透き通るような世界でも悪魔は泣く   作:エヴォルヴ

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そりゃそうだ。


Chapter7 There is no way I would admit it.

 カタカタヘルメット団の撃退を終え、アビドス高等学校の生徒に説教をもらった後。委員会室で補給物資を受け取ったことを証明する書類にサインをしてもらいつつ、資料を手に入れた時から気になっていたことを問いかける。

 

「この学校はもう五人しかいないのか?」

 

「そうだねー。ここにいる五人が全校生徒だねぇ…」

 

 小鳥遊がそう口にすると、他の生徒達も口々に言う。

 

「ん…他にも転校したり退学したり。事情は人それぞれ」

 

「学校がこんな有様だから、カタカタヘルメット団みたいなチンピラ連中にも舐められるってわけ。本当に腹が立つったらないわよ」

 

「現状、私達だけでは学校の防衛は完全には難しくて…そんな状況を変えるために有志が集まった部活が、このアビドス廃校対策委員会です」

 

 なるほどな。…しかし、この部活、生徒会がないのに成立してるのかが分からねぇ。アロナに調べてもらうか。

 

「おじさんが委員長だよー。三年生だからねー」

 

 小鳥遊がここの唯一の三年生らしく、委員長を務めているようだ。のんびりしているように見えて、結構頭も切れるようだが…寝てるのか、こいつ。睡眠不足なのか疲労が抜けている様子が見えない。

 

「となると…金回りも小鳥遊がやってんのか?」

 

「いや、会計は私が担当してるわ」

 

「会計は黒見ね。となると…借金についても黒見が計算して支払ってんのか?」

 

 確か、9億6235万円…四捨五入して10億円の借金があるとアロナが用意してくれた資料にあった。毎月の利子もとんでもないことになっていそうだ。

 

「っ! なんで借金のこと知ってるの!?」

 

「調べた。仕事で来てるんだし、当たり前だろ?」

 

 調べたからこそ疑問に思う、アビドス高等学校という学校の現状。砂漠化がこのままの速度で進行すれば、間違いなく様々な自治区、企業に被害が及ぶだろう。それが分かっていて誰も何もしない、生徒がいることも把握している人間が少ない現状が、非常におかしい。

 

 そもそも返済の見込みが少ないだろう学校に金を貸した企業の意図も分からねぇ。情報が正しいなら、借金の返済に現金のみでの対応ってのもきな臭い。その金を使って裏で何かをしているんじゃないかと怪しんでしまうくらいには、とても怪しい。というか疑うなという方がおかしい。

 

「そもそも依頼されたのは、『アビドス高等学校を助けてほしい』、だからな。具体的に何を、っていう部分が欠けてたから、調べたんだよ」

 

「仕事熱心だねぇ、先生」

 

「調べずに突っ込んで痛い目を見るのはもうこりごりなんでな…」

 

 フォルトゥナで教団の仕事をしていた時、下調べをせずに突っ込んだ結果ボコボコにされた苦い思い出が蘇る。その後クレドに「だから下調べはしっかりしろと言ったんだ!!」と病室で説教を喰らったのも相まって、あの失敗は今でも夢に見るくらい記憶に染み付いている。あの頃はまだネロも俺も、デビルブリンガーが発現したばかりで荒れていたからなぁ…だからこそ、クレドとキリエに救われたことが忘れられない。

 

「先生? どうかしましたか?」

 

「…ああ、すまん。考え事してた」

 

「それにしてはちょっと楽しそうだったよー? あ、さては今日のお昼ご飯についてでも考えてた~?」

 

「昔のことを思い出してただけだよ。考え事もしてたのは嘘じゃねぇ」

 

 年寄りのつもりはないんだが、ここに来てから昔のことをよく思い出すようになった。未練たらたらで笑うしかねぇや。

 

「ま、とにかくだ。俺はお前らを助ける…援助する…Hmm…いい表現が見つからねぇが、依頼されたんだ。『Devil May Cry』────じゃなかった。シャーレは依頼を最後まで完遂するぜ」

 

 今まで誰も手を差し伸べることはなかったであろうアビドス高等学校。藁にも縋る思いでシャーレに手紙を送ってきたのだろう、五人しかいない崖っぷちの生徒のために色々苦心するのは、大人として、先生として当然のことだろう。孤児院の子供達と重ねて見ていると言われたら否定できないが、借金とか廃校とか、環境問題とか…難しいことは子供だけが背負うようなもんじゃねぇだろうに。

 

「まぁ、いきなり現れたやつが何を言ってんだって話ではあると思うがな。黒見、そうだろ?」

 

 黒見の目は、孤児院に訪れたばかりの子供が俺やネロ、キリエを見た時と同じ目をしている。虐げられてきた、助けてもらえなかった子供が、一人で生きるしかなかった子供が大人を見る目だ。「今更助けに来たって言われても信じられない。信じて堪るか」って思いが、ひしひしと伝わってくる。

 

「ぅ…そ、そうよ。今まで大人が私達を助けようなんてしてこなかった! 誰も見向きもしなかったのよ!」

 

「セリカちゃん…」

 

「これまでだって私達だけで頑張ってきた! なのに今更、大人が首を突っ込んできて! 認められるわけないじゃない!!」

 

 ああ、そりゃそうだ。そう思うのは当たり前だ。本当に今更なのだから。ずっと昔からアビドス高等学校は砂漠化と戦い続けて、苦しんできたのだ。それをどうにかしようと、自分達だけで何とかしようと積み重ねてきた。

 

 今、俺がやっているのはそんな自分達の努力に、矜持に土足で踏み込むようなことだ。アビドスを、自分の居場所を守るために努力してきた。守りたいから死力を尽くしてきた。死に物狂いで積み重ね、紡ぎ、繋いできたという矜持。そこに俺は突然現れて、土足で踏み込もうとしている。

 

 許せるわけがない。認められるわけがない。当たり前だ。だって、踏み込んできたやつがもし、悪い奴だったら、自分の大切なものが奪われるかもしれない。自分達の努力が、矜持が全て消え去ってしまうかもしれない。黒見はきっと、誰よりも優しいのだ。自分の守りたいものを守るために、俺が踏み込んできたことについて意見しない現状を憂いて、感情を爆発させるように訴えている。

 

「ここにいる皆が認めたとしても、私は認めない!」

 

「ああ、そりゃそうだ。俺には実績がねぇ。黒見の苦労も、努力も、知らないと言ってもいい」

 

 目尻に涙を滲ませて叫ぶ黒見の言葉を肯定して、口を開く。認められないのは当然なんだ。助けてくれなかった大人が嫌い。何もしてくれなかった大人が嫌い。苦しんでいる自分達に見向きもしなかった大人が嫌い。当たり前だ。こうならない方がおかしい。

 だが、だからこそ。俺はお前らを助ける大人なんだってことを証明しなくちゃいけねぇ。

 

「だから、黒見。俺のことを見ていてくれ」

 

「…………………え…?」

 

「俺が本当に信用していいやつなのか、アビドスのことに首を突っ込んでいいやつなのかを」

 

 黒見だけじゃなく、砂狼、十六夜、奥空、小鳥遊にも言い聞かせるように言う。

 

「もちろん、俺は最後まで付き合うつもりではいる。だが、俺の実績がない。だから、俺を見ていてくれ」

 

「…それは、大人としての言葉? それとも先生としての言葉?」

 

「Hmm…大人として、先生としてどっちもだが…それ以上に、ビアンコって人間としての言葉だな」

 

 信用できないやつに何を言われても響かないだろうが、俺は味方でありたいということを伝える。信用を勝ち取るための実績作りは、こういう地道な舗装が必要なのだ。もちろん、口にした言葉は全部本音だ。仕事も、プライベートも、信用が第一なのだから。

 

「というわけで、早速監視業務の時間だアビドス高等学校の諸君!」

 

「え、ちょ、ちょっと先生、いきなり何?」

 

「カタカタヘルメット団の拠点叩きに行くぞ。借金云々やる前に襲撃者は叩かねえとな?」

 

「はい!?」

 

 俺の襲撃提案に目を見開いて叫んだ奥空。他の面々も────小鳥遊は違ったが────驚いた表情を隠せずにいる。前までは物資も少ない状況で攻勢に出ることができなかったからこそ、考えもしなかったであろう行動。だが、今は物資が潤沢にある状態だ。

 

「さっき撃退したヘルメット団はアビドス高等学校が補給していることを知らねぇ。物資がカツカツの状態だと勘違いしている。となれば────どうなると思う、十六夜」

 

「ううん…突然の襲撃に対応が遅れる、でしょうか?」

 

「そう、正解だ。多分────いや、確実にこの襲撃は刺さる」

 

 デビルハンターとしての勘がそう言っている。多くの悪魔が人間のことを餌と認識していることを逆手に取った作戦なんかも立てたことがあるが、結構刺さるんだな、これが。相手が弱いから、反撃してくるとは思っていないと思っているやつらに、この作戦が100%と言っていいくらい突き刺さるのだ。

 もちろん物事に絶対という言葉は存在しないから、隠し玉を用意している可能性が無きにしも非ずだが…隠し玉があるなら校舎を占拠するために投入しているはず。

 

「もちろん、これは提案だ。乗るか乗らないかはお嬢さん達に任せるが…どうする?」

 

 俺が問いかけると、アビドス高等学校の生徒達は少し考えるような素振りを見せた後、ほぼ同時に頷いた。

 

「私は賛成。ヘルメット団の前哨基地はここからそう遠くないし、行けない距離じゃない」

 

「いいと思います。あちらもまさか突然反撃されるなんて、夢にも思っていないでしょうし」

 

「…私も、賛成です。多分、このタイミングがベストだと思いますから」

 

「おじさんも賛成~。先生が提案しなかったら、おじさんが提案してたしねぇ」

 

 黒見以外の全員が提案に賛成し、あとは黒見だけだ。他の面々よりも長く考えていた黒見の言葉を待っていると、彼女がゆっくりと口を開く。

 

「私も賛成するわ」

 

「そうか」

 

「勘違いしないで! 先生を信用したわけじゃないし、監視のためだから!」

 

「ああ、それでいい。頼むぜ、黒見」

 

「うう、調子狂うわね…!」

 

 はっはっはっ、孤児院に連れてこられた当初のよく切れるナイフのような子供や、反抗期のネロよりは可愛いもんだ。

 唸る黒見を横目に、俺は手を叩いて立ち上がる。

 

「さ、行くぞ。遅れるなよ諸君! 十分後にトラックに乗り込め! …ああ、トラックは荷台にもクーラーあるから、暑かったら使えよ?」

 

 俺の言葉に元気よく返事を返し、装備を整えに委員会室から出ていく生徒達を見送りつつ、タブレット────シッテムの箱を起動した俺は、メインOSのアロナに声をかける。

 

「アロナ、悪いんだがデータ収集頼む。戦闘指揮のサポートも頼みたいんだが…」

 

『お任せください! それで、どのようなデータですか?』

 

「アビドスの情報もだが…あとは、あれだ。不良生徒の受け入れ先とか、編入条件を纏めておいてくれ」

 

『それはいいんですけど…先生、不良生徒の皆さんはその…』

 

「ああ。あの子達だけじゃないだろ? 分かってるよ」

 

 全部を助けるなんてことは、無理だろう。夢物語だ。幻想だ。俺が助けることができるのは、俺の手が届く範囲にいて、助けを求めていて、助けられる準備ができているやつだけだろう。だが、だとしても、諦めるつもりはないし、それが大人として、先生として生徒にしてやれることだ。

 …まぁ、準備ができているやつじゃなくてもデビルブリンガーとかデビルブレイカーみたいに手を文字通り伸ばして掴みに行くんだが。嫌がっても掴みにいって助けるつもりだ。邪魔するやつ? ぶん殴るが? とりあえずどうにかしてネロを連れてきてネロと一緒にブルーキングとレッドクイーンでぶった斬るが? トムボーイ接続リミッター解除状態で叩き殺すが? 

 

「とりあえず…目の前の仕事をやりますかね。頼むぜ、アロナ」

 

『はい! 任せてください、先生!』

 

 まずは目の前のことを片付けていこう。そう思いながら、シッテムの箱を少しだけ強く掴み、レッドローズの持ち手を撫でた。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 さて、カタカタヘルメット団の前哨基地への強襲は、呆気に取られるくらい上手くいった。やはり襲撃されるとは思っていなかったことと、アビドス高等学校の校舎占拠作戦が少々大規模だったことが噛み合って、前哨基地にいる不良生徒は少なかった。数える限り、二十人程度しかいなかったと思う。

 抵抗らしい抵抗はほとんど行われず、俺達の強襲作戦は思った以上に簡単に終わってしまった。

 

『カタカタヘルメット団の全滅を確認しました。お疲れ様です、皆さん!』

 

「先生、前出過ぎじゃなーい? その義手でグイグイ引っ張って来てくれるだけでいいのにさ」

 

「これが性分でな。射線は気にしてるが、変えられねぇ」

 

 カタカタヘルメット団がトラックに詰め込まれていくのを尻目に、俺と小鳥遊は前哨基地の中で少々守りが硬かった部屋の中を信仰無き物漁り中である。

 

「にしてもあれだな。拠点はボロいのに、武器は真新しいってのは違和感だな。カタカタヘルメット団は懐事情が良くないはずだろ?」

 

「そうだね。ヘルメット団の多くがそうだったと思うよ? なのに…確かに綺麗すぎるね」

 

「金が手に入るって言ってたのもあったし、裏に誰かいるのは確定だな。問題は…」

 

「誰がいるのか、だよね。何か見つかると良かったんだけどなぁ…」

 

 拠点制圧後、俺が物漁り(調査)をしてくると伝えたところ、ついてきた小鳥遊がぼやく。他のメンバーは使われていない物資などを根こそぎかっぱらうためにトラックに運搬作業中だ。後輩達の代わりの監視役、という面もあるのだろう。抜け目のない、いい目をしている。

 

「というか先生、手慣れてるねぇ? 先生になる前は泥棒だったりするのー?」

 

「人聞きが悪いな、おい。前の仕事じゃ、探偵業もやってたんだよ。ガラじゃなかったが」

 

「ふーん? 『Devil May Cry』ってところがそうだったの?」

 

 …そういえば、いつもの癖で『Devil May Cry』って言ってからシャーレとしてって、言い直したんだったな。もう染み付いてるから電話対応でも『Devil May Cry』って言ってしまうことが多々ある。

 

「まぁな。便利屋さ。探偵業はやってねぇって言ったんだが、依頼主が聞かなくてな…」

 

「ほほう…どんな依頼だったのかおじさん気になるな~?」

 

「ストーカー気質の女性から彼氏への浮気調査依頼。ただ、この女性が勘違いしていただけで、彼氏でも何でもなかった。違和感があったんでな。その女性の家をこっそりがさ入れさせてもらった」

 

「うへ…予想以上に重い話が出てきちゃったなぁ」

 

 だからなのか、物漁りの腕も上がったもんだ。上がらなくていいって思っていたが、こういうところで役立つとは思いもよらなかった。

 

「面白いもんが見つかったぜ」

 

「え? どれどれ?」

 

「これだ」

 

 俺が隙間に隠されていた紙を見せると、小鳥遊が目を細める。俺が見つけたその紙は、資金援助の取引が成された証拠となるものである。ただ、これが見つかっても誰と取引をしたのか分からないようにするためなのか、誰が手引きしたのかが分からないようになっている。

 ただ、これで何者かがカタカタヘルメット団に対して依頼を行い、資金の援助を行っていることが確定した。誰かは…アロナや連邦生徒会に頼んで探るつもりではあるが、裏の人間の可能性が高いので裏のことに詳しい誰かに調べてもらうのがいいだろう。裏の情報に詳しい情報屋がいるといいんだが…

 

「まぁ、やることは変わらねぇわな」

 

「うん。そうだね」

 

 小鳥遊達は借金返済のために。俺はアビドスの問題に関わるための信用を得るために。やるべきことは変わっちゃいねぇ。

 

「さて…もうここには何も無いようだし、戻るか」

 

「うん。ところで先生、もし先生が借金返済するとしたら、どうやってやるか聞いてもいい?」

 

「俺か? そうだな…砂を売り物にするかな」

 

「砂? あんなのをどうやって商品にするのさ?」

 

「そのまま売るのは無理だろうな。けど、観光地とすれば金が入るかもしれないぜ?」

 

「なるほどねぇ…でも、そういうのは治安問題とかが解決してからかなぁ?」

 

「まぁ、な」

 

 まだまだ無いものねだりなことには変わりないし、聞かれたから答えただけで、まだ首を突っ込んでいいとは言われていない。生徒の信頼を得るためにも、色々と頑張らねぇとな。




ブルーキング

レッドクイーンとは兄弟剣にあたる。イクシード搭載の武器で、レッドクイーンとほとんどそっくりだが、レッドクイーンの赤い部分が蒼い。作った者が何を思ったのか、レッドクイーンと合体する機能が搭載されている。合体すると超巨大な剣になり、イクシード機構の勢いでぶん回す。

合体したらブルーキング+レッドクイーンでバイオレットエンペラーとなる。
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