艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」   作:黒瀬夜明 リベイク

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三水戦の航跡

「さあ行くよ!三水戦、最大船速!」

川内の雄叫びと共に、第三水雷戦隊が敵戦艦部隊へと突入していく。

吊光弾の光は既に消えていたが、明滅する発射炎が海南島の南東岸沖を照らし、敵戦艦部隊の位置を暴露させている。三水戦は、旗艦である川内を先頭に九人の吹雪型、綾波型駆逐艦の艦娘を従え、夜の海を突き進む。

吹雪型駆逐艦の艦娘である吹雪は、旗艦である川内の真後ろで第十一駆逐隊の僚艦、白雪*1と初雪*2を従え、川内を追いかける。砲弾の飛翔音が上空の暗闇を錯綜していたが、川内はそんな飛翔音にも負けない声で指示を伝えた。

「川内より、三水戦全艦!右砲雷撃戦、雷撃目標、右前方の敵戦艦!四〇(ヨンマル)*3まで近づいて、魚雷をぶち込むよ!」

「了解!」

川内からの指示に、了解!の連呼が続く。六戦隊は魚雷を命中させられなかったが、まだ三水戦が残っている。

(私たちが魚雷を命中させれば、南遣艦隊のみんなが助かる確率は上がるはず!)

吹雪たち吹雪型、そして綾波型の艦娘たちが持つ魚雷発射管は、陽炎型の四連装発射管に一門劣る三連装発射管だが、魚雷自体は全て九三式酸素魚雷だ。命中させることが出来れば、戦場の盤面はひっくり返せる。吹雪はそう信じて、砲弾飛び交う戦場を駆け抜けていく。

「っ!白雪より三水戦全艦!右前方から敵駆逐艦接近!」

吹雪の後ろを行く白雪から、三水戦の仲間たちに警告が飛んだ。直後、川内が14センチ単装砲を発射した。砲声が吹雪の耳を突くと、彼女は手にした12.7センチ連装砲を敵駆逐艦に向けた。

「目標、右前方の敵駆逐艦!」

吹雪の言葉に合わせ、白雪と初雪も12.7センチ連装砲を構えた。

 

撃ち方始め、いっけぇー!

 

吹雪は雄叫びと共に12.7センチ連装砲の引き金を引いた。右手に握られた12.7センチ連装砲が大口径砲の発砲音にも負けない強烈な砲声を上げ、12.7センチ砲弾を叩き出す。

「狙いよし。撃ち方始めっ」

「当たれっ…」

吹雪に続くように白雪と初雪も砲撃を開始する。見張り員の妖精からも、

十九駆、二十駆、撃ち方始めました!

と報告が入る。青葉たちの六戦隊と異なる、駆逐艦同士の小口径砲弾による応酬が吹雪たちの周辺を騒ぎ立てていく。

時折、敵駆逐艦の背後に巨大な閃光が走る。敵戦艦が、金剛と榛名を目標に砲撃を続けているのだ。金剛と榛名は日本連合艦隊の戦艦の中でも最古参に近い艦娘だ。練度は言うに及ばず、改二を更に強化した「改二丙」「改二乙」の艤装を纏ってはいるが、数的不利な現状ではいつまで保ってくれるか分からない。吹雪は砲撃を続けながら、金剛と榛名に胸中で呼びかけた。

(金剛さん、榛名さん、私たちが魚雷を命中させるまで、どうかお願いっ!)

吹雪は砲撃を続けながら川内の後にピタリとついていく。見張り員妖精が逐次、敵戦艦との距離を報告してくる。現在の距離は七〇(ナナマル)*4。九三式酸素魚雷の射程圏内ではあるが、この距離では命中は望めない。もっと距離を詰めなければ、高威力の酸素魚雷を海中に捨てるだけになってしまう。

(川内さんは、危険を冒してでも魚雷を必中させる気なんだ)

前を行く川内に視線を一瞬重ねた吹雪は、そんな事を考えていた。敵味方の砲弾が飛び交う戦場で、及び腰の攻撃は命中率が落ちる。「六戦隊が雷撃に失敗した以上、自分たち三水戦が活路を開かなければならない」。川内の背中からはそんな言葉が溢れてきているようだった。だが、その直後だった――

「うわあぁっ!!」

川内の悲鳴が聞こえるのと同時に、彼女の身体に閃光が瞬いた。閃光はやがて大音響の爆発音となり、火焔へと姿を変えた。炎が川内の艤装を焼いている光景が、吹雪の目の前に広がっていた。

「川内さん!!」

「――私に構うな!」

吹雪の叫びに、川内から叱責の言葉が飛んできた。川内は被弾したが、まだ息はあるようだ。しかし、彼女が沈まないとの保証はない。ましてや、ここで立ち止まれば南遣艦隊は壊滅する。

川内は14センチ砲を尚も発砲しながら、吹雪に指揮権を託した。

「駆逐艦吹雪に…三水戦の指揮権を委譲!以降…三水戦の指揮を――ウッ!」

川内の苦悶の声を聞きながら吹雪は川内を追い抜いていく。吹雪は一瞬だけ川内に視線を向けた。川内の14センチ砲の咆哮は、吹雪を送り出す汽笛のようだった。

「(すみません川内さん!)吹雪より三水戦全艦、我、三水戦ノ指揮ヲ執ル!」

吹雪は声を張り上げ、最大戦速で突き進む。後続してくる白雪たちも次々に炎に焼かれながらも戦う川内を追い抜いていく。川内を追い抜いてからしばらくして見張り員妖精が、

敵距離、六〇(ロクマル)*5

と告げた。

「あと二〇(フタマル)ッ…」

吹雪は唸るように残りの距離を口にした。最大戦速で突き進めば約二分で到達できる距離まで来たのだ。吹雪は砲撃を止めることなく、眼前の敵戦艦を睨みつけた。だが、悲劇は立て続けに襲い掛かってくる。後方から爆発音が鳴り響き、悲鳴が聞こえる。

「きゃあぁっ!!や、やだ…機関がッ」

「白雪っ!」

白雪の悲鳴と、初雪の叫びが吹雪の耳を突いてきた。続けて見張り員妖精が、

白雪被弾、落伍します!

と報告を上げる。

「白雪ちゃんっ――こんのぉー!」

吹雪の雄叫びと共に12.7センチ連装砲が咆哮する。しばらくして砲撃が命中したのか、敵駆逐艦が閃光に包まれ、炎を噴き出し動きを止める。

乱戦状態となった吹雪たちの戦場は熾烈を極めていく。三水戦の隊列の先頭に突出している吹雪だが、被弾は今のところない。しかし艦娘と深海棲艦、互いの砲弾は距離が詰まるごとにその命中精度が上がっていく。

吹雪の後方で爆発音が連続すると、それに合わせて見張り員妖精が報告を上げてくる。

浦波、敷波、被弾!行き足が止まりました!

第十九駆逐隊の二番艦、三番艦の浦波と敷波が被弾し、彼女たちの機関は動きを止めてしまったのだ。三水戦は大きく分断され、三隊に分かれてしまった。その時になって、見張り員妖精が、

敵距離、五〇(ゴマル)*6

と、声高になって報告してきた。敵戦艦へ雷撃地点まであと一〇(ヒトマル)*7だが、三水戦は既に四人を隊列から失っている。

(このままじゃ、撃てる酸素魚雷が――)

このまま当初の雷撃距離まで進めば更に僚艦が被害を受け、魚雷の発射雷数が少なくなりかねない。吹雪はそう考え、断を下した。

 

吹雪より三水戦全艦!取り舵一杯、魚雷発射始め!

 

「吹雪、でもまだ――」

直後、初雪から通信が入ったが、吹雪はけし掛けるように返した。

「責任は私が取るから、発射して!」

「…んっ、分かった!」

吹雪は取り舵を切り、太腿の魚雷発射管を前へと向けた。数秒後、発射管から魚雷が飛び出し、海中へと躍り出た。強力無比の酸素魚雷が、敵戦艦の装甲を食い破るべく海中を突き進んでいく。

「三水戦、急速離脱!」

吹雪の指示から遅れること数秒、生き残った三水戦の僚艦たちから、魚雷発射完了。の報告が、短距離無線機を通して上がってくる。

「初雪、魚雷発射かんりょ――」

初雪からの報告が届けられた直後、隊列の後方からこれまでの物よりも強大な爆発音が鳴り響いた。まるで雷が自身の目の前に落ちてきた様な音だった。

「――天霧さんッ!!」

短距離無線機から、第二十駆逐隊に所属する狭霧の叫喚が聞こえてきた。

あ、天霧、轟沈!!

見張り員妖精が、驚愕の表情を浮かべて叫ぶ。天霧は魚雷を発射しようと取り舵を切った直後、敵弾が魚雷発射管に命中し、大爆発を起こしたのだ。

だが、悔やんでいる時間は無かった。吹雪は身体を反転させ、砲撃を続けながら敵戦艦の面前から離脱していく。吹雪は胸中で、海中を高速で突き進む酸素魚雷に呼び掛けた。

(お願いっ、当たってください!)

 

*1
白雪改二

*2
初雪改二

*3
四〇〇〇メートル

*4
七〇〇〇メートル

*5
六〇〇〇メートル

*6
五〇〇〇メートル

*7
一〇〇〇メートル

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