艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
本土で迎える夜明け
第一航空艦隊が師走の七日の夜明けを迎えたのは、
「なんとか、帰ってこれたわね」
一航艦の旗艦を務める赤城が、ふぅ。と息を漏らす。「真珠湾作戦を中止する」との電文を受け取ってから、一航艦は宿毛湾までの最短航路で急ぎ本土に戻った。道中、深海棲艦の襲撃こそ無かったものの、電文の続報として師走の三日に受信した「深海棲艦大艦隊、マニラ湾ニ出現セリ。戦艦、空母、多数ヲ伴フ」との電文から、日本連合艦隊は事実上の分断を余儀なくされたことを知ることとなり、彼女たちの足を速まらせることとなった。
やがてしばらくすると、艦隊の進行方向から見て右側に数隻の漁船が見受けられるようになった。見張り員を務める妖精がその事を告げると、赤城の隣を航行していた加賀がポツリと呟いた。
「
「フフッ、同感ね」
加賀がポツリと呟いた言葉に、赤城が笑みをこぼす。加賀の呟いた言葉が一航艦全体に包まれていた緊張感を解したような気がした。
もし「真珠湾作戦」が予定通りに行われていれば、今頃はハワイ島に向かって南下し、明日の夜明け頃には自分たちは総数一八〇機を超える第一次攻撃隊の艦載機隊を発艦させていただろう。それが今になって、本土近海で漁船と遭遇しているのだ。理由を知らない人間からすれば、「真珠湾の近くまで空母機動部隊が散歩して帰ってきた」と言われても仕方ない。一見、冗談のきつい笑い話の様にも聞こえるが、今現在の戦況は冗談では済まされない程、緊迫している。
やがて漁船が赤城たちの視界の外に消えると、赤城は加賀に尋ねた。
「加賀さん、宿毛湾まではあとどれくらいかしら?」
「そうね…今の速度のまま進めば、明日の日没前には到着できると思うわ」
「明日の日没前…悔しいけど、作戦発動に合わせての行動は無理そうね」
赤城は正面を見据えながら呟いた。加賀も、ええ。と短く答える。マニラ湾に出現した深海棲艦の艦隊は、どういう訳か未だ動きを見せていないらしい。マニラ湾の近海で索敵に当たっている基地航空隊や、増派された伊号潜水艦の艦娘たちから、鎮守府を通して送られてきた続報電では、深海棲艦の艦隊はマニラ湾に停泊したままだという。深海棲艦が、出現後すぐに行動を起こさないことは珍しい事では無いが、何処か不気味さを感じずにはいられない。赤城は、マニラ湾に現れた深海棲艦が今後どのような動きをしてくるのか、考えていた。
(考えられる行動パターンは二つ。マニラ湾近海で南遣艦隊を待ち受けるか、もしくは打って出て、南遣艦隊に襲い掛かって来るか…後者の場合、南遣艦隊への救援が間に合わないかもしれない。そうなれば……)
その後の事は考えたくもないけど、と赤城はそこで考えることを止めた。すると今度は、加賀が赤城に尋ねてきた。
「赤城さん、艦隊速力を上げてはどうかしら?」
「加賀さん?」
加賀からの意見具申に若干驚く赤城。現在の一航艦の艦隊速力では、宿毛湾への到着は明日の日没前だ。それを少しでも早めるなら、確かに艦隊速力を上げることが手っ取り早いだろう。赤城は機関を担当している妖精を呼び出し、現在の艦隊速力である一八ノットから、二〇ノットまで増速した場合、燃料は
「…そう。なら宿毛湾に給油艦を派遣してもらうよう、槍田提督に要請しましょう」
「今は無線封止中よ加賀さん。どうやってそれを槍田提督に伝えるつもり?」
だが赤城の言葉に加賀は動揺することなく、矢筒から一本の矢を取り出した。それは「九七式艦上攻撃機」通称「九七艦攻」の物だった。続けて「九七艦攻」の搭乗員妖精が三人、加賀の肩の上に現れた。三人の妖精の内の一人は、手に書類を握りしめている。それを見て赤城はハッとした。
「補給艦要請の書類を持って、この
「凄いわ加賀さん!なら早速で悪いけど、お願いしてもいいかしら?」
「分かりました」
赤城の言葉を受け、加賀は風上に向かって転舵し、最大戦速で突進した。しばらくして、加賀は自身の弓に矢を番えると、弦を引き絞り、空に向かって矢を放った。矢はしばらく真っ直ぐ飛んで、やがて光と共に一機の「九七艦攻」へと姿を変えた。「九七艦攻」は横須賀鎮守府のある方角へ、一直線に飛び去って行き、やがて見えなくなった。