艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
一航艦が、宿毛湾に帰還したのとほぼ同時刻、マニラ湾から少し内陸に入った場所に展開していた飛行場姫はその上空を見上げていた。ぎらつく熱帯圏の陽光が照らし出す空の彼方に、小さな黒点が見え始めた。しばらくして、その黒点は段々と形を整えていった。艦娘側の言葉で「飛行機」と呼ばれるそれが、飛行場姫へと向かって来ていたのだ。それに気づいた飛行場姫の顔が驚愕の表情に変わった。
と言うのも、飛行場姫はこの日の早朝から、「深海棲艦戦」に戦闘空中哨戒をさせていた。しかし、いくら待っても艦娘側からの攻撃は来なかった。結果、飛行場姫は深海棲艦戦を着陸させることになった。深海棲艦の艦載機と言えど、ずっと飛び続けていられるわけではないようだ。
そして一二時を少し過ぎたタイミングで、艦娘側の攻撃機がやって来たのだ。飛行場姫は慌てた様子で深海棲艦戦を離陸させていこうとするが、すぐに離陸できる深海棲艦戦はほんの僅かだった。燃料を補給しているタイミングだったからなのかは不明だが、ともかく、飛行場姫の頭上は丸裸同然に近かった。
上空で敵機が動いた。離陸を終え、上昇を開始した深海棲艦戦目掛けて逆落としに突っ込んでくる。だが先に攻撃をしたのは、深海棲艦戦の方だった。深海棲艦戦の両翼端に発射炎が閃き、青白い火箭が吹き伸びるが、それに捉えられる敵機はいなかった。青白い火箭を追いかけるように深海棲艦戦が突っ込んで行くが、敵機はそれを難なく躱し、あっと言う間に背後を取った。直後、敵機の両翼に発射炎が閃いた。真っ赤な太い火箭が吹き伸び、あっと言う間に深海棲艦戦をバラバラに引き裂いた。別の所では、背後を取られた深海棲艦戦が大きく左右に旋回しながら、敵機の背後へ回り込もうとしている。だが、深海棲艦戦が背後を取ることは出来ない。敵機は深海棲艦戦の旋回半径よりも小さな旋回半径で内側へ内側へと回り込んで距離を詰め、喰らいつく。かと思った瞬間、敵機の両翼に発射炎が閃き、深海棲艦戦を捉えた。黒煙を引きずりながら、深海棲艦戦は周辺の密林へと墜ちていく。飛行場姫の上空では同様の光景がそこかしこで起こっていた。
そして飛行場姫の上空は、あっと言う間に制圧されてしまった。迎撃のために上がった深海棲艦戦は、恐ろしく旋回半径の小さい敵機に悉く撃墜され、その敵機は我が物顔で飛行場姫の上空を飛び回っている。鋭い刃物のように薄い主翼と、華奢な胴体からは想像も出来ない様な能力を持つ敵戦闘機。飛行場姫は上空を見上げながら、歯をむき出しにして唸っていた。
だがその時、そんな飛行場姫に向かって、四方からその敵機が襲い掛かってきた。高度を落とし、飛行場姫へと向かってくる。飛行場姫はハッとした。今飛行場姫の滑走路付近では、深海空要塞が動き始めている。空へ飛び立っても、あの敵機に墜とされるだけだが、それでも深海空要塞は飛行場姫の滑走路から飛び立とうとしていた。だが、それを見逃す敵機などいる筈も無かった。
一直線に深海空要塞に向かって行った敵機の主翼に発射炎が閃いた。滑走路上を動いているとはいえ、殆んど静止目標に近い深海空要塞に、赤く太い火箭が次々に突き刺さる。敵機が機銃掃射を終え、離脱に掛かった直後には、続けて向かって来た敵機が、追撃と言わんばかりに、発射炎を閃かせる。直撃を受けた深海空要塞は飛行場姫の滑走路で次々に風穴を開けられ、擱座して動きを止めていく。空になど上がらせん、黙って撃破されていろ。とでも言っているように、敵戦闘機は次々に深海空要塞を屠っていく。
しばらくして、敵機は飛行場姫への攻撃を止め、次々に高度を上げて遠ざかって行った。だが、それと入れ替わるように今度は、先程の戦闘機とは姿形が違う、葉巻のように太い胴体と、大きな主翼に二つのエンジンを積んだ機体が姿を現した。その姿を見とめた飛行場姫は、目を大きく見開き、唸り声をあげた。その唸り声は、「ネル!」と言っているように聞こえた。