対黒龍最終決戦兵器な少女 作:クエストてつだって!
「リオレイア、単独狩猟おめでとうございます。さぁさぁ、皆さん見てください! いぇーい、いぇーい! これがリオレイア単独狩猟を記録したギルドカードです! また一人、大きな壁を越えてくれました!!」
全力で囃し立てて、見せびらかす。リオレイアの単独狩猟だってと、周りは賑やかになる。
「ふ……っ、我が紅蓮の炎は、かの雌火竜でさえ焼き尽くしたのだ……!」
そう、クルペッコ装備の彼が、ついにリオレイアを単独で倒したのだ。
★3に上がって一年半……イャンクックの装備を揃え、愛用の大剣のアイアンソードを荒くれの大剣にまで強化し、ようやく達成してみせた。
「おめでと! 心のししょー」
この子にとっては、初めてのクエストに付き添ってもらった仲だ。ハンターとしての心構えを教えてもらったのも彼から。いや、もっと深い心のどこかで繋がっているのかもしれない……類友的な。
「ふ、我が同胞よ……お前には追い抜かれたが、待っているがいい。その高みへと、いずれは俺もたどり着くさ……。くく……」
「ん、待ってる」
ちなみに、こっちは、今、★4のハンターだった。大人気の援護役というポジションにより、周りに引き上げられる形で、ランクをまた上げていた。最近は生命の粉塵も覚えたそう。
ランク上昇でいえば、破竹の勢いだったが、単独でのリオレイアの討伐をまだ達成できていない。
「お、めでてぇじゃねぇか」
彼の功績を褒め称えていれば、寄ってくる男がいた。彼はこのギルドのエースで、★8のハンターさんである。
「ふ、ついに成し遂げたのさ。このオレの手で……。ようやく、お前の影を踏めたといったところだ。必ず追い付くさ」
「おう、頑張れ頑張れ! 飯行くぞ! 俺の奢りだ」
なかなかに気前がいい。
ハンターも高ランクになれば巨万の富を……というわけにはいかない。そもそも、報酬からはギルドの運営費もろもろが天引きされているわけだし、武器や防具を新調すれば、報酬なんて吹き飛ぶほどのお金がかかる。
一攫千金を目指してハンターになれど、現実は厳しい……。
いや、まぁ、資産自体はあるにはあるだろう。剥ぎ取った素材をハンターは保管しているわけで、全て売ればたぶん簡単にお金を作れる。だが、それは装備の更新を諦めること、ひいてはハンターの活動を終わらせることでもあり、活動中のハンターは、お金に余裕がないものだった。
そんな中でも、こういう祝い事で他人にご飯を奢ったりとか、後輩を労える。立派なハンターさんだった。
「……!!」
「お、なんだ? お前も一緒に来るか?」
そんな立派なハンターに、少女が駆け寄っていく。そして、にっこりと笑いかける。
「ハチミツちょうだい」
「いいけどさ。ちょっとは自分で集めようと努力しなよ?」
「あい」
そうやって、ハチミツを手に入れていた。
ハンターにとって、ハチミツは必需品である。回復薬グレートや、増強剤の調合元でもある。元気ドリンコも作れる。
そう、元気ドリンコ。
元気ドリンコはすごい。スタミナが回復しづらくなったときも、バギィに襲われ眠気に誘われたときも、これ一本。飲めば疲れも眠気も吹き飛んでいく。当然ながら、ギルドガールズは疲れたとき、仕事中の眠たいときに、みんな元気ドリンコを愛飲している。
みんなで飲もう、元気ドリンコ!
元気ドリンコは、ギルド公認飲料として、多くのお客様にご愛飲いただいております。
ともあれ、ハチミツを少女に分け与えたハンターさんを、少し非難の目で見る。
「あんまり、甘やかさない方がいいんじゃないですか?」
「ま、いいんだよ……余ってるし。俺も昔、たくさんもらったしな」
そういう心は大切なのかもしれないとも思うけど、ちょっと人が良すぎるというか、やっぱり釈然としない。
しかたがないから、女の子の方に私は話しかける。
「あなたも、ちゃんとお礼いいましょうね」
「ありがと……ハチミツのおじさん」
「おうよ」
なんというか、お人よしというか、いっつもこの人はこの子にタカられてる。どのくらいタカられてるかというのは、ハチミツのおじさんという呼ばれ方でわかるだろう。
「なんというかさ、こいつは昔の俺に似てるっていうかさ。ほっとけないだろ?」
「ハチミツのおじさんも、対黒龍最終決戦兵器?」
「いや、それは知らねぇけど……俺もガキの頃からハンターやってたってこと。あぁ、どうしようもなくガキの頃からな……」
彼は今でこそ凄腕のハンターだが、当然、素人の時代もあったわけだ。私がここに来たのは比較的最近で、初めて会ったのもその頃だから、そこまで詳しく知っているわけじゃない。
ただ、そう。失敗の数だけ、強く、優しくなったのだと、彼のそんな言葉を聞いて、私はそう感じた。だから、それは間違いない。
「タダでご飯食べられるって、ほんと?」
「うわ、出た……」
耳ざとくというか、現れたのは綺麗な女性だった。
ブロンドのショートの髪に、海竜の鱗のような綺麗な青い目。その容姿により、シュレイドのあたりに彼女のルーツがあるのだとわかる。深窓の令嬢もかくやという白いドレスを身に纏っていた。
例の、リオス専門家の彼女である。今日はオフなんだろう。
「行きましょう! いい店知ってるの。火竜の上カルビが絶品だったわ」
「いや、お前には奢んねぇよ。俺より金持ってるだろうが」
「ごちゃごちゃうるさいわね! ほら、行くわよ!」
同じモンスターしか狩らないメリットとして、モンスターに合わせて、装備をいろいろと揃える必要がない点が挙げられる。
デメリットとして、そのモンスターが出現しない限りは仕事がないことだが、リオレイアやリオレウスの個体数は、大型モンスターとしては比較的多い部類だからこそ、彼女は仕事がないと困ったことはなかった。
そういうわけで、彼女はみんながハンターに夢見る一攫千金レベルで、富を蓄えている。
「はぁ、しゃあねぇな」
「ふふ、いっぱい食べるわよ!」
がめつい……というよりも、甘えているのだろう。彼女はこの街で二番目に強くって、その上には、このハンターさんしかいない。
まるで子どものように無邪気に接する姿を見て、やれやれと、ハンターさんは肩をすくめていた。
「お前らも、遠慮すんなよ?」
「ふ……当然」
そう言いながらも、クルペッコ装備の彼は多分遠慮するんだろうなと思った。言葉遣いはあれだけど、彼はいろいろ慎重派で、律儀で、ルールを重んじる性格だった。
「私は対黒龍最終決戦兵器『アルバ・ジーヴァ』。体内に宿る永久機関により、エネルギーの補給なく活動可能。エネルギーの補給も可能。食べる。たくさん」
永久機関!? すご。
でも、設定は設定だから、たくさん食べるんだろうなぁ。
「よし、行くか……」
そして、四人はご飯に行ったのだろう。あの女の子も、ずいぶんハンターの輪に馴染んでいる。よかったと、私は思う。
「はぁ……」
私は受付にポツンと一人取り残されている。蚊帳の外というやつである。まだいっぱい仕事がある。というか、今夜はたぶん徹夜だ。
ちなみに私の今日の夜ご飯、携帯食料である。ギルドの備品の期限切れ間近な余り物だ。
この決して美味しいとは言えない携帯食料を元気ドリンコで流し込むのがマイブームだったり。うそ……こんな悲しいマイブーム、他になくない?
そういうわけで、書類に向き合うが、これは私がこんなワンオペ辺境地方都市に流されてきた理由にも関係する。
この辺境近くで開拓を進められてきたギルドの新しい狩場である、水没林。その最終調査レポートを、私は提出しなければならなかった。
出現するモンスターの生態。採取可能なアイテムや、その位置。調査された地形から、マップを書き出し、エリア区分の目安を策定するなんてこともしないといけない。雨季で水没するエリアとかもちゃんとまとめる必要がある。
頼りになるのは、膨大な調査資料や聞き取り情報から、今までコツコツ重要な情報を書き出してきた水没林ノート。そこから、情報を取捨選択して綺麗にレポートの形にするという最後の仕事だ。
「うへー、おわれー」
私、ギルドの受付嬢の仕事の片手間に、なんでこんなことしなきゃいけないんだろう。
狩場の開拓は、まぁ、ギルドの本願だ。利権とかも絡んでくるけど……モンスターに脅かされる人々を助けるため、というのが第一。だから、これは必要なことだというのはわかる。
水没林をケアするためにギルドの作った拠点がここなのである。ワンオペだけど。
最初はギルドから地質調査の人とか、生態調査の人とかがいっぱい来てた気がする。これはたぶん、私の仕事じゃないはずだった。
……あの情報が足りないとか、この情報が落ちてるとか、他人事だと思って、いろいろ口出ししたせい……?
これみよがしに水没林ノートとか、作ってみせちゃったせい!?
「うへー、二十四時間戦いたくないよー」
徹夜も覚悟したレポート作成だが、結局は零時を過ぎる前に普通に終わった。
ありがとう、水没林ノート!
***
「ハンターさん、ハンターさん! ついに水没林に挑戦できますね!!」
水没林から、ずっと西。モガの村という海上に位置する村があった。
そこには、一人のハンターと、一人の受付嬢がいた。
「水没林といえば、その近くの街に、私のお友達がいるんです。今は同じく受付嬢をしているんですけど、私に負けず劣らず、昔も優秀だったんですよ?」
水棲のモンスターであるチャナガブルの討伐の依頼。それが今回のクエストだった。
チャナガブルは水棲のモンスター。水中で戦えるハンターは希少な存在だった。だからこそ、地理的に近いわけではないこの村にまで、依頼が回って来たのだろう。
「最後の決闘では、私が勝ちましたけど、アレは危なかった」
ギルドガールズ同士の決闘とはなにか、いつものように適当なことを言っているのだろうと聞き流す。
「ハンターさん、どうしてそんな目で? 私が優秀って、信じられない? そんな……っ!?」
普段の態度が態度だった。肩をすくめる他ない。もう出発する。そんな背中に、彼女は大きく手を振っていた。
「では、行ってらっしゃい! 決めろ、炎のクリティカル!!」
***
現大陸近郊……大陸から見て西に位置する青竜洋……その深海。大地の巨人の持つ、不死の心臓が脈動する。
黒龍の伝説の再現……それは、深海より出ずる禁忌により、引き起こされることになろうか。
目醒めは、まもなくだった。
***
「もう、時間がない」
ハンターランクは、まだ★4だった。たぶん、今回は、もう間に合わない。