艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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発射炎、閃く

一三〇(ヒトサンマル)*1で見つけたのか。朝潮の夜間視力はフクロウ並みだな」

先程発せられた朝潮の言葉に、加古は賛嘆の声をあげた。一万三〇〇〇メートルともなれば、戦艦の艦娘や深海棲艦であっても洋上の小さな点にしか見えない。それを八駆の旗艦朝潮は、発見してみせたのだ。

「たぶん、星明りを遮っている影で判断したんだよ。曇天だったら、発見はもっと遅れたと思うな」

加古の言葉を受けた青葉が嬉しそうに答える。今は臨時の水雷戦隊を組んでいるとはいえ、八駆は青葉の指揮下にある。普段は共に部隊を組んでいないにしても、青葉にはそれが純粋に嬉しかったのだ。すると南遣艦隊旗艦である鳥海から信号が発せられた。

「旗艦より信号!『合戦準備。夜戦ニ備エ』です!」

今度は第四駆逐隊の萩風*2が声をあげた。その言葉を受け、青葉は凛とした声で命令を発した。

「六戦隊、右砲雷撃戦用意!」

「了解だ!」

青葉の声に加古と、四駆、六駆、八駆の艦娘たちから、了解!と声が上げる。中でも特に加古の声は、いつになく生き生きとしていた。桃園と初めて顔を合わせた時、自分たちの専門は水雷だ。と宣言した通り、これから始まる夜戦に胸を躍らせているのかもしれない。実際、青葉たち六戦隊は「改二乙」の改装を受ける前から、重巡の艦娘たちの中でも、特段夜戦が強い。と評判があったのだ。重巡の中では最古参に当たる四人は、それだけ多くの錬成を重ねてきているのだ。

青葉たちはそれぞれが手に持つ主砲を、右舷側に向ける。静寂の中で各艦娘の主砲の砲身が俯仰し、接近してくる深海棲艦に狙いを定める。南遣艦隊の中で一番長い射程距離を誇る金剛と榛名も同様の動きを見せているのだろうが、青葉たちのいる場所からはハッキリと見えない。だが同様に、深海棲艦にもまだ動きはない。南遣艦隊は、海南島の南東岸を背にして布陣している為、自分たちの影は海南島の島影に隠れている。それ故に、未だ発見を逃れているのかもしれない。

「青葉さん、砲戦距離の指示願います!」

萩風が再び声をあげた。青葉たちの長10センチ高角砲の最大射程は一万四〇〇〇メートル、四駆、六駆、八駆の駆逐艦の艦娘たちの持つ「50口径12.7センチ連装砲*3」の最大射程は一万八四四五メートルだ。既に全員が敵艦隊を射程圏内に捉えているが、現在の相対距離一万三〇〇〇メートルは、その射程距離ギリギリのラインだ。青葉は用意していた答えを口にした。

七〇(ナナマル)*4まで詰めるよ!遠距離で撃っても命中は望めないし、こっちの発射炎で相手に位置を知らせることになるから」

「相手には戦艦がいるんだったら、近距離で撃っても同じじゃないのか?」

今度は同じ四駆の「嵐」*5が声をあげた。

青葉たちの長10センチ高角砲や、駆逐艦たちが装備する12.7センチ連装砲は、深海棲艦の戦艦の装甲を貫く力はない。ごくごく稀に、同二種類の砲が戦艦ル級などの戦艦を撃沈したことがあるらしいが、これは極端に稀な現象で、その幸運を引き当てた艦娘も十指に満たないという。だが青葉は、そんな幸運を引き当てられるとは思っていなかったから、桃園の訓練の中で得た答えを口に出した。

「青葉たちの小口径砲でも、戦艦の上部構造物は破壊できると思うんだ。撃沈は出来なくても、相手の力を奪うことは出来る」

「そうすれば、金剛たちの援護にもなる。ってことか…上手いこと考えたな、青葉」

加古の賞賛の言葉に、青葉は少しだけ照れた様子で答えた。

「桃園参謀の訓練中に思い付いたんだ。今の青葉たちは、昔の青葉たちと違うからさ」

「肉を切らせて骨を断つってことか…良いねぇ、駆逐艦(俺たち)らしい戦いだ!」

「距離が詰まれば、こっちには必殺の『九三式酸素魚雷』があります。野分も、青葉さんの意見に賛成です!」

「アタシもアタシもー!舞風のダンス、とくと見せちゃうよー!」

やる気に満ち満ちた嵐の言葉に、野分*6と舞風*7が声をあげた。

日本連合艦隊に所属する水雷戦隊の切り札。それが「九三式61センチ酸素魚雷*8」だ。最大射程は二万二〇〇〇メートルで雷速は四八ノット。純酸素を動力源としている為、航跡はほとんど残さない上に非常に炸薬量が多いこの魚雷は、砲火力では非力な駆逐艦たちの一撃必殺の牙だ。更に日本連合艦隊の重巡、防巡、軽巡、駆逐艦の艦娘全員が、既にこの九三式酸素魚雷を装備している。夜の闇に紛れて雷撃を行い、敵戦艦部隊を撃破する。これが、今の彼女たちが生き残る為の戦法だった。そんな中、青葉は苦笑交じりに腹の底で呟いた。

(青葉たちの初陣が、対空戦闘じゃなくて夜間の水上砲戦だなんて、皮肉なものですねぇ)

青葉と加古は押し寄せる敵機から、戦艦や空母の頭上を護る為に防空艦へと改装された。そんな自分たちが、今からやろうとしている事は敵戦艦や巡洋艦との殴り合いだ。更に言えば、この状況で頼りとする物が「改二乙」への改装の際に撤去されることが予定されていた、二基の四連装魚雷発射管だ。これ以上の皮肉はないだろう。

「青葉、こいつらの意見も一致したし、砲戦距離は七〇で決まりだな?」

「恐縮です!」

青葉がそう言った時、艦隊の上空に異様な機械音が聞こえ始めた。艦上機や水上機が発するエンジンの爆音とは似ても似つかない風切り音の様な音が、青葉たちの上空に迫ってくる。青葉は上空を見上げて呟く。

「あいつらの観測機だね」

「ああ、見つかるのも時間の問題だろうな」

加古も同じく頭上に顔を向けて答えた。麾下の駆逐隊でも、南遣艦隊の本隊も発砲をする者はいない。皆が黙って、主砲を右舷側へ向けて堪えている。

やがて異様な機械音はひと際大きくなった。音の大きさからして、一機や二機ではない。十機を超える深海棲艦の観測機が南遣艦隊上空を飛んでいく。音は一旦左舷側へ抜けると、若干の間をおいてまた頭上に戻ってきた。南遣艦隊の陣容と並びを、見極めているようだった。

「青葉さん、発砲許可を!」

「駄目だよ野分、別命あるまで待機を続けて!」

堪りかねた野分が声を上げるが、青葉はすぐに却下の言葉を投げた。今発砲すれば、自分たちの位置を深海棲艦に暴露することになる。味方の為にも、今は耐えなければならなかった。

「敵距離、一〇〇(ヒトマルマル)――ッ!!敵艦隊、取舵を切りました!敵進路、二五五度!反航戦です!」

朝潮の報告が飛んだ直後、艦隊の上空を風切り音が通過し後方に青白い光が降り注いだ。その光の正体は、深海棲艦の観測機が投下した吊光弾の光だった。南遣艦隊の全艦娘たちが、青白い光の元に照らし出されたのだ。

 

 

来るぞッ!!

 

 

加古が大声で叫んだ瞬間、夜の闇の中に無数の発射炎が閃いた。

 

*1
一万三〇〇〇メートル

*2
萩風改

*3
以降、「12.7センチ連装砲」と表記

*4
七〇〇〇メートル

*5
嵐改

*6
野分改

*7
舞風改

*8
以降、「九三式酸素魚雷」と表記

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