【書籍版1巻2/20発売】貞操逆転ハードモード異世界を鋼メンタル冒険者が生き抜く 作:風見ひなた(TS団大首領)
「ふえー……これが冷蔵箱かぁ」
錬金術師のアルシェさんのアトリエから運ばれてきた木箱を、アイリーンは物珍しそうに周囲をぐるぐると回って眺めた。
こんにちわ、発明家ユージィです。
みんな、しばらくぶりだから前回までの話は絶対忘れてると思うので、改めて整理するね。
僕は冷蔵庫ならぬ冷蔵箱を作りたくて、氷の精霊石がどうしても欲しかったところだよ。
同居人のドラコが氷の精霊石ならドラゴンの里にいくらでもある、というので里帰りに付き合ったんだけど、ドラゴンの里は徹底した女尊男卑はびこるひっでえ場所だった。だけどその元凶である大臣をブチのめしたし、僕がドラゴンのオスのオナニー用に車の絵を描いたので、まあ少しはマシな場所になったかな……と思った矢先。
氷の精霊石を採取しにいったら今度はスノーゴブリンに僕が誘拐され、僕は彼女たちのアイドルとなってロックソングを教えた。
そうこうしてるうちにドラゴンがゴブリンの山に攻めて来たけど、歌の力で和解させることに成功して、ゴブリンクィーンはゴブリンQueen.としてドラゴンたちのアイドルになった。
さらにオスドラゴンのために、ゴブリンたちは車の絵を大量生産したので、ドラゴンとゴブリンは持ちつ持たれつの仲良し関係になった。
こうして僕たちはドラゴンに深く感謝され、おみやげに氷の精霊石とスパイスをたくさん持たされてサウザンドリーブズに帰って来たってわけ。ついでにアミィさんも抱いた。意外とお姫様志向だった。
以上がこれまでのあらすじだよ。
何言ってんのかわかんねえって? 僕も説明してて頭おかしくなりそうだったよ。なんだよゴブリンQueen.って。
まあ忘れてたらもう一度これまでの話を読み返してくれればいいと思います。僕は何一つ間違ったことは言ってないつもりだ。
さて、そんなわけで氷の精霊石を持ち帰って来たので、僕は早速知人のアルシェさんに精霊石を託して完成を待った。
で、出来上がって来たのが目の前のこいつだ。
ちなみに届けてきたアルシェさんは、早速こいつを量産すると言っていそいそとアトリエに戻っていったよ。説明書も書いたので、細かい仕様はそれを読んでください、だって。
先ほどからアイリーンが物珍し気にしげしげと観察しているが、別に構造を調べているわけではないようだ。匂いとか嗅いで、危険がないかチェックしてる。家の中に見慣れない家具を見つけた犬かな?
木箱が攻撃してくるわけないと思うのだが……。
傍で見てるドラコはふーん、まあいいんじゃない?みたいな澄ました顔をしてるけど、チラッチラッと横目で冷蔵箱を見ている。こっちは知的好奇心がビンビンに刺激されているようだが、素直にそれを行動に出すのにプライドが邪魔をしているようだ。
こいつドラゴンの里で徹底的にプライドを打ち砕かれたくせに、まだそういうムーブをするのか。まあ思春期の男の子なんてそんなもんかな。
ウルスナは離れたところから眺めて、ほーと顎をさすっている。
ただこっちは構造に興味があるわけじゃなさそうだ。これで一体何ができるのかに興味があるみたいで、意味ありげに僕の方を凝視している。
アミィさんは今日はお姉さんに呼ばれたとかで、留守にしてるね。
デボ子? 知らね。なんかこの場に混じってるけど、別にあいつはどうでもいいよ。
「へえ、スイッチで温度を調節できるようになってるんだな。なるほど、冷凍庫として使うこともできるのか、便利だな。苦労して精霊石を取って来た甲斐があるってもんだ」
みんなの視線を背中に受けながら、僕は冷蔵箱に近づいて仕様を確かめた。
氷の精霊石なんて貴重なものを要求するだけあって、その使い勝手は大したものだ。マジックアイテムの一種でもあるらしく、スイッチを押して中身を凍らせろと念じるだけで急速冷凍してくれる。すごいね。ある意味で現代日本の本家より便利だ。
「じゃあ早速、こいつのすごさを体験してもらうとするか」
そう言ってアイリーンとドラコを振り返り、僕は不敵に笑った。
というわけで、早速材料を買い集めて開催しました、手作りアイスクリーム教室。
材料はヤギの乳、卵黄、バニラエッセンス、砂糖、塩といったところ。非常にオーソドックスなバニラアイスだけど、まあ第1回だからね。
バニラエッセンスはドラパパからもらった原木を、アルシェさんにいい感じに加工してって精霊石と一緒に渡しておいた。我ながら適当極まるオーダーだけど、本当にいい感じに作ってくれたみたいだ。やっぱりあの人ドラえもんなんじゃないの?
冷蔵箱と一緒に届けてくれたので、ありがたく使わせてもらうよ。
そんなわけで金属のボウルを冷蔵箱でキンキンに冷やし、ミックスした材料を投入してひたすら根気よく木べらで混ぜ混ぜした。
懐かしいなあ、僕も日本にいたときこうやって自家製アイス作ったっけ。
どんびえっていうアイスクリーム製造機があってね、おばあちゃんたちが若い頃に大ブームになったんだって。うちの家は物持ちがいいから、夏になるとこうやって子供たちがアイスクリームを作って遊んでいたものだ。それで構造を覚えてたってわけ。
ちなみに木べらで実際にこねているのはアイリーンとドラコだ。
木べらで混ぜるのはめちゃめちゃ大変で根気も腕力もいる作業なんだけど、物珍しさもあるのか熱心にアイスをこね続けているね。
「うんしょ、うんしょ……」
「おお……なんかミルクが凍って、粘り気が出てきた……! なんでこうなるんだ……!? なあアイリーン、次は僕! 僕がやるからな!」
「はいはい、もうすぐ300回捏ね終わるから、そしたらドラコの番だよ」
アイリーンはお姉さんぶっているが、面白くて仕方ないといった感じでワクワクした顔をしている。
順番を待っているドラコも、瞳がキラキラしているね。
まあ子供たちが楽しそうで何よりだ。
……僕? 僕はいいよ、散々妹や従妹に作らされたし、もう作業にしか感じないからね。
ちなみにアイスを作りたいだけなら、布にさっきの材料を入れた袋と、氷と塩を包んで、ぶんぶん振り回せばできる。ただそれはシャーベット……いわゆるあいすくりんに近い食感になるかな。
まろやかな口当たりのアイスクリームを作りたいなら、苦労して捏ねて空気をふんだんに含んだ状態にしないとだめだよ。
……いやあ、工業生産って偉大だなあ。あの手間が材料費込みで100円ちょっとで省けるんだから、そりゃみんな売ってるアイス買うよね。まあこの世界にはないけど。
「おいしー!!」
出来上がったアイスクリームを口にしたアイリーンとドラコは、瞳を輝かせてパクパクと手を動かしている。そんなに急いで食べると頭キーンってなるで。
そんなことを思いながら僕もアイスを食べてみると、なかなかいい味がした。
うん、かなり美味しい。正直シンプルすぎる材料で現代人にはちょっと物足りなくはあるんだけど、そもそもアイスを食べるのなんて半年ぶりだからね。乳脂肪が不足気味の食生活をしていたし、甘味に飢えていたのもあって、美味しくいただけたよ。
アイスを食べ慣れた僕が美味しいって思うくらいなんだから、アイリーンとドラコにとってはかなりの衝撃だったんだろう。
生まれて初めての冷たいお菓子に、アイリーンとドラコは手が止まらないようだ。
「あまーい! おいしー! こんなの作れるなんて、冷蔵箱すごい! それを思いついたユージィはもっとすごいよ!」
「こんな口の中で溶ける菓子がこの世にあったなんて……。氷の精霊石は身近にあったのに、まったく考えが及ばなかった……! 人間に言われるまで、気付かなかったなんて……!」
僕が思いついたわけじゃないんだけどね。知ってただけだよ。
でも、これで冷蔵箱の便利さを知ってくれたかな。
「美味い……! なんて斬新な菓子だ! これを商業ベースに乗せればいくらに……いや、まずは貴族に売りつける必要があるな。供給を絞ってプレミア感を出して、1杯あたり金貨10枚の高級デザートとして売れば……ぐへへへへへ」
呼んでもいないのに勝手に味見して皮算用してんなよデボ子。涎垂れてっぞ。
「というか、なんでお前に冷蔵箱を使わせてやらなきゃならないんだよ。お前は関係ないだろ、あっち行けシッシッ」
僕が邪険に追い払うと、デボ子はクワッと目を見開いた。
「ここ! 私のうち! 勝手に住み着いたお前たちの方! こんな金儲けの種が転がっているのに、儲けを考えないお前はどうかしているぞ!」
「貴族に売りつけるって言ったって、冷蔵箱もレシピも奪われるのが目に見えてるだろ。両方タダで寄越せって言われたらお前抗えるのかよ」
「!? くっ……それは考えてなかった……!! どうやって流出を防ぐ!? このアイデアは今のところ私だけのものだ、利益を独占するんだ! ぐおおおおおおお!!」
僕の指摘に、デアボリカはうんうん唸って皮算用の続きに頭を悩ませ始めた。
だからお前のアイデアじゃねーから。
まあ僕も、この世界に来て半年。そろそろこの世界の貴族がいかに理不尽なものか理解してきた。
デアボリカみてーな奴がもっと偉いポジションにいて、好き放題のワガママを言ってのけるのがこの世界の貴族というやつだ。この世の終わりか?
ロングフィールド家みたいな善性の貴族もいるにはいるが、それはほんの一握りに過ぎないらしい。
僕にできるのは、可能な限りそんな横暴な貴族とはかかわりを持たないことだけだね。くわばらくわばら。
と、ウルスナはアイスをひと匙口に運んだきり、その器を凝視している。
早く食べないとアイス溶けちゃうよ?
「ウルスナ、食べないの? 溶けたらもったいないよ」
僕と同じことを思ったのか、アイリーンがウルスナに声を掛けた。
アイリーンが手にした器の中のアイスは、きれいさっぱりお腹の中に入っている。溶けたクリームをぺろぺろ舐め尽くしたいのを、しきりに我慢しているようだ。
「あ、ああ……」
生返事をしたウルスナは、アイリーンの器を見て苦笑を漏らした。
「もう十分だ。俺の分はお前にやるよ」
「! ほんと!? いいの!? わーい、ウルスナ大好き!!」
降って湧いたおかわりにぱあっと顔を輝かせたアイリーンは、見えない尻尾を振りたくるようにウルスナから渡された器を掲げた。
「ああ。でも結構砂糖が多いから、ドラコと分けて食えよ」
「うん! ドラコ、半分こしようね!」
「フ、フン! 僕は別に欲しくないが、お前たちがどうしても僕に捧げたいって言うなら食べてやらなくもないぞ!」
むすっとした口とは裏腹に、ドラコの尻尾は嬉しそうにパタパタと床を叩いている。
共感性を失ってる僕でも、ドラコの本音はわかるよ。生意気で可愛い奴だ。
半分こしたアイスの味に瞳を細めている妹分と弟分を眺めながら、ウルスナは顎をさすった。
「なあユージーン。この冷蔵箱、他に何ができるんだ?」
「うーん、と言っても一番変わった使い方が今のアイスかなあ。後はものを凍らせたり、冷やしたりして、腐りにくくするくらいで」
「つまり、いつでも冷たい飲み物を飲めるってことか? 夏場でも?」
「まあそうだね。ビールとか冷やすと美味しいよ」
「この冷蔵箱、量産してるって言ってたよな。少し俺が使ってもいいか?」
「もちろんだよ、夫婦じゃないか。僕が生きてあの山から戻ってこれたのもウルスナの働きあってのことだし、好きなだけ使っていいよ」
僕がそう言うと、思考の螺旋にドハマりしていたデアボリカが目を見開いた。
「私! 私! 私だってお前を助けに行っただろ、私にも使う権利があるよな!」
「黙れよ。お前は家族じゃないだろ」
「私! 同じ家住んでる! 姉お前の嫁! 私も家族! 妹!」
「妹を名乗るな殺すぞ」
「絶縁!?」
私私としきりに自分を指さしてアピールする無駄肉巨乳に、僕はありったけの殺意を送った。
都合のいいときばかり家族ぶりやがるこいつ……。
そんな駄肉眼鏡とのやりとりをよそに、ウルスナは瞳を閉じて何かを考えているようだ。
どうしたんだろう?
それにしても顔が整ってるなこいつ、いつも美人だけど黙ってると美形が際立つ。
へへへ、このイケメン僕のお嫁さんなんですよ。
不意打ちでキスしたら怒られるかな。いつものセクハラのお返しだし、たまには……。でもなんか真剣に考えてるっぽいし、うーん。しかし美形だなあ……。
イタズラしようかどうか迷っていたそのとき、突然居間の扉が乱暴に開け放たれた。
アミィさんだ。
ただいまを言うでもなく、何やら真っ青になっている彼女に、一同の視線が集中した。
「どうしたんだよアミィ。いつも冷静なお前らしくもねえ」
思考の海から帰還したウルスナが、へらりと軽薄な笑いを浮かべて姉貴分に問う。
だが、その直後アミィさんが発した言葉は、ウルスナをも凍りつかせるほど衝撃的なものだった。
「まずいことになった……! 姉さんが……アンゼリカが、結婚を認める代わりにユウジを抱かせろと。初夜権を行使すると言ってきた……!!」
お久しぶりです。
脳梗塞で倒れてましたが、今日からまた3日に1回のペースで再開しますのでよろしくお願いします。
リハビリにエルフに甘やかされるショタの話書いてたから、よかったら見てね。
https://syosetu.org/novel/410931/
というわけで、体に無理のないペースでぼちぼちやっていくので、おつきあいいただけると幸いです。