艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
駆逐艦の艦娘が標準型戦艦棲姫の面前を次々に横切っていく。目に見えてわかる、投雷の合図だ。深海太平洋艦隊旗艦である標準型戦艦棲姫と隊列を組む二隻の戦艦ル級と、第二部隊である戦艦ル級三隻は、既に三四五度に変針を終え、艦娘側の魚雷に対して正対している。
回頭の間、艦娘側からの激しい砲撃を受けはしたものの、直撃したのは殆んどが小口径砲弾だった。
小口径砲弾では、自分たちの装甲は決して抜けない。
標準型戦艦棲姫は不気味に薄ら笑いを浮かべた。しかし、飛来したのは小口径砲弾だけではなかった。
艦娘の隊列後方に陣取る巡洋艦や戦艦の艦娘から、中・大口径の砲弾が飛来し、周囲の海面に次々水柱を奔騰させる。忌々しいことこの上ないが、今は魚雷回避が優先だ。
標準型戦艦棲姫は砲撃を続けながら最大戦速で航行した。後続する戦艦ル級五隻も同様だった。最大戦速で走る時の水圧で魚雷を弾き飛ばすのだ。
その間にも、艦娘側からの砲撃は続く。特に、戦艦からの砲撃は段々とその弾着位置を近づけてきている。今だ直撃はないとはいえ、それがいつまで続くのかもわからない。
「オカエシダッ」
標準型戦艦棲姫の言葉と共に、16inch連装、同三連装砲が砲声を上げた。落雷を思わせる強烈な音が鳴り響き、標準型戦艦棲姫に続くように後続する戦艦ル級五隻も、順次16inch主砲を発射する。
標準型戦艦棲姫と戦艦ル級五隻は、二隻いる戦艦の艦娘――その一番艦に六隻の砲撃を集中させている。数に物を言わせた戦法は、直後に結果が出た。
敵戦艦の二番艦に、直撃弾炸裂の閃光が走ったのだ。
目標としていた一番艦とは違ったが、それでも今まさに瞬いた直撃弾炸裂の閃光は、標準型戦艦棲姫自身の射弾であることをハッキリと理解できた。
そこから続けて、戦艦ル級二隻の砲撃も、敵二番艦に命中した。瞬いた閃光の中に、艦娘の影をくっきりと浮かび上がらせ、火災までも発生させたようだ。
火災の明かりが、ハイナン島の稜線を浮かび上がらせている。
「ミタカ、カンムスドモ」
標準型戦艦棲姫は満足感を覚えたが、それは長く続かなかった。
標準型戦艦棲姫の左舷前方に展開していた駆逐イ級が、突如として水柱に包まれたのだ。強烈な炸裂音が響き、水柱は瞬く間に炎と火柱へ姿を変えたが、駆逐イ級は短時間の内に海面下へと消えていった。
再び強烈な炸裂音が夜の大気を震わせ、水柱が奔騰した。今度も左舷前方に展開していた駆逐イ級が水柱に包まれ、炎の塊となって沈んでいく。標準型戦艦棲姫の眼前で駆逐イ級が二隻、立て続けに轟沈したのだ。
魚雷だ。
標準型戦艦棲姫は直感に理解した。艦娘の水雷戦隊が魚雷を発射したタイミングで、標準型戦艦棲姫と戦艦ル級五隻、そして駆逐艦部隊は三四五度に変針し、魚雷の回避に入った。
だが、突撃してきた艦娘の水雷戦隊は、一本でも多くの魚雷が命中するように魚雷を放射状に放ったのだ。先に轟沈した二隻の駆逐イ級は右、あるいは左前方から魚雷を受けたのだろう。
そして、標準型戦艦棲姫の目が前方から突っ込んでくる雷跡を捉えた。数は二。
前方の魚雷は当たらない。
標準型戦艦棲姫は自信ありげに、不敵に笑ってみせた。彼女が最大戦速で航行している時の水圧が、眼下の魚雷など跳ね飛ばしてしまうのだ。
案の定、魚雷命中の衝撃は襲ってこなかった。標準型戦艦棲姫は、不敵な笑みと共に16inchの主砲を艦娘へ向けた。だが、その直後だった。
「――!?」
標準型戦艦棲姫の左舷側。四五度方向から突っ込んできた魚雷が命中、彼女の船体に強烈な衝撃となって襲い掛かった。
この世のものとは思えない強烈な爆発音と真っ赤に燃える火焔が、標準型戦艦棲姫を押し包んでいった。
深海太平洋艦隊旗艦、標準型戦艦棲姫は波に揺られながら動かなくなった。