透き通るような世界でも悪魔は泣く   作:エヴォルヴ

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まぁ、子供はそんくらいが丁度いいさ


Chapter8 You're lively, aren't you?

 カタカタヘルメット団の前哨基地を制圧した翌日。

 

 アビドス高等学校が貸し出してくれた空き家────小鳥遊曰くセーフハウスの一つらしい────で一晩を明かした。定期的に掃除もしているらしく、綺麗にされていたセーフハウスは結構快適だった。

 

 そして現在、雨が降る気配もないアビドス高等学校の自治区の一角で、無機質で大きな紙にペンや写真を駆使して地図を作成している。アビドスの地図が数十年前から全く更新されていないため、こうして人力で地図を作成しているのだ。アロナも協力してくれているので、もう少しでアビドス高等学校を中心とした地図はできあがる予定である。

 

『あ、先生! そこは元ショッピングモールですよ! あとここはまだ稼働してるコンビニがありますね!』

 

「……ああ……ミスったなこりゃ」

 

 完成する予定だったんだが……とんでもないミスを犯した結果、やり直しが確定した。方角が全く違う場所に元施設、稼働中の施設を配置した地図になってしまったのだ。

 

 ガリガリと頭を掻いて、休憩を挟んでからやり直そうとした直後、曲がり角から出てきた人影に気付いて足を止める。

 

「……あ」

 

「ああ、黒見か。おはよう」

 

 曲がり角から現れたのは、アビドス高等学校で一二を争うレベルで警戒心が高いと思われる生徒、黒見セリカだった。黒見と小鳥遊、どっちが警戒心が高いのかは現在計りかねている。

 

 ミントシガレットを齧る俺に対して、黒見は警戒と気まずさをごちゃまぜにした表情を浮かべている。

 

「朝から煙草? ダメな大人の見本みたいに見られるわよ」

 

「ああ、これか? シガレットだよ。俺は煙草吸わねぇよ。煙草を怖がる子もいたしな」

 

「? 怖がるって、アビドスの皆?」

 

「いんや、先生になる前は孤児院の手伝いなんかもしてたんでな。孤児院はガレージ以外禁煙だった」

 

 親からの虐待によって孤児院に連れてこられた子供の中には、煙草を見るだけで怖がる子もいる。だから喫煙者のニコは煙草の臭い消しを徹底していたし、俺もネロも生まれてこのかた煙草を吸っていない。クレドの教育が良かったのもあるかもしれん。

 

「ふーん……で? そんな先生が朝からこんなところで何してるのよ」

 

「地図製作だな。俺が持ってる地図、数十年前から全く更新されてなくてな……ほら」

 

「うわっ、何その地図。そこの施設が稼働してたのは本当に昔の話よ。連邦生徒会ってそんなに忙しいのかしら……」

 

 俺のことをまだ認めていないであろう黒見がドン引きして心配するくらい、俺の持っている地図は古いものだ。仕事の引継ぎはちゃんとしてくれ連邦生徒会長。

 

「ところで黒見、小鳥遊から今日は自由登校だって聞いたが、どこ行くんだ?」

 

「あんたに言う必要ないでしょ? プライベートな話だし」

 

「そりゃそうだ。言われなくても分かってると思うが、気を付けてな。何かあってからじゃ遅いからな」

 

「っ……調子狂うわね、もう!」

 

 俺に背中を向けて走り去っていく黒見。全く、孤児院に連れてこられたばかりの子供に比べたら可愛いもんだぜ。あと路地裏にたむろする不良共。あいつらよりは可愛いもんだ。

 

『あ、先生。リンさんからシャーレ宛に書類が届いていましたよ。一年使って提出するものらしいので、コツコツやること、だそうです!』

 

「あいよ。確定申告か何かかねぇ……」

 

 一年使って作る書類なんてそのくらいしか思い浮かばねぇんだが……キヴォトスだとそれ以外にも何かあったりするのか、それとも、先生って職業において重要な書類だったりするのかは分からないが、やれと言われているのであれば、俺の気が変わらない限りやる。もちろん俺の仕事じゃねぇだろってやつを回してきやがった暁には、連邦生徒会にバスターアームでケジメを付けに行ってやらぁ。まぁ、手よりも先に口を出すつもりではあるが。話が通じないやつにはバスターアームが待っている。頼んだぞエンジニア部。早くバスターアームを作ってくれ。なんでどんなデビルブレイカーよりも先にバスターアームに目が行ったんだお前ら。最初に作るのは『GERBERA』か『PUNCHLINE』にしてくれって言ったはずなんだが。

 

 そんなことを考えつつ地図を作りながらアビドス高等学校に到着した俺は、砂がこびりついている校門をくぐって服についた砂を落として学校に入る。階段を上って委員会室のドアを開けると、黒見を除いたアビドス高等学校の生徒が揃っていた。

 

「あ、先生。おはよう」

 

「おはようございます☆」

 

「おはようございます、先生!」

 

「おはよ~。ふぁあ……」

 

「おはよう。黒見以外はお揃いらしいな」

 

 寝不足らしい小鳥遊以外はちゃんと起きてるな。どうした小鳥遊。寝不足は美容の天敵だぞ。寝不足で不覚を取って重症になったらクレドに怒られるぞ。ちなみに寝不足で致命傷喰らっても再生して突っ込んでくる化け物ってことでマフィアに恐れられたことがあるのはダンテだ。俺じゃない。だから俺を見て「ボスの仇」って言って特攻してくるマフィアは死ね。子供の教育に悪いから見えないところで勝手に死んでくれ。あとパティ、お前は俺を仲介するんじゃねぇ。ダンテを堕としたいなら自ら往け。突撃しろ。玉砕覚悟って言葉知ってるか? 既成事実でも作ってしまえ。あり得ないとは思うが、それでダンテが逃げたらネロがぶん殴りに行くだろうから安心しろ。

 

「ん、先生、変な顔してる」

 

「ん? ああ、悪い。腐れ縁のことを思い出してたらついな」

 

「先生の腐れ縁……絶対強い」

 

「まぁ、強いな。特に俺の叔父とクソ親父。強いぞ」

 

((((クソ親父……?))))

 

「ま、弟の方が強いけどな」

 

 ネロは俺の力も渡しているし、あいつ自身の悪魔の力もきっと覚醒する。ダンテとバージル二人を同時に相手しても勝てるくらいには強くなっているはずだ。

 

 そういえば、あいつが魔人化したら、どんな姿になるのだろう。俺とネロはバージルの息子────つまり、人間と悪魔のハーフの子供なので、クォーターってことになるんだが……人間体に近い魔人の姿になるんだろうか。もしクレドがアンジェロ化した時と似ている姿だったら、俺だけじゃなく、クレドもネロに力を貸してくれている気がして嬉しいかもな。

 

「先生、弟さんがいるんですね」

 

「おう。俺より断然Coolな弟さ」

 

 あいつに倣って俺も髪を切るかねぇ……そろそろ切らないと邪魔になりそうだ。あと、これ以上長くするとダンテかバージルみたいな髪型になる。髪のセット面倒だし、アビドスでの仕事が終わったら床屋にでも行くか。

 

「ところで先生~、今日のお昼は何にするか決まってるのかな?」

 

「昼? Hmm……栄養ブロックは持ってきてるが……食うか?」

 

「うへ、それ激マズ食品ランキングトップじゃん……おじさんでも食べないかなー」

 

「噛むんじゃねぇ。コーヒーで流し込むようにして丸呑みするんだよ。味は最悪だからな。そも、これは食い物だと思うな」

 

「「「「じゃあ絶対食べない方がいい!!」」」」

 

 ごもっとも。

 しかし、手軽に栄養を確保できるから手放しにくいものだ。これを食べるだけで様々な料理がいつも以上に美味しく感じるというのも、これを手放せない理由の一つでもある。

 

「まぁ、真面目な話。昼飯はその辺のコンビニで買うつもりだったが」

 

「ほうほう。じゃあお弁当とかはないわけだ?」

 

「そうだな。コンビニが無いなら栄養ブロックを流し込むつもりだぞ」

 

 俺がそう言うと、小鳥遊は瞳に何か怪しい光を宿してにやりと笑う。何かを企んでいる表情だが……まあ、昼飯の話をしたということは、そういうことだろうな。

 

「オススメがあるんならどっか紹介してくれ。奢るぞ」

 

「うへへ、話が早いね~。そんな先生には、おじさんが知ってる中で一番美味しいラーメン屋さんを紹介しようじゃないか」

 

「へえ、ラーメンか。仕事で一回食べたきりだな」

 

 あとは非常食として孤児院に保管しているやつで、保存期間が切れそうなのを処理するために食べたやつくらいか。日本のカップヌードルを食べた時、日本の食への執念を感じ取ったね。まぁ、非常時でも美味しいものを食べたいって気持ちは分からんでもない。

 

「美味しさはおじさんが保証するよ」

 

「なら期待させてもらうぜ。ああ、他の三人も来るだろ? 奢るから遠慮すんな」

 

 何だかんだと言えど、やはり食べ盛りの子供である生徒達。俺の提案に全員の目がきらりと光った。

 ところで砂狼、お前は獣か何かなのか? 血を啜るエンプーサとは言わんが、よだれが出ているから拭いとけ。……そういえばよだれ垂らしてる悪魔とかいなかったな。ノーバディがその類だったか? あいつの顔面掴んでぶん投げてた記憶しかねぇや。

 

「うへ、おじさん達遠慮しないよ~?」

 

「子供が遠慮すんな。餃子とかも付けていいぞ」

 

「ん、太っ腹」

 

「わぁ、先生、ありがとうございます☆」

 

「ご馳走になりますね、先生!」

 

 にしても、こんな砂漠でラーメンか……辛いラーメンとかあったりするのかね。唐辛子たっぷりのやつ。

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 ランチタイム真っ只中の時間帯、小鳥遊達の案内で連れてこられたのは、『柴関ラーメン』というラーメン屋だった。柴犬の絵と、『柴関ラーメン』と書かれた大きな看板が目印のそこは、チラッと調べただけで高評価が多く見て取れるラーメン屋のようだ。

 

 アビドスの四人に続いて入店すれば、昼時というのもあってかなり賑わっている。ネットの評価の中にあった看板娘目的という客もポツポツといるようだが────

 

「いらっしゃいませ! 何名様でしょう────って、なんでいるの!?」

 

「Huh? 看板娘ってのは黒見のことだったか」

 

 柴関ラーメンの制服である黒い服を着た黒見を見て、ネットの評価に納得する。確かに黒見みたいな可愛らしい女の子に接客してもらえるなら、少し遠くても足を運ぶ客はいるだろうな。キリエが炊き出しやった時もキリエに会うためだけに手伝いにきた男衆がいたし。……そいつら全員ネロに邪魔されてたが。というかネロとキリエの仲睦まじさに浄化されてたが。何だったんだあいつら。

 

「あはは……セリカちゃん、お疲れ様」

 

「お疲れ」

 

「み、皆……なんでここが……!?」

 

「うへへ~、やっぱりここだったかぁ~」

 

 反応を見る限り、黒見はこっそりここでバイトをしていて、それを他の四人は知っていたようだ。バレないように動くって結構難しいことだよなぁ。

 

「悪いな、黒見。忙しそうだが、五名案内頼む」

 

「せ、先生まで……まさか、ストーカー!?」

 

「ハハッ! それをやって破滅したやつを見てるからしねぇよ」

 

「ちなみにその人が破滅した原因聞いてもいい?」

 

「俺と弟」

 

 まさかストーカー女の裏に悪魔がいるとは思わなかったが、モリソンには稼がせてもらったぜ。

 

「予想通りだぁ。あ、お昼ごはんがてら様子を見に行こうって提案したのはおじさんだよ~」

 

「ホシノ先輩かっ……!」

 

 天を見上げる黒見の表情は悔しそう……というか、恥ずかしそうだ。バレていないと思っていたら、バレていたというのが結構ショックだったようだ。

 

 入口の近くで黒見と話をしていると、奥のカウンターから声が響く。

 

「アビドスの生徒さんかい? 嬉しいのは分かるがセリカちゃん、おしゃべりはそこまでにして、注文頼むな」

 

 随分と爽やかな男性の声が聞えたと思い、声がした方向を見ると────犬がいた。柴犬だ。ケルベロスじゃない、柴犬が二足歩行でラーメンを作っている。キヴォトスには生徒や俺みたいな姿の男性はいないのか? というか犬の手でラーメンを作れ────作ってんな、しかも三人分を凄い速度で。

 

「あ、うぅ……はい、大将。それでは、広い席にご案内します……」

 

 なるほど、彼が店長らしい。……ああ、だから『柴関ラーメン』か。

 そんなことを思いながら黒見に案内された席は、六人が座れる席だ。……ただ、俺が座るとスペースが狭くなるな。女子だけが座るなら広く使えるんだろうが……

 

「黒見、どっからか椅子持ってきてもいいか?」

 

「先生、私の隣空いてますよ☆」

 

「────ん、私の隣も空いてる」

 

 俺が黒見に席を取ってきてもいいか確認したところ、砂狼と十六夜からそんな提案をされた。ほとんど同時に出た着席の誘いに、砂狼も十六夜も少し驚いたように顔を見合わせてから、俺に視線を向けてくる。……こうして隣に座るように言われるのも、懐かしいもんだ。孤児院の子供達によくせがまれた記憶がちらつく。

 

「誘いはありがたいんだが、席を持ってくる。支払いの時も俺が外側の方がいいだろ?」

 

 そう言って席を持ってきた俺は、他の客の迷惑にならないように心掛けつつ小鳥遊から渡されたメニュー表を見る。……結構種類あるな。トッピングも想像以上にある……ここはあれだな。迷ったらこれ、というやつがあるかもだから店員に聞くとしよう。

 

「黒見、オススメはあるか?」

 

「え? ……そうね……特製味噌ラーメンとかかしら」

 

 味噌……ああ、日本の発酵食品か。味噌汁、なんてものもあるらしいから、万能な食材なのだろう。店員のオススメもあるし、これにしてみるか。

 

「特製味噌ラーメンを一つ頼む」

 

「おじさんは特製味噌ラーメン、炙りチャーシュートッピング付きで!」

 

「私は、チャーシュー麺をお願いします!」

 

「塩ラーメン一つ」

 

「えっと……そうですね、私は味噌ラーメンで」

 

 黒見に注文すると、彼女は手慣れている手つきで端末に注文内容を書き留めていく。結構前から働いているのか、動きに無駄がない。

 俺が無駄のない動きを評価していると、黒見は不意に訝し気な表情で問いかけた。

 

「……ところで、皆お金は大丈夫なの? もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもりじゃ────」

 

「いや、支払いは全部俺持ちだ」

 

「え、大丈夫なの? ホシノ先輩含めて皆結構食べるんだけど」

 

「生徒に飯奢るくらいで金欠になるような金使いはしてねぇよ」

 

 現金とカード、どっちも持ってきてるし問題ない。まさか俺の愛用していた財布がシャーレの部室にあるとは思っていなかったが。

 

「うへ、太っ腹だねぇ、先生。あ、私今日はめっちゃ食べるからよろしくね~」

 

「ああ、食え食え。餃子食うか?」

 

「「「「いただきます!」」」」

 

「だそうだ。黒見、餃子四つ、ニンニク抜きで」

 

「……まぁ、払えるならいいんだけど」

 

 注文を確認した黒見は店主である柴大将に注文を伝えるために席を離れる。キヴォトスの生徒がどれくらい食べるのかは知らないが、ネロ並に食うと思えばいいだろう。……いや、あいつがたくさん食うのはキリエの料理だけか? だがしかし、あいつシチューを五皿くらい食ってたような……まぁ、俺もそれくらい食えるが。

 

 ……にしても、だ。本当に、こうして自分より年下の子供と飯を食べに来ると、孤児院の子供達と一緒にバーベキューをしたりしたことを思い出すな。里親が見つかって孤児院を出た子供がバイトで貯めたお金で、バイト先の小料理屋でご馳走してくれたこともあったっけな。

 

「先生、どうかした?」

 

「ん?」

 

「なんだか嬉しそうだから」

 

 どうやら顔に出ていたらしい。

 

「何、昔のことを思い出してただけさ」

 

「昔の先生ですか。ちょっと気になりますね!」

 

「面白い話でもねぇぞ? この場で話すようなもんじゃねぇし……ま、機会があれば話してやるよ」

 

 ブーブーと不満を訴える生徒をあしらいつつ、俺は今作っているであろうラーメンに思いを馳せた。

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