艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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第一章 長槍の艦娘
呉、出会い


呉鎮守府。瀬戸内海に設けられた日本に四ヵ所ある艦隊司令部「鎮守府」の港に、二人の男性が立っていた。一人はすらりとした長身に、すっきりとした顔立ちの男性で、もう一人は華奢な体つきに、桃の様に丸い顔を持つ男性だ。二人とも第一種軍装を身に纏って、波止場から柱島の方を見ていた。

すると、柱島の方から二つの人影がこちらに向かってくるのが見えた。海上を疾駆するその姿から、二つの人影が普通の人間ではないことは明白だが、波止場に佇む二人の男性は嫌悪感を抱くこともなくその人影たちがここへ来るのを待っていた。やがて、華奢な体つきの男性。海軍少佐「桃園幹夫(ももぞのみきお)」が口を開いた。

「まるで、長槍を林立させているようだな」

それはこちらへ向かってくる二つの人影たちに向けられたものだった。

人影の正体は「艦娘(かんむす)」と呼ばれる、在りし日の艦船の魂をその身に宿した少女たちだ。そして、今桃園たちの元へ向かってくる二人の艦娘の見た目で特に目立っているのが、彼女たちの持つ「高角砲」だ。

大体の艦娘は、四角い形状の砲塔の艤装を持っている。が、この二人が持っているのは、半球型の砲塔に針のような細い二つの砲身を持つ高角砲だ。

前を行く、薄紫色の髪を青色のシュシュでポニーテールにした艦娘は、右手に持つグリップの上に三つの高角砲を、背中に背負う艦橋型の艤装からアームで保持された二本の煙突、その二番煙突の後方にまた三つの高角砲を三角形状に装備している。

もう一人の左目が隠れている黒髪の艦娘は、左肩に装着された甲板型の艤装の上に、前を行く艦娘と同じように、三つの高角砲を、右手首のバンドにも板状のパーツを介して、三つの高角砲を三角形状に装備している。

桃園の言う通り、彼女たちが持つ「10センチ65口径連装高角砲」通称「長10センチ高角砲」が、その砲身を上向いている様は「長槍を林立させている」ようだった。そして桃園の隣に立つ長身の男性「荒川建夫(あらかわたてお)」は、そんな艦娘たちを指揮する「提督(ていとく)*1」だ。呉に所属する艦娘たちを指揮し、勝利へと導く者だ。そんな荒川が、桃園に向かって言った。

「彼女たちのこれからの戦いは、専門とする者が少ない。しっかりと鍛え上げてくれ」

「ただの槍足軽で終わるか、はたまた日本連合艦隊一の槍名人になるか、それは訓練次第というわけか…」

桃園は、戦国時代に活躍した槍の名人と戦場の最前線で数多の屍とかしてしまった槍足軽たちを思い浮かべていた。だが、必ず槍名人な武将の様に鍛え上げ、彼女たちを「日本連合艦隊一の槍名人」と呼ばれるところまで仕上げてやる――そんな野心を、彼は胸に抱いていた。

やがて二人の艦娘、薄紫色の髪の艦娘「青葉」と黒髪の艦娘「加古」が、桃園と荒川の立つ波止場の前にやって来た。

「お呼びでしょうか、司令官!」

青葉が荒川の方を向いて尋ねた。すると加古が少しぶっきらぼうに荒川に向かって言い放った。

「わざわざ訓練を切り上げてきたんだ。しょうもない理由は勘弁だかんな!」

「ははは、そんな事は無いから安心してくれ。以前に言っていた、六戦隊専属の砲術参謀が到着したから呼び出したんだ」

「は?」

加古が荒川の言葉に触発されて、隣に立つ桃園に顔を向けた。青葉もまた、少し不思議そうな顔で桃園を見上げていた。すると桃園は姿勢を正し、直立不動の姿勢で敬礼をして、着任の挨拶をした。

「申告します。海軍少佐桃園幹夫、砲術参謀として第六戦隊勤務を命じられました」

「ご苦労様です!第六戦隊旗艦、青葉です。よろしくお願いします!」

「あたしは元古鷹型重巡の加古ってんだー!よろしくな!」

桃園の敬礼に、青葉は海上から答礼をした。遅れて加古も答礼したが、加古はすぐに桃園を値踏みするように見つめていた。すると加古は、桃園に向かって投げかけた。

「言っておくけど、あたしらの専門は水雷だかんな!

敬礼の手を下ろした桃園の肩が、一瞬だけ震えたような気がしたが、加古はそのまま続ける。

「夜戦の駆け引きならバリバリにやってやれっけど…飛行機との戦い方は、正直自信が無いんだよなぁ…」

「そうなんですよぉ…青葉も、横須賀にいる古鷹と「ガサ」――衣笠も同じだと思うなぁ」

加古の言葉に便乗するように、青葉もまた、これから自分たちが相手をすることになる「飛行機」に対してあまり得意ではないと告げる。

「提督はあんたの事、「変わり者だけど対空射撃に関しては他者の追随を許さない専門家」だって言ってたんだ。あんたの知識ってやつ、期待してっからな!」

「好き好んで対空射撃の研究をしたがる人間は、殆どいないからな」

桃園は加古に苦笑で答えた。

通常兵器の通用しない深海棲艦が世界中の海で暴れまわるようになると、唯一深海棲艦に対抗できる艦娘が戦いの主軸になった。しかしそれでも、軍人の仕事が無くなった訳ではない。作戦を立てる者、戦術の研究をする者、工廠勤務を目指す者、そして、提督を志す者。軍人のーー引いては人間の仕事はまだまだあった。

かく言う桃園も、海軍兵学校に入学*2しそして、兵学校を卒業した後は砲術の専門家を志した。海軍兵学校を卒業した多くの者たちが、この砲術の道を目指すことは広く知られている。かく言う桃園自身も、その志望は認められ、大尉任官後に海軍砲術学校の学生として、高度な砲戦技術を学んだ。

だが桃園は、他の学生と違い「対空射撃の研究がしたい」と指導教官に申し出たのだ。中尉時代に普通科学生として水雷学校にいた頃、講義に来た航空科の士官が、「人類と深海棲艦の航空機の進歩は互いに日進月歩だ。飛行機と空母が海軍の主力になる日は必ずやって来る」と熱心に説いたのだ。

この言葉に強い影響を受けた桃園は

「航空機がこれからの海軍の主力になるのなら、航空機に対する防御法も研究しなければならない。だと言うのに、対空射撃の専門家は殆どいないのが現状だ。ここは俺が、その専門家になってやろう。志望者が少ない分野を専攻すれば、将来、海軍の中で独自の地位を確立できるかもしれない」

と考え、指導教官に希望を伝えたのだ。結局、教官や他の学生からは「変人」扱いを受けることになったが、希望そのものは通り、砲術学校で対空射撃の研究に熱心に取り組むことが出来た。砲術学校を修了後は少佐に任官され、教官として砲術学校に戻り、後輩となる者たちと対空射撃について更なる研究を重ねた。

その後、「砲術参謀トシテ第六戦隊勤務ヲ命ズ」との辞令を受け取ったのは、今年の長月*3の一日だった。

当初桃園は、空母機動部隊の砲術参謀を希望していた為、この辞令に失望した。しかし、第六戦隊に所属する重巡洋艦の艦娘四名が、防空巡洋艦へと改装されたとの話を知った時、失望は歓喜に変わった。防空巡洋艦の艦娘なら、空襲を受けたときにこそ威力を発揮する。数多く装備した高角砲が火を噴き、空母や戦艦の頭上に鉄と炎の傘を差せることが出来れば、敵機の攻撃から艦隊を守れるのだ。

そんな部隊の砲術参謀なら、自分の為にあるような部署ではないか!と思った桃園は、張り切って第六戦隊の砲術参謀として着任したのだ。

「砲術学校で学んだ時、教官からは「対空射撃の研究などしても、出世は望めないぞ」と言われました。だが俺は、自分の選択は間違っていなかったと確信いるつもりだ」

「おいおい、出世は眼中にないってのか!?」

加古が驚いた口調で桃園に尋ねた。すると桃園は胸を張って言った。

「他の奴らと同じ事をやるよりも、独自性を主張したいんだ。俺にしかできないことをやりたい、と」

「あんたって面白い奴だな!まあ確かに、今は空母の連中が目立つようになってきてっしな…あんたには、「先見の明」ってやつがあったのかもな!」

加古がにんまりと笑って桃園に向かって親指を立ててみせた。桃園は少しだけ嬉しそうに微笑を浮かべたが、すぐに真剣な表情になった。

「これは俺の予測だが、深海棲艦は今後、空母を前面に押し立てて侵攻してくる筈だ。これからの戦いは、空母と戦艦、あるいは空母同士の戦いが主流になると、俺は睨んでいる。しかし空母の艦娘たちは、単独では力を発揮出来ない。他の艦娘たちに守られて、初めて威力を発揮するものと思っている。空母の艦娘たちを守る要となるのが、君たちのような防空艦だ」

「了解です、桃園砲術参謀!」

桃園の言葉を受け、青葉は長10センチ高角砲が集中配置された艤装を握った右手を、桃園に向かって見せつけるように胸の前で掲げ、大きく頷いた。

「艦隊の上空を守る時のため、青葉たち六戦隊の防空力を世界一レベルまで高めてください!」

「ああ、任せてもらおうか!」

桃園は青葉と加古に向かって大きく頷いてみせた。それを見守っていた荒川も、非常に満足そうな表情を浮かべていたのだった。

 

*1
艦娘によって呼び方はそれぞれある

*2
妖精が見えるか等、実際の海軍兵学校とは異なる入学条件がある

*3
九月

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