ミレニアムでデビルブレイカーの複製依頼を出してから大体一週間くらい経った頃。いつもと変わらず書類仕事に勤しんでいた俺は、休憩がてら朝食と昼食を統合したサンドイッチセットを口に放り込みつつ、今時珍しい便箋に入れられて届いた手紙を読んでいた。ちなみに便箋の封は太陽のマークに三角形という見たことがないものだった。
「Hmm……」
丁寧で少し柔らかさを感じさせる丸みを帯びた文字で書かれた手紙の内容は、以下の通りだ。
『連邦捜査部シャーレの先生へ』
『こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。今回、どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました』
『単刀直入に言いますと、今、私達の学校は追い詰められています。それも、地域の暴力組織によってです』
『こうなってしまった事情はかなり複雑ですが……どうやら、私達の学校の校舎が狙われているようです』
『今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給物資が底を尽きてしまいます……このままでは、暴力組織に学校を占拠されてしまいそうな状況です』
『それで、今回先生に支援をお願いできればと思いました。先生、どうか私達の力になっていただけませんか?』
『アビドス高等学校一年 廃校対策委員会書記 奥空アヤネ』
「……アロナ、悪いんだがアビドスについての情報をくれ」
『はい、お任せください!』
アロナに現在のアビドスについて情報を集めてもらうように伝え、俺は手元にある書類でアビドスの情報を確認する。……ただ、これ数十年以上も前の情報だから、全くもって参考にならねぇ。引継ぎするならちゃんと更新しといてくれよ連邦生徒会長。
『先生、資料の準備ができましたよ!』
「助かる。どれどれ……」
アビドスについての情報を精査してくれたアロナに感謝しながら、用意された資料を確認する。
アビドス高等学校────アビドス砂漠と呼ばれる地域に隣接した学園。かつてはキヴォトスで最も長い歴史を誇り多数の生徒が通う、キヴォトス最大の学園として名を馳せており、生徒会長が70人いたという群雄割拠の混乱期を経ての全盛期では、圧倒的な兵力や資金を誇るほどの繁栄を謳歌し、他の自治区からは羨望や畏怖の目で見られていたらしい。
だが、数十年前から発生した大規模な砂嵐によって学区の環境は大きく変化し、かつてアビドス自治区で行われていた大規模な祭り、『アビドス砂祭り』の会場でありアビドスのシンボルあったオアシスが枯れてしまった。
進み続ける砂漠化を食い止めるために当時の生徒達は尽力したが力及ばず、借金が膨らみ続け、学園の運営すらままならない状況まで追い込まれ……そのまま学園を去る生徒や住民が増えていき、現在は過疎地となってしまっている。
さらには本来の校舎本館はすでに砂漠に飲み込まれているため、学園自体も度重なる移転を余儀なくされており、現在の校舎は自治区内の別館。学園の規模縮小に伴って議員の選出も滞っており、連邦生徒会での発言権は失われて久しいようだ。
「……突如起こった砂嵐によってオアシスが枯れるねぇ……原因がありそうだが、まずはこっちの依頼が先だな……アロナ、このアビドスの規模はどれくらいだ?」
『そうですねぇ……噂によると、街のど真ん中で道に迷って遭難する人が現れるほどだったみたいですね!』
「はー……! 凄ぇ規模だな」
本当に凄まじい規模を誇った自治区だったようだ。アロナが用意してくれた地図を見るに……こっからアビドスの校舎まで大体三時間弱ってところか。空路なら楽なんだが、砂嵐が起こるようなところに空路は厳しい。せめて陸路を車で移動だ。
「……っし、うだうだ考えてねぇで行くか。アロナ、シャーレの戸締り頼むわ」
『これが大人の行動力……! お任せください!!』
シャーレのセキュリティについてはアロナに一任している。ミレニアムのセキュリティのあれこれに詳しい連中と話す機会があって、俺の生体データがないと使えないなどの条件も付け足しているので、万が一があったとしてもシャーレが悪意ある者に占拠された……なんてことはないだろう。
「ワゴン車……いやトラックがいい。弾薬に食料に水……運ぶものは多いな」
シャーレの地下に用意された駐車場に停車している大型トラックにあれこれ物資を放り込んでいく。こういった作業も自動化できるんだから技術の進歩ってのは凄いもんだよな。まぁ、最後に自分の目で確認するが。
「純ロットの弾薬一式、保存のきく食品、五年間保存できる2リットルペットボトル水……足りないやつはクラフトチェンバーを使えばいいとして……」
出張になるので七神に連絡を入れてからシャワーを浴びる。どんな場所なのか知らねぇが、生徒で不清潔なのはよろしくないだろう。それに、頭を冷やしてからの方が長時間の運転には適している。
俺はサンドイッチを全て腹に納めた後、コーヒーで口の中を潤してデビルブレイカーの調子を確かめた。
「さぁて……どんなところかねぇ、アビドス」
不安もあるが、楽しんでいこうじゃねぇか。
「ああ……? ここは市街地だよな?」
予想以上の砂漠化によってアロナのナビゲーションも、地図での位置確認も全くできねぇ。見渡す限りの砂、砂、砂。しかもこの砂、俺が知っている砂よりもきめ細かくて車のタイヤが持っていかれそうになる。ジリジリと照り付ける太陽や熱風を鑑みると、車で来たことが正解だったことが察せられる。クーラーがないと暑さで干乾びるぞこんなの。慣れてくれば問題ないだろうが、素人がうろつくのは絶対に避けた方がいい。
来た道を覚えているし、アロナに記録してもらっているので遭難、という言葉はまだ似合わない状況だが……目印になるものがない状況で動くのは得策じゃねえ。せめて土地勘のあるやつが案内人としていてくれたらいいんだがな……アロナのナビもあるにはあるが、この土地に住んでいるやつの方が道案内がしやすいだろう。
「どうしたもんかねぇ……」
トラックのレバーをパーキングに切り替え、パーキングブレーキも入れた俺は一旦休憩するために座席を後ろに倒す。果報は寝て待てなんて言葉があるのだから、こうして休憩している間に土地勘のあるやつが声をかけてくれるといいんだが。
そう思って水に口をつけようとした時、トラックのドアをノックする音が聞こえて体を起こす。
「……人、か?」
ドアをノックしたのが誰なのか確認してみると、ロードバイクに乗った銀髪の少女がいた。……狐坂と同じように獣のような耳が生えている。
「よう、お嬢さん。ここの人かい?」
「ん……見慣れないトラックが見えたから確認しに来た。この辺りにもカタカタヘルメット団が出るから」
「ああ、そうか。悪いね。無駄に警戒させちまったらしい」
窓を開けて砂漠の熱気を感じる中、銀髪の少女に見覚えがあるように感じた。どこで見たんだったか…………ああ、確かアロナに用意してもらった資料に載っていたはず。
「あんた、砂狼シロコだったか? 俺は────」
「シャーレの先生、でしょ?」
「Huh? 知ってたのか」
「ん、トラックのエンブレムで判断した。あと、首にかけてるそれ」
「へぇ? 俺が偽物の可能性は?」
「そうだったら撃つだけ」
「ハッ、最近のお嬢さんは血の気が多いな」
砂狼……資料にあった通り血の気が多い、歯に衣着せぬやつだ。まぁ、色々隠して腹芸やってくるよりはありがたいがな。誰が好き好んで子供と腹芸やるかよ。そもそも、俺は腹芸が得意とは言えねぇ。真っ直ぐ行ってぶった斬る、ぶち抜くが正義なデビルハンターだからな、俺。
「それより、どうしてアビドスに?」
「仕事さ。アビドス高等学校からの要請で、色々持ってきてる。これもなんかの縁だ。アビドス高等学校まで案内頼めるか?」
「ん、もちろん。久しぶりのお客さんだ」
現地民の案内があるなら迷わず行けるだろう。
ロードバイクをトラックの荷台に格納して、砂狼を助手席に乗せた俺はかつては機能していたであろう信号や交差点などの要所で軽い休憩を挟みながらアビドス高等学校に向かう。こうして案内されながら進んでいると、かつての生活の名残みたいなものが見え隠れしているのが分かる。
砂嵐による砂漠化……話を聞いた時から疑問に思っていたのだが、この砂漠化、本当に砂嵐が原因か? 力の強い悪魔がいると環境が変化することがあるから、悪魔とか、それに近しい何かがこの砂漠のどっかにいるんじゃねぇのか? 仮にそれが正解だったとしたら────
「アビドスだけの問題じゃねぇ……か」
「先生、どうかした?」
「ああいや、考え事だ。先生ってのは結構考えることが多くてな」
今考えることでもない。もし悪魔がいたとしても、俺がデビルハンターとしてぶっ殺せばいいだけだからな。そもそも俺の本職は悪魔殺しだし。
「あ、先生。あそこだよ」
「へぇ、あそこか。立派な校舎じゃねぇか」
砂狼の指差した方を見ると、砂で汚れているところはあるが、それでも下手な学校よりも大きく、そして綺麗な────人の生きる意志ってやつを感じさせる立派な校舎が見えた。諦めるなんてことは絶対にしたくない、するつもりはないって強い、頑固な意志が生きているように感じる。
「ん、自慢の学校だよ」
「ああ、見りゃ分かる。キリエの孤児院と同じくらい、いい場所だ」
「キリエ?」
「弟の恋人。俺の兄貴分の妹だから……まぁ、妹みたいなもんさ」
ネロと一緒に元気にしてるといいんだが。ニコはまぁ、死んでも死なねぇだろ。それどころか地獄で嬉々として悪魔の素材を持ち帰って新しい芸術を作りそうだ。
そういえばダンテのエボニー&アイボリーはニコの祖母が作ったんだったか。今度ニコに頼んで銃でも作ってもらおうと思っていたが、その予定もおじゃんになっちまったな。あと、アストラルとイフリートをダンテに使わせてもらう予定もあったんだが……ちなみにアグニとルドラは俺が買った。キリエの孤児院で魔除けとして役立ってもらっている。俺が死んだらネロが契約者になるように契約しているから大丈夫だとは思うが、力試しはされそうだな。頑張れよ、ネロ。
そう思いつつトラックから降りると、校舎から数名の少女────十中八九生徒だ────が出てきた。一人は黒い髪と赤縁の眼鏡の気真面目そうな少女、一人は黒髪の猫っぽい耳が生えた実直そうな少女、一人はクリーム色の髪でゆったりとした雰囲気がある少女だ。
「し、シロコ先輩がトラックをカツアゲしてきた!?」
「わぁ♧シロコちゃんついにやってしまったんですね☆」
「皆落ち着いて!? まずは証拠隠滅の方法を……!?」
キヴォトスってのは犯罪行為に対して心持が軽い連中しかいねぇのかと不安になってきたぞ。ゲヘナ学園には温泉開発部とかいう公共の場であっても許可なく発破する連中とか、美食研究会とかいう飲食店爆破常習犯とかが存在するらしいじゃねぇか。温泉開発部はちょっと意味が分からねぇが、美食研究会にはそのうち命の重みってやつを叩き込んでやらねぇといけないだろう。調べたところ、キヴォトスにも屠殺場や食肉工場はあるみたいだからな。孤児院の子供達と一緒に行って肉を食べることができることのありがたみや命の重みを学んだのはいい思い出だ。あいつら全員ギャン泣きしてたが。
「おい、砂狼。お前前にやらかしてねぇだろうな」
「ん、心外。私が興味あるのは銀行強盗」
「興味があることが物騒過ぎんだよ」
こういうのは道徳の授業なのか? 教師免許持ってないから授業はできないんだが。……っと、そういえばカツアゲされたと勘違いされたままか。それはいかんな。
「盛り上がってるとこ悪いんだが、俺は砂狼に拉致られてきたわけでもカツアゲされたわけでもねぇぞ?」
「え? じゃああなたは……?」
「ビアンコ。一応シャーレの先生やらせてもらってる」
シャーレの先生であることを証明する身分証明書を見せながら言うと、校舎から出てきた三人の少女達は喜びで色めき立つ。
「シャーレの先生!? と、ということは、あの申請が通ったんですね!」
「やりましたね、アヤネちゃん!」
「物資はトラックに積んでるから運び出し手伝ってもらえるか?」
俺が手伝いを頼みつつトラックのコンテナを開けると、ギチギチに詰め込まれた支援物資が姿を現した。費用はわりとかかったが、手痛い出費かと言われるとそこまでではない。もちろん物資はシャーレから持ってきたものだが、窮地にある学園への支援であることを七神に伝えたら費用の半分を連邦生徒会から出すと言われたのだ。これでダメだったらミレニアムに「アビドス高等学校から許可を得て合法的に緑化実験をしないか」と声をかけるつもりだった。嬉々としてついてくるやつ、絶対いるだろ。
「す、凄い……! 弾薬だけじゃなくて、食料品まで……!?」
「日用品も入ってますね~。凄く助かります☆」
「これが大人の経済力ってやつ……? これだけあれば数ヶ月余裕で戦えるわ!」
どれだけギリギリだったんだよと口にしたいところだが、手紙が来た時点でもう枯渇する寸前だったらしいから、これだけ喜ぶのも当然と言えば当然のこと……なのだろう。だが、なんだろうな……こんな弾薬とかで喜ぶ子供を見るのは心苦しいもんだ。もっと友達と一緒に遊びたい盛りだろうに。先生だからとかじゃなく、一人の人間としてどうにかしねぇとな。具体的にどうするかは思い付かないが。
「っと、そういやお嬢さんらの名前知らねぇな。自己紹介頼めるか?」
支援物資を校舎の中に運び込みつつ、思い出したように俺がそう言うと、少女達は忘れていたと言わんばかりに口々に自己紹介を始める。
「あっ、そうでした! 私、奥空アヤネと申します! 来てくださって、本当にありがとうございます!」
「とりあえずホシノ先輩も起こさないといけないわよね? ……あ、私は黒見セリカです。よろしくお願いします」
「私はシロコちゃんと同じ、二年生の十六夜ノノミです♪ よろしくお願いしますね♪」
「改めて、砂狼シロコ。ノノミと同じ二年生」
「奥空、黒見、十六夜、砂狼な。……よし、覚えた」
…………狼、猫、空に、夜……アビドス砂漠といい、生徒の名前といい……エジプトの神々が何か関係してんのか? キヴォトスで? ……あり得ねぇだろ。ヘイローみたいな不思議なものがある世界だが、神なんてもんが存在するとは思えねぇ。神を名乗る悪魔はいるかもしれないが。
俺がそんなことを考えつつ物資を運び込んでいると、黒見が「ホシノ先輩を起こしに行ってくる」と言ってどこかに行った。……昼寝でもしてんのか?
「……そういえば先生、その左腕は?」
「ああ、これか? 芸術。カッコいいだろ?」
「ん、イカしたデザイン」
「砂狼はニコと仲良くなりそうだ」
デビルブレイカーの機構を電撃を発生させずに起動させて見せてやると、キラキラした目でサムズアップしてくる砂狼。カッコイイと感じる心に男も女も関係ねぇってことがここに証明されたようだ。
持ってきた物資を全て校舎の中に運び込んだ後、案内された委員会室なる場所で────中々見ない桃色の髪と黄色と青色のオッドアイが特徴的な少女と遭遇した。アビドス高等学校の生徒の中で最も小柄だが……最も強いであろう気配がする。
「うへ、初めまして。小鳥遊ホシノだよぉ」
「シャーレの先生やってるビアンコだ。よろしくな、小鳥遊」
のんびりとしているように見えて、こっちの動きを逐一確認している。警戒、疑念、疑惑……まぁ、当然と言えば当然の感情が滲んでいるのを感じるぜ。信用も信頼もされているようには感じない。この辺りは実績が物を言うだろうから、これから作っていくとして……
「で? ここを襲ってる暴力組織ってのはどこにいるんだ? 居場所が分かってるなら叩きに行きたい────」
ドガァアアアアアンッ!!!
「「「「「「…………」」」」」」
『ひゃーはっはっはっは!!』
『攻撃、攻撃だ!! やつらはもう弾薬がないはずだ!!』
『今日こそ学校を占拠してやるぞ!!』
窓から外を覗き見ると、やかましい爆発音や銃声と共に校庭に侵入してきたヘルメットを被った不良生徒達が見えた。……暴力組織ってのは、キヴォトスの色んな所にいるというヘルメット団とかいう連中だったか。ただの不良の集まりだったり、バイトで所属しているやつがいたり、裏社会の傭兵だったりと規模も強さもまちまちな、ヘルメットを被った集団。
こんな凄く暑くてクーラーがないと干乾びそうになるような場所にまで進出しているとは、随分と活動範囲を広げることに精力的らしい。
「武装集団……! カタカタヘルメット団のようです!」
「カタカタ……なんだそのネーミング」
「あいつら……! 性懲りもなく!」
よく分からないネーミングセンスに首をかしげている間にも、カタカタヘルメット団とやらは土嚢袋やバリケードが設置された校庭を滅茶苦茶にしていく。おいおい、遠慮なしかよ。無駄弾使えるような金があるんだな、あのヘルメット団。
ヘルメット団って、基本的に金欠だって聞いてたが、カタカタヘルメット団はどうやら違うようだ。何か裏がありそうなんだが……あとで調べるか。
「すぐに出るよ。先生のお蔭で、弾薬と補給品は十分ある」
「はーい、皆で出撃です☆」
「オーライ。じゃ、先に行ってるぜ」
「「「「「えっ!?」」」」」
アビドスの生徒達が驚いたように声を上げた時にはもう、俺の体は窓の外にあり、ワイヤースナッチを駆使して校庭に着地していた。目の前にはヘルメットを被った不良生徒達がいる。
「あぁん!? 何だお前は!!」
「アビドスの関係者か? だったらやっちまおうぜ!!」
「待て、こいつヘイロー持ってないぞ? 撃つのは不味いって」
「ああ、そういう良識はあんだな、あんたら。ここを襲ってるけど」
シャーレの部室を占拠してた連中は迷わず撃ってきたが、こいつらはいきなり撃つってことをしてこない。にしても…………Hmm……近くで見て思ったが、こいつら服はちょっと汚れてんのに、武器は真新しいものばっかりだな。しかも全員が新品同然の武器を手にしているようだ。やはり裏に誰かがいるのだろう。ここを襲って得をするスポンサーが。
「なぁ、ちょっと聞いてもいいか?」
「あん? んだよ」
「いや、あんたら何でここを襲ってんだ? 何かメリットあるのか?」
裏にいるやつを炙り出せるとは思っていないが、カタカタヘルメット団? がこのアビドス高等学校を占拠することで何か利益を得ることができるのか気になる。
「金だよ金! この校舎を占拠すれば大金が手に入るんだよ!」
「しばらくは生活に困らないくらいの大金だぜ!」
「へぇ」
この校舎を占拠することで金が手に入る……となれば、何者かに依頼されてここを襲っているわけだ。裏に誰がいるのかは分からないが、裏で誰かが糸を引いていることは分かった。となれば、その裏にいるやつを特定することが必要か。それと、この校舎を襲っている連中をどうにかするってのが、目下の目標だな。
「というか生活に困らない? 学園に所属してないのか?」
学園に所属していれば、人間として必要最低限の生活は確実に保証されるはずだ。この辺りについては連邦生徒会に問い合わせて確認して裏を取っているから間違いないはずだ。
「…………んなことできたら、こんなことしてねぇんだよ」
俺の質問に対して、カタカタヘルメット団の突撃隊長らしき赤いヘルメットを被った少女が苦々しい声を漏らした。……なるほど、だから金が必要なわけだ。
「そか。……一応確認だが、ここの襲撃、止めるつもりはないか?」
「止めるわけねぇだろ。そんなことしたら、何されるか分かったもんじゃねぇ」
「分かった。……んじゃ、ちょいと痛い目見るくらいは我慢してくれよ?」
気絶は覚悟してもらう。
そう伝えた瞬間、カタカタヘルメット団の銃口が全て俺に向けられる。迷いがない────いや、若干の迷いはあるが、戦うことを決めたいい目をしているのが、ヘルメット越しに伝わってくる。だが……
「悪いが俺は普通じゃねぇんだよ!」
「へっ────うわああああああああ!!?」
「「「り、リーダーァアアアアアア!!?」」」
ワイヤースナッチを利用して赤いヘルメットを被った不良生徒を捕まえて、そのままハンマー投げの要領で振り回す。もちろん振り回し続ければ義手は砕けてしまうので、タイミングを見計らってリリース。リリースされた不良生徒は固まっている残りの不良生徒達に突っ込んでしまい、数名を巻き込んで気絶してしまったようだった。
「どーれーにしーよーうーかーなー……っと、そこのお嬢さんに決まりだ。ほら、狙うからちゃんと避けろよ?」
「知らねぇのか? 私達に銃は効か────ぎゃんっ!?」
「ウブエッ!?」
「うわらばっ!?」
「ポコロコっ!?」
「ハッハァッ!
レッドローズから放たれた弾丸がヘルメットにぶち当たり、跳弾した二発の弾丸が近くの不良生徒のヘルメットにぶち当たり、さらに跳弾。レッドローズの威力は悪魔の外殻をぶち抜けるレベルだからな。上手く撃ってやればこうやって跳弾だってできる。威力が高いってことはそれだけ衝撃も強いってことで……ヘルメットにヘッドショットを喰らった不良生徒達が衝撃に耐え切れずに吹っ飛んでいく。吹っ飛んだ先には別の不良生徒がいて、吹っ飛ばされた不良生徒を受け止められずに転倒して縺れていた。
「ほらほらどうした! よく狙え! 射的は得意だろ!?」
「くっそ!? 何なんだお前!?」
「シャーレの先生やってるビアンコさ! それと、俺ばっかに集中してると痛い目見るぜ?」
「はいはい、ごめんね~」
「グえっ!?」
不良生徒が真横から突っ込んできた何かをに直撃して吹っ飛ばされた。その正体はというと、アビドス高等学校の生徒である小鳥遊だ。盾にショットガンとは、いい装備構成してやがる。
「先生ったら凄く強いんだねぇ。おじさんびっくりしちゃったよ」
「お前もな、小鳥遊。いいシールドバッシュだった」
「うへ、おじさんの数少ない取柄だからね~。……でも、先生が暴れたお蔭でもう少ないね? ここからはおじさん達に任せてくれない?」
まぁ、俺だけでやるってのも味気ないし、あとは自分達がやると生徒が言っているのだ。生徒の自主性を重んじるのも先生の務めってやつだろう。小鳥遊以外のアビドス生徒もやってきたようだし、俺は一旦下がってお手並み拝見と行こうか。
「先生、凄かったけどあとで説教」
「生徒に説教喰らうとか、ダメな教師の見本じゃねぇか」
砂狼の言葉にそう言ってミントシガレットを齧った俺は、残り少ないカタカタヘルメット団を生徒達だけで撃破する様子を眺め────その後十分ほどもっと自分の身を大切にしろと生徒達に説教をかまされるのであった。早瀬達よりも頑固で心配性でお人よしなんじゃないか、このアビドス高等学校の生徒達は。