甲を貫いたり、後方からの狙撃による火力支援が主な戦闘スタイルです」
「Good.火力による後方支援は重要だ。にしてもスコープ無しでの後方支援か。随分努力したのが感じられる。あん? そういや七神、敵対してきた車両とかはぶっ壊していいのか?」
「はい。本来であれば鹵獲して出所を調査するのですが……この非常事態では難しいですね」
「破壊はやむなしってわけね。分かりやすくて助かるぜ。んで次は……守月だな。あんたは何ができる?」
「私は閃光弾を使用して敵の視力を奪ってから殲滅、という戦闘スタイルですね」
スタングレネードか。使ったことはないが、確か爆音と閃光で相手の意識を奪ったり、混乱させたりするのに使う投擲物だったはず。先制攻撃として使えはするだろうが……乱戦になった際に使えない。例えば早瀬が前線を上げている時、後方からスタングレネードが飛んできて巻き添えを喰らったら目も当てられねぇ。そもそも、俺の知識にあるスタングレネードと、守月が使っている閃光弾は同じなのか? それとも別物なのか? ちょっと分からねぇな。
「守月、集団戦の経験は?」
「何度か行っています。正義実現委員会の方々とも連携することも幾度かありますから」
「なら問題なさそうだな。まぁ、ミスがあってもこっちでフォローすればいいから、あんま気負わず行けよ」
「は、はい、ありがとうございます」
「最後は、火宮だな。火宮は怪我人の治療だけに専念するって感じでいいのか?」
それ以外もできるのかという意図の質問に対し、火宮は正しく質問の意味を理解したようで、俺の言葉に補足するように言葉を紡ぐ。
「栄養剤の投擲治療だけではなく、後方での指示も行っています。護身用として銃も持っていますが、基本的には位置を知らせるために使います」
「了解。回復役がどこにいるのかすぐに分かるってことだな。ありがたいもんだ」
悪魔の力で再生させていた頃が懐かしいぜ。クソ親父に左腕を斬られた後にどんだけ意識して再生させようとしても生えてこなかった時は焦ったが、クソ親父が使ってやがったのは人と魔を断つ魔剣である閻魔刀だったからな。それでも気合で生えてこいよ俺の腕。もやしっ子かよ俺の中の悪魔は。
とりあえず手札は揃った。この手札を駆使して占拠されている場所を突破しないといけないとはいえ、だ。……まぁ、楽勝だろ。ネロ・アンジェロとビアンコ・アンジェロが同時に出てくるとかしない限りは。個々の実力も悪くないだろうし、何か致命的なミスをしたとしても俺がフォローすりゃいい。人生なんてものは失敗してなんぼだ。
「まぁ、互いの足を引っ張らない程度に好きにやりゃあいい。フォローはこっちでやるからな。全部指示されて、なんて大人になってから苦労することになるし」
何から何まで全部俺が指示を出したんじゃ、自主性ってやつが育たねぇ。自分で考えて、自分がどう動けばいいのか、自分が何をすればいいのかを判断する。生徒の自主性を育てるのも先生って職業の役目だろう。
クレドも勉強を教えてくれた時、解き方ではなく、考え方を教えてくれた。その考えを下地にして、自分で考えることが重要なんだと。その時に間違えていたら、何が悪かったのか、課題が見えてくる。その課題に対する対策だって、原因が分かっているなら自分なりに考えることができるだろう。
「さ、そろそろ着くぞ。すぐ戦闘になる可能性が────っとぉ!?」
突如飛来した砲弾を躱すためにハンドルを切って、ギリギリ回避する。助手席に座っている七神や、後部座席に座っている四人がバランスを崩して前のめりになったのが見えたが、すまん、いきなりのことで声かけもできなかった。
「戦車の砲撃とかマジかよ!? 仕方ねぇ、七神!」
「はい。私は車を安全な場所へ。その後、別動隊へ連絡します。先生、シャーレ奪還をお願いします」
「任せな。お前ら、降りるぞ!」
車を遮蔽物に停めて、俺達は事件が発生しているシャーレの部室前────キヴォトスの外郭地区に走り出した。
徒歩で五分程度の場所にある事件現場では、戦場が広がっていた。
爆弾や戦車の砲撃によって爆散する街の建物から立ち上る炎や黒煙、割れたコンクリートの道路、壊れてスクラップ状態の自動車、硝煙の臭い。クリフォトが現れたレッドグレイブ市や、悪魔が出現した城塞都市フォルトゥナのような────いや、あれよりはマシかもだが────地獄のような光景が広がっている。
周囲を包む空気は良いとは言えず、むしろ悪いし、銃声がそこかしこから聞こえる。矯正局とやらから脱獄したらしい不良生徒達が破壊の限りを尽くしていた。平和だったであろう街はもはや影もなく、破壊の限りを尽くされている戦場は、焼け野原という言葉がよく似合う。
「な……何よ、これ!? 街が滅茶苦茶じゃない!?」
「魔剣祭の時もこんな感じだったか……レッドグレイブ市もヤバかったが」
ま、悪魔がいないだけマシだな。見ろ、人間しかいねぇ。あれが全部ドッペルゲンガーだったら笑えない冗談だったが。ブルーキングが無い状態でレッドローズとデビルブレイカーだけで戦えとか、ネロじゃなくてもキレるだろ。
「魔剣祭? レッドグレイブ市? というかこんな状態の場所に行ったことがあるんですか!?」
「安心しろよ、これ以上に酷かったぜ。あの時は悪魔共ばっかりだったが……見ろ、あそこにいんのは全員人間だ。悪魔の一匹もいやがらねぇ。楽勝だろ」
「???」
早瀬が疑問符を浮かべているが、すぐに復帰するだろ。復帰してもらわねぇと困る。悪魔がいないとはいえ、戦場でぼんやりしていたら被害が大きくなるだけだからな。
「で、シャーレの部室ってのはあれか?」
「そうですね。サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あのビルを奪還する必要があります」
守月が指差した方向にあるビルの本棟。建物自体には被害があるように見えないから、不良生徒達もその辺りの良識が残っているようだ。良識があるなら事件を起こすなという話なんだがな。
「んじゃ、さっさとあの不良生徒達鎮圧して、シャーレの部室奪還と行きますか」
「はい。……それにしても、こうも派手に暴れているのを見ると……何と言いますか……驚きよりも呆れが来ますね」
火宮が何やら思い出したように呆れているのを横目に、俺は体をほぐしつつ、レッドローズとデビルブレイカーの調子を確かめる。不良生徒達に聞いておきたいこともあるし、何人かは捕まえたい。人間相手に取り調べなんてしたことはないが……
「先生? どうかなさいましたか?」
「ん? ああ、ちょっとな。あの不良生徒達に聞きたいことができた」
「聞きたいこと、ですか?」
「ああ。どうにもあいつらだけで矯正局とやらから脱走したのか分からなくてな」
「……どういうことですか?」
俺の言葉に訝しげな表情を浮かべる羽川。話を聞いていた他の三人からも、羽川と同じような視線を向けられている。……まぁ、この辺りを隠して自分達で考えさせるってのはやらなくてもいいか。
「羽川、あの不良生徒達に見覚えは?」
「え? ……いえ、見覚えはありませんね」
矯正局というのはつまるところ刑務所みたいなところだろう。そこから脱走するとなれば、施設内の情報を把握しておく必要があるはずだ。少し腕っぷしに実力がある程度の連中では、数を揃えても逃げ出すことはできないだろう。羽川は三年生────つまり、年長だ。そんなお嬢さんが見覚えがないとなれば、あの不良生徒達は本当にチンピラもいいところ……だと思う。
「早瀬、矯正局に入れられたやつの武器とかってどうなるんだ?」
「例外はあるかもしれませんが、全て分解されて処分されると聞きますね。……あれ? じゃあどうしてあの子達は……」
「Hmm……やっぱ、あいつらの裏に誰かいやがんな」
十中八九、あの不良生徒達の裏に黒幕的な存在がいる。その黒幕が何を考えているのかはさっぱりだが、連邦生徒会に恨みがあるようなやつなのかもしれねぇ。
「……ま、聞いてみりゃいいか」
「先生、そろそろ行動を開始した方がよろしいかと」
「ああ、そうだな。んじゃあ、俺が道を開くから、早瀬は前線維持、羽川は遠距離から早瀬の援護、火宮は羽川の近くでポイントマン兼支援、守月は遊撃で────」
「「「「はい!?」」」」
おいおい、いきなり叫ぶなよ元気だな。
「正気ですか先生!? 先生は私達と違って銃弾を一発でも喰らえば致命傷なんですよ!?」
「へぇ? その言い方からして、お前らは銃弾程度じゃどうとでもならないみたいだな」
「私達の体は頑丈ですから。個人差はありますが、ヘイローを持つ生徒は銃弾を浴びても大したダメージにはなりません。しかし先生は……」
カルチャーショックってのは、こういうことを言うんだろうな。……いや、しかし、ヘイローを持ってる生徒ってのは本当に頑丈なんだな。その頑丈さはヘイローにあるみたいだが……ああ、頑丈だからこそ銃社会なのか。いや、実は打撃や斬撃などには頑丈性が発揮されないから、銃を持つことで近付かれないようにしているのか? こういう考察は得意じゃねぇんだよなぁ……
それにしても、硝煙弾雨の火事場に飛び込むことを心配されるのは────キリエはよく心配していたが────随分と久しぶりで新鮮かつ懐かしい気分だぜ。
「なぁに、ケルベロスもアグニとルドラもいねぇ。ノーバディみたいな脳筋もいなけりゃアンジェロもデスシザースもいねぇ。問題はねぇよ」
「あの、全く話が分からないのですが……」
「ま、危ないと思ったら助けてくれりゃあいいさ」
右手にネロと共に改造した六連装大口径ダブルバレルリボルバー、『レッドローズ』をホルスターから抜き、ボクサーがやるようなステップを数度踏み────
「置いてかれんなよ?」
四人の生徒が何か言う前に飛び出した。
悪魔の力が覚醒する前……デビルブリンガーが無かった頃からネロと共に教団から化け物染みた身体能力だと言われていたことを思い出しながら、瓦礫が転がる道路を爆速で駆け抜けていく。迫る瓦礫も、壊れた自動車も俺を止めることはできねぇ!
「あん? なんだ?」
真正面から突っ込んでいるから当然ではあるが、シャーレの部室を占拠して我が物顔な不良生徒の一人がこちらに気付いたらしい。
「ヘイローがねぇ……大人?」
「一人でこっちに来て何するつもりだ?」
「いや待て、あの大人の後ろからどっかの学園の生徒が来てんぞ? ここを取り返すつもりかぁ?」
当たり前だが、一人が気付けば、他の不良生徒達も俺達の存在に気付く。そんな少女達の口元に浮かんでいるのは、暴力に酔っているかのような歪んだ笑みだ。一人で何ができるんだって馬鹿にしながら聞いてきているような、そんな感じの笑み。
おいおい、マジで人に銃口を向けることを躊躇いやしねぇ。そういう場所なんだな、キヴォトスってのは。そうしなきゃ自分より強い奴らに喰われるような、そんな弱肉強食が表面化している、力こそが全てな悪魔共が大喜びしそうな世界らしい。だが────
「俺を殺してぇなら悪魔を三百体は連れてきな!!」
放たれた弾丸を紙一重で躱し、速度を維持したままスライディングで不良生徒達の背後に滑り込む。
「よぉ、お仕置きの時間だぜ!」
「は────ッ!?」
滑り込んだと同時に『OVERTURE』で不良生徒の足を掴み、全デビルブレイカーに共通で搭載された『ワイヤースナッチ』を起動。強靭な巻き取りや射出を利用して、鎖を振り回す要領でその隣にいた不良生徒に激突させる。手加減したつもりだったが、勢いが結構あったのか近くにあった花壇に仲良く突っ込んでいった。不良生徒の生け花ってか? 笑えねぇ冗談だ。
「銃は……まぁ、レッドローズがあるからいいか」
七神が呼んでくるらしい別動隊が流出先を特定するための証拠品として押収するだろうから、弾薬も使わない方向で。
「ひ、怯むな! 撃て! 撃ち続けろ!!」
「っと、遠慮なしか! いいぜ、思い切りがいいのは嫌いじゃねぇ!!」
さっきよりも多い不良生徒達からの一斉射撃が俺を襲うが、ヒューリーのように高速移動で突然背後から出てきて攻撃してくるとかをしてこないなら、問題ねぇ。弾幕もヘルバットの群れと比べたら全然だ。
「ハッハァ! ほらほらどうしたぁ! 当ててみろよ!!」
廃車となっていた車を踏み台にして空に飛び上がり、ワイヤースナッチを駆使して瓦礫を掴んで動き回る。不良生徒達の横をすり抜ける瞬間にレッドローズの引き金を引けば、慣れた反動と轟音が俺の体を震わせる。悪魔との戦いをやってる時みたいな、命がけの戦いだってのに、俺の体は全く強張らず、それどころかいつも通りリラックスしていた。ま、悪魔との戦闘でも緊張したことはあんまりねぇがな。
「な、何なんだよ、こいつ!?」
「あ、悪魔だ……! 化け物だ……!!」
「人間とは思えねぇ!!」
「悪魔は弟の幸せを願って泣かねえよ!」
本物の悪魔は力こそが全てな連中しかいねぇぞ。しかも人間は家畜とか餌としか見てないやつらばっかだ。……まぁ、下手な人間よりも道理が分かってるやつもいないわけじゃないが、結局力がないやつは下等な存在だって考えらしい。アグニとルドラをぶん殴ったらそんなことを話してた気がする。あいつらダンテに使われてるはずだが、手入れとかされてんだろうか。
「ところで俺に夢中になってていいのかい、お嬢さん達?」
ダパパパッ、と軽快な銃声が聞こえるのと同時に不良生徒が次々と倒れていく。死んではいない。気絶しているだけみたいだ。チャージショットをしていないとはいえ、レッドローズの弾丸を喰らっても死んでないのを見た時も思ったが、本当に頑丈だよな。
「おう、遅刻だぜ早瀬」
「先生が早過ぎるだけです! 何ですか無茶苦茶な動きばっかりして! 心臓が止まるかと思いましたよ!?」
「心臓が止まったらこいつで動かしてやるから安心しな。除細動器として使えるのは自分でやって実証済みだ」
「なんでそんなことになったんですか!?」
叫びながらもちゃんと的確にシールドを展開したり、攻撃を行ったりしている。手慣れてるもんだ。
「ま、修羅場を何度も潜り抜けてきたからな。ほら、刺激的なプレゼントだ!」
「「「アババババババババ!!?」」」
電撃発生装置を駆動させて、不良生徒達を纏めて感電させる。常人じゃ感電死しかねないレベルの電撃だってのに、これも気絶する程度で済むのかよ。凄ぇなキヴォトスの生徒。頑丈過ぎてブルーキングでも切れないんじゃねぇかって思い始めてるぜ。斬る機会なんてないだろうけどな。
「……へぇ、やっぱ優秀だな。スナイパーの処理は終わってたか。スコープ無しでよくやるもんだ」
「え?」
「あそこのビル、廃虚になってるとこにスナイパーがいた。スコープの照り返しが何度か見えたが、今は見えねぇ」
処理したのは羽川だろうな。アサルトライフルでも狙撃ができるやつはいるらしいが、スナイパーライフルを使った方が確実だ。
こうして早瀬と話をしている間にも、守月のスタングレネードが不良生徒達の近くに投擲され、悲鳴を上げる暇なく気絶した。いいね、ちゃんと自分の考えで動いてる。指示が無くてもちゃんと動ける辺り、本当に優秀でありがたいことだな。
「くそ! これでも喰らいやがれ!!」
「不意討ちは無言でするもんだぜ! 早瀬! シールド出せ! 羽川ぁ! シールドと同時に撃て!!」
俺達を叩き潰さんと砲塔を向けた戦車を見た俺が指示を出すと、早瀬は電磁シールドを展開し、それと同時に羽川の銃から放たれたであろう銃声が耳朶を叩く。羽川の放った弾丸は戦車の砲塔────それも砲弾を放つための穴に吸い込まれていき、大爆発と共に黒焦げの不良生徒達が戦車から飛び出してきた。あれでも死なねぇのかよ、もはやギャグだぜ。
「にしてもいいな、電磁シールド。ダンテのロイヤルガードとはまた違う感じだが……早瀬、お前これどうやって計算で出してんだ? 暗算か?」
「いえ、暗算だとちょっとブレたりするので、このミレニアム産関数電卓で……って、そんなことより先生! 無茶苦茶な動きはもうやめてくださいね!? 本当に肝が冷えますから!」
「先生は銃を向けられたりして怖くないのですか? 私達のように頑丈というわけでもなさそうですが……」
「まぁ、経験の差ってやつだ。場数を踏めば自然とこうなる」
早瀬や守月の言葉にそう返しながら、残りの不良生徒達を鎮圧していく。時折早瀬や守月が被弾したが、軽く赤くなる程度で留まっていた。被弾を恐れない理由は肉体構造もさることながら、価値観とか常識が違うことも理由にありそうだ。
そうして残党狩りを行うこと数分。勝機を見いだせずに逃げ出した不良生徒達は、敵である俺達に背を向けて逃げていく。俺が捕まえていた一人を除いて。
「悪いなお嬢さん。ちょっと話を聞かせてくれ」
「あ、あんた……何者だ……? ヘイローも無いのに、こんな……」
「ヘイローの有無は実力には関係ねぇだろ。まあ、俺はここの常識を知らねぇからとやかく言えねぇが……」
下手な動きを見せれば命は無いとでも思っているのか、不良生徒の顔には恐怖が張り付いている。殺すわけねぇんだがなぁ。一応先生だし。
「そんなことより、お嬢さんらを扇動したやつは誰か分かるか?」
「……し、知らない」
「知らない?」
「ほ、本当だって! あたしらは狐のお面を被った人の後を追って脱走したってだけで……! そ、それ以外は何も知らない! 本当だよ!」
声が震えて、サングラス越しに見える目からは恐怖が滲んで焦点が合っていない。得体の知れないやつに尋問されているなんて、冷静に考えなくても怖いことだよな。当たり前だ。
「狐のお面、ね…………悪かったな、怖がらせて。ほら、これでも食えよ」
「え、あ、へ?」
「チョコは苦手だったか? 飴もあるが」
「い、いや、そうじゃない! そうじゃなくて! ……なんで、あたしにお菓子を渡すんだよ。さっきまで戦ってた、敵同士だったやつに……」
あー……まぁ、そりゃ疑問に思うか。戦って尋問されて、その後いきなりチョコレートを渡されたら困惑するよな。理由……理由ねぇ……
「一番はあれだな。腹空かせてそうだったから……だな」
「はぁ?」
「あんただけじゃなく、他の連中も腹減ってそうだなぁ、って顔してたからよ。腹減ってるとむしゃくしゃするし、それが暴力に発展したんじゃねぇかって思ったんだ」
そんな理由で?
チョコレートを渡された不良生徒の一人だけではなく、早瀬、守月、合流してきた羽川と火宮もそんな表情を浮かべている。……ああ、そうか。経験がないと分からねぇか。
「飢えはマジで怖いぞ。人を豹変させる」
「豹変、ですか?」
「紛争地帯じゃ食べ物一つで奪い合いの乱闘が起こったりするくらいだ。空腹は、飢えは、優しい人でも獣に変えちまう」
ネロ達と一緒に移動式便利屋をやっている時、そういう場所に行ったこともある。食べ物を奪い合って全滅したらしい村とか、避難所なんかもあった。
非常時でそうなるのなら、飢えることが日常となったやつは、どうなると思う? そう問いかけると、表情を強張らせる面々。
「食料求めてあちこちに襲撃仕掛ける暴徒の出来上がりだ。でもな、その暴徒達は腹が減りすぎて何で暴れていたのかも分からなくなる。あんたがどうかはさておいてな?」
「……」
「腹を空かせていたことも忘れて……気付けば倒れてるなんてこともざらだ。それを見過ごせるような人間性をしてねぇんだよ、俺は」
甘ちゃんかもしれないが、それでいい。腹を空かせてる子供にお菓子を手渡すくらいのことは、先生であっても別にやってもいいだろ。
「もちろん悪いことをしたってんなら、腹を満たしたらちゃんと償ってもらう。気絶してるやつらも、同様にな」
「………………変な大人」
聞こえてんぞ、不良生徒。