不良生徒から情報を確保してから数分。残党も残っていないシャーレの部室前で、七神に渡されていた通信端末で連絡を待っていると、ヴォンッ、とホログラムが起動して七神の姿が見えた。
「七神、別動隊は?」
『現在現場に急行中ですが……三十分はかかります』
「Hmm……とりあえず質問だが、狐のお面を被った問題児なお嬢さんに心当たりは?」
『ッ!? まさか、もう遭遇して……っ?』
「いや? 不良生徒から聞いた。ちなみにその不良生徒は俺の横でチョコレート食ってる」
は? と不可解なものを見るような表情を浮かべた七神に思わず噴き出してしまう。こう何度も不可解なものを見るような目を向けられると、逆に笑えて来るぜ。
「で? そのお嬢さんの情報は?」
『…………狐坂ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局へ投獄、その後脱獄した生徒です。今回の事件と似たような前科がいくつもあります』
「へぇ、中々楽しいお嬢さんらしいな? 会うのが楽しみになってきたぜ」
重々しい口調で情報を伝えられたが、そこまで危機感を感じないどころか疑問が浮かんでくるレベルだ。犯罪をやるやつらの心理をしっかり勉強したことはないが、この狐坂というお嬢さんはどういう意図で犯罪を犯しているのかがさっぱり分からん。愉快犯って感じでは無さそうなんだよな……不良生徒達を自主的に引っ張ってきたわけではないようだから、自己顕示欲を満たすためというわけではなさそうだし……
「考えても仕方ねぇな。七神、俺は先にシャーレの部室に向かう。どこに行けばいい?」
『先生に行っていただかねばならないことは、地下で行います。私も別動隊と共に向かいますので────お話はそこで』
「オーライ。んじゃ、また後でな」
通信を切り、通信を近くで聞いていた生徒達に目を向ける。
「つーわけで、ここからは俺一人だ。早瀬達はシャーレの外で警戒を頼む」
「それは……あまりにも危険ではありませんか?」
俺の発言に苦言を呈したのは気絶した不良生徒達を一か所に纏め終えた羽川だった。他の三人もそれに同意だったのか、俺を見る表情には難色が滲み出ている。不安とか、心配とか、そういう感情を含んだ表情を浮かべる四人の生徒を見て、今日会ったばっかりのやつにそれだけの感情を持てるとは優しいお嬢さん達だ、という思いと、悪い大人に騙されないよな? という思いが同時に浮かんでくる。
「同感です。シャーレ内部にはまだワカモが潜んでいる可能性があります。せめて一人護衛を────」
「問題ねぇよ。俺は死ぬつもりもねぇし、狐坂ワカモっていう生徒に興味がある。ゆっくりお茶でもしてやるさ」
「相手は凶悪な犯罪者ですよ? そんな生徒であっても、ですか?」
「先生ってのは、そういうもんだろ? なぁに、ちょっとハードな個人面談さ」
先生────教職についてる人間なら、生徒との個人面談程度で怯むわけにはいかねぇだろ。デビルブリンガー発現と共に遅めの思春期迎えたネロよりも扱いは簡単だろうよ。
そんなことを考えながらシャーレの部室であるビル、その地下に降りていく。エレベーターもあったが、電気がまだ通ってないのか動かなかったので階段での移動だ。仕事の癖で足音を立てずに階段を駆け足気味で降りていくと────執務用のデスクらしきものと、大量の本が納められている本棚が並んだ場所に辿り着いた。だが、執務室って感じでもなさそうだな。そもそも何で執務室が地下にあるんだって話にもなる。
そして、その部屋には先客がいた。
「うーん、これが一体何なのか全く分かりませんね。これでは破壊するにしても……」
動きやすくするために改造しているらしい着物に身を包み、年代物の銃を片手に持った────狐のような耳と尻尾が生えている、狐の面を顔の横に付けている少女がいる。あの少女が狐坂ワカモってお嬢さんだろう。というか獣の耳と尻尾なんてファンタジーみてぇだな。……まぁ、ネロや俺、ダンテとかもファンタジーの存在みたいなもんだからお互い様か。俺の体に悪魔の力が残っているとは思えねぇが、デビルブレイカーはファンタジーの類だろ。
それよりも……狐坂の視線の先で聳え立ってやがるオブジェクトは何だ? 芸術作品にしては歪すぎるし、魔界から持ってきましたと言われたら納得しそうな見た目だ。時空神像みたいに強い力を持っているみたいだが……レッドオーブぼったくられたりしねぇだろうな?
「ううん……?」
「よぉ、何か野暮用かい?」
「っ!?」
独創的なオブジェを見つめてああでもないこうでもないと唸っていた狐坂が、驚いたように振り向きながらこちらに銃を向けてきた。いい反応速度だ。場数は結構踏んでるらしい。
「初めまして、だな? 俺はビアンコ。一応ここの家主ってことになってる」
まずは自己紹介。どんな問題児であっても、悪魔と違って話が通じるんだ。人間、意外と話せば何とかなるもんだ。話ができないやつ? まぁ、ちょっと物理的な話をしてから話し合いのテーブルについてもらうことになるが、話はできんだろ。
「で? 狐の耳と尻尾がキュートなお嬢さんはこんなところで何やってんだ?」
「っ、あら、あららら……」
敵対する意志はないことを示すために孤児院の子供達に向けるような笑みを浮かべて話しかけると、フレンドリーな対応が予想外だったのか、狐坂の体が跳ねて、銃口が明後日の方向に向いた。……まさかとは思うが、こうやってフレンドリーに話しかけられたのは初めてか?
「おいおい、顔が赤いがどうした? まさか風邪引いた状態で暴れてたのか?」
「あ、ああ……え、あっ……?」
手を伸ばせば届く距離まで近付いたのに、壊れたラジカセのように妙な動きと声を発する狐坂の額に手を当てると、驚くほどに熱い。間違いなく発熱してんな、これ。風邪引いていても矯正局を脱獄できるレベルの実力とは、狐坂はこの学園都市でも屈指の実力者に違いない。
「あ、あの、ああらららら……?」
「風邪引いてるなら無理すんなよ。呂律が回ってないあたり、結構重症だぞ?」
「は、はひっ……!?」
キヴォトスの生徒ってのは、こんな状態でも健康状態と変わらずに動けるのか。頑丈どころの話じゃねぇ気がするが、これもヘイローってやつの力なのか、それとも狐坂が特別なのか……あとで七神にでも聞いてみるか?
「し、し……」
「あん?」
「失礼致しました~っ!!」
まるで初速から最高速度に到達する草食動物のようにいきなり飛び出した狐坂。一瞬消えたと錯覚するようなこの瞬発力、ヒューリーにも負けてねぇんじゃねぇの? ちょっと気を抜いてたのもあって反応が遅れたが────ここの出口は今、俺が降りてきた階段しかない。
「あー、なんだ。狐坂!」
振り向きながら俺が呼びかけると、ビタッ、と狐坂が動きを止める。
「風邪が治ったらまた来いよ。飯くらいはご馳走してやる」
階段を踏み砕くんじゃないかって勢いで走り去っていった狐坂は俺の言葉に返事をしなかったが、聞こえていただろうし、風邪が治ったらまたここに来るだろう。その時はジャンクジャンクピザとコーラとストロベリーサンデーを用意して歓迎してやる。
「………………さて、と。この独創的なオブジェは何なんだ?」
時空神自身が配置した、というのは無いだろう……とは言い切れない。伝承が正しければ、時空神とやらはあらゆる時空を観測して、その知識を集めるって話だからな。このキヴォトスに時空神が時空神像をあちらこちらに配置していて、その中の一つがこれ、という可能性も十分にある。その場合は……どうしたもんかね。悪魔の血であるレッドオーブの持ち合わせは無いんだが……
いや、仮にこれが時空神像だったとして、連邦生徒会の連中は何とも思わなかったのか? 連邦生徒会長の趣味とでも思ったのか? ……分からねぇな。
「先生、お待たせしました」
「ん? おお、七神か。早かったな」
狐坂がこの場からいなくなってから数分もしないうちに、七神がこの地下室に現れた。この様子だと狐坂と鉢合わせにはならなかったようだ。もし狐坂と七神が鉢合わせになっていたら、少々面倒なことになっていたかも、とはちょっとだけ思うからそうならなくてよかった。
「で? 俺はここで何をすりゃあいいんだ? まさか、この独創的なオブジェを飾り付けろ、だなんて言わないよな?」
「当たり前です。……ここに、連邦生徒会長が残したものが保管されています。幸い、傷一つないようですね」
そう言って七神は、執務用のデスクの傍に配置されていたアタッシュケースから何かを取り出して、俺に差し出してくる。これは────タブレット……か?
「受け取ってください、先生」
七神が差し出したそれは、一見すると何の変哲もないタブレットだ。傷一つない、真新しい、まさに新品と言うに相応しいタブレットは、本当に何の変哲もないただのタブレットにしか見えないが……これが連邦生徒会長が残したものらしい。
「これが、連邦生徒会長が先生に残したもの────【シッテムの箱】です」
「Huh……? パッと見た感じ、ただのタブレットにしか見えねぇんだが……」
「外装は市販のタブレットと同じです。ですが、中身は別物、正直私達も実態を把握していません」
雲行きが怪しくなってきたな。
「製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みそのものも、全てが不明です」
「Hmm……つまりはパンドラボックスってわけね」
何もかもが分からない、ブラックボックスの塊。何一つ分からない正体不明の機器を、連邦生徒会長が俺のために用意していた……意味が分からねぇ話だ。オーパーツですって言われた方が納得できる。
「連邦生徒会長は、このシッテムの箱は先生のもので、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだとおっしゃっていました」
「へぇ? こんなよく分からないタブレットでねぇ?」
「はい。私達では起動できなかった代物ですが……先生であれば────」
七神の言葉に続くように俺はタブレットの起動ボタンを押し込む。ややあって、ポォンと軽い起動音と共に青白い背景が表示され……パスワードを入力せよという表示が出る。
「ああ? パスワードだと? 初めて触れたもののパスワードなんざ分かるわけが────」
【我々は望む、七つの嘆きを】
【我々は覚えている、ジェリコの古則を】
「ッ!?」
頭の中に聞いたことがない単語が聞えてからすぐ、俺の指が自然と動いた。頭の中に響いたその単語を、パスワード入力画面で澱みなく打ち込み────
────【シッテムの箱】にようこそ、先生。
生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステム、【A.R.O.N.A】に変換します。
「……ああ?」
白い光に視界が包まれてから数秒後、俺は地下室ではない場所に立っていた。
青い、蒼い、教室だ。床一面に水面が広がっており、乱雑に配置された机が見え、何らかの破壊行為によってぶち抜かれたような壁の向こうには、水平線が広がっていて、頭上には天井ではなくどこまでも広がる青空が広がっている。
世界が切り替わったかのような感覚に若干の違和感を感じたが、元の世界でもそういうことはあったし、ダンテの仕事について行ったら結構な頻度でそういう状況に出くわしていたから結構冷静でいられた。あの世界で経験したような血生臭い気配は全くしないし、むしろ澄み切った空気が気分を良くさせる。
しばらく周囲を見渡し、この澄み切った青い教室の中に、机に突っ伏して居眠りをしている小さな少女がいることに気付いた。
「んへへぇ……いちごみるくは……」
「……寝てんのか?」
「あ~……バナナカステラも……うへへ……」
何とも食い意地を張った夢を見ているようだ。とりあえず、この場所について話を聞きたいから、叩き起こすか。
「Hey」
「むにゃ……ん~……」
「起きてくれ。もう朝を通り越して昼下がりに突入するぜ?」
「むにゅ…………ふあ……」
微睡みの中にいるらしい少女の肩を軽く掴んで揺らすと、ようやく意識が覚醒したのか机から体を起こした少女。青空の様に澄んでいる水色の髪に、白いリボンのアクセサリーを付けた少女が眠りから覚めると、水色のヘイローが彼女の頭上に現れた。なるほど、不良生徒達が気絶した時も確認していたが、意識が無い状態のキヴォトスの生徒はヘイローが消えて、意識を取り戻すとヘイローが発生するらしい。
俺が小さなお嬢さんを観察していると、寝起きで眠たげな目を見せていた彼女が俺の姿を捉えた。
「────え? あれ、んん……?」
「遅い起床だな。いい夢は見れたか?」
「えっ!? も、もしかして、ビアンコ先生!?」
「ああ。俺は先生らしいぜ」
俺の姿を捉えた少女はどこか感激したように目を見開いて、自身の頬を抓ってみたり、わたわたと慌ただしく手足を動かしたりした後────パッ、と明るい笑顔を浮かべた。
「初めましてビアンコ先生! 私はシッテムの箱に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書のアロナです!」
「Wow.話題のAIってやつか? 進んでんだな、キヴォトスってのは。……いや、お嬢さんが凄いってだけか?」
「えへへ……やっとです! 私はここで先生をずっと待っていました!」
ずっと、か。俺が来るまで、どれくらいの時間が経っていたのかは知らないが、この感激の仕方……俺が想像しているよりも長い時間、俺を待ち続けていたらしい。
「では先生、指を私の指に合わせてください! 指紋を読み取って生体認証を行います!」
「ん? 指紋……こうか?」
アロナと名乗る少女が立てた指先に、俺が右手の人差し指を重ねると、彼女はどこか嬉しそうにはにかんだ。
「ふふ、まるで指切りして約束するみたいですね!」
「ははっ、かもな」
「それでは、指紋を目視で確認するので、少々お待ちを!」
「あいよ」
「どれどれ……?」
じっと指紋を見つめたアロナから、どんな偽装も許さないと言わんばかりの真剣な雰囲気が漂ってくる。……が、数秒後、「まぁ、これでいいかな?」というちょっと適当な雰囲気に変わった。大丈夫か、アロナ。そんな適当な感じでいいのかアロナ。
「……はい、確認終わりました!」
「へぇ、早いもんだな」
「もちろんです! 何て言ったって、私は先生の秘書、アロナですから!」
もっと時間を要するかと思ったが、結構早かったと呟けば、得意げに胸を張るアロナ。……なんか、孤児院の子供達と話してる気分になるな。
「っと、そういえばアロナ、ちょっと話を聞いてもらってもいいか?」
「もちろんです! このアロナに任せてください!」
自信満々に胸を叩いたアロナに思わず笑みが零れる。本当に孤児院の子供達と話している気分になってしまう。
少しだけ感傷的な気分になりつつも、俺はアロナにここへ来た理由や、現在のキヴォトスがどんな状況に陥っているのかを説明する。少々端折ったところもあるが、俺が事情を粗方説明し終えると、アロナは神妙な顔つきで唸り声を放ちながら眉間に皺を寄せていた。
「つまり……連邦生徒会長が失踪した結果、キヴォトスのタワーを制御できなくなったと」
「ああ。連邦生徒会長について知ってることとかあるか?」
「ごめんなさい、先生。私はキヴォトスの情報を多く保有していますが……連邦生徒会長については、ほとんど情報を持っていません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも」
「そうか。まぁ、ダメもとで聞いただけだ。気にすんな」
申し訳なさそうにするアロナの頭を左手で軽く撫でて笑った俺は、当初の目的を口にする。
「サンクトゥムタワーとやらの問題は解決できそうか?」
「はい! そちらに関してはすぐにでも!」
「Great.早速頼むぜ!」
「はい! アロナにお任せください!!」
元気な返事の後に目を閉じたアロナは、少し考える素振りを見せてから目を開けて口を開く。
「サンクトゥムタワーのadmin権限取得完了。先生、サンクトゥムタワーの制御権を回収できました。現在、サンクトゥムタワーは私、アロナの制御下にあります」
「マジかよ! 今の一瞬でか!? 凄ぇなアロナ!」
思わず孤児院の子供達にしていたようにアロナの頭を撫でると、アロハは口元を緩ませた。
「えへへっ! これにより、今のキヴォトスは先生の支配下にあるも同然です!」
「オーケィ、じゃあ制御権を連邦生徒会に渡してやってくれ」
「……それはいいですけど……大丈夫なんですか?」
その質問の意図は、俺の考えが正しければ、連邦生徒会を信用しても大丈夫なのか────という意図の質問だろう。
……確かに連邦生徒会長が失踪しただけで機能不全を起こしていた連邦生徒会という組織に対して、思うところがないと言えば嘘になるが……今の俺は先生って立場だ。七神みたいな子供を一度のミスだけで信じないでどうする。それに、キヴォトスを訪れたばかりの俺が、キヴォトス全てを支配できるような力を持ったとしてどうしろってんだ。正直な話、絶対に手に余る力である。
「大丈夫だ。連邦生徒会に権限を渡してやってくれ」
「分かりました。────では、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」
「頼むぜ、アロナ。────ああ、そうだ。待たせた詫びとしてこれでも食ってくれ」
「わあっ! イチゴ味のチョコレート! ありがとうございます、先生!」
アロナにチョコレートを渡した後、俺の意識が切り替わるような感覚を味わい……さっきまでいた青空教室ではなく、先程まで薄暗かったはずの地下室に立っていた。目を閉じていた……ということは、俺はあの青空教室にワープしていたんじゃなく、意識だけを青空教室に送っていたんだな。
そんなことを考えつつ周囲を見ると、端末でどこかと連絡を取り合っている七神の姿が見えた。七神は俺が見ていることに気付くと、早々に会話を切り上げる。
「……ええ、分かりました。では、また」
通話を切り、こちらに体を向けた七神。どこか異常があるか確かめるように俺の体を上から下まで眺めた後、彼女は下がっていた眼鏡を押し上げて口を開いた。
「サンクトゥムタワーの制御権、その確保が確認できました。これで連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められます」
「そりゃあ良かった」
「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたこと、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」
「堅苦しいのは性に合わねぇ。もっとフラットに行こうぜ」
俺がそう言ってにへらと笑えば、七神は肩の荷が下りたと言わんばかりに柔らかく笑みを浮かべた。行政管理が行えるようになれば、機能不全に陥って全く動けないということは無くなり、現在起こっているキヴォトスの混乱もそのうち収束に向かうだろう。
「それでは、シッテムの箱は渡しましたし、私の役目はここまで────ああ、いえ、もう一つだけありました」
「ん? やり残しか?」
「ええ、まぁ。連邦捜査部────シャーレの案内をしましょう」
「ここがシャーレのメインロビーです。長い間空室でしたが、ようやく主人を迎えることができました」
七神に案内されたシャーレの内部は、とんでもなく広く、何でそんなに設備が充実しているんだと思う程、設備が充実していた。オフィスと居住区が存在しており、部室なんて言葉で片付けていいのか分からない程である。
学校の設備各種、射撃場、格納庫、トレーニングルーム、休憩室、ゲームセンター、食堂、菜園、コンビニ……ビルの中に学校が一つあるんじゃないかと思うようなレベルだ。
オフィスのロビーを抜けて、視聴覚室と書かれている部屋の奥にある、一室の扉を開けると────何やらシンプルな部屋が俺を待っていた。
「ここが、シャーレの部室です」
七神に入室を促され、部室に入ると、スチール棚、PC、モニター、日直用デスク、ホワイトボードなど……若干シンプル過ぎるのではと思ってしまう設備が俺を迎えてくれた。
「先生のお仕事は、基本的にここで行うと良いでしょう」
「了解。で、俺はこれから何をすればいいんだ?」
俺が問いかけると、七神は一瞬言葉を詰まらせる。
「……現在、シャーレは権限だけはありますが、目標のない組織ですので……特に何かをしなくてはならないということはありません」
「Huh? てことは、つまり……」
「はい。何でも先生がやりたいことをやってもいい……ということです」
「意味が分からねぇ組織だな、おい」
「そうですね。ごもっともです」
思わず同時に苦笑が浮かんでしまう。シャーレの案内をされている時に聞いていたが、シャーレはキヴォトスのあらゆる学園の自治区に出入りが可能で、所属に関係なく俺の希望で生徒を部員として加入させることも可能らしい。まぁ、命令権ではなく、要請権ってやつだな。連邦生徒会長はどうしてこんな組織を立ち上げたのやら。
「今の連邦生徒会には、キヴォトスの問題に対応できるほどの余力がありません。管理、維持するのが精一杯な状態ですね」
「なるほど、なら、その穴を埋めるのが────」
「ええ、シャーレならば、そういったキヴォトスの問題を解決できるかもしれません」
俺を真っ直ぐ見つめてくる七神から感じるのは、期待や希望。ま、やれるだけやってやるさ。
「────現在、キヴォトスに発生している問題に関しては、あちらの机に置いておきましたので、気が向いたらご一読ください」
「オーライ。早速読ませてもらうぜ」
こういうのは早め早めに目を通して優先度が高い順に選別して片付けていくのが大事なのだ。ダンテのところで事務仕事の手伝いをしたのがここで役に立つとは思わなかったぜ……
「よろしくお願いしますね。……ああ、それと、全ては先生の自由です。何をなさるのも、何をなさらないのかも……」
「取捨選択か。……ま、俺は欲張りなんでな。出来る限り全獲りを狙わせてもらうぜ」
「期待しています。……それでは一度お休みください。必要な時はまた、ご連絡いたします」
「お前もな、七神。ちゃんと休めよ」
七神を見送り、近くにあったソファに座った俺は天井を見上げて息を吐く。……先生なんてやったことがねぇが、どうにかやってやるさ。依頼もあるし……それに、ネロが自慢できる兄貴でありたいからな。
後半端折りましたがプロローグようやく終了でございます。幕間やってアビドス行きます