艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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長10センチ高角砲、咆哮

鳥海からの命令を受け、針路を一三五度に取った青葉たち六戦隊は、三三ノットの最大戦速で夜の海を一文字になって突き進む。前方に見える深海棲艦戦艦部隊の発射炎は目が眩むほどの光だが、青葉たちは臆することなく駆け抜ける。

(最初は青葉たちを撃ってたけど。金剛たちの場所が分かった途端、あいつらは目標を変えた。これはチャンスかもしれませんねぇ!)

青葉は六戦隊の現状について考えを巡らせる。夜戦開始から少しの間は青葉たち六戦隊が、敵戦艦部隊の砲撃目標だったが、金剛と榛名、鳥海達の本隊が砲撃を開始すると、敵戦艦部隊は目標をそちらに切り替えた。轟音と共に敵弾は青葉たちの頭上を越え、南遣艦隊の本隊周辺に着弾しているだろうが、今は振り返ることなく突き進むしかない。

「青葉たちの事、脅威が小さいと思ってるのかな?」

「ヘッ!アタシら六戦隊を舐めたら痛い目見るぞ、深海棲艦!」

青葉の言葉に加古が自信に満ちた言葉を返した。加古は続ける。

「豆鉄砲には、豆鉄砲の強みがある!それを今から教えてやらぁ!」

青葉たちが装備する長10センチ高角砲は、かつて青葉たちが装備していた50口径20.3センチ連装砲や、戦艦の主砲である36.5センチ砲、40センチ砲などと比較すれば、火力が違い過ぎる。一撃で強大な深海棲艦を倒すことは出来ないが、加古の言うとおり、長10センチ高角砲には長10センチ高角砲の強みがあるのだ。

「左前方の敵戦艦は、深海東洋艦隊の二隻です!」

萩風から報告が飛んでくる。青葉たち六戦隊は敵戦艦部隊の最後尾に喰らいつこうとしていた。

「青葉より六戦隊全艦!砲戦距離は七〇(ナナマル)*1!敵との距離が七五(ナナゴ)*2を切った所で針路七五度に変針、直進に戻り次第、砲撃開始!」

「目標の指示はありますか!?」

野分からの質問が飛び、青葉は即答した。

「各個に目標を設定して!最も狙いをつけやすい深海棲艦から叩いていくよ!」

六戦隊麾下の各艦娘から、了解!の連続が飛び交った。

その瞬間、青葉たちの眼前に水柱が奔騰した。青葉は水柱の中へ突っ込み、滝のように落ちてくる海水を頭から被った、弾着によって発生した爆圧が青葉の身体を揺らすが、青葉は動じない。闇の向こうに見える敵戦艦部隊を真っ直ぐに見据えていた。

直後、見張り員妖精が「敵距離、七五(ナナゴ)!」と報告を送ってきた。青葉の舵が左に切られ、ゆっくりと青葉の進行方向が左へと曲がっていく。青葉は右手の長10センチ高角砲を右前方へ向けた。再度敵弾が青葉の周りに着弾し、激しい爆圧が青葉の身体を揺さぶる。青葉は後方をちらと振り返ると、僚艦である加古に続くように、駆逐艦たちが順繰りに左へ回頭していく。一糸乱れぬその動きは、まさに精鋭の水雷部隊だ。そして青葉が直進に戻り、しばらくして見張り員妖精が報告を上げた。

 

敵戦艦、右六十度!七〇(ナナマル)

 

「目標、右六十度の敵戦艦、側的始め!高角砲、交互撃ち方!」

青葉が凛とした言葉で砲術科員の妖精たちに指示を出した。妖精たちが射撃諸元の計算を始め、青葉自身も肩目を閉じて狙いを澄ます。

長10センチ高角砲の発射感覚は四秒だ。斉射を用いれば四秒おきに全弾が、交互撃ち方なら二秒ごとに斉射の半分の砲弾が撃ち出される。青葉は、間を置かずに射弾を叩きつけた方が良いと判断して、交互撃ち方を選択したのだ。程なくして、砲術科員の妖精たちが「側的よし!」「方位盤よし!」「高角砲、射撃準備よし!」と報告が飛び込んできた。青葉はグリップに取りつけられた長10センチ高角砲の引き金に指を掛け、叫んだ。

 

高角砲、撃ち方始め!!

 

瞬間、青葉は引き金を引いた。青葉の眼前に真っ赤な発射炎がほとばしり、右手に握られた艦首艤装の長10センチ高角砲――その一番砲三門が火を噴いた。青葉は間を置かずに引き金を引く、直後に二番砲から発射炎がほとばしり、強烈な砲声が青葉の耳を撃つ。

(20.3センチ連装砲に比べれば、凄く軽いですねぇ!)

初めて実戦の場で発射した長10センチ高角砲に青葉はそんな感想を抱いた。今までに訓練では模擬弾を使用していたから、青葉にとっては初めての実弾射撃だ。

青葉は三度引き金を引く。長10センチ高角砲の一番砲が咆哮し、敵戦艦部隊に向かって飛翔する。それと時を同じくして敵弾の飛翔音が迫り、青葉の左舷側の海面に弾着の水柱が奔騰した。青葉の身体が左舷側からの爆圧で右舷側に揺られ、次いで左舷側へ揺れ戻される。

「この程度!」

青葉はその揺れに動じることなく第四射の引き金を引いた。猛然と長10センチ高角砲が咆哮を上げるが、未だ直撃弾の閃光は見えない。七〇〇〇メートルの距離を隔てた反航戦故に、小口径砲、大口径砲に関わらず命中弾を得るのは難しい。

「ん?」

そんな中、敵戦艦の動きに変化が生じたのは、青葉が五射目の引き金を引いた時だった。敵戦艦は大きく右に回頭しようとしている。青葉はここぞとばかりに、アームで保持されている背中側の長10センチ高角砲を右舷側に向けた。既に射撃諸元は入力済みで、いつでも発砲が可能だ。青葉はけしかけるように叫んだ。

「敵艦回頭!今の内に一発でも多く叩きこんで!!」

艦娘、深海棲艦問わず、回頭中の相手は殆んど静止目標に見える為、直撃弾を得やすくなる。連射速度の高い長10センチ高角砲ならば、敵艦に大損害を与えられる。

青葉は艤装に装備された全六基の長10センチ高角砲を振り立て、第六射、第七射、第八射と間断なく長10センチ高角砲を放った。

やがて眼前の敵戦艦に直撃弾炸裂の閃光が走った。

 

*1
七〇〇〇メートル

*2
七五〇〇メートル

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