対黒龍最終決戦兵器な少女 作:クエストてつだって!
「ハンターランク……上がった……!」
なんと、例の少女だが、この三ヶ月でハンターランクが★3にまで上がってしまった。
この子に実力があったかと聞かれれば、それは否と答える他ない。では、なぜランクが上がったかといえば……そう。
「いやぁ、嬢ちゃんがいると、なんだかクエストが上手くいくような気がしてな」
「この間のドスランポスも、なんだか動きがぎこちなかったような気がするし、やっぱりこれは嬢ちゃんのご利益か……?」
「ん……! 対黒龍最終決戦兵器だから」
なんというか、幸運の女神扱いだった。この子を連れて行くと、なぜだかわからないが、モンスターを上手く倒せる。そんな噂がこの街では広まっていた。今やパーティに、引っ張りだこだ。
彼女のいま持つ武器は狩猟笛。後ろで笛を鳴らしているだけらしい。
後方支援……といってもボウガンや弓は、誤射するかもしれなくて危ない。信頼できる相手でもない限りは、持たせられない。
更には、こんな子に近接武器を持たせて戦わせたくないという共通認識が、野郎どもにはあるよう。
結果として、狩猟笛を後ろでビービー鳴らし、演奏会をしているだけの少女が爆誕した。
自分より強い人にクエストを手伝ってもらって、ハンターランクを上げていく。それは、まるで前世でゲームをしている私のよう。
「これじゃダメですよね……」
実力に見合わないハンターランク。それは過信……死につながる。
これは己の保身から招いた状況でもある。正すべき義務が、私にあった。
「いぇーいって、やらない?」
そう首を傾げて、尋ねてくる少女だった。ハンターランクの上昇、それに伴い、私はいぇーいと、周りにそのことを喧伝し、囃し立てるのがいつもだった。
それはハンターたちがランク相応の実力を持っているから。私としても受付嬢のプライドがある。腐っても受付嬢! だが、どうするか。
「ちょっと、邪魔よ? 用が終わってるなら退いてくれない?」
そうこうしていると、焦れた後ろに並んでいた人が割り込んできた。彼女の提出した依頼は、★3のリオレイア討伐の依頼だった。
「これは……!」
「なに……? 文句でもあんの?」
ちなみに彼女は、現在★7のハンターである。この街で二番目に凄腕のハンターなのだが、彼女はちょっと偏狩猟家だ。なぜなら、リオスの専門家と名乗り、リオレイアとリオレウスしか狩ろうとしないのだ。
彼女はリオレウスの装備に身を包み、武器はライゼクスの雷属性の双剣だ。弱点属性を押さえている形になる。
「いえ、文句はありませんよ。ただ、ちょっとお願いがありまして……」
「なによ……?」
ハンターランクが★7の彼女が、★3の依頼を受けるのは、あまり好ましいことではなかった。威圧するようにこちらを見るのは、それが分かっていて気まずいからだろう。
とはいえ、リオス討伐の依頼が来たら、亜種だろうと、特殊個体だろうと見境なく受けるのが彼女。そして、傷一つなく狩猟を終えて帰ってくる実力者だ。彼女がいてありがたい場面は多い。
ここで、私は一計を案じた。
「そのリオレイアの狩猟に、その子も連れて行ってくれませんか?」
「は? なんで私が子守なんか……」
「これ、★3の依頼ですよね?」
「……いいわよ。代わりに報酬と素材は七割もらうわ」
勝手に話を進めて大丈夫だったかとも思う。女の子の方に目配せをする。
「……リオレイア、いく」
ちゃんと乗り気のようだった。
このリオス専門家なら、狩猟笛演奏会を、ちゃんと咎めてくれるだろう。同じ女だし、気遣いも男どもほどしないはずだ。
「一人でリオレイアを狩れたら★3のハンターとして一人前です! そのために、彼女から色々教えてもらうのがいいでしょう」
「あい」
基本的に、大型飛竜種として初めて相対するのがリオレイアになる。このリオレイアを狩れたら一人前のハンターになれたと言っていい。リオレイアを狩れるかどうかは、ハンターとしての実力を分ける大きな指標になる。
「では、行ってらっしゃい! 決めましょう、炎のクリティカルです!」
***
私は暇をしていた時間で、研修時代の友達からの手紙を読んでいた。故郷で受付嬢をしている子とは別の子で、今は出張受付嬢としてギルドの窓口がない村々を回っているだとか。
研修時代の危なっかしかった彼女を思い出す。立派になってしまったものだ。嘘と保身にまみれてしまった私とは大違いだぜ。
「ネッルスッキュラ! ネッルスッキュラ! ……あ、帰ってきた」
リオス専門家の彼女だった。リオレイアの討伐を終わらせて、戻ってきたようだった。
「私には無理よ……」
こちらに来るなり、力なく上半身をカウンターの上に、へなへなっと倒れさせる。
「どうしましたか?」
「私……言ったよ? 雷属性で戦うべきって言ったよ? 事前にも言ってた……」
カウンターに手をついて、こちらに身を乗り出して、言う。
「でさ……。これ以上
「アルバトリオン……?」
どこかで聞いたことがあるような響きな気がする。なんだったっけなぁ。たぶん、前世で、友達がなんか言ってた気がする。思い出せない。
「アルバトリオンってなに!? いや、雷じゃなくても、火の武器は持ってくるなよ! 効かないでしょ! やる気出して戦えよ!!」
「まぁまぁ。彼女はハンターになりたてです。なりたてのハンターが武器を選べないのはよくあることじゃないですか」
武器も、防具も、作るとなると値が張るし、モンスターの素材も多く必要だった。おいそれと作れはしない。おおかた、イャンクックの武器でも持っていったのだろう。
「でも、よくわからないのよね……」
「なにがですか……?」
「今回のリオレイアは、いつもより倒しやすかった」
「それは、よかったじゃないですか。手負だったとかですか?」
あとは、未熟な個体だったとか、老齢で衰えていたとか。なんにせよ、倒しやすかったなら、それはいいことだ。
「いや、なんというか……気が散っている感じで。まるであの子を警戒して動けない……。蛇に睨まれて動けない蛙みたいな?」
「考えすぎじゃないですか? 多人数で挑めばモンスターの注意が分散するのは当然ですし」
このまま幸運の女神扱いが続くのは、きっとよくないだろう。ハンターランクを上げるのなら、本人が実力を上げるべきだ。
「でも、おかしいのよね。あんなふうに狩猟笛をピーピー吹いてたら、真っ先にモンスターは狙うはずよ。それなのに、一度も狙われなかった」
「そういうことも……あるんじゃないですかね」
実際にあったのだから、そうなのだろう。ただ、気になる。警戒していると言ったのに、一切狙わなかったとも言った。なにか、矛盾しているような気がする。
ま、気にしても仕方ないか。
「リオレイア……クエスト持ってきた。次は一人でできる!」
一緒にこっちに来なかったのは、貼ってあったクエストを漁っていたからだろう。リオレイアは生息数が多いから、クエストはけっこうな頻度で出回っている。もちろん、出現場所に違いはあるけど。これは天空山の依頼だ。
「ダメよ、まずは武器ね……。雷属性は……クルペッコ亜種? いや、乱入が面倒。フルフルで、そう……仕方ないか」
なんと、武器を作る面倒まで見てくれるようだった。なんだかんだで世話焼きというか、口はそこまで良くないけど、実は優しいのかもしれない。
「……それでも、ギギネブラ亜種よりマシね」
ふと、そんな言葉がこぼれていた。
「今、ギギネブラの悪口を言いましたか?」
「……っ!? 悪口じゃないわよ?」
「残念です……いい人だと思ったのになぁ……」
あんなに可愛いギギネブラを悪く言うなんて、私、悲しい。
「やめて! ギギネブラの抱き枕で部屋を埋め尽くされるのは嫌なの!! お願い、やめて!」
「私、そんなこと何も言ってないんですけど……やだなぁ」
それは私が赴任してから、伝わり始めた都市伝説だった。
ギギネブラやネルスキュラの悪口を一つ言うと、一つ、悪口を言ったモンスターの抱き枕が知らぬ間に部屋に現れる。悪口を言うたびに、一つ、また一つと増えていく。もちろん捨てても戻ってくる。
きっと、未確認の古龍の仕業に違いない。ふふふ……。
それはさておき私はネルスキュラの抱き枕を毎晩抱いて寝てる。快眠である。さすがネルっち。
「違うわ……距離の話よ! ほら、ギギネブラが出る凍土は遠いじゃない?」
「は……!?」
「でも、フルフルなら寒冷群島で狩れるわ!」
「確かに……!!」
ここは辺境の地。近くに寒冷地がないから、私が赴任するまでは、大陸を斜めに横断する形で、凍土までフルフルを狩りに行っていた。
私が頑張って地元の人たちと交渉をしたことにより、凍土の代わりに、より地理的に近い寒冷群島を使わせてもらえるようになったわけだ。
古龍を討伐できそうなハンターがいたら紹介するって約束だったけど、そんなハンターはいないから、実質無料借受だぜ。
他にも遠い狩場はある。火山系のクエストに向かう場合は、ジャンボ村周りでぐるーっと海を迂回して地底火山まで行かなきゃなんだけど、もっと近い場所に溶岩洞なる狩場があると話を聞いて、そっちも交渉中だったり。
でも、こっちの交渉はちょっと停滞気味だった。一度退いて足元を見る作戦中なのだ。既得権益を切り崩してやる!
「ふぅ……それじゃあ、フルフル狩ってくるわ。武器の分集めるまで帰らないから」
「わかりました。『寒冷群島の採取ツアー』ですね。少しお待ちください」
「ええ」
今書いてクエストの紙を発行する。
私の方針として採取ツアー自体はクエストボードに貼ってない。でも、ちゃんとクエストボードには、採取ツアーは受付へと書いてある。こっちの方がいい。
「では、こちらに」
「ほら、書くわよ」
「あい」
二人並んで、クエストの紙に必要事項を記入している。記入を終えた紙を受け取り、笑顔を向ける。
「いってらっしゃい。お気をつけて」
リオス専門家……という彼女だが、実際は飛竜種全般のクエストを余裕でこなせる実力がある。だからこその★7だった。
彼女には、学ぶことも多いだろう。それにそう、なかなかにいいコンビなのかもしれない。組ませてみてさすがだと、私は自分を褒め称えた。
ふたりを見送って、私は、昔の友達から作ってもらったネルスキュラのぬいぐるみを肩に乗せる。キュラちゃんだ。ネルスキュラの素材を一部使ったそれは、肩に圧倒的なバランスでのってくれる。
やおらと、受付のカウンターから外に出る。
「ほお! やや!」
ふ……っ、これ以上愛を解放しても、私はネルスキュラになったりはしなかった。
「なかなかのポーズだ。さては貴様も深淵を覗いたな……?」
「覗いてないです。ごめんなさい」