艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
敵艦発砲の光は全部で五つだった。回頭を終えた深海棲艦戦艦部隊が砲撃を開始したのだ。敵弾の飛翔音が急速に迫ってくる。仲間たちが使っている艦載機の爆音や、自分たちの持つ小口径砲の発砲音とは比較にならない音が、夜の大気を鳴動させながら青葉たちの上空へ覆い被さってくる。
「(何度聞いても、慣れるものじゃないなぁ…)みんな衝撃に備えて!!」
青葉が声を張り上げて叫ぶ。直後、青葉たち六戦隊の右舷側に見上げんばかりの水柱が
このくらいで慌てるかよ――加古の表情はその言葉を無言の内に含んでいた。
「萩風より青葉さん!愛宕さんと高雄さんに至近弾!」
「朝潮より全艦!発砲した敵艦は戦艦ル級です!」
萩風、朝潮から続け様に報告が上がった。特に敵艦隊を一万三〇〇〇メートルで発見した朝潮は、たった今の発射炎の中に浮かび上がった影から、戦艦ル級の艦影を見抜いたのだ。深海棲艦の艦隊に再び発射炎が閃いた。今度は海上に八箇所。新たに三隻の戦艦が砲撃を開始したのだ。
「青葉!鳥海からの命令は!?」
「まだ!」
加古が迫りくる砲弾の飛翔音に負けじと声を張り上げる。敵弾が轟音と共に飛来し、着弾時の爆圧が青葉たちの身体を揺さぶる。
更に敵艦の発砲は続く。今度は十隻の戦艦が発砲した様で、海上で瞬いた発射炎は周囲の星明りをかき消し、艦影を浮かび上がらせた。三度敵弾が青葉たちの周囲に着弾し、爆圧が真下から突き上がってくる。しかし、敵戦艦から三度も砲撃を受けていても、青葉の機関は快調に回り続けている。舵にも異常はない。各課員の妖精たちは、爆圧によって揺れる青葉の身体の上と艤装内部を駆けまわり各部に異常が無いかを、逐一青葉に報告していた。そうしている間にも、敵艦隊から放たれた第四射弾が轟音と共に落下してくる。今度は青葉の後方に落下したようだったが、機関故障や舵故障と言った報告は上がらない。
やがて爆圧の動揺が収まった。その瞬間、敵艦隊の上空に満月の光を思わせる青白い光源が出現した。南遣艦隊の本隊に所属する艦娘たちが放った観測機が吊光弾を投下したのだ。青白い光の元に、深海棲艦の大艦隊――特に戦艦の集団の艦影がハッキリと浮かび上がった。
「加古より全艦!敵戦艦は全部で十二隻、内姫級が四隻!深海東洋艦隊の
加古が浮かび上がった艦影から、敵戦艦部隊の全容を見抜いた。加古は即座に味方全艦娘に通信で報告を上げた。加古の声には驚きこそあったものの、闘志に溢れたいつも通りの口調だった。そして冗談交じりに一言付け加えた。
「戦艦が全部で十二隻、内姫級が四隻って…深海棲艦の連中、張り切ってやがるなぁ」
加古の言葉は恐怖や感嘆から来るものではないことを青葉はすぐに見抜いた。寧ろ、自分たち南遣艦隊という「鶏」を裂くのに「牛刀」を用いている様な、呆れから来ているような感じがした。青葉も、そんな加古の様子を見て、口元に笑みが浮かび上がる。
「余裕そうだね、加古!」
「ヘッ!夜戦はアタシらの十八番。目にもの見せてやるってね!」
再び海上に発射炎が閃いた。そしてその直後、青葉の短距離無線機に鳥海からの通信が入った。青葉は耳に手を当てて内容を確認した。そして声高らかに宣言した。
「青葉から六戦隊全艦!旗艦より入電、『六戦隊、突撃セヨ』」
その言葉を聞いた六戦隊所属の全艦娘が表情を引き締めた。加古と嵐に至っては、口元に悪戯を企む子供のような笑みを浮かべている。今から始まる戦いは、夜の闇の中を敵艦隊目掛けて突っ込み、乱戦の巷を潜り抜ける。日本連合艦隊の水雷部隊が最も得意とする十八番の舞台だ。先の加古の言葉の通り、非力な自分たちでも格上の相手に「目に物を見せれる」のだ。防空巡洋艦へ改装を受けても、熱く輝く水雷魂は消えない。青葉も心なしか、心が生き生きしているように感じていた。青葉は大きく息を吸い込み、大音声で叫んだ。
六戦隊、針路一三五度!最大戦速!我ニ続ケ!!
六戦隊は敵艦隊の面前へ、一撃必殺の酸素魚雷を放つべき、夜の海を駆け出した。
さぁ、青葉も突撃しちゃうぞッ!!