対黒龍最終決戦兵器な少女 作:クエストてつだって!
私は転生者だ。前世でやっていたゲーム……モンスターハンターの世界に転生した。今はギルドガールズの一員である。出身はそこそこの街で、前世知識のスタートダッシュを活用し、私はギルドガールに就職した。
前世のモンハン知識は正直あんまり覚えてない。そもそも、そこまでアクションは得意じゃなくて、友達付き合いで一通りやったくらいだから、知識も半端だった。一応、今世でモンスターの勉強をするとき、とっかかりくらいには役に立ったかなってくらい。
なぜ、ギルドガールになったかといえば、超人気職業で、故郷のみんなにマウントを取れるからである。ギルドガールとは、そんな人気職なのである。
そして、私は今、閑散とした辺境の地方都市でクエスト受付嬢をやっていた。ワンオペである。
聞いてほしい。それなりに優秀だった私は、本来、研修後、もっといいところに配属されるはずだったのだ。でもそうはならなかった。
同期にさ、私よりも優秀で要職に就くはずだった友達の子がいるわけさ。でもその子は、故郷で起こった異変が気になるからと、その故郷の村での受付嬢の道を選んだ。要職を蹴っちゃったわけ。
ちなみにだけど、その子は今……故郷で、専属ハンターを呼んでいる最中。すでにクエスト斡旋のインフラは整えたらしい。さすが優秀だね。
それで、まぁ、その要職の枠が私に回ってきたわけなんだけど、やっぱ友達だし、気まずいからその話は断ったんだよね。私はほら、友達でしょって、おてて繋いで一緒にゴールしたいタイプだから。
そしたら、あれよあれよという間にこんなところに来てしまったぜ。なんで?
まぁ、そこらへんはいいとして、私は、今、これまでにない難題に直面していた。
「私は対黒龍最終決戦兵器『アルバ・ジーヴァ』」
「なんの用ですか……?」
綺麗で真っ直ぐな黒髪を伸ばして、赤銅のような色の眼をした綺麗な女の子だった。病的なまでの青白い肌に、少し心配になるくらいだった。
「この世界に舞い降りる黒龍という災いを討ち祓うべく造られた存在。その名は、対黒龍最終決戦兵器『アルバ・ジーヴァ』」
「対黒龍……? なんて?」
「対黒龍最終決戦兵器『アルバ・ジーヴァ』」
むふんと、満足げに女の子は言った。そういう年頃かな?
黒龍……黒龍……すぐにはピンとは来なかった。あ、あれか……御伽噺でそんなのあった覚えはある。
確か……シュレイドの昔の国が龍に滅ぼされたとか、そんな伝説だったっけ。
で、私のゲーム知識に検索をかけてみる。ゲームでそんな名前のモンスターと戦った覚えはない。
私の知らないところで、そんな設定あったのかな。シリーズいろいろあったし、やってないのには登場とか……?
いや、でも、本当に今までこっちで生きてきて黒龍なんて聞いたことはないしなぁ。私、ギルドガールズになるためにモンスターの勉強いっぱいしたよ? 古龍も全部そらで言えるし。
うーん、龍で黒いのと言えば……クシャルダオラ? でも、黒龍って呼ばれることはないか。
やっぱり、こっちの知識でいないってことは、ほんとに御伽噺かな。
「それで、その対黒龍最終決戦兵器がハンターのクエスト受付窓口になんの用ですかね?」
「黒龍討伐。依頼を受けに来た。この地に舞い降りる黒龍という災いを討ち祓う依頼を受けに来た」
「そんな依頼ないですよ」
「黒龍は来る。もうすぐ来る。もう時間がない」
「そうですか」
しょせんは子どものごっこ遊びだろう。まぁ、子ども相手だし、冷たく当たるのはちょっと違ったかもしれない。適当に話を合わせて満足して帰ってもらうってのもありか。今、暇だし。
「だから、依頼は来ている……はず……」
「残念ながら……」
「……なんで? クエストを受注しないと
ん……? ごっこ遊びと言えないくらいに女の子は動揺していた。信じていた大人に裏切られたような顔だった。
ちょっとなんか可哀想だ。お姉さんが大人の余裕を見せてあげちゃう?
「あの、かの伝説の黒龍ともなれば、そのクエストは秘中の秘。もし受注できるとなれば、ハンターランクは当然最高でなければなりません。そこに到達していないハンターには、クエストは秘匿されているでしょう」
「ハンターランク……?」
目をぱちぱちさせて、女の子は首を傾げた。あれ? ハンターのランク制度知らない感じか。まぁ、子どもだし、そんなこともあるだろう。
ここはお姉さんが優しく教えてあげないと。
「ハンターにはハンターランクが決められていて、ハンターランクを上げれば上げるほど、難易度の高い依頼を受注できるようになります」
「私のハンターランクは?」
「★1から★9の九段階で、★0ですかね」
「対黒龍最終決戦兵器なのに?」
「対黒龍最終決戦兵器でもです」
そもそもこの子ハンターじゃないから。当然だろう。むしろなんで、自分にランクがあると思った。
「どうしたら、ハンターランク上がる?」
「まず、ハンターに登録するところからですね。正直、ここ田舎なんで、適当な訓練施設に適当にオッケーもらって、私にサイン持って来れば私が適当な手続きをしてハンターになれます」
都会じゃこうはいかない。希望者の半分は落とされるという話もあるくらいだ。正直、引き継ぎのとき、規則全然守ってなくてびっくりしたわけ。そのくらいゆるくなきゃ、こんな田舎じゃハンターの成り手も少ないっていうのはあるかな。
「わかった。ハンターに登録する」
「え……?」
そう言った少女は、一目散にどこかへと走っていった。
大丈夫かな?
***
「サイン貰ってきた……」
「え……?」
お昼を終えて、クエストの整理をしていた窓口に話しかける女の子がいた。例の子だった。
カウンターに、女の子が持ってきた紙が置かれる。
「これで、ハンターになった……?」
「まだ、書類をちゃんと精査しないと……」
「そう」
ちょっとしょぼんとする女の子だった。
さすがに、適当な試験と言っても早すぎる。なにか、不正の匂いがした。
「これ、どうやって貰ってきました?」
「おじさんの肩揉んだらくれた」
「そうですか」
あのジジイ……!!
まだまだ子どもの幼い少女だ。華奢で、武器も振り回せはしないだろう。いくら適当とはいえ、限度というものがあるだろう。
「ハンター……なった?」
「とりあえず、様式を整えて提出をしますね。こちらに名前を……」
「あい」
名前の欄には、対黒龍最終決戦兵器「アルバ・ジーヴァ」とデカデカと書かれる。
「アルバ・ジーヴァだけでいいですよ?」
「私は対黒龍最終決戦兵器『アルバ・ジーヴァ』。この世界に舞い降りる黒龍という災いを討ち祓うべく造られた存在」
「アルバ・ジーヴァだけにしましょう。枠からかなりはみ出てますし」
「あい」
新しい紙に書いてもらった。
とはいえ、このまま書類通しても、ハンターにはなれるわけはないと思う。年齢的にね。
「ん? 一〇十三歳……?」
「書いた……! ハンターなれた?」
「十三歳って書きましょうか」
「あい」
さすがにね。竜人族……でも、こんな女の子のまま歳とるわけないし、そもそも竜人族の特徴はない。そういう設定だったのかもしれない。素直に訂正してくれる。
たぶんこの書類は弾かれるだろうけど、まぁね。中央の仕事が増えるだけだし、ちょっと出してみるか……。
ふふ、私をワンオペ辺境送りにした恨み……ぃい!
***
「クエストてつだって!」
例の女の子が、クエストの紙を持って、ハンターたちの間を元気に駆け回っていた。
届いてしまった、ギルドカード。
ちなみに今は夕方、閑散とした午前とは違い、人もそこそこはいる。
「なんで、ハンターになれたんじゃ、あの子?」
「あなたがサインしたからじゃないですか?」
なんか、抗議に来てるジジイがいた。例の訓練施設のジジイだ。
「普通、通すとは思わんじゃろ」
「責任の所在はうやむやにした方がいいでしょう。流れる水は、数々の関門を超えて、海へと流れて出てしまったわけです。もはや、私たちにはどうすることもできません」
「そうじゃな」
それでもなんとかするのが立派な大人だが、私たちにとっては保身が優先だった。ことを荒立ててはいけない。
「親から抗議とかこないといいですね」
「そうじゃな……というか、あの子、たぶん家出じゃぞ?」
「どうしてわかるんですか?」
「いや、夜、ふらついてるとこをみたんじゃよ」
あの歳の子が夜にっていうと、まぁ、帰る家が近くにないってことはわかる。まさか、そういう年頃だから、飛び出してきたとか……?
「そうですか……お家、入れてあげたらよかったじゃないですか?」
「誘拐とか言われるの嫌じゃし……」
「そうですね。保身は大事ですね」
まぁ、うん。私たちの保身のことはさておいて、あの子の身が心配だった。
家がないっぽいのもそうだけど、これからクエストに行くつもりだろう。ランポスとか、ジャギィとかの小型の肉食モンスターでも、恐ろしく、一般人は敵わない。クエストに出かけて、無事に帰れるかどうか。
モンスターにびびる感じで、ハンターやめて、ギルドカード返してくれないかなって、私は思った。
一応、★1のクエストを★1のハンターが受ける場合、もう一人いないと受けられないと依頼書を細工し、無謀にクエストに行かないようにはしておいた。……文書偽造である。
「あの歳で、クエスト受けれるって、嬢ちゃんやギルドも適当な仕事してるじゃん」
「あ、お疲れ様です、ハンターさん。今回は早かったですね」
私が、保身クソジジイと話してると、受付のカウンターに身を乗り出して、話に加わろうとする男がいた。
「いやぁ、今回こそ生きて帰れないかと思ったんだぞ? あの爆発する粉塵に囲まれたときは、もう駄目かと思った」
「本当にお疲れ様です」
古龍の撃退、という偉業を成し遂げて帰ってきたのが彼だった。その勇姿は、ギルドを通して私の元にも届いている。
この街には、★6以上のハンターランクを持つハンターは二人しかいない。そのうちの一人で、★8のハンターだった。★9にも手が届きかけているほどである。
この大陸でも、五本の指に入るのではないかというのが、彼への評価になる。
「では、こちらが更新したギルドカードです」
「更新は半年ごとでいいって」
「駄目ですよ。炎王龍テオ・テスカトルの撃退という偉業。それを記録したギルドカードは、持っているだけでステータスですから。当然すぐに記録するべきなんです! 数日だって待っていられません!」
半年の定期更新以外では、ハンターランクの上昇や、古龍の撃退などの高難度クエストをこなした場合、即座にギルドカードを更新せよと、そうなってる。
「ほら、みんなに自慢しちゃいましょう!! いぇーい、みなさん! 見てください! これがテオ・テスカトルの撃退を記録したギルドカード!!」
ばっと、近くにいたみんながこちらを振り向く。ただ、いつものことかといった様子で、自分の用事にすぐ戻った。
テオ・テスカトルだってな……みたい話もちょっとは聞こえてくる。私はハンターさんの偉業をみんなに知らしめることに成功したのだ。
「古龍の撃退なんて今更だろ? 討伐したわけじゃあるまいし」
「例のジャンボ村のハンターの話ですね。言っちゃなんですけど、鋼龍の討伐なんて眉唾ですよ、眉唾。古龍は人間が討伐できるような相手じゃありませんから」
数年前から、にわかにそういう噂が立っていた。真偽を当のハンターが所属していたドンドルマのギルドが公表しない以上、噂は噂だ。まぁ、そのハンターは現在活躍するハンターの中でも一二を争うくらいに強いから、そんな噂が立つのも仕方ないのかもしれない。
「夢がないこと言うなぁ」
「夢でモンスターに挑んでも、死ぬだけですからね」
実力が見合わないモンスターに挑んでも、死ぬだけである。それを起こさないためのギルドであり、ハンターランクだ。
まだ、駆けずり回っている例の少女を横目に見る。やっぱり、まずかったよなぁ。
「あの子、あの歳でハンターって、わけがあるんだろ?」
「特殊な才能があると判断したので、特別に許可しました」
私はキリッとした顔でそう言った。大嘘である。私は保身クソ受付嬢だ。
「そうだよな……。なんというか、古龍と相対したような得体のしれなさというか、そういうのをあの子からは感じるんだよな……」
言い訳が……通じた……!
歴戦のハンターである彼であるが、人を見る目はないのかもしれない。ほら、プレイヤーとしての優秀さは、コーチとしての優秀さとは違うって言うし。
「それじゃ! ワシもそれを感じてあの子をギルドに推薦したのじゃ!!」
クソジジイがなんか言ってる。便乗クソジジイだった。古龍に会ったことないだろ。
そんな嘘と保身にまみれた会話をしていると、例の女の子は、てってと、こっちに走ってくる。
「クエスト、いく」
会話に割り込んで、カウンターにクエストの紙をおいた。『特産キノコ捜索網!』というクエストだ。最初のクエストとして、まずはキノコ集めだろう。
「えっと、付き添いの人は……」
「クク……紅蓮の炎を纏いしこの俺だ……!」
うわ、類友。
「お、イャンクック装備一式じゃないか。ついに完成したのか、おめでとう」
さっきまで私と話していたハンターさんは、そんなふうに彼の肩を叩いて、祝福の言葉を贈った。というか、紅蓮の炎って、イャンクックの赤色……?
「ふん、話に聞くテオ・テスカトルの撃退……見事な偉業だ。いつか貴様にも追いついてみせる!」
「おう、頑張れよ」
彼は★3のハンターで、★3の大型飛竜種に挑む前準備として、★2で装備を整えていたところだった。慎重派である。ちなみにハンター二年目だから、まぁ、そこそこだろう。
「初心者ハンターの手伝いですか。ご立派ですね」
「ふん、こいつには俺と同じ波長を感じたまで……」
「私は対黒龍最終決戦兵器『アルバ・ジーヴァ』」
「クク……紅蓮の炎を纏いしこの俺の真の力を見るがいい!!」
うわ、類友。
まぁ、実力は足りてるだろうし、大丈夫だろう。イレギュラーがあって大型飛竜種が襲ってきても、少女を連れて逃げるくらいは彼でもできるだろうから、まぁ、安心かな。
クエストをやってお金が入れば、この少女も、宿くらい借りられるようになるだろう。
「では、クエスト……行ってらっしゃい。お気をつけて! 必ず生きて戻ってくださいね」
これは、ある少女が英雄へと至り、厄災と相対し、やがて伝説となるまでを見送り続けたお語である。