艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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便り、来たる

第一航空艦隊の加賀が、横須賀鎮守府へ向けて九七艦攻を飛ばしてから一時間が過ぎた頃、呉鎮守府の提督執務室には、日本連合艦隊の主力と呼ばれる者たちが集まっていた。

「一航艦はまだ戻らないのか?」

静まり返っていた室内で、執務室の窓際を行ったり来たりした長門が口を開いた。普段は落ち着きのある長門でも、今発した言葉には苛立ちが含まれていた。

「長門、少し落ち着いて。今はまだ彼女たちからの連絡も来ていないんだから、苛立っても仕方ないでしょ?」

執務室にあるソファに腰かけていた陸奥が呆れた様子で、苛立っている長門を諫めようと口を開く。

深海棲艦の艦隊がマニラ湾に現れた翌日、長門と陸奥は数人の艦娘を伴って呉鎮守府に移動したのだが、長門はその時からずっとこのような状態で、一航艦の帰還日時が近づけば近づくほど、苛立ちを募らせていったのだ。すると今度は―――

「そうだよ長門。連合艦隊の旗艦がそんなに苛立ってたら、ちゃんとした指示出せないでしょ?」

「そうだな。お前はどっしりと構えていた方が良いだろう」

陸奥が座るソファの後ろに立っていた伊勢*1と、日向*2も長門を諫めていた。

「一航艦は無線封止を厳格に守っているんだろう。迂闊に電波を流せば、近海の敵潜水艦に見つかってしまうだろうからな」

「便りが無いのは良い便り。ってことわざもあるんだからさ。今は落ち着いて、待ってればいいんだよ」

「…それは分かっている。分かってはいるが……」

「何もなければ、明日には一航艦は帰って来るわ。そうすればこちらも、すぐに南遣艦隊の救援に向かえる筈よ」

「だが問題は、間に合うかどうかだ

長門の懸念の言葉を受け、室内は再び静まり返った。

現在呉鎮守府には、連合艦隊の主力となる艦娘たちが集結している。日本連合艦隊旗艦である「長門」を始め「陸奥」「伊勢」「日向」「扶桑*3」「山城*4」これに第三航空戦隊の軽空母「鳳翔」と「瑞鳳*5」、第九戦隊の重雷装巡洋艦「大井*6」と、駆逐艦の艦娘一四人が付く。真珠湾作戦と南方作戦に戦力を割いている為、艦娘の人数こそ少ないが総合火力で言えば、日本連合艦隊最強の艦隊だ。マニラ湾に現れた深海棲艦の艦隊と正面からぶつかって勝つためには、どうしてもこれだけの戦力が必要だったのだ。だが、今こうしている間にも、海南島に待機している南遣艦隊に向け、マニラ湾の深海棲艦が進撃を開始してしまうかもしれない。「ニイタカヤマノボレ師走ノ〇八」との命令電を打ちはしたが、深海棲艦がそれを待ってくれるとは限らない。下手をすれば、分散している兵力を各個撃破されてしまう。長門が苛立ちを募らせるのも、無理は無かった。

「一航艦が間に合わなければ、我々だけでも一足先に―――」

「それは危険だ!」

ここに来て、沈黙を保っていた呉鎮守府提督、荒川建夫(あらかわたてお)が口を開いた。長門が言わんとしたことに待ったを掛ける、鋭い口調だった。荒川は言った。

「深海棲艦が持てる主力を全て出してきたのなら、正規空母…「姫級」か「鬼級」の奴らが数隻いる筈だ。三航戦の鳳翔と瑞鳳の二人では、いくら練度が優れていても、こちら側が限りなく不利だ。そんな状況では、出撃を命じることは出来ん!」

「…やはり一航艦との合流が先決だろう」

日向が誰に言うでもなく呟いた。それを見て伊勢も頷く。

「深海棲艦はまだ動き出してはいない。まして、すぐに南遣艦隊とぶつかる訳ではないんだ。だから長門、今は落ち着くんだ」

「…すまない」

荒川の諭すような言葉に、長門は俯きながら力なく答えた。強く握り締めた握り拳には、強い憤りが含まれているようだった。荒川は執務机の上に置かれた南方要域図の海図を見ながら言った。

「マニラ湾から海南島までは直線距離で約六八〇浬離れている。一八ノットで進撃した場合でも、一日半は掛かる距離だ。南遣艦隊を撃破しようとしても、それだけの猶予はある」

「その間に、一航艦が敵艦隊を攻撃圏内に捕捉できれば、南遣艦隊の救援は可能ね」

「その通りだ。宿毛湾から海南島までは約一五〇〇浬離れてはいるが、敵艦隊を最低三〇〇浬圏内に捕捉できれば、勝機はある!」

「なるほどねぇ。空母の艦載機たちなら、その距離でも攻撃出来るんだもんね」

荒川と陸奥の説明を聞いていた伊勢が、自分たちには出来ないことだ。と感心するように頷く。戦艦の持つ大口径主砲の射程圏外から、一方的に攻撃を繰り出せる空母機動部隊。その特性を最大限に生かすことが出来れば、南遣艦隊の危機を救うだけではない。事が上手く運べば、マニラ湾に現れた深海棲艦の艦隊を撃滅する事も出来る―――荒川はそう付け足して言葉を区切った。すると、執務机の隅に置かれていた固定電話が鳴り響いた。荒川は受話器を取ると、呉鎮守府の荒川だ。と短く答えた。それからしばらく、荒川は頷きながら受話器に耳を当てていた。執務室に詰めていた長門達が無言でその様子を見つめている。やがて荒川は受話器を置き、長門達に顔を向けた。その顔は何処か、喜びに満ちていた。

「横須賀から連絡が入った。一航艦は艦隊速度を上げ、明日の昼過ぎ頃、宿毛湾に到着する予定だそうだ」

それを聞いた長門は、輝きを取り戻したように驚いた表情を見せた。その言葉を聞いた陸奥たちも一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに表情を引き締める。

 

全艦隊、出港準備にかかれ!

 

荒川は宣言するように叫んだ。

 

*1
伊勢改二。航空戦艦ではない。航空甲板がある箇所には41㎝三連装砲塔が装備されている

*2
日向改二。航空戦艦ではない。航空甲板がある箇所には、41㎝連装・同三連装砲塔が装備されている

*3
扶桑改二。「いつかあの海で」と同様、航空戦艦ではない

*4
山城改二。「いつかあの海で」と同様、航空戦艦ではない

*5
瑞鳳改二乙

*6
大井改二

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