艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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もう一つの脅威

海南島に集結していた第二艦隊、南遣艦隊の艦娘たちの元に、本土から「マニラ湾に深海棲艦の大艦隊現る」の緊急信が届いたのは、師走の二日、日本時間の二二時丁度だった。三亜港に設けられている三亜港警備府庁舎の会議室には、第二艦隊と南遣艦隊所属の艦娘たちが一堂に会していた。第二艦隊旗艦である愛宕は、深刻そうな表情で集まった艦娘たちに向かって口を開いた。

「連合艦隊司令部からの緊急信は、皆も既に知っていますね?」

愛宕は会議室を見渡すように首をゆっくりと振った。会議室に集まった艦娘たちは、険しい表情で頷き、自分たちが今置かれている状況を理解している事を伝えた。

「深海棲艦の大艦隊がマニラ湾に出現したわ。数は大型艦が十三隻、中小型艦多数…私たちの倍以上もいる艦隊が、私たちの前に立ちはだかっているわ」

「連合艦隊司令部からは他にも、真珠湾の深海棲艦泊地はもぬけの殻だ。との情報も来ています。恐らく、真珠湾に在泊していた艦隊がマニラ湾に現れたのでしょう」

高雄が愛宕の後を引き取り、マニラ湾に現れた深海棲艦の艦隊が何処から来たのかの予想を述べた。すると第十一駆逐隊の旗艦である吹雪が徐に挙手をして発言した。

「真珠湾からマニラ湾までは遠すぎます!本当に、そんな大艦隊がやって来たんですか!?」

吹雪の言い分は最もだ。真珠湾からマニラ湾までは非常に遠い上に、太平洋上の各所には日本連合艦隊の監視網が幾重にも重ねられている。大型艦十三隻を含んだ大艦隊が、その監視網を潜り抜けて、遠く離れたマニラ湾に現れるなどありえない。吹雪はそう言いたげだった。すると今度は、南遣艦隊旗艦の鳥海が吹雪を諭すように口を開いた。

「でも、今回の深海棲艦の行動は非常に思い切った策だと思うわ。となれば、中途半端な戦力はきっと投入してこない筈だわ」

「鳥海の言うとおりだと、私も思うわ。それに、相手は深海棲艦…過小評価や根拠のない楽観は禁物だわ吹雪ちゃん。皆も、その認識を持ってね?」

愛宕も鳥海の言葉に賛同して、吹雪を諭す。吹雪も納得してか、すみません。と言って引き下がり、会議室では小さなざわめきが起こっていた。

(でも…青葉たちの戦力は……)

そんな中、青葉は今ここに集まっている第二艦隊、南遣艦隊の戦力を改めて数え直す。高速戦艦の金剛と榛名。重巡洋艦である高雄、愛宕、鳥海、そして最上、三隈、鈴谷、熊野。軽巡洋艦の川内、由良、鬼怒に二四人の駆逐艦たち。そして防空巡洋艦の青葉と加古。たったの三八人だ。まともにぶつかれば、ただの一戦で殲滅されかねない。青葉の表情は自然と曇ってしまっていた。愛宕はざわめき治まらぬ会議室の中で、再び口を開いた。

「でも朗報もあるわ!真珠湾作戦に向かっていた一航艦が、連合艦隊主力と合流するために本土へ向けて帰投中よ。連合艦隊主力と一航艦が合わされば、深海棲艦の大艦隊にも立ち向かえるわ!」

「けど問題は、間に合うか…だよね」

愛宕の言葉を受け、第七戦隊旗艦の最上が呟いた。

「連合艦隊司令部は「ニイタカヤマノボレ師走ノ〇八」って続けて送って来てる。でも…」

最上の顔に不安の表情が浮かんでいた。

「どれだけ早く見積もっても、一航艦と連合艦隊主力がこちらに来援するのは、師走の十二日頃が限界だと思いますわ」

「それまでの間は、鈴谷たちだけで戦線を維持しないといけない。ってことかぁ」

「普通に考えれば、無理ですわ!相手はこちらの倍の戦力ですのよ!?」

最上の後に続くように、三隈、鈴谷、熊野の三人が現状が如何に悪い状況であるかを告げる。更に金剛が付け加えるように口を開いた。

「深海棲艦の艦隊はきっと、私たちの各個撃破を狙ってくる筈デース。必ずマニラ湾から打って出てくると、私は思いマース!」

いつも通りの口調の金剛ではあるが、その言葉の内容は会議室を凍りつかせるのに十分過ぎた。会議室にいた艦娘の殆んどが、俯いてしまっていた。青葉も例外ではなかったが、唐突に横から声が上がった。

「ちょっといいか?」

加古だ。加古は真っ直ぐな視線を鳥海に向けながら言葉を続けた。

怯懦(きょうだ)されることを承知で具申させてもらうんだが、一旦下がって連合艦隊主力と合流してから、深海棲艦に挑むべきじゃないか?」

「湾岸警備の部隊を見捨てるというの!?」

鳥海が声を荒げて加古を見やる。だが、加古は首を振った。

「そう言う意味じゃないって!湾岸警備の連中も、一旦後退させるんだよ。大陸まで下がれば、安全なはずだ!」

加古がそう言い切った瞬間、鳥海の顔に驚きの表情が浮かび上がった。どうやらそこまでは考えが回っていなかったようだった。すると川内が物珍しそうに口を開いた。

「加古にしたら珍しいじゃん!てっきり、夜戦で活路を開くべきだ。って言うと思った!」

「お前と一緒にするなよな?時には退くことも大事なんだよ」

「あはは!ごめんごめん!」

川内と加古の会話を聞いていいた愛宕と高雄は顔を見合わせた。

「ともかく、警備部隊の人たちに説明しないといけないわね」

「ええ。この話は、愛宕と鳥海が適任だと思うのだけれど…」

「はい。第二艦隊と南遣艦隊の旗艦である愛宕姉さんと私なら、説得できると思います!」

次いで鳥海に視線を向けた高雄だったが、鳥海は自信ありげな表情を見せていた。だが丁度その時、会議室に三亜港警備府の通信所に詰めていたと思われる通信員が、会議室に入ってきた。手には電文のつづりが握られていた。どうかしましたか?と鳥海が尋ねると、通信員は焦りを見せるような声で答えた。

「今朝から海南島付近を航空偵察していた九六式陸攻から届けられた報告電の解読が完了したので、報告します。「敵艦隊見ユ。位置、〈昭南(しょうなん)*1ヨリノ方位二八五度、九〇浬。敵ハ「四連装砲搭載ノ戦艦ル級」一、「戦艦タ級」一ヲ伴フ。発見セル時刻、一七〇四(ヒトナナマルヨン)」」

一瞬にして、会議室が静まり返った。だが、青葉は気づいたら叫んでいた。

「まさか、深海東洋艦隊!?」

「……前門の虎、後門の狼と言うことネー」

金剛が唸る様に告げたが、静まり返った会議室にはとても大きく聞こえていた。

 

*1
シンガポール

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