対黒龍最終決戦兵器な少女 作:クエストてつだって!
「ついに、決戦の時ですか」
「ん!!」
例の女の子が受ける依頼、『女王・リオレイアの狩猟 』である。水没林に現れるリオレイアにより、行商人の積荷がやられる被害が引き起こされたそう。これは由々しき事態である。
ハンターズギルドの威信に賭けても、この依頼を達成する必要があった。
「では、行ってらっしゃい。決めましょう、炎のクリティカルです」
「あい!!」
気合い十分に出発する。彼女の背負う装備は、なんと狩猟笛ではなかった。
フルフルの素材から作られた双剣……フルージェントダガーをさらに強化した傷刃フルスカード。
リオレイア相手に過剰火力気味ではないかと思うが、少女の今のハンターランクは★4。★4で解禁された素材を集めて強化したのだから、文句は言えまい。
なぜ、双剣かといえば、リオス専門家の彼女の薫陶を受けた結果だった。彼女の後ろ姿に憧れ、また、彼女から狩猟笛の立ち回りを教わることができなかったゆえ、単独での討伐に赴くときは、双剣を使うことになったそう。
ともかく、単独でのリオレイア討伐だった。いつになく気合いの入ったその後ろ姿を見届ける。
うう、立派になって……。
「『水没林の採取ツアー』って出してもらえないかしら……?」
リオス専門家の彼女が、そっと出てくると、そう頼んでくる。なんか、そわそわしてる。
「あー、実はですね……。今、水没林はリオレイアが出没して危険なため、『採取ツアー』は出してないんですよ」
「ど……どうしてそんな意地悪するの!? ていうか、私のランクなら問題ないわ!! わかるわよね?」
気分は、子どもの初めてのお使いを見守る母親だろうか。
わたしだって人の子だ。彼女がこれから何をしたいかは、当然わかる。
「言っときますけど、リオレイアに手を出したら、そのときはちゃんと申告することです。しなかったら不正ですからね? 不正。あと罠がたまたま……とか、粉塵がたまたま……とかも、起こったら、ちゃんと報告してくださいね」
「わかってるわよ!!」
しかたなく、本当にしかたなーく、私は『水没林の採取ツアー』を発行する。
単独討伐で箔をつける……そういう意味もあるからこそ、もしなんらかの形で手助けをしてしまったときには、報告をしてもらう必要があった。
「では、いってらっしゃい」
「ええ。……あの子、大丈夫かしら?」
何ヶ月も一緒にいて、もうすっかり保護者だった。思った百倍くらい面倒見がいい。こんな感じになるなんて、最初にお願いしたときには想像もつかなかった。
私よりいいお母さんになれるよ、きっと。
そうやって見送ったら、また受付に並ぶハンターがいた。
「ふ、かの約束の地……『水没林の採取ツアー』を頼む」
お前もかよ。
まぁ、気になるのもわからなくはない。心の師匠だしね。仕方ないから、もう一枚、『水没林の採取ツアー』のクエストを発行する。
「さっきの話聞いてましたよね。不正はあなたならしないと思いますけど」
「ふ、世の理を見誤りなどはしないさ。それが我が狩人としての矜持。では、征こう。『水没林の採取ツアー』へ」
「行ってらっしゃい」
仰々しく言っているが、向かうのが採取ツアーだ。しかも、その目的は見守り部隊である。
なんかしまらない。
そんな彼を見送っていたら、また一人、受付にやってくるハンターさんがいた。
「よお?」
「『水没林の採取ツアー』ですか?」
ハチミツのおじさんこと、この街での最高ランクのハンターさんだった。
「いや、俺はいかねぇって。心配しすぎだろ」
「まぁ、それはそうですけど……なんか周りがああだと、ちょっと薄情に見えてきません? こう、相対的に」
物事を測るときは、どうしても人と比べてしまう。私にはこのハンターさんが人でなしとして目に映った。こう、相対的に。
「こういうのは、成功したとき盛大に祝ってやればいいんだよ。……あいつが見てれば死ぬことはねぇだろうし」
これは……!? もしも誰もついて行かなかったら、自分がこっそり着いていっていたやつに違いない。
なぜなら、このハンターさんは普段から優しさと思いやりに満ち溢れてるのだから。
「さすが、ハチミツのおじさんですね」
「なぁ、それ、どういう意味で言ってる? からかってる?」
「いえ、尊敬してます。ハンターさん」
どうやら、私の真意は伝わっていないようだった。なんだかなと、ハンターさんは納得のいかない顔をしていた。
「まぁ、それはいいけど、依頼まわってきてるだろ? ★8のあたりとか、そろそろ」
「まぁ、そうですね」
★8レベルになると、そんなクエストは滅多にない。古龍撃退レベルの依頼だ。頻繁にあるようではこの世界はおしまいである。
「中央からの依頼も来てるのか?」
「正直、こんな場末な支部に中央から回ってくるクエストなんて、人気のないクソクエストか、中央のハンターでもクリアできない超高難度クソクエストくらいですからね。放置でいいですよ」
「というか、最近古龍多いな……」
パラパラとクエストの紙をめくる。炎妃龍ナナ・テスカトリだったり、霞龍オオナズチだったり、浮丘龍ヤマツカミなんかの撃退依頼もある。たしかに、多い。この世界はおしまいである。
あとは、こっちは中央からのじゃないけど、銀爵龍メル・ゼナの討伐だったり……いっつも出てるな、この依頼。古龍の討伐なんて無謀だろうに。
「古龍渡りですね……。ここ数十年で……とは言いますが、最近はいつにも増してって感じですから。古龍渡りもついに佳境ですかね」
「いや、たぶんそうじゃねぇよ。古龍渡りは新大陸……西に向かう感じだろ? 最近のはなんていうか……東、むしろこっち側にくる感じのが多い気がするんだよ」
「それは……?」
この街は、だいたい大陸の東の端に位置する。新大陸は西の大洋を超えた先だからこそ、古龍渡りの被害はありえないといえる位置だ。
ハンターさん用に記録してある古龍撃退ノートを見返す。そういえば、最近の話に限れば、そうだった……ハンターさんが撃退しできた古龍の中には、進行方向が古龍渡りと言われても、やや納得できないものがちらほらある。
ふと、パラパラとめくったクエストの一つに、ハンターさんは目をとめた。
「ん? タンジアの港の沖の調査の護衛?」
「あぁ、それ。なんでも近くの海底火山が活動を始めたっぽくて。古龍が関わっているだとかいないだとか、それで調査するみたいですよ? 万一のための護衛だそうです」
「って、西の海か……」
「気になりますか?」
「もしかして、逃げてる……? いや、考えすぎか……」
古龍が逃げてる……なんて言われても、普通に意味がわからない。古龍はすごく強いわけなんだから、常識で考えれば、それは違うとわかるだろう。
「まぁ、距離的にちょっと遠すぎるんで、今からだと調査には間に合わないと思いますね」
「ちょっとこれ、行ってくるよ」
「いや、間に合いませんって」
間に合わない依頼をいつまでも取り下げなかった私が悪いかもしれない。
「別にクエストはいいよ。ちょっと様子を見てくるだけでもしておきたい……何か、嫌な予感がするんだ」
「はぁ……わかりましたけど。あの子の狩りの成功、祝うんじゃなかったんですか? とうぶん戻ってこれませんよ?」
大陸の西と東。すごく遠くておいそれと戻ってくることなんてできない。あの子が狩りを終えて帰ってくる方がずっと早いだろう。
「最短ルートってどんなもん?」
「まず陸を迂回して、船でナグリ村まで行きます。そこからバルバレを探して歩いて、砂上船に乗り、東大砂漠を突っ切ります。海峡の街の砂船橋を渡って、西大砂漠をロックラックまで横断……近くの港から海に出て合流って感じになると思います」
「それは……」
「何事も無く行って帰ってくるだけで、ふた月。天候や、モンスターの機嫌次第ではもっとかかりますかね」
特に砂上船の運行は、東の大砂漠にいるダレン・モーランや、西の大砂漠にいるジエン・モーランによって、あるていどの頻度で交通に支障が出ている。
季節にもよるけど、ここら辺は完全に運か。
「飛行船でひとっ飛びとかは……」
「山脈の間を、縫うように飛べれば、まぁ。普通に飛竜の餌ですけど」
「そうだよなぁ……」
わざわざ大回りをして海を渡っている理由がそれだった。そういうルートの飛行船がないことはないけど、よく落ちてる。おすすめはしない。
考え込むハンターさんを横目に、私はクエストをめくる。この調査の護衛依頼を含めて、今まで見ていたのは中央から来た依頼たちだった。そんなことよりもと、私は一つ依頼の紙を取り出す。
「そうですね。ちょうど密林にラージャンの狩猟の依頼が出てますから、それでも行って考えといてください」
「特殊個体の可能性ありか……たしかにこっちの方が緊急だな」
「でも、あの子たちより早く帰ってこれますよね?」
「そりゃ、当然だよ」
ハンターの中ではトップオブトップ。古龍の単独撃退さえ成し遂げるのが彼だった。
クエスト『金色超巨星』を手渡す。★8ともなれば依頼はクエストボードに貼ってはいない。私が全て管理して手渡しになる。
紙には必要事項を書いてもらった。
「では、行ってらっしゃい。お気をつけて」
「おう」
そんな後ろ姿を見つめて、私はなぜか安心をしていた。
***
「大変だったわ……」
「ふ、我が一太刀は、ヤツの命脈を断ち切ったわけだ」
「戦ったのほとんど私じゃない……。あぁ、最悪。装備もボロボロ」
受付に来たのは『水没林の採取ツアー』から戻ってきた二人だった。なにか、普通ではない様子だった。
彼女のリオレウスの装備も、ところどころ外装がはげてインナーが見えてしまっている部分がある。
「どうしたんですか?」
「イビルジョーが出たのよ」
「イビルジョー……ですか。こちらの不手際で……申し訳ございません」
イビルジョーといえば、凶暴なモンスターで、時には古龍に並ぶほどの脅威と言われることさえあるモンスターだった。
それだけの脅威でありながらも、神出鬼没であり、クエストに乱入してくる厄介なモンスターでもあった。ギルドは、できる限り水際でイビルジョーの補足できるように体制を整えつつあったが、完璧ではないのが現状だ。
「別に『採取ツアー』で大型モンスターに遭遇することなんてよくあることじゃない。気にしないわ」
そんな懐の深い言葉に、私は感激をする。
「装備の修理費用の補填に、補助金をつけておきますね」
「え、お金出るの? じゃあ、頼むわ!」
私の一存だけど、そのくらいは許されるだろう。ふっ、いけすかない中央の連中からは、引っ張れるだけお金を引っ張ってやる。
「それにしても、イビルジョー討伐。さすが★7のハンターですね」
「ええ、あの子の晴れ舞台……絶対に邪魔させないわ!」
リオス狩猟の専門家という彼女だが、あの子に関わってから、他のモンスターを狩猟する機会も増えているような気がする。これはきっと、いい兆候なのだと私は思う。
「あー、ヤバかった。金獅子の雷に囲まれた時は、どうなることかと思ったぜ」
「あ、お疲れ様です」
時間を同じくして、ハンターさんが帰ってくる。言葉とは裏腹に、装備もそこまで壊れてはいないようだった。そこまで苦戦はしなかったんだろう。
「結局、激昂した特殊個体だったな」
「討伐、さすがハンターさんですね!」
「いや、討伐っつうか、勝手に死んだっつうか……。トドメをさしたのは俺だけど、あれだけの力に体が耐えられないんじゃあな……儚いよな、あいつも」
ラージャンの激昂した個体というのは、こうリミッターが外れた感じだ。一説によると、暴れ尽くしたら、勝手に死ぬらしい。
ともあれ、その暴走は古龍ですら受け止め切れずに餌になるという話すらある。さすがハンターさんとしか言わざるをえない。
「いぇーい。ほらほら! 激昂したラージャンを討伐したギルドカードがこれですよ!! みなさん注目です!」
そんな感じでハンターさんの偉業をみんなに知らしめる。まぁ、そんなことしなくてもハンターさんは有名だから、またアイツかって感じで周りは見ているようだった。
「あ……馬鹿……」
「あ……」
一人、歩いてくる女の子がいた。ちょっと、しょんぼりしている。とぼとぼと、受付まできた。
「リオレイア……倒した。一人で」
「お、おめでとうございます!!」
ぱちぱちと私は拍手をする。リオレイアをちゃんと一人で倒したというのに、女の子の気分は沈んでいるようだった。
「かの雌火竜の討伐でも、霞む……か。……相手があの激昂した金獅子ではな」
「ほんと、馬鹿……」
「あー、いや……すまん」
気まずそうにするハンターさんだった。誰が悪いといえば、依頼を割り振った私が悪いのかもしれない。この空気……いや、めげるな私!
「いぇーい! み、みなさん! 見てください!! 彼女はリオレイアの討伐を一人で成し遂げました! すごいんですよ! リオレイア討伐ですよ!! すごいんですよ!」
そう言って、私は女の子のギルドカードを掲げる。必死だった。
すると、どうだ。その必死さが届いたのかはわからないけど、周りのみんなはこっちを向いて、ぱちぱちと拍手をしてくれる。口々におめでとうとか、ついにやったのかとか、祝福の言葉が贈られる。
俯きがちだった女の子も、ばっと明るく顔を上げた。はにかんで、祝福の言葉を受け取っていた。
あったけぇや、この街のみんな。
***
「ユクモ村のハンターが、ジンオウガ討伐ですか。あそこは確か渓流を管理してますよね。お祭り……顔繋ぎに、行ってみてもいいですね」
受付嬢である私のもとに届いた招待状を見る。ユクモ村は地理的にそこまで遠いわけではないけど、行くなら一、二週間は窓口を閉めないとになる。
まぁ、今は水没林も安定してるし、そのくらいは大丈夫だろう。
そして、もう一枚、届いた手紙を開く。
「古龍、大海龍ナバルデウスの撃退、ですか……。危機が去ったようでよかった……」
私の友達からの手紙だった。例の故郷の村の専属となったハンターが、故郷を襲った古龍を撃退してくれたという報告だった。
それまでに、ハンターを信じてギルドの退避命令に背いたりと、なかなか危ないことをしたとも書いてあって……なんというか、我の強いところは変わらないなと感じ入る。
ちなみに、彼女が故郷に戻るきっかけとなった村の異変は、大海龍ナバルデウスによるものだったらしい。解決したなら、ギルドの本部の方に戻るのか、という話も出たそうだけど、村で専属のハンターとしばらくはやっていくそう。
「それで、ハンターさんは結局、行くんですね?」
「ああ、調査船団、全滅したんだろ?」
例の活火山の調査は、全滅という結果に終わった。ハンターさんが言っていた古龍の動きだったりと、きな臭いと感じる他にない。
「クエストは、どうしましょうか?」
「白紙の紙に書いとくから、何か適当なクエストでも考えといてくれよ」
「ずいぶんと信用されたものですね」
田舎特有のアバウトさというか。私が違う契約書に仕立て上げたらどうするつもりなんだという話ではある。
まぁ、受付嬢としてのプライドがあるから、そんなことはしないけど。
「待って……! 違う。行くべきなのは私」
「ん? どうしたんだ? そんな慌てて」
早朝だった。女の子は、起きてすぐ出てきたとわかるようなパジャマ姿で駆け寄ってきた。
「対黒龍最終決戦兵器は私! これは私が倒すべき厄災」
「ちげぇだろうが。もし何かあったとき、それと戦うのは俺だよ、俺。少なくとも、お前が頑張るのは今じゃねぇ」
「でも、そのために私は……!」
「俺が頑張れるうちは違うっての……。まぁ、あれだ。もし、なにか俺にあったら、あとは任せたって感じか」
そう言って、ハンターさんは、女の子の頭を撫でる。振り払って、こちらに詰め寄ってくる。
「私にも、そのクエストを……!」
「ハンターランクが足りないので」
「……っ!?」
もちろん嘘だ。そもそも、ハンターさんは明確なクエストを受けて行くわけじゃない。汚い大人の私を許してほしい。
「ま、大丈夫だろ。何事もなく戻ってこれるって。いつもみたいにな」
「行ってらっしゃい。無事に帰ってきてくださいね」
出発を見届けて、ひと月後のことだった。
緊急クエスト『黒焔盛んにして災異未だ止まず』。……前代未聞の★9の緊急クエストが、中央から極秘裏に発布された。