艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
作戦発動の前夜、三亜港警備府の本庁舎の会議室には鳥海と愛宕、そして青葉と加古の四人がいた。時刻は二〇時三九分(現地時間、一九時三九分)。日はすっかり落ち、暗闇が三亜港警備府とその港内を包んでいる。深海棲艦の艦隊がマニラ湾に現れてからは、灯火管制が敷かれている為だ。
「上手く話しが通って良かったです!」
鳥海が徐に口を開いた。
「そうねぇ、聞き分けが良い人たちで助かったわぁ!」
続いて愛宕が、いつものふわふわした口調で鳥海に同意する。作戦前夜だというのに、愛宕がいつも通りの口調で話しているのには理由があった。
「ありがとうね加古ちゃん。貴女のアイデアのおかげよ!」
「いや、あたしは意見を出しただけ……だから、ギューってしようとしてくるなって!」
「あはは…」
加古の事を抱きしめようと両手を広げる愛宕と、それを全力で拒否しようとする加古の姿を見て、青葉は苦笑した。
既に三亜港の港内に、輸送船の姿はない。加古が進言した通り、南方の資源地帯確保後に同地の警備を担当する部隊は、大陸への避退を昨日の内に完了している。当初は反対意見が出ることが予想されていたが、湾岸警備を担当する部隊員たちは、
「深海棲艦に対して自分たちは果てしなく無力だ。ここは艦娘たちの指示に従い、大陸に避退するしかないだろう」
と、快く自分たちの進言を受け入れてくれたのだ。これで三亜港で待機している南遣艦隊は、「無防備な輸送船団を守りながら戦う」という枷を外せたことになる。幾分かは余裕を持って戦闘に集中できるが、マニラ湾に現れた深海棲艦の艦隊に対しては戦力面で劣っている事は変わらない。枷が無くとも、南遣艦隊がマニラ湾の深海棲艦に勝算が無いことはハッキリしているが―――
「ともかく、深海棲艦が来た場合には、夜戦に活路を見出すしかないな」
加古は自分たちが執りえる策は、それしかないことを険しい口調で告げる。
「そうね。相手はこっちの倍以上の戦力…昼戦を挑めば、確実に壊滅するわ」
「その点は鳥海たちと意見が一致して良かったよぉ」
鳥海の言葉に、青葉が安心した様子で小さく笑った。
「今日の夕方に入った新しい情報によれば、マニラ湾より内陸に「飛行場姫」の進出が確認されたわ。こちらにも気を付けないといけないから、覚えておいてね」
そして愛宕が新しい情報を口にした。
深海棲艦がマニラ湾に現れてから、日本連合艦隊は九六式陸攻や潜水艦の艦娘を用いた入念な偵察を続けていた。特に九六式陸攻には未帰還となる機体が出ているが、それでも今日になって「飛行場姫」の存在を認めることが出来たのだ。
「マニラ湾に現れた深海棲艦の艦隊が、すぐに動かなかったのは「飛行場姫」の進出を待っていたってことなんですねぇ…」
「脅威は増したが、そのおかげでこっちも態勢を整えることが出来たんだ。
「うふふ!加古ちゃんったら、面白いこと言うのね!」
「だぁーから、抱き着こうとするのやめろって!」
会議室の中に鳥海と青葉の笑い声が小さくこだました。
同時刻、呉鎮守府
「貴官だったか。私と陸奥を呼び出したのは」
「はい。第六戦隊砲術参謀、
呉鎮守府の本庁舎、作戦会議室に桃園の姿はあった。室内には長門と陸奥の二人の姿もあり、桃園が彼女たちを呼びだしたことが、長門の発した言葉から見て取ることが出来た。桃園はいつも通りの敬礼をして長門と陸奥に挨拶をする。連合艦隊旗艦を交互に勤めている長門と陸奥を相手にしている為か、口調は丁寧だ。
「第一戦隊旗艦の長門だ。こちらは僚艦の陸奥。それで、貴官が私たちを呼びだした理由を聞かせてもらっても構わないか?」
桃園は敬礼の手を治め、話し始めた。
「はい。貴女方をお呼びした理由は、ただ一つです」
桃園はそれから少し押し黙っていたが、やがて意を決して口を開いた。
「第六戦隊のことを、よろしくお願いします。そう、お伝えしたかった為です」
桃園の言葉に長門と陸奥は表情を変えることは無かった。やがて長門と陸奥の二人が顔を見合わせ合うと、長門が代表して口を開いた。
「南遣艦隊救援作戦の一環として、それについては了解している。故に貴官一人の願いを特別扱いする訳にはいかん―――」
すると隣で陸奥が小さく笑いだした。えらくかしこまった話し方をする長門が可笑しい、そんな笑い方だった。桃園の顔に驚きの表情が浮かび上がる。
「む、陸奥!?」
「だって長門。貴女顔に「この長門に任せておけ!」って書いてあるんだもの!あはは!」
「や、やめろ!私はただ、連合艦隊旗艦として―――」
慌てて訂正しようとする長門に、陸奥は、はいはい。と笑いながら受け流す。すると、陸奥は凛々しい表情を作って桃園に向き直った。
「貴方の気持ちは勿論受け取るわ、桃園参謀。でも、それは貴方だけが思っている事じゃないわ」
「!?」
陸奥の言葉を受け、桃園は破顔した。陸奥は諭すように続ける。
「みんなそう思っているの。横須賀の槍田提督も、呉の荒川提督も、勿論私たちも…大切な仲間たちの無事をね」
「は……」
すると陸奥は桃園の元へと歩を進め、桃園の眼前で立ち止まった。華奢な桃園と背の高い陸奥が並ぶと、まるで年が離れた姉と弟の様に見えた。陸奥は桃園の左肩に右手を置いて微笑んだ。
「だから貴方も、信じてあげて。彼女たちの事を」
「…わかりました。ご教授、ありがとうございます」
桃園は、陸奥の顔を見据えて頷いた。その瞳には、強い決心の炎が赤々と輝いているように見えた。