艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
敵艦隊、見ゆ
艤装を身に着けた青葉は、海南島の南東岸の海面にいた。今日は師走の十日、時刻は二一時三五分(現地時間二〇時三五分)で、辺りはすっかり暗闇の中だ。青葉は、ポケットからネタ帳を兼用している手帳を取り出し、昨日までの出来事を思い出していた。
(一昨日には、マニラ湾付近の飛行場姫を台湾の基地航空隊の攻撃で沈黙、同日夜間には、インドシナ半島の基地航空隊が深海東洋艦隊に夜間攻撃を掛けた。でも、効果は小さかった…)
青葉は一旦そこで考えを区切った。そして、手帳の次のページを開いた。
(そして昨日、マニラ湾の深海棲艦が動き出した。深海東洋艦隊と合流してこっちに来るなら、その戦力は―――)
青葉は手帳に記入した深海棲艦の戦力数に目を落とした。そこには「戦艦一二、巡洋艦一二、駆逐艦多数、戦艦二隻は新式」と記入されていた。昨日、台湾から長距離偵察に飛び立った二式大艇が、海南島へ向かって進撃を開始したマニラ湾の深海棲艦の戦力を報告してきたのだ。その内容は「戦艦一〇、巡洋艦八、駆逐艦多数、戦艦二隻ハ新式ト認ム」だった。更には、一昨日に夜間攻撃を行ったインドシナ半島の基地航空隊は、夜間攻撃の前の航空偵察で、深海東洋艦隊の戦力の報告電を打っている。青葉の手帳に記帳されている戦力数は、マニラ湾の深海棲艦と、深海東洋艦隊の合計数を求めた物だったのだ。
「まったく、奴らもとんでもない戦力を持ってきたもんだな」
「あ、加古」
いつの間にか、青葉の隣に来ていた加古が青葉に小さく話しかけた。加古はそのまま、青葉の手帳に目を落とした。
「空母がいないってのは、唯一の救いってやつかな?」
「そうかもね、でも青葉たちにとって強敵であることは間違いないよ」
加古は闇に沈んだ水平線の向こうへ視線を投げながら、そうだな。と呟いた。青葉は手帳を閉じ、それをポケットにしまった。そして加古に注意を喚起した。
「加古、自分の配置に戻った方が良いよ。偵察機が伝えてきた敵艦隊の現海域到達予想時刻が当たってたら、深海棲艦がすぐに来てもおかしくないし」
この日の午前中、水上偵察機を艦載している艦娘たちは、それぞれの水偵を用いて海南島周辺海域の偵察を行っていた。その偵察に出向いていた水偵の一機が、海南島へと向かっている敵艦隊の偵察に成功したのだ。その水偵からの報告によれば、深海棲艦の海南島到達予想時刻は二一時から二二時の間と見積もられた。
この報告を受けた南遣艦隊は、直ちに戦闘準備を開始した。三亜港内では、艦娘たちが艤装の最終確認を行い、燃料と弾薬が満載されている事を、各隊ごとに二重チェックした。そして日が傾き始めた夕暮れ時に、南遣艦隊の全艦娘は海南島の南東岸に展開、侵攻してくる深海棲艦の大艦隊を迎え撃つ体制を整えたのだ。
「了解、じゃあまた後でな」
「うん、お互いにね」
そう言って加古は、本来の配置場所である青葉の後方へと戻っていった。南遣艦隊は現在、海南島の南東岸に沿って部隊を三つに分け、進路を七五度に取って展開している。本隊は第二艦隊旗艦の愛宕を先頭に高雄、鳥海、最上、三隈、鈴谷、熊野、その後ろに金剛、榛名という並びで中央に展開し、川内が率いる第三水雷戦隊は、隷下の各駆逐隊を従え本隊の右舷側に並ぶ形で単縦陣を組んで待機している。そして青葉たち六戦隊は、第四、第六、第八駆逐隊を指揮下に組み込み、臨時の水雷戦隊を編成して三水戦の右舷側、南遣艦隊の最前列に展開していた。戦端が開かれれば、真っ先に動き出すのが青葉たち六戦隊だった。青葉は右手に握った長10センチ高角砲が搭載されている艤装のグリップを強く握り締めた。その直後だった―――
敵らしき艦影!右二五度、距離
青葉の後方から、第八駆逐隊の「朝潮」*2の叫び声が上がった。