透き通るような世界でも悪魔は泣く   作:エヴォルヴ

9 / 13
家までの道は分かるか?


Chapter9 A Lost Little Kitten.

 柴関ラーメンでアビドス高等学校の生徒達に飯を奢って大分財布が軽くなったが、弾薬と罅の飲料程度にしか金を使っていなかったため、金欠状態ではない。口座の残高もそこまでごっそり減っているわけでもないしな。

 

「いや~、お腹いっぱいだぁ」

 

「ん、満足」

 

「ごちそうさまでした、先生」

 

「お土産まで買ってもらって……ありがとうございます、先生」

 

「気にすんな。使いどころが分からん金を使っただけだしな」

 

 教職なんてやったこともないが、生徒に飯を奢るってことくらいはやるんじゃねぇのかね。

 食事を終えて、店を出た頃にはすっかり日も暮れて、街灯が点灯し始めている。案外インフラはまだ生きてるんだな、ここ。砂漠に飲まれてもまだまだ粘れる人間の強さってやつを感じるぜ。

 

「ああそうだ、黒見。ラーメン美味かった。大将に伝えといてくれ」

 

「ふんっ、当然でしょ! ……まあ、大将にはちゃんと伝えておくけど」

 

「頼んだ」

 

 外まで見送りに来てくれた黒見にそう伝えると、そっぽを向かれてしまった。まだまだ信用を獲得するには好感度が足りないらしい。

 

 だが、大将にはちゃんと感想を伝えてくれるらしい。こういうのを何だったか……ツンドラ? いや、何か違うな。なんか黒見の性格を表す言葉があったような気がするんだが……思い出せねぇな。まぁ、黒見はいいやつだってことは分かるから、何か言葉で例える必要はねぇだろ。

 

 にしても、本当に美味かったな。ネロがいたら替え玉を三回は頼んでいると思う。ダンテは……どうだろうな。ピザは食うけど、ラーメンはガツガツ食べているイメージが湧かねぇ。そもそもあいつ結構な甘党だしなぁ……ストロベリーサンデーを食べてるイメージが強い。……まさかとは思うが、バージルのやつもストロベリーサンデーが好きとかだったりしないだろうな? 

 

「……ワイン飲んでる姿しか浮かばねえな」

 

「? どうかした、先生?」

 

「ああ、いや……酒が飲める連中の考えは分からねぇなって思っただけさ」

 

「あら? 先生はお酒飲まないんですか?」

 

「酒を飲むと判断が鈍るからな。飲むにしても一口飲む程度だ」

 

 酒で頭が回らない状態でデビルブリンガーを使ったら、あらぬ方向へ飛んでいったことがあった。あと、テーブルホッパーとかMAXアクトの精度が落ちる。あれができるか否かで悪魔との戦いの効率がダンチなのだ。デスシザースの顔面をあの切れ味悪そうな鋏と一緒に叩き割る時とか、アンジェロをぶん殴る時とか。

 

「ほら、さっさと帰って! 仕事の邪魔になるから!」

 

「ああ。じゃ、仕事頑張れよ、黒見」

 

「あと二度と来ないで!」

 

「元気だねぇ~。それじゃあ、また明日ねぇ」

 

 威嚇する猫のように憤慨する黒見を見送り、俺達は帰路につく。太陽が沈んで暗くなっていくアビドスの道を歩きながら、揶揄われ続けて怒り続けていた黒見を思い出して俺は口を開く。

 

「まぁ、頑張ってるところを揶揄われるのは面白くねぇわな」

 

「あとは、頑張る姿を見られたくないのもあるのかもねぇ」

 

 努力しているところを見られたくない。努力しているところを見られるのは恥ずかしい。そういう考えを持つ人間がいることは理解している。だが、頑張っているところを見て、ちゃんと評価してやりたいと思う人間だっているのだ。もちろん、その評価の仕方がからかい混じりになってしまうやつだっている。難しいところだわな。

 

「ま、お腹も膨れたし、今日はもう帰ろうか。おじさん眠くなってきちゃったよ~」

 

「まぁ、この時間帯だしな」

 

 昼食兼夕食って感じにはなってしまったが、栄養ブロックをコーヒーで流し込むよりは健全だろう。たまに食べるジャンクジャンクピザとストロベリーサンデーとコーラが美味しく感じるのと同じで、毎日は無理だが……こうして外食で済ませるのも悪くない。

 

「そういえば、先生の銃って不思議な見た目してますよね?」

 

 アビドス高等学校の寮────俺が貸してもらっているセーフハウスの近所だ────に向かう道をしばらく歩いていると、十六夜が俺が持っている銃を指差してそう言う。

 

「レッドローズのことか?」

 

「ん、確かに。キヴォトスでも見ないかも」

 

 大口径リボルバーをネロと一緒に改造したレッドローズ────確かにこの銃は、キヴォトスでも見ないような改造銃だろう。そもそも人間に向けるための銃ではないわけだし、キヴォトスではこんな改造をする必要はないだろうから、見ないのも当然だ。

 

「弾が絶妙なタイミングで二発出てたよね~。威力の補強のためとか?」

 

「んー……コンセプトは一発目で装甲を砕いて、二発目でぶち抜くなんだよ。戦車並みに硬いやつを相手にするための銃だな」

 

「先生のあの戦闘スタイルなら、ショットガンなどの方が適しているのでは?」

 

「あー……俺の戦闘スタイルって、銃だけを使うわけじゃないからよ。ショットガンみたいな銃とは相性がちょっとな」

 

 ダンテみたいにスタイルを切り替えて戦えるのなら、ショットガンを使ってもいいんだが……ダンテが異常なんだよ。なんだあいつ。なんだソードマスター、トリックスター、ガンスリンガー、ロイヤルガードって。あとなんだDr.ファウストって。あとあの魔剣なんだよ。スパーダでもリベリオンでもなかったよな、あれ。

 

「その左腕と併用するってこと?」

 

「ああ、この腕と、レッドローズと、あともう一つあるんだが……弟にあげちまったからな」

 

 ネロのやつ、ブルーキングを上手く使えているだろうか。レッドクイーンと違って、ブルーキングは若干操作感が異なるから、使いこなせているといいんだがな。

 

「ちなみにそれどんな銃か聞いてもいい?」

 

「いや、銃じゃねぇぞ。剣だな。大剣」

 

「「「「大剣!?」」」」

 

 銃と密接な関係があるキヴォトスの住民でも、剣とか槍みたいな近接武器には馴染みがないのか? それとも近接戦闘ならナイフで事足りるとかなのか? …………そういえば、キヴォトスに来てから銃はコンビニとかで見るが、ナイフとかは専門店でしか見たことがないような……

 

「うへ、先生、もしかして堅気じゃない人~?」

 

「元移動式便利屋、現在先生だが?」

 

「ん、アウトローな気配がする」

 

「人間じゃねぇやつに対してならそれも辞さねぇが、人間相手にそれはねぇよ」

 

 あと外道。自分の目的のために子供を食い物にするようなやつがいるなら、俺はそいつを許さねぇ。フォルトゥナでぶちのめしたあの教皇みたいにぶん殴ってやるよ。俺の手が届かないところにいたとしても、どうにか引きずり出してぶちのめしてやる。

 

 今の俺はデビルハンターではなく、先生だからな……生徒を食い物にするやつは絶対に許しちゃならねぇだろう。まぁ、デビルハンターでも子供を食い物にするやつを許したらダンテにバルログでぶん殴られるし、ネロにはバスターアームで掴まれて植木にされちまう。あとキリエとニコに殺されるし、クレドが天国から帰ってきて俺のことを磔にするだろうな。

 

 ぶちのめす、と言えば……カタカタヘルメット団だ。あいつらの前哨基地は潰したけど、本拠地がどこにあるのか全く知らねぇんだよな。そもそも本拠地なんて無いって話ならそれまでだが……前哨基地が制圧されたってことは多分伝わっているだろう。となると、それを成したアビドス高等学校の生徒にどうにかして報復に来そうなもんだ。

 

「……そういえば、ふと思ったんだが……お前らって、集団登下校してる感じなのか?」

 

「? はい。基本的にはそうですね」

 

 俺の質問にピンと来なかったのか、奥空が首をかしげながらも答えてくれる。

 

「その時ってカタカタヘルメット団に襲われたことあったか?」

 

「いえ……それは無かったですね。カタカタヘルメット団は校舎占拠に執着しているみたいで……」

 

 ……占拠することに執着している? 

 

「何か気になるところでもあったの、先生?」

 

「ああ。アビドス高等学校を占拠する時、俺ならどうするのかをちょっと考えて、違和感があってな」

 

「なんでそんなことを考えたのかは置いておいて……先生ならどうするの?」

 

 小鳥遊が疑問と警戒を織り交ぜた視線を向けてくる。いきなり学校を占拠するにはどうすればいいのか、なんて言い出したら警戒するのは当たり前だ。

 

「俺だったらまず、夜を狙う。学校に誰もいないんだから、占拠するのは簡単だ」

 

 下校時間を過ぎたら課題が終わらず居残りする以外で学校に残る必要はない。だから、誰もいなくなった深夜帯を狙って校舎を占拠する。その後アビドス高等学校の生徒達を数の暴力を以って防衛し続ける。もちろんそれが成立するかどうかは別として。

 

「言われてみれば……そうですね。カタカタヘルメット団は夜間の襲撃を行ったことがありません。変です」

 

「昼に物資を枯渇させて夜に襲撃するってんなら分かる。夜に襲撃してこないってことを染み付かせるためにそうしてこなかった可能性も無きにしも非ずだが……」

 

「不良集団がそこまで考えるのは稀。特にヘルメット団みたいな連中は」

 

 砂狼の言った通り、カタカタヘルメット団は昼間に正面から突撃をかますような脳筋集団である。作戦は『数に物を言わせる』、程度しか考えてないんじゃないかって思うくらい猪突猛進な連中なのだ。それがブラフならとんだ策士がいたものだが、アロナに調べてもらったことやアビドス高等学校の状況を鑑みて、それはなさそうである。

 

「そしてもう一つ……生徒の各個撃破。何も殺害するわけじゃない。気絶させて監禁して人質にするだけでも効果はある。これ、俺の経験な?」

 

「うへ、何があったのさ」

 

「弟の恋人を人質に取られた。ちなみに人質に取ったやつはぶちのめした」

 

 図体がデカいだけで神になんざなれるわけねぇだろうが。

 

「まぁ、とにかく……だ。夕方、この時間帯。寮の近くまで俺達は来ている。集団下校は成功してる。そうだろ?」

 

「そう、ですね?」

 

「じゃあここで問題だ。集団下校に参加しなかったやつは、どんな状況で帰る?」

 

 そこまで言って、四人の表情に焦燥が浮かぶ。どうやら俺の話と、現在起こり得る事態が結びついたようであった。

 

「セリカちゃん……!!」

 

「というわけでとんぼ返りだ。車出すから乗り込め」

 

 いやぁ、非常事態の可能性ありで不謹慎だけどさ、非常時の生徒の送迎とか、先生っぽくねぇか。そうでもないか? フォルトゥナじゃ送迎をする機会なんてゼロに等しかったし。

 そんなことを考えながら、貸してもらっているセーフハウスに停車しているトラックのエンジンを起動した俺は、さっき来た道をアクセル全開で出発した。

 

 

 

 

 

 

 ────────────────────────────────────────────────ー

 

 

 

 

 

「はぁ、やっと終わった……今日は忙しかったなぁ……」

 

 柴関ラーメンのバイトが終わり、セリカが帰路に着く頃にはすっかり日も沈んで夜になっており、人も疎らにしかいない。元々少ない店も閉店したのか、電気が消えて暖簾や看板が仕舞われている。帰り道はよく言えば静寂に包まれており、悪く言えば閑散としていて過疎化している。過疎化が進んでいる状況を目の当たりにして溜め息を零せば、春だというのにアビドスの夜は砂漠化の影響で寒暖差が激しく、セリカの吐く息は白くなっていた。

 

 意識を切り替えて、歩き慣れた道を歩くセリカは、仕事の内容を思い出している。柴関ラーメンのアルバイトを始めてから何日も経つ。立ち仕事はアビドス高等学校でよくやっていることであるため、そこまで苦ではないし、接客だって慣れてきた。しかし慣れても疲れるものは疲れるため、疲労感からか溜め息と共に体を軽く伸ばす。

 

 今日はいつもより忙しかった、と細かく仕事の内容を思い出していると、昼時にやってきて夕方まで話をしながら食事をしていった同級生と先輩、そしてよく分からない先生のことが脳裏をよぎった。

 

「それにしても、皆で来るなんて……騒がしいったらありゃしないわよ。それに……なんか先生はムカつくし」

 

 信用を行動で勝ち取るから見ていてくれ……そう言っていた先生ビアンコは、からかい混じりに接してくる同級生や先輩達と違って純粋に褒めてくれていたし、自分の言ったことを真正面から受け止めて、真摯に応じてくれた。正直自分が言い過ぎたと思うところもある。プライドが邪魔をして助けてほしいと言葉にできなかったところも、素直に感謝できなかったことへの後悔も間違いなくある。

 

 だが、それはそれとして、自分の言葉を真正面から受け止めて苛立ったような素振りも見せず、まるで癇癪を起している妹を見るような目で見てくるのはムカつくのだ。そして受け止められて言葉を交わして悪い気がしない自分自身もムカつくのだ。

 

「……私はまだ認めないんだから」

 

 吐き捨てて、帰り道を歩くセリカ。柴関ラーメンからアビドス高等学校の寮までの距離はそこまで遠いわけでもないが、近いわけでもない。キヴォトスの住人が全力で走って30分くらいの距離にあるため、普通に考えれば遠い距離だが、ここはキヴォトス。そのくらいの距離であってもそこそこで済んでしまう。

 

 そんな帰り道でふと、セリカは足を止めた。郊外から少し離れた、人気のない通りは少し高い所にあるためか、遠くに人の気配がする郊外の明かりが見える。それでも全盛期のアビドスと比べるまでもなく過疎化しているのは言わずもがな。誰も管理する者がいなくなった建物ばかりが目立つようになり、セリカの心は鉛のように重くなっていた。

 

「もっと頑張らないと……私達で、アビドスを復興するんだから」

 

 アビドス高等学校が力を取り戻して、生徒が増えれば、きっとアビドスの自治区全てを復活して砂漠問題も解決する方法が見つかるかもしれない。いや、きっと見つかるはずだ、とセリカは気持ちを新たに拳を強く握る。

 

「とりあえずバイト代が入ったら、利息の返済に充てて────」

 

「黒見セリカだな?」

 

 不意に物陰から現れた集団の一人に声を掛けられ、バッ、と飛び退くようにして銃の安全装置を外したセリカは、その集団が被っているヘルメットを見て、何者なのかを認識する。

 

「カタカタヘルメット団……!?」

 

 現れたのは、昨日まで自分達を苦しめていたカタカタヘルメット団だった。

 

 前哨基地を潰した時にいなかった残党だろうか? それとも、アビドス砂漠のどこかにあるであろうカタカタヘルメット団の本拠地にいる連中だろうか。だが、カタカタヘルメット団であれば自分の敵だ。数はどうでもいい。敵が目の前にいて引き金を引かない理由はない。

 

 自分一人であっても、たかが不良生徒複数人程度制圧してみせる。そんな意気込みで銃の引き金を引こうとした直後、セリカの背後を大量の爆撃が襲った。

 

「…………!!?」

 

 直撃はしていない。しかし爆発の衝撃で体が簡単に吹き飛んでしまったセリカは、何が起こったのかを妙に冷静な思考で考える。

 

(対空砲?)

 

 それにしては砲撃の音が違った。その音について、先輩であるホシノから渡された銃火器の資料映像や音声で聞き覚えがある。

 

(Flak41改……? なんでこんなところに? カタカタヘルメット団が撃ってきたの? でも前哨基地は破壊したし……不良生徒の集団が、あんな高級品買えるわけが……)

 

 疑問が浮かんでは消え、浮かんでは消えを一瞬で繰り返す。どれだけ考えても答えが出ない。

 絨毯爆撃を浴びせられ続けること数十秒。いくら頑丈なキヴォトスの生徒であっても、それに耐えられるはずもなく────意識が朦朧として、体が言うことを聞かずに倒れ込む。

 

「連れていけ」

 

 砲撃を喰らい、意識が朦朧とする中で、セリカを見下ろしたヘルメット団がそう言った。

 

(私を、どこかに連れていくつもり……?)

 

 手足を縛られ、体を担がれた。

 思考がぼやけ、目を開けることすら難しい状態になっている中、セリカの脳裏に浮かんだのは笑って自分に手を振るアビドスの皆や、柴関ラーメンの店主柴大将の顔────そして、自分達を本気で助けようと信用を勝ち取ろうとしている茶髪と銀髪が混ざった白いフード付きのコートを着ているビアンコの姿。

 

(誰か……助けて……!)

 

 涙が滲む中、セリカが心の中で助けを乞うように叫んだ。

 

 

 

「よぉ、ウチの生徒と一緒にかくれんぼか?」

 

 

 

 ドガガンッ! と独特な銃声が響き、セリカを担ぎ上げていたヘルメット団の一人が倒れ、セリカの体がフワリと浮き上がる。

 

「Hey,Little Kitten.帰り道は分かるか?」

 

「先、生……?」

 

 セリカをカタカタヘルメット団の代わりに片腕で抱き上げていたのは、白いフード付きのコートを着たシャーレの先生────ビアンコであった。

 

「遅くなってすまん。砂でトラックのタイヤを持ってかれてな……」

 

 そう言いながらもビアンコの手は止まらない。セリカを抱き上げている腕とは逆の腕で二つの銃口を持つ独特な見た目のリボルバーの引き金を引く。放たれた弾丸がカタカタヘルメット団のヘルメットにぶち当たり、跳弾したり、胴体に当たってぶっ飛ばされていく。

 

「て、てめぇは……!?」

 

「ガキの喧嘩にしちゃあ派手な花火をぶっ放してたな? 派手なのは嫌いじゃねぇが……おいたが過ぎるぜ?」

 

 セリカをまるでお姫様のように優しく下ろしたビアンコは、まるで威嚇するかのように左腕のデビルブレイカーを帯電させながら笑う。

 

「半べそ掻いて逃げるってんなら、俺は止めねぇが……どうする? ここで痺れてみるか?」

 

「な、なめてんじゃねーぞてめ────ババババババババババババババッッ!!? 

 

「ああ、ちなみにもう間合いだぜ、お嬢さん」

 

 突如ビアンコの義手からワイヤーが伸び、カタカタヘルメット団の一人を掴まえて引っ張ったかと思えば、バチバチと青く光る雷光を発生させて気絶させたではないか。感電して気絶したカタカタヘルメット団の少女が、まるで空き缶を捨てるかのように転がされるのを目撃したカタカタヘルメット団のメンバーは動きを鈍らせ、その隙にビアンコがセリカの手足の拘束を解いた。

 

「怪我は────あるな。すぐに片付ける」

 

「せ、先生……! 私も、戦う……!」

 

「おいおい、気絶寸前のお姫様が戦う? 冗談だろ? 休んどけって」

 

 射撃とリロードの隙がほとんどない、もはやリボルバーの形をしたアサルトライフルなのではないかという速度で撃ち続けるビアンコに対して、朦朧としていた意識が戻ってきたセリカは問いかける。

 

「どうして、私を助けるのよ……酷いこと、言ったのよ」

 

「そうだな」

 

「あんたのこと、まだ認めてないのよ」

 

「それでも助けるさ。俺は、先生のビアンコだ。それに────」

 

 そう言ってセリカの頭を軽く撫でたビアンコは、知り合いが見れば「本当にネロと兄弟なんだな」と言わせるであろう好戦的な笑みを浮かべて銃を構えた。

 

「友達のために頑張るやつを、『Devil May Cry』は絶対に見捨てねぇよ!!」

 

 ビアンコが飛び出し、カタカタヘルメット団を薙ぎ倒していく中、セリカは自分が何のために頑張っていたのかを思い出していた。

 

(私が、頑張ってた理由は……)

 

 借金を返すため。借金を返して、皆と一緒にいたい。一緒に青春を過ごしたい。アビドス高等学校という居場所を守りたい。大好きな皆と一緒に、まだまだ青春したいから。

 

「ハッハァ!! 大当たりだ(ジャックポット)!!」

 

 現在進行形で文字通り縦横無尽暴れ回っているビアンコが言っていた、友達のために頑張る。それが自分が今まで頑張り続けてきた理由だった。忘れることなんてできない、自分が頑張りたい、頑張ろうと思える原点、根幹は、それなのだ。

 重かった体が、思考が軽くなり、心の中にあったモヤモヤも消え去った。まだ戦える。自分だってアビドス高等学校廃校対策委員会の一人なんだと、自分を奮い立たせて立ち上がり、引き金を引けば────ビアンコの鼻先をすり抜けて、カタカタヘルメット団のヘルメットに直撃した。

 

「やっぱりいい腕してるぜ、黒見!」

 

「当然でしょ! 私はアビドス高等学校の生徒なんだから!」

 

「ならついて来いよ!!」

 

 歯車が噛み合ったかのように、ビアンコとセリカの連携はカタカタヘルメット団の数をどんどん減らしていく。セリカの放つ銃弾が当たらないのが分かっているかのように、動き回るビアンコに翻弄されていると、セリカの精密射撃が襲い掛かる。セリカを狙おうとすればビアンコが銃弾やデビルブレイカーによって妨害してくる。もはや蹂躙だ。

 

「く、くそッ!? こうなったらもう一度爆撃を────」

 

「させないよ~」

 

 間延びした声と共に、複数の銃声が響いてカタカタヘルメット団のリーダー格らしき赤いヘルメットの少女が気絶する。

 

「迫撃砲の人員は全員倒しましたよ~☆」

 

「ん、というか先生が速過ぎる」

 

「トラックが砂に捕まった瞬間の判断が異常な速度でしたよね……」

 

「え、先輩達!? アヤネちゃんまで!?」

 

 セリカの傍にやってきたのは、アビドス高等学校の生徒四人。全員が暴れ回っているビアンコに呆れつつ、大なり小なりカタカタヘルメット団への怒りを滲ませている。

 

「先生が迫撃砲を潰してこいって指示を出して飛び出しちゃってさ~。おじさん達びっくりしたよぉ」

 

「もっとびっくりなのは……」

 

「今の状況ですよね♧」

 

「人間業とは思えない動きしてますよね、先生……」

 

 カタカタヘルメット団の攻撃をギリギリで躱し、スタイリッシュさを感じさせる動きで翻弄しつつカタカタヘルメット団を殲滅していくビアンコ。その左腕が昨日見た電撃発生とは違う────というよりも、凄まじい出力に引き上げているような、限界を無理矢理引きずり出すような光を纏っていることについて、最初に気付いたのは誰だっただろうか。ホシノかもしれないし、セリカかもしれないし、カタカタヘルメット団のメンバーだったかもしれない。

 

Blow away(吹き飛びやがれ)!!」

 

「「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?」」」

 

 その叫びと共に叩き付けられた左腕から放出された凄まじい出力の雷撃。

 落雷が目の前で起こったと錯覚するような蒼白い閃光が一瞬、夜のアビドスを昼間の様に明るく照らし、その光が収まった頃、ピクピクと痙攣するカタカタヘルメット団のメンバーと、壊れた義手を装着したビアンコが少女達の視界に映り込んだ。

 

「………………やべっ、勢い余ってぶっ壊しちまった! 悪ぃなニコ!」

 

 壊れた義手を慣れた手つきでパージしたビアンコはカラカラと笑い、セリカ達がいる方へと歩いてくる。

 

「悪いなお前ら。俺が全部食っちまった」

 

「ん、取り分がなくなった。先生はラーメンを奢るべき」

 

「そんなんでいいのか? 別にラーメンならいつでも奢るぜ。────っと、そうだ黒見」

 

 シロコの言葉に軽く応じたビアンコは、緊張の糸が切れかけているセリカの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

「~~~~~~!? 何よいきなり!?」

 

「無事……じゃねぇけど、無事で良かった」

 

 優しく笑うビアンコを見て、セリカは自分が助けられたことを再度認識して緊張の糸が切れてしまう。

 アビドス高等学校の生徒が受け止めるよりも前に、地面に倒れそうになっているセリカをビアンコが受け止める。

 

「おっと。迷い猫はお眠みたいだな?」

 

「うる、さい……………………助けてくれて、ありがとう」

 

「ああ。ゆっくり休め」

 

 まるで眠れない子供を寝かしつけるような優しい声が耳に届いたのを最後に、セリカの意識は夢の世界へと旅立った。




正直少ない人数が読んでいるやつを買いている時間が一番生を実感する。ガバをやっても身悶えしない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。