艦隊これくしょん「艦これ」―荒海の槍騎兵―1「連合艦隊分断」 作:黒瀬夜明 リベイク
「南遣艦隊全艦ハ、可及的速ヤカニ現海面ヨリ離脱セヨ。武運ヲ祈ル。
鳥海からの無電を金剛が受信したのは、戦艦タ級と四連装砲塔搭載型戦艦ル級が、愛宕たちへ砲撃を開始した直後だった。しかしその無電を受信した瞬間、金剛の目の前に二つの炎が湧き上がった。
「っ!?」
金剛が声にならない声を上げた時、鳥海と最上が悲鳴とも取れる叫び声を上げた。
「愛宕姉さんッ!高雄姉さんッ!」
「愛宕と高雄がやられたッ!」
重巡部隊の先頭を行っていた愛宕と高雄が、炎に焼かれて赤々と燃え盛っている。
「……シット!」
金剛は低く唸った。だが、その唸り声は、夜の大気を鳴動させて落下してきた巨弾によってかき消された。
「きゃあー!!」
「榛名ぁ!」
榛名の悲鳴が金剛の耳を衝く。
深海太平洋艦隊の戦艦部隊との激しい撃ち合いで、金剛と榛名は少なくない被弾を受けている。金剛と榛名は、敵艦に対しての斉射を何度も行ったが、未だに沈黙させることが出来ずにいた。
そして金剛にも敵弾が降り注ぎ、その巨弾が彼女の艤装を破壊する。
「キャアァッ!!」
高角度で落下した敵弾は、35.6センチ連装砲改二の第三砲塔に直撃し、天蓋をぶち抜き、二門ある砲身がひしゃげさせる。
砲術科員の妖精が「第三砲塔被弾、使用不能!火薬庫、注水します!」と報告を上げる。金剛の砲撃力は四分の一を奪われたのだ。
「クゥゥ…まだ…まだ、私は屈しません!全砲門、ファイヤァー!!」
残された35.6センチ連装砲改二六門が紅蓮の炎を吹いて咆哮し、音速の倍の速さで口径35.6センチの巨弾六発を叩き出す。
次弾装填を待つ間に、遠目に直撃弾炸裂の閃光が走り、砲術科員の妖精が「命中弾、一発を確認!」と報告を上げてくる。しかし、敵戦艦部隊は弱った様子を見せない。変わらずに砲弾を撃ちながら、二人を追い詰めている。
再び敵弾が、轟音と共に降り注ぎ、金剛と榛名を包み隠す。深海棲艦から見れば、轟沈を期待させる光景だが、金剛も榛名も動きを止めない。
しかし、その水柱の檻の中で、金剛と榛名の体は、確実に痛めつけられていく。「四番高角砲、被弾!砲員全滅!」「後部飛行甲板、損傷!」「第三、第四副砲被弾!応答ありません!」被弾の度に、砲術科員の妖精や応急修理要員の妖精から、次々に悲報が飛び込んでくる。
(皆さんはちゃんと離脱出来たでしょうカ?)
最悪の場合は自分たちが囮となる。と心に決めていた金剛は、唯一の気がかりを胸中で呟いた。
深海棲艦と戦って、沈むことに恐怖はない。例え恐怖があったとしても、それに呑まれる訳にはいかない。金剛は闘志を奮い立たせ、35.6センチ連装砲改二を放つ。金剛の眼前に巨大な火焔が巻き起こり、強大な砲声が彼女の視覚と聴覚を奪い取る。
35.6センチ連装砲改二の各砲塔内では、砲員の妖精たちが一秒でも早く次弾を装填しようと汗水を垂らして動き回る。
通信員の妖精は、状況の把握に努めようと必死に通信機に食らいつく。
「サンキューですよ、妖精さん。まだ、私は戦えマース!」
空元気に感謝を伝える金剛。だが、それは唐突に訪れた。
敵弾の飛翔音が、金剛の真上から降り注ぎ、続けて、「ズンッ!」という、鈍い音と共に、金剛が今までに経験したことのない重量物が、彼女の左腕へと降り注いだ。
意識が一瞬飛び、次いで耐え難い激痛が襲い掛かった。
ギャアアアァァァァッ!!
金剛が今までに上げたことのない低い声で悲鳴を上げた。
「お姉さまッ?金剛お姉さまッ!?」
遠くから榛名の声が聞こえた気がした。
「はぁ…はぁ…はぁ……」
金剛は荒い息を吐きながら、顔を左腕に向けた。しかし――
そこにある筈の左腕は、跡形も無くなっていた。
敵戦艦が放った巨弾が、金剛の装甲を抜き、彼女の身体に致命傷を与えた瞬間だった。
肩口からは鮮血があふれ出し、お気に入りの制服は、朱に染まっていく。
「はぁ…はぁ…やられ…マシタ…ッ…!」
金剛は右腕で肩口を押さえるも、鮮血は止まらない。
彼女にはハッキリと分かった。自分はもう助からない。ここが自分の最期の地になると。
敵弾はひっきりなしに降り注ぎ、彼女を水柱の檻に閉じ込める。内一発が、第四砲塔に直撃し、砲塔を鉄くずの堆積場へと変える。しかし、金剛が瀕死の状態にあっても、妖精たちは報告を上げ、金剛の耳に「第四砲塔、被弾!」の声が聞こえてくる。
「…まだ、私は…生きて…マース…ッ」
金剛は口元に不敵な笑みを浮かべ、薄れる意識の中で敵戦艦部隊を見据えた。残された第一、第二砲塔が目標を捉えるべく僅かに旋回し、砲身が俯仰した。
「次弾装填完了!」砲術長妖精が、金剛に向って声の限り叫んだ。金剛は歯を食いしばり、右腕を前へ、バッ!と伸ばした。
喰らいついたら離さないッ。って…言ったデースッ!!
残された第一、第二砲塔が、金剛の咆哮に呼応するかのように、口径35.6センチの巨弾を叩き出した。
まるで金剛の意思を乗せたかのように発射された砲弾は、夜の大気を鳴動させながら一飛びし、敵戦艦へと降り注ぐ。
直撃弾炸裂の閃光が瞬き、金剛の目がそれを捉えた瞬間。金剛の身体を、先程以上の衝撃が襲った。
提督…皆さん…どうか、武運長久を……私、ヴァルハラから―――
灼熱の炎が金剛の身体を包み込み、彼女の意識は暗転した。
轟々と燃え盛る紅蓮の炎は、金剛がそこに居た「確かな証」となるかのように、燃え続けていた。